龍可「そういえばずっと書き溜めてたって言ってたけど禁止制限とかどうなってるの?」
作者「もちろん当時のやつ。具体的にはレベル・スティーラーが現役」
龍可「かなりヤバイ子!」
作者「そういうわけで大会編中は適当に禁止カードを使ってしまうこともありますが、暖かくスルーしていただけると幸いです」
龍可「本当ならちゃんと守るべきなんだろうけどね」
作者「本当にちゃんと守ったらエンシェント・フェアリー・ドラゴン使えないんだが」
龍可「世界観って大事だよね! 禁止制限なんて異世界には通じないよ!」
作者「では本編をどうぞ~」
――負けるわけにはいかない。
僕は社長の1人息子だ。父の会社は俗にいう大企業で、僕は何不自由ない暮らしをしてきた。自分で言うのもなんだが、非常に甘やかされて育てられたと思う。僕の周りの人間は皆、僕に従った。頼めば何だってしてくれた。だからそれまでの僕にとってはそれが普通で、今でも世界は自分を中心に回っているのだと本気で信じている。
――勝たなければならない。
だけど、同時に理解もしていた。僕に従う者たちは皆、父の力によって従っている。父が強いからその世界ができていたのだ。それは権力の力でもあるし、金の力でもあるだろう。
だが、僕にはそれがあるだろうか。いずれ父の跡を継ぐであろう僕は、まだまだ力が足りない。世界の中心に居続けるための力が僕にはない。
――だから、勝つために……
そこに居続けるための力を得るために。
「手段は択ばない」
「……よし。行くか!」
大会の本戦当日。いつものようにラジオ体操をし、一旦寮に戻ってデッキとデュエルディスクを左腕に装着する。
俺は今日の1試合目。あの美馬坂心とデュエルすることになる。そしてそれは、ただのデュエルじゃない。そこには俺の信念と魂のデッキ、そしてみんなのカードが賭けられている。
(……懐かしい緊張感だ。アンティルール、賭けデュエルなんて久しぶりだからな)
子供のころの経験を思い出す。俺の育った環境はあまり良くなく、理不尽な暴力で物を奪われることも多かった。そんな中では賭けデュエルなど日常茶飯事で、そしていつもそこには、俺たちの明日への暮らしが賭かっていた。
(だから、今回のもあの頃と変わらない。絶対に負けられないデュエルだ)
決意を新たに部屋を出ると、真が外で待っていてくれた。
「よお。準備できたか?」
「ああ。ばっちりだ」
真の試合は明日の2戦目。今日は気楽なものだろう。
「しっかし驚いたぞ? 俺のいない間にアンティルールでデュエルするのが決まってたなんて」
「先生には言うなよ。中止させられたら、みんなのカードを取り返すチャンスを逃しちまうことになるから」
美馬坂のことを先生に話したとしても、相手は大企業の社長の息子。先生方では手を出しづらいだろうから、俺がやるしかないのだ。
「ま、応援してるよ。ちゃんと勝てよ?」
「わかってるさ。少なくともお前にリベンジするまでは誰にも負けるつもりはない」
「おー、言うねえ」
大会にかける決意を言ってやると、真は呆れたように肩をすくめた。トーナメント戦である以上、全員とデュエルはできない。そして俺と真はトーナメントの反対側だ。つまり真とデュエルするためには、決勝まで行くしかない。
「言っとくが俺は本気だからな。お前も負けんなよ」
「当然。俺だって負ける気は微塵もないさ」
そんなことを言い合いながら俺たちは会場へと向かう。その間にどこか気持ちが軽くなった気がした。どうやらいつの間にか気負いこんでいたようだ。
「……変なとこで気が利くな」
「ん? 変な気を感じる? ……お前、ついに目覚めたのか。あれに」
「何に!?」
ったく。お礼くらいちゃんと言わせろっての。
「あ、真!」
「お、龍可か。席取りご苦労」
観客席に向かうと龍可が手を振ってきた。周りの男どもが若干羨ましげな目を向けてくる。ええい、こっちを見るな愚民ども!
「何やってるの?」
「いや別に」
少し挙動不審になりながらそそくさと龍可の隣に座る。……なんかさらに視線が鋭くなった気がした。
っていうか今更ながら龍可ってやっぱ人気あるんだよな。いつもは秀や光の人気のせいで霞んでるけど、光の派閥の中には本来龍可の派閥だった奴らだって紛れ込んでるわけだし。と考えると、俺たちのグループって周囲から見たらかなりとんでもなく羨ましいグループなんじゃないか?
「……いつか後ろから刺されるんじゃないだろうか」
「え、急にどうしたの?」
なんでもないと龍可に答え、そういえばと辺りを見回す。
「そうか。今日は光ちゃんも試合があるんだったな」
「そ。光ちゃんは今頃控え室だろうね」
わくわくした様子で教えてくれた龍可に俺も同意する。光ちゃんのデュエルはまだ見たことないからな。
それにしても、8人で行われるデュエルのトーナメントをわざわざ4日に分けてやるとか前の世界だったら考えられないよな。つまり今日は遊司と光のそれぞれのデュエルで終わりなわけだ。
「トーナメントの順番で行くと、今日の勝者2人が準決勝で当たることになるんだね」
「それ、まず確実に遊司と光ちゃんが準決勝で戦うことになるんじゃないか?」
片や本来は学年主席の実力を持つ者。片や現代のカイザーとか噂される現学年主席。見ものも見ものだ。
「まあデュエルは何が起こるかわからないものだし、私たちを抜いた残りの4人のトーナメント出場者もここに来るくらいには高い実力を持ってるってことだから。きっと白熱すると思うよ」
言いながら、龍可はトーナメント表を開く。そこには簡単にだが出場選手の紹介がされていた。とりあえず遊司の対戦相手の情報を確認してみる。
「遊司の対戦相手は美馬坂心。王手企業の社長の息子か」
「今朝遊司に聞いた話では、生徒たちからアンティルールでカードを奪ってるらしいね」
そして今日のデュエルの決着次第でそれらのカードの処遇が決まる、か。そこに遊司のデッキまで賭けられてるってんだから、そりゃ負けるわけにはいかないわな。
「ま、遊司なら大丈夫でしょ。負けられない戦いのときほど遊司は強いからね」
「……ん、そうだな!」
龍可の微塵も勝利を疑っていないその信頼の高さに、ちょっと、少し、ほんの一滴ほど嫉妬してしまいそうになる。だけどそれだけ遊司が強いなんてことは俺だって知ってることだ。
(ここまで俺たちを期待させてんだ。ちゃんと勝ってみせろよ)
1試合目のデュエル開始まであと20分。控え室に行くとすでに遊司さんが来ていてデッキ内容を確認していた。
「遊司さん」
「ん、光か。そうか、光は今日の2試合目だっけ」
「はい。選手はこちらで待つように言われましたから」
答えてはくれたが、私の方を見たのは一瞬でその視線はずっとデッキを見ている。もしかして少しデッキの内容を変えたのだろうか。
デッキの内容を見ないように遊司さんの顔を覗いてみる。その顔は真剣そのもので、このデュエルにどれだけの気持ちで挑むのかが窺えた。自分のデッキとみんなのカードがかかっているのだからその重圧も大きいのだろう。そんな遊司さんの真剣な表情もカッコイイです写真に撮っていいですかそうしましょう。
「って違う!!」
「うお!? 急にどうした光! あとDパットはブーメランじゃないぞ!」
「はっ! な、なんでもないです!! ってDパットがああああああ!?」
思考が変な方向に傾いたのを全力で止めたら、いつの間にか取り出してカメラ機能を起動していたDパットを思わず投げてしまっていた。綺麗な弧を描き、Dパットは飾ってあった植木に直撃。バキッ、という嫌な音とともに床へ落ちる。さらにもともとバランスが悪くなっていたのかさっきの衝撃で植木は倒れ、隣に飾ってあったもう1つの植木をも巻き込み、最後にその植木はちょうど入ってきた男の人――美馬坂さんの後頭部にダイレクトアタックをかましてしまった。
「へぶあ!?」
「ごごごごごごめんなさあああああい!? ってああ! Dパットに植木の水が!?」
「なあにこれえ」
「まったく。デュエル前から攻撃してくるとは、やってくれるじゃないか」
「えーと。これは謝った方がいいのかな。ボケた方がいいのかな」
「君ね……」
倒れた植木を直して光のDパットがお亡くなりになったことを確認してから、美馬坂含め俺たちはソファーに座って向かい合っていた。控え室は幾つもあるわけではないからここに美馬坂が来るのはわかっていたが、まさかこんなことになるとは。
「わ、悪いのは私なんです! ご、ごめんなさい。あと、頭大丈夫ですか?」
「ふん……。別に怪我はないよ。そんなに勢いもついてなかったからね」
ここに真や龍可がいたら光に続けて「二重の意味で?」とか言ってさらに場を混乱させていたんだろうか。そして光が今にも泣き出しそうできっと万人が抱くであろう抱きしめたくなる衝動を俺の全理性を持って抑えながらハラハラしているのだが、美馬坂もさすがに泣かせるようなことはする気はないようだ。小さい子に対しては意外と紳士なんだな。
「何か今失礼なことを言われた気がしました」
「気のせいだ」
光が龍可と同じスキルを得ていることに戦慄した。ついでに自分の軽はずみな心に反省。
「とりあえず、そのDパットは秀にでも言えば替えをくれるだろう。俺の貸すからちょっと連絡してきたらどうだ?」
「え? で、でも……」
「俺も少し美馬坂に話があるから。丁度いいから行って来いって」
渋る光にDパットを握らせる。どちらにせよ、とっとと秀に連絡はしないといけないだろうしな。
「……分かりました。少しだけお借りしますね」
光は小走りで部屋から出ていく。後は秀に任せればいいだろう。
「……それで? 話とは何だい?」
美馬坂の声色が変わる。余裕たっぷりの相手を見下すようなそれに。
「……この前言ったこと。忘れちゃいないだろうな」
「この前? さて、何だったかな」
「っ! お前……っ!!」
瞬間、体が熱くなったのを感じる。頭に血が上りまともに声も出ない。
「ははっ! 冗談だよ。アンティルールのことだろう? 君が勝ったら僕が今までアンティルールで勝ち取ったカードを全て変換し、この牙王を君に譲る」
美馬坂はデッキホルダーからカードを1枚取出し、それを俺に見せてくる。レベル10のフリーシンクロモンスター。神樹の守護獣-牙王。
「そして僕が勝ったら君のデッキをもらう」
続けて美馬坂は俺の腰にあるデッキホルダーを指す。その動作1つ1つが俺をイラつかせる。それが挑発なのだと分かっていても、今すぐ殴りつけたい衝動が湧きあがってくるのを感じた。
「~~っ、はあ。そうだ。約束は守ってもらうぞ」
「ああ。もちろんだとも。僕は約束は破らないよ」
息を吐いて無理やりそれを抑え、もう一度確認しておく。それに美馬坂は当然だと言うように答えて見せた。それが余裕からくる態度なのか、それともこいつ自身のプライドなのか。俺には判別できないが、今はそれが嘘でないことを信じるしかない。
『デュエル開始5分前です。トーナメント第3試合出場選手、空羽遊司さん、美馬坂心さんの2名はデュエルフィールドに入場してください。繰り返します。デュエル開始―――』
入場の指示がアナウンスで流れる。美馬坂は撫でるような目線を俺に向けながら会場へと出て行った。
「……勝って見せる。絶対に」
『ありがとうございます。秀さん』
「いやいや。これくらい大丈夫だよ! それよりもそろそろデュエルが始まるようだ。君も早く控室に戻るといい」
『はい。それではお願いします』
光ちゃんからの電話を終え、Dパットの支給を手配する旨をメールで送る。それにしても、試合開始前の待合室でどうやってDパットを壊したんだろう? 飛翔するGでも出たのかな?
「……まあ、それはいいか。それよりも今は遊司のデュエルを見なきゃね」
僕が今いるのは自室だ。この部屋には大きなスクリーンがあって、そこからデュエルフィールドの中継を見ることができるようになっている。本当は僕も会場で見たいんだけど、たくさんの人が僕に話しかけてくるようになってしまって正直観戦どころではなくなってしまうのだ。それは僕にとってもその人たちにとってもあまり良いことではない。
「1戦目は遊司と心くんか。面白いデュエルになりそうだ」
遊司は言わずもがな、心くんもなかなか強いデュエリストだ。アンティルールを持ちかけてデュエルをしていると聞いたときはとても残念だったけど、デュエルに対する姿勢は決して悪いものじゃない。むしろまっすぐ攻撃的なデュエルをする彼は、それにおいては真摯に向き合っていると言っていい。
そんな彼が何故アンティルールなどでカードを奪うような真似をしているのか、それは僕にもわからない。けど、きっと何かあるのだと思う。勝手なことだけど、もし遊司がその問題に触れることができれば何かを変えられるんじゃないかって、少し期待もしている。
「……ふう。遊司に任せるしかないなんて、僕も嫌な奴だな。でも、それでも」
今あの場所に立っているのは、僕じゃないから。だから、僕は勝手なことを願わせてもらおう。
『これより、1年生対抗デュエル大会決勝トーナメントを開始しするわ! 第1試合で戦うのはこの2人、空羽遊司と美馬坂心よ!』
教頭先生の掛け声で会場が湧きあがる。俺と美馬坂はそれに合わせてフィールドに登った。デッキをデュエルディスクにセットし、オートシャッフル機能によってデッキがシャッフルされる。
「ふっ、さあ始めようか。遊司くん? 勝敗が決まった時が楽しみだよ」
「……ああ。そうだな!」
互いに自分の勝利を信じ、デュエルディスクを構えあう。審判を務める教頭先生の合図を待つ間も目線は外さない。
(デッキと、俺の信念を護るために)
(勝者で居続けるために)
『デュエル、開始!』
「「デュエル!!」」
((絶対に、勝つ!!))
どこか怒気を含んだ真剣な声に、一瞬会場が静まる。中には涙目になっている生徒もいるほどだ。しかしそれすら気づかないほど集中しているのか、遊司は4枚のカードを手に取った。
「俺の先攻! モンスターをセットし、さらにカードを3枚セット! これでターンエンドだ!」
遊司のフィールドに4枚のカードが裏向きで表示される。遊司がよく見せる静かな1ターン目の動き。でも初手から一気に3枚も伏せるのは初めて見たかもしれない。
「……遊司の奴、大丈夫か?」
ポツリと真が呟いた。確かに今の遊司はどう見ても怒っていて、冷静な判断ができているのか怪しく見える。
「……たぶん、大丈夫だよ。わかんないけど、ちゃんと冷静に相手の出方も見てる」
そう、遊司のあの眼はただ相手を見てるんじゃない。冷静に相手を分析しようとしてる時のいつもの眼だ。
真もそれに納得したのか、首を縦に振ってみせる。
「一気に3枚も伏せるとはね。さて、どうしようかな」
それに対し、美馬坂くんはゆっくりと手札を見て、カードを1枚手に取った。
「手札のキーマウスを捨てることで、チューナーモンスター、虚栄の大猿を特殊召喚!」
フィールドに現れたのは小さな猿のモンスター。しかしその後ろ大きな虚像が現れ、その姿を大きく見せ出す。
キーマウス
星1 地属性 獣族 チューナー
攻撃力100 守備力100
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキからレベル3以下の獣族モンスター1体を手札に加える事ができる。
虚栄の大猿
星5 地属性 獣族チューナー
攻撃力1200 守備力1200
このカードは通常召喚できない。
手札から獣族モンスター1体を墓地へ送った場合に特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、墓地へ送ったその獣族モンスターのレベルを確認し、次の効果から1つを選択して発動する事ができる。
●そのレベルの数だけこのカードのレベルを上げる。
●そのレベルの数だけこのカードのレベルを下げる。
「虚栄の大猿は召喚のために捨てたモンスターのレベル分、レベルを変化させることができる。キーマウスのレベルは1。僕はレベルを1つ上げ、6にするよ」
「へえ、便利なカードだね」
元々がレベル5だから低レベルモンスターを使って高レベルシンクロを出しやすいし、加えて自身のレベル調整もできる。手札消費は激しいが、とても便利なモンスターと言えた。
「龍可だって獣族モンスター使うだろうに。あれ知らないのかよ」
すると真が呆れたように私の無知を指摘する。わ、私だってイラストぐらいなら見たことあるよ! でも、一目で採用を見送ったのを覚えている。
「だってあんまり可愛くないんだもん」
「ああ、そこなんですね」
さっきと同様に呆れたように真は言うが、私としては重要な問題である。可愛かったり綺麗だったりするモンスターの方が好きなのだから仕方がない。仕方がないったら仕方がない。
私たちがそんな言い争いをする中、デュエルは進行していく。
「さらにマイン・モールを召喚する」
次に召喚されたのは口に花を咥えた大工姿のモグラ。何あれ可愛い。ちょっと欲しいかも。
マイン・モール
星3 地属性 獣族
攻撃力1000 守備力1200
このカードは1ターンに1度だけ、戦闘では破壊されない。
このカードが獣族モンスターのシンクロ召喚の素材として墓地へ送られた場合、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
このカードは相手のカードの効果によってフィールド上から離れた場合、ゲームから除外される。
「そこまで褒めると、なんか大猿が不憫だな」
自然に心の声を聞かないでほしい。以心伝心はちょっと恥ずかしいから。
「レベル3のマイン・モールにレベル6となった虚栄の大猿をチューニング!」
大猿が6つの輪となりそこに3つの星となったマイン・モールが飛び込んでいく。
「静寂なる森に潜みし獰猛なる獣よ、森を害するものを狩りつくせ! シンクロ召喚! 来い、ナチュル・ガオドレイク!」
光の柱が立ち、その中から獰猛なライオンが……。訂正、とても可愛いコミカルなライオンが現れた。なにあれ欲しい。
ナチュル・ガオドレイク
星9 地属性 獣族 シンクロ
攻撃力3000 守備力1800
地属性チューナー+チューナー以外の地属性モンスター1体以上
「攻撃力3000か……っ」
しかしデュエルをしている遊司としてはたまったものではないようで、その攻撃力に目が行っていた。確かに基本的に攻撃力の最大値が低い獣族モンスターの中であれはかなりの攻撃力を持っていると言っていい。警戒するのは当然か。
「マイン・モールの効果により、獣族モンスターのシンクロ素材となったことで1枚ドロー。さて、そのモンスターはメタモルポットの可能性がある。先にカードを1枚セットしておくとするよ」
あまり見ないバトルフェイズ前にカードを伏せる動き。確かに今の遊司のフィールド状況はメタモルポットだと想定するには十分だ。私でもそう予想する。
「行くよ。ナチュル・ガオドレイクで伏せモンスターを攻撃!」
美馬坂くんの指示に従い、ガオドレイクは大きく飛び跳ねると伏せモンスターを上から押しつぶしてしまった。カードが破壊される寸前に見えたのは、たまに遊司のデュエルで見ることのある女の子の精霊。
「そよ風の精霊? なんでそんな弱小カードを入れてるんだい?」
「俺のデッキに、弱小カードなんて1つもない!」
私と同じくそれが見えたらしい美馬坂くんのその言動に遊司が声を荒げる。
「そうかい? 攻撃力0のくせに自分のターンのスタンバイフェイズに攻撃表示で存在しなければならないそんな矛盾だらけのカード、どうやって使うというのさ」
「なんかあいつムカつくな……」
しかしそれを意にかえさず、美馬坂くんはそよ風の精霊の欠点を上げていった。真は舌打ちでもしそうな顔でそう呟く。正直私もそんな気分だ。
「デュエル中に相手のカードを馬鹿にするなんて……っ」
誰だってデッキを組むときに入れるカードには、何か意味を考え、それを与えている。それは、そのカードが決して弱くなんかないって思えるだけの何かがそこにあるからだ。それを無視して相手の使うカードを馬鹿にするのは、デュエリストとして到底許せるものではない。
「………」
しかし遊司はそれ以上の反論はしなかった。それを美馬坂くんは反論ができないのだと受け取ったようで、気分よさそうにデュエルを進める。
「ふっ、僕はこれでターンエン――」
「この瞬間、リバースカード発動! リビングデッドの呼び声! 墓地からそよ風の精霊を攻撃表示で特殊召喚する!」
しかしそこで遊司が動いた。まるで、言葉ではなく行動でその使い方を教えてやると言わんばかりに。
「……へえ。これで次のターンの効果発動が確定したわけか」
エンドフェイズに攻撃表示で出現したそよ風の精霊を見て、美馬坂くんは称賛を述べるが、しかしそれを今度は遊司が一笑して見せる。
「まだだ。そっちがシンクロまでやってくれて助かったよ」
「何?」
その疑問に答えるように、遊司は自らのデッキのキーカードを発動した。
「リバースカード発動! 地獄の暴走召喚! デッキからそよ風の精霊を2体攻撃表示で特殊召喚する!」
「な!?」
「えええ!? 2体出すってことは、デッキに3枚も入ってたの!?」
「これはw酷いwww」
つい私まで驚いてしまった。遊司のフィールドにはその宣言通りに2人の精霊が舞い降り、3人の風の精霊が立つことになった。しかも美馬坂くんのフィールドにはシンクロモンスターであるガオドレイクしかいないため暴走召喚によって出てくることはない。……真が大笑いしてるけど、そんなに面白かったのかな?
「それで、エンドフェイズとはいえまだそちらのターンだが。まだ何かあるか?」
「っ、いいや。ターンエンドだ」
してやったりと言うように、遊司は確認をとる。というか、早く自分のターンになってその効果を発動させたくてうずうずしているようだった。美馬坂くんが悔しげにターン終了を宣言すると、遊司はすぐにデッキからカードを引いた。
「なら俺のターン! ドロー! このスタンバイフェイズ、そよ風の精霊の効果発動! 自分ターンスタンバイフェイズにこのカードが表側攻撃表示で存在する場合、ライフを1000回復する! 3体分で3000のライフ回復だ!」
3人の風の精霊が綺麗な歌声を響かせ、遊司を優しい風が包んでいく。
遊司LP4000→7000
「ライフポイントが、7000……!?」
スタート時の倍近いライフにさすがに美馬坂くんも驚愕を隠せない。
「さらにリビングデッドで出たのを含めた2体のそよ風の精霊をリリースし、アテナをアドバンス召喚! そしてリビングデッドをコストにマジック・プランターを発動! デッキからカードを2枚ドローする!」
「くっ!」
高攻撃力モンスターであるアテナの召喚からカードを無駄にしないマジック・プランターという怒涛の展開に美馬坂くんも焦りが顔に出る。しかしアテナの攻撃力は2600。このままでは攻撃力3000を誇るナチュル・ガオドレイクを倒すことは不可能だけど……。
「アテナの効果を発動! そよ風の精霊を墓地に送り、再びそよ風の精霊を守備表示で特殊召喚! そしてこの瞬間、アテナの効果により相手に600ポイントのダメージを与える! 天光のバース!」
「ぐっ」
そよ風の精霊が1度墓地に戻って再びフィールドに現れる。何度も使われてるように見えるけど、ちゃんと別のそよ風の精霊を出していた。過労死にはならなくて済みそうである。
私がそんな余計な心配をする中、アテナが手に持つ槍を天に掲げ、そこから放たれた光が美馬坂くんに降り注いだ。
心LP4000→3400
さらに遊司はたった今引いたカードを手に取る。
「さらに装備魔法、ダグラの剣をアテナに装備! 攻撃力を500ポイントアップする!」
「なんだと!?」
アテナの槍と盾が消え、円環状の刃を持つ圏を両手に持つとその攻撃力が上昇する。それにしても、なんだかメルヘンなフィールドだね。可愛いライオンと精霊と女神って。
ダグラの剣
装備魔法
天使族のみ装備可能。
装備モンスター1体の攻撃力は500ポイントアップする。
装備モンスターが戦闘によって相手プレイヤーにダメージを与えた時、その数値分、自分のライフポイントを回復する。
アテナ
攻撃力2600→3100
「これで攻撃力は逆転した! アテナでナチュル・ガオドレイクに攻撃!」
遊司の指示を受け、アテナはガオドレイクへ疾走し、その喉元に刃を突き立てようとする。
「っ! 罠発動! 猛突進! 自分のフィールドの獣族モンスター1体を破壊し、相手モンスター1体をデッキに戻す! 僕はガオドレイクを破壊し、アテナをデッキに戻す!」
猛突進
罠
自分フィールド上に表側表示で存在する獣族モンスター1体を選択して破壊し、相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択してデッキに戻す。
しかしそれより早く美馬坂くんが反応した。ガオドレイクは大きく後ろに跳んでそれを回避し、今度はガオドレイクがアテナに向かって突進していく。
「! やらせるか! リバースカード発動、ディメンション・ゲート! アテナを除外する!」
その反撃に対し、遊司はアテナを異次元へと逃がすことで回避してみせた。装備されていたダグラの剣は破壊されてしまうが、ガオドレイクの突進は空を切り、そのまま走り続けて壁に激突してしまった。
「うまく避けたか! だがまだ終わりじゃない! 自分のフィールドの獣族モンスターが破壊されたことで、手札の森の番人グリーン・バブーンの効果発動! 1000ライフを払う代わりに、自分フィールドに特殊召喚する!」
「何!?」
森の番人グリーン・バブーン
星7 地属性 獣族
攻撃力2600 守備力1800
①:このカードが手札・墓地に存在し、自分フィールドの表側表示の獣族モンスターが効果で破壊され墓地へ送られた時、1000LPを払って発動できる。
このカードを特殊召喚する。
心LP3400→2400
破壊される寸前にガオドレイクが断末魔の咆哮を上げると、それに応えるように美馬坂くんのフィールドに棍棒を持った緑色の体を持つゴリラのようなモンスターが現れた。
「っ、俺はこれでターンエンドだ」
結果的にフィールド状況はやや遊司に不利。遊司は状況を好転できなかったことを悔しそうにターンを終えた。
「いや笑った嗤った。遊司の奴、そよ風の精霊は俺とのデュエルでもいたけど、3枚も入れてたのか」
「特殊召喚からの地獄の暴走召喚でエクシーズ、シンクロ、アドバンス召喚への布石を整えつつ、一気に3000もライフを回復するコンボ。ってことだよね。美馬坂くんじゃないけど、そよ風の精霊なんて持っててもデッキに入れる人なんてまずいないと思ってたから驚いちゃった」
さっきの遊司の動きを真と一緒に考察する。必要カードは3枚と多めだが、とりあえずそよ風の精霊を自分ターンのスタンバイフェイズまでに特殊召喚できればいいわけだから、別に無理なコンボではない。とくに遊司のデッキなら、元々あるギミックにそよ風の精霊をあてはめただけだ。そう考えると、やっぱり強力なコンボと言えるかもしれない。
「つっても、この状況はちょっとよろしくないな」
「え、でもディメンション・ゲートがあるから攻撃力が同じグリーン・バブーンは下手に攻撃できないんじゃ……」
話を変え、真は今のフィールドに目を向ける。しかし私は真が言うほど厳しい状況とは思えなかった。しかしそんな希望的意見を真は容赦なく切り捨てる。
「ここまで来た奴がそんなのに長々と時間かけるか? たぶん、すぐに対処してくるぞ」
つまり真はこのターンで遊司が追い込まれるだろうと考えているようだ。遊司の方を見ると、遊司もまた緊張した様子で相手を見ていた。
(まさか、ホントにそうなるの?)
生唾を飲み込み、私もデュエルに集中することにする。一体どんな手を使ってくるのか、私も興味があるしね。
「僕のターン、ドロー!」
カードを引き、そのカードを確認すると美馬坂くんは静かに笑った。
「ふっ、さっきのコンボは面白かったよ。確かに弱小モンスターも使い方次第でいくらでも化けられるってことを思い知らされた」
突然称賛の言葉を贈る美馬坂くんに遊司は逆に警戒を強める。その態度が逆に、すでに対処が可能だと言っているように見えるからだろう。
「でも、それでも僕には勝てない。僕はゼンマイニャンコを攻撃表示で召喚!」
ゼンマイニャンコ
星2 地属性 獣族
攻撃力800 守備力500
自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。
相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す。
この効果はこのカードがフィールド上に表側表示で存在する限り1度しか使用できない。
そう宣言し、美馬坂くんはゼンマイ式の猫の玩具のようなモンスターを召喚した。その可愛らしい姿に毒気を抜かれたかのように遊司の眼が点になる。
「……ニャンコ?」
「あ、可愛い」
ゼンマイ特有の音とともにカタカタと動く姿はとてもプリティーで、他の女子生徒からも可愛いという声が上がっていた。
そんな中、真だけはかなり苦々しい表情をしていた。
「うわー。可愛いからって油断してると痛い目にあうぞ、あれ。蠱惑魔並みに」
「え?」
いつものことながら、真はその効果を知っているようだ。でもとてもそんな怖い効果を持っているようには見えない。どうなるんだろう。
「クリーン・バブーンでそよ風の精霊に攻撃!」
「くっ。すまない、そよ風の精霊」
そのままバトルフェイズに入り、美馬坂くんはグリーン・バブーンでそよ風の精霊に攻撃した。成すすべなくそよ風の精霊は容赦のない全力のフルスイングでふっとばされて破壊されてしまった。うぐ、あれはちょっと、なまじ人の姿をしているだけに見ていて痛い。
「続いてゼンマイニャンコでダイレクトアタック!」
「!?」
「え、攻撃するの!?」
ディメンション・ゲートの効果は、これまで何度か遊司が使ってきたこともあってよく知られている。ここで攻撃すればディメンション・ゲートが墓地に送られ、アテナが戻ってくるというのに、美馬坂くんは躊躇いなく攻撃してきたのだ。
「……面白い。試してみるか。ディメンション・ゲートの効果発動! 相手がダイレクトアタックしてきた時、このカードを墓地に送ることができる! さらにディメンション・ゲートが墓地に送られたことでその効果が発動! 自身の効果で除外していたアテナを特殊召喚する!」
ゼンマイニャンコがカタカタとゆっくり近づいてくる中、遊司は一瞬何か考えていたようだが、結局ディメンション・ゲートの効果を使用することにしたようだ。ディメンション・ゲートが消え、そこに退避していたアテナがフィールドに戻ってくる。
「それを待っていたんだ。バトルは中断」
さすがにそのまま攻撃しようとはせず、ゼンマイニャンコはその場で止まった。しかしなぜかゼンマイニャンコはそこから戻ろうとはせず、アテナの前で止まったままだ。
「メインフェイズ2に入り、ゼンマイニャンコの効果発動。相手フィールドのモンスター1体を相手の手札に戻す。目障りな女神様にはお帰りいただくよ」
「なっ、くそ!」
ゼンマイニャンコに付けられたネジが急速に回りだし、そこから突風が巻き起こる。するとそれはアテナを飲み込み、遊司の手札まで吹き飛ばしてしまった。
「もっともこの効果はフィールドに存在する限り1度しか使えないけどね。僕はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
「それ見たことか」
「ニャンコ強い!?」
1回しか使えないのはゼンマイ式だから巻きなおしが必要ということか。いやそれにしても驚きである。まさか1回しか使えない制限はあるとはいえこんなに強い効果だとは。
「だから言ったろ。あれうまくすると毎ターン蘇生しながら相手モンスターを手札に戻していくコンボとかもあるくらいには強力なカードだから」
「ふぇー、モンスターは見かけで判断しちゃいけないんだね」
げんなりしながら説明する真。なにそのえげつないコンボ、見てみたい。決して体験したくはないが。
(強い……! さすがにアンティルールで負け無しなことはあるか。だがまだだ!)
フィールドは明らかに不利。手札もこの2枚では反撃などできない。でも、それが諦める理由にはならない!
「俺のターン! ドロー!」
ドローしたカードを確認し、すぐにそのカードをデュエルディスクに差し込む。
「天空の宝札を発動! コストとして手札の天使族モンスター、さっき戻されたアテナを除外し、デッキからカードを2枚ドローする。ただしこのターン、俺はモンスターの特殊召喚とバトルフェイズを行えない」
天空の宝札
魔法
手札から天使族・光属性モンスター1体をゲームから除外し、自分のデッキからカードを2枚ドローする。
このカードを発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚することができず、バトルフェイズを行う事もできない。
「おや。ではゼンマイニャンコは安全というわけか。せっかくいい的だというのに、残念だったね」
美馬坂の挑発が少々癇に障るが今は無視。平常心だ、俺。
新たにドローした2枚カードを確認する。これで俺の手札は3枚。そこには逆転の可能性がまだ十分にあった。
(といっても、このターンは動けない。チャンスは次のターンか)
まだ7000もライフはあるが、相手の場にはすでに上級モンスターが1体いる。油断はしない。
「俺はモンスターとカードを1枚ずつセット。これでターンエンドだ」
「おや、それで終わりかい? おっとそうだったね。天空の宝札のせいでこのターンはろくな行動がとれないんだったね。これは失礼」
「うっせ。早く進めたらどうだ」
挑発してくる美馬坂に俺は簡素に答える。しかし結果論とはいえ、ゼンマイニャンコの効果がバウンスで助かった。そうでなければ天空の宝札は発動できず、逆転の可能性など引くことはできなったのだから。
「なら、そうさせてもらうよ。エンドフェイズにリビングデッドの呼び声を発動!」
「なに!?」
奇しくも最初の俺の動きと同じタイミングで同じカードが発動される。しかし召喚されるモンスターはコンボに繋げるためのそれではなく、ただ単純な圧倒的な力。
「深淵より復活せよ、百獣の王! ナチュル・ガオドレイク!」
このタイミングで攻撃力3000。正直にこれは不味いかもしれない。
「っ!」
なぜなら、次の美馬坂のドロー次第で形勢どころかライフすら逆転される可能性が高いからだ。
「さあ、僕のターンだ。ドロー」
顔を強張らせている俺を見下すように、美馬坂はゆっくりとカードを引く。
(コイツほんとに性格悪いな!)
しかしそれを見て逆に気持ちを引き締めることができた。そんな状況に息を吐き、少し苦笑する。
(でも冷静になって考えてみれば、これ結構楽しいデュエルだよな。今は押されてるけど、お互いの持てる力を振り絞ってる。せっかくこんなデュエルをしてるってのに、相手に怒りばっか抱いてたら、なんか勿体無いかもしれない)
負けられないデュエルだというのは変わらない。このデュエルには俺の信念も賭かっているのだから。でも俺の信念は、カードが人を選ぶってことと、もう1つ。大切なことを忘れていた。
(それは、デュエルを楽しむこと。どこまでも、誰よりも!)
「さあ、かかってこいよ美馬坂! このライフを削りきれるもんならやって見せろ!」
急に元気になったせいか、美馬坂は目を丸くして止める。しかしそれを挑発と受け取ったのか、美馬坂は再びいつもの嫌味な笑みを浮かべてきた。
「言うね。なら見せてあげるよ! 僕は手札から魔法カードエアーズロック・サンライズを発動! 墓地の獣族モンスター1体を特殊召喚する! 僕が呼び出すのは虚栄の大猿だ」
エアーズロック・サンライズ
魔法
「エアーズロック・サンライズ」は1ターンに1枚しか発動できない。
①:自分の墓地の獣族モンスター1体を対象として発動できる。
その獣族モンスターを特殊召喚し、相手イールドのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、自分の墓地の獣族・鳥獣族・植物族モンスターの数×200ダウンする。
「! ということは……」
呼び出されたカードはレベル5チューナーである虚勢の大猿。そして素材に丁度いい効果を使い切ったレベル2のゼンマイニャンコ。シンクロ召喚を狙っているのだろう。
しかし俺の予想に美馬坂は首を振る。
「いいや、シンクロはしない。僕は虚栄の大猿とゼンマイニャンコをリリース!」
「アドバンス召喚か!」
確かに獣族は優秀な上級モンスターも多い。一体何が出る!? 俺の疑問に答えるように、美馬坂は手に持ったカードをデュエルディスクに叩きつけた。
「出でよ、モザイク・マンティコア!」
2体を生け贄に現れたのは全身をアーマーで包んだいくつもの獣の特徴を持つ伝説の生き物。
モザイク・マンティコア
星8 地属性 獣族
攻撃力2800 守備力2500
①:このカードがアドバンス召喚に成功した場合、次の自分ターンのスタンバイフェイズに発動する。
このカードのアドバンス召喚のためにリリースしたモンスターを墓地から可能な限り自分フィールドに特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃宣言できず、効果は無効化される。
「攻撃力2800……」
これで美馬坂の場には攻撃力3000と2800と2600のモンスターが揃った。その合計攻撃力は8400。余裕で俺のライフを削りきれる。壁モンスターを出せていなければ終わっていただろう。
「行くよ? ナチュル・ガオドレイクで伏せモンスターに攻撃!」
「くっ!」
最初の攻撃と同じようにナチュル・ガオドレイクが飛び跳ねるとそのまま伏せられていた暴風小僧を押しつぶしてしまった。
「続け! グリーン・バブーンとモザイク・マンティコアでダイレクトアタック!」
「ぐあっ!?」
遊司LP7000→4400→1600
「伏せモンスターに助けられたな。だがこれでライフすら逆転だ。天空の宝札で何を引いたのか知らないが、このまま終わらせてあげるよ」
勝利を確信したのか、少しテンションが上がっている気がする。確かに状況は圧倒的に不利だ。
「……へっ、勝負はまだわからないさ」
だがやはりいつもと変わらない。それは諦める理由にはなりえない。
「ふっ、ターンエンド」
しかし美馬坂はそれを悔し紛れの言葉として受け取ったようで、ただ嘲笑していた。
俺のターン。状況からして、このドローが逆転のラストチャンスだ。
「遊司さん……っ!」
私は控室で試合状況を観戦していた。遊司さんは伏せカードが1枚に手札1枚。対して相手は手札こそ0だが、攻撃力2600以上のモンスターが3体に、次のターンにはマンティコアの効果によってさらに増えてくる。
「この状況、終わったな」
「!」
遊司さんたちがデュエルを始めたころに控室に入ってきたトサカ頭の男、ラーイエローで次の私の対戦相手である間宮櫂さんが状況から結論を出す。確かに彼の言いう通り状況は絶望的だ。
「次は遊司さんのターンです。まだ結果はわかりません。」
それでも、と反論するも、間宮さんは肩をすくめるだけだった。
「フン。ここからどうやって逆転するというんだ」
「それは……」
今まで何度か遊司さんのデュエルは見てきたが、確かに遊司さんが使っていたカードでこの状況を簡単に逆転する方法はそうはないだろう。
「気持ちだけじゃどうにもならないこともあるってこどだ。まさかカイザーの再来とさえ言われた学年トップのデュエリストがお前のような甘ちゃんとはな。どうやら過剰評価のようだ」
「………」
間宮さんは心底呆れたと言うように嘲笑する。いつの間にか矛先が私に変わっていたが、そんなことは些細なことだ。
確かに普通に見れば間宮さんの言う通りなのかもしれない。だけどどれほど追い込まれても、いつだって遊司さんは諦めなかった。そうして軽々と、私の世界を変えて見せる。
(……遊司さん。また、見せてください)
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