遊戯王TAKEⅡ   作:レイレナード

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後編です


Episode09 崩れぬ意志 後編

(手札のカードとセットカード。これらを使えばあれを出せる。だけどそれだけじゃだめだ。ここで何かを引かないとその意味をなくしてしまう)

 計算外だったのはあのリビングデッド。あれが逆転への道を崩してくれた。つまり、ここでそれすら凌駕する可能性を引き当てる必要があるということ。

 デッキに指を添え、一番上のカードを掴む。

(でも大丈夫だ。いつだってこのデッキは俺の思いに応えてくれた。俺を選んでくれた、最高のカードたち。だから、信じるんだ!)

「俺のターン、ドロー!!」

 力を込めてカードを引き、それをゆっくりと確認する。

(!!)

 そのカードを見た瞬間、可能性を指し示す道が頭を駆け巡った。その道の通りに俺はそのカードをデュエルディスクに差し込み、さらにセットしていたカードを発動する。

「カードを1枚セット! そしてリバースカード発動! リビングデッドの呼び声! 特殊召喚するのは、さっき破壊された暴風小僧!」

 相手も含め本日3回目のリビングデッドの呼び声。しかしそれが呼び出すのは、とてもこの状況をどうにかできるとは思えない風を操る少年だった。そのことに美馬坂はわざとらしく同情しているかのような態度をとる。

「残念だけど、しかたがないね。せっかくの蘇生カードだがその暴風小僧が君の墓地にいる最大の攻撃力だものねえ」

 そんなあからさまに自分を馬鹿にしている声に暴風小僧がむっとした。それは俺も同じだ。

「最初に言ったはずだぞ。俺のデッキに弱小カードなんて1枚もないってな」

「そうかい? ……ああ、手札にガーディアン・エアトスがいるんだね。なんせ君のエースモンスターだ。確かにこの場を預けるには丁度いい」

 得心がいったと言うように勝手に納得する美馬坂。残念だが、外れてるぞ。

「勘違いするな。確かにエアトスは俺のエースだが、何もエアトスだけが切り札ってわけじゃない」

「何?」

 ここに来て、再び美馬坂の顔から余裕が消える。何か仕掛けてくる、と直感したのだろう。それに応えるように俺は最後の手札を切った。

「俺は手札から、チューナーモンスター、トラスト・ガーディアンを召喚!」

 

トラスト・ガーディアン

星3 光属性 天使族 チューナー

攻撃力0 守備力800

このカードをシンクロ素材とする場合、レベル7以上のシンクロモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

このカードをシンクロ素材としたシンクロモンスターは、1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。

この効果を適用したダメージステップ終了時、そのシンクロモンスターの攻撃力・守備力は400ポイントダウンする。

 

「! シンクロか!」

 デフォルメされた妖精のような天使が俺のフィールドに飛び出す。チューナーとそれ以外のモンスターがフィールドに揃ったことで、さすがに美馬坂も俺がシンクロ召喚を狙っていると分かったようだ。

「レベル4の暴風小僧に、レベル3の光属性モンスター、トラスト・ガーディアンをチューニング!」

 トラスト・ガーディアンが3つの光の輪となり、暴風小僧が元気よく飛び込んでいく。それは4つの光となり、一筋の光の柱となった。

「聖域穢されし時、悠久を生きる竜が裁きを下す。連なれ星々よ!」

 光が晴れ、そこから現れたのは真っ白な体と金色の長い髪をなびかせた天の龍。

「シンクロ召喚! 舞い降りろ、エンシェント・ホーリー・ワイバーン!!」

 神々しい光の中、エンシェント・ホーリー・ワイバーンは俺のフィールドに舞い降りる。しかしそれはすぐに翼を折りたたみ、守備の体勢をとった。

 

エンシェント・ホーリー・ワイバーン

星7 光属性 天使族 シンクロ

攻撃力2100 守備力2000

光属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

自分のライフポイントが相手より多い場合、このカードの攻撃力はその差の数値分アップする。

自分のライフポイントが相手より少ない場合、このカードの攻撃力はその差の数値分ダウンする。

また、このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、1000ライフポイントを払うことでこのカードを墓地から特殊召喚する。

 

エンシェント・ホーリー・ワイバーン

攻撃力2100→1300

 

「エンシェント・ホーリー・ワイバーンはライフ差によって攻撃力が変化する。今俺のライフはお前より800ポイント下回っているため攻撃力は800下がる」

 会場が静寂に包まれる中、俺は淡々と効果を説明する。もしナチュル・ガオドレイクが蘇生されなければまだライフは最低2800以上あったのだから、この時点で攻撃力が3700以上はあったと考えると悔しいところだ。やはりそう思い通りにはいかない。

「……ははは! ずいぶん自信満々に言うから何が来るかと思えば、そんなモンスターがこの状況で何の役に立つ? しかも守備表示とは、ずいぶん消極的じゃあないかい?」

 静寂を破るように美馬坂の笑い声が響く。ま、そう思うのも当たり前だろうな。俺が相手でもそう思うだろう。でも……、

「今はこれでいいのさ。これで次に繋がる可能性ができたんだから」

「次、だと?」

「ああ。俺はこれでターンエンドだ」

 美馬坂が俺の言葉を訝しむが、それに取り合わず、俺はターンを終了する。

(準備はできた。後はあいつがどう考えてくるかだ)

 

 

 純白の姿態に金に輝く長い髪。見るものすべてを魅了する天龍に見惚れること数秒、状況の理解にようやく頭が追い付いて愕然とした。

「ええええ!? ちょ、ええええええ!? あれ大丈夫なの!?」

「反応遅いなおい」

 ターンを終了してからようやく驚き始めた私に真が突っ込む。だって綺麗だったんだもん。

 むくれる私を他所に真はフィールドに視線を戻す。

「正直かなりきついと思うが、ってかなんで守備表示なんだ? ライフ回復カードを引いたわけじゃないのか?」

「エンシェント・ホーリー・ワイバーンは私も持ってるから効果は知ってるよ。あれで耐えるつもりなのかなあ」

 真の疑問はもっともだ。エンシェント・ホーリー・ワイバーンは相手より有利な状況で真価を発揮するモンスター。不利な状況で出すと言うことは、まず確実にライフ回復カードがあると言うことだ。だと言うのに遊司はそれを守備表示で出した。となると、戦闘破壊されても1000のLPをコストに蘇生する方の効果が目当てで盾としてだしたのかもしれない。トラスト・ガーディアンも素材にしてたし。そう思って言ってみたが、真は納得してないって表情だった。

「でも、それだけじゃあなあ。あんだけ自信満々で出したんだし、他にも意味があるような気がするんだよ。……もしかしてあのカードが重要なんじゃなくてシンクロモンスターが必要だったのか?」

「シンクロモンスター専用の罠って事?」

「そう。でも、……分かんないな。遊司の奴、どういうつもりなんだ」

 真の言う通り、エンシェント・ホーリー・ワイバーンではなくシンクロモンスターが必要だったと言うなら確かに話は分かる。でもそれでも真は難しい顔のままだった。

 でもこれ以上はきっと考えても分からない。私は気持ちを切り替えてデュエルの流れを見守ることにした。

 

 

 空羽遊司のフィールドには守備表示のエンシェント・ホーリー・ワイバーンと伏せカードが1枚。手札は0。対してこちらはモザイク・マンティコア、ナチュル・ガオドレイク、グリーン・バブーンの3体に、マンティコアの効果でシンクロ召喚の素材が確保できることが確定。この状況で、奴はまだ勝てるつもりでいる。

(次に繋がる可能性、か。この無意味なシンクロ召喚、その意味はやはり後ろの伏せカードが鍵か。ミラーフォースのような全体破壊カードはシンクロモンスターと関係のあるカードにはない。となるとあのカードは……)

「……なら、それすら無意味にしてあげるよ。僕のターン、ドロー!」

 引いたカードを見て、思わず顔がにやける。まさに今一番欲しいカードを手札に加える事が出来たのだから。しかしその前にやることがある。

「このスタンバイフェイズ、モザイク・マンティコアの効果発動! 召喚のためにリリースしたモンスター2体を効果を無効にして特殊召喚する! つまり出てくるのは虚栄の大猿とゼンマイ・キャット!」

 マンティコアが羽を広げて咆哮すると、それに応えるように小猿とゼンマイ仕掛けの玩具が再びフィールドに出現する。効果は無効になっているとはいえ、ここから行うことに何ら問題はない。

「フィールドが埋まったが、これでチューナーとそれ以外のモンスターが揃ったか」

 どうやら空羽も僕の行動は予想できているようだ。だが、

「まだだよ。僕はゼンマイ・キャットをリリースし、異界の棘紫獣をアドバンス召喚!」

 現れたのは全身に棘の生えた紫の獣。人の二回りは大きい巨体を震わせ、天の龍を睨みつける。

 

異界の棘紫獣

星5 闇属性 獣族

攻撃力1100 守備力2200

このカードが墓地に存在し、自分フィールド上のモンスターがせんとうによって破壊され墓地へ送られた時、このカードを墓地から特殊召喚できる。

この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

「異界の棘紫獣」の効果は1ターンに1度しか発動できない。

 

 そしてそれを見た空羽はさらに警戒を強めてきた。

「! 確かそいつは蘇生能力を持つモンスター……。この状況でわざわざそいつを出すってことは、狙いはレベルの調整……っ」

「その通り。そしてこれが、僕の切り札だ! レベル5の異界の棘紫獣にレベル5の虚栄の大猿をチューニング!!」

 虚栄の大猿が5つの輪となり、そこに異界の獣が5つの星となって飛び込んでいく。

「古の樹を護りし聖獣よ! 聖域に踏み込みし愚者に神聖なる裁きを与えよ!」

 それは大きな光の柱となって弾け、そこに百獣の王が真の姿を現す。

「シンクロ召喚! 噛み砕け! 神樹の守護獣-牙王!」

 守護の獣らしく僕の前に立った牙王は、その声に応えるように見るものすべてを圧倒する咆哮を上げた。

 

神樹の守護獣-牙王

星10 地属性 獣族 シンクロ

攻撃力3100 守備力1900

チューナ+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードは、自分のメインフェイズ2以外では相手のカードの効果の対象にならない。

 

「……来たか、牙王……っ!」

 守護される僕とは対照に、その威圧を真っ向から受け止める空羽は、戦慄の表情でそれを迎える。恐怖に怯えないのはさすがと言うべきか。

 だが牙王の力はお前の想像を超える!

「牙王は僕のターンのメインフェイズ2でしかカード効果の対象にならない。これで君の伏せカードはないも同然さ。行け、牙王! エンシェント・ホーリー・ワイバーンに攻撃! キングバイト!!」

 牙王はもう1度咆哮し、その巨体とは裏腹の俊敏さで一瞬にしてエンシェント・ホーリーとの間合いを詰めその首元に噛みつく。さらにエンシェント・ホーリーが苦痛に鳴くのもかまわず、そのまま地へと組み伏せてしまった。

「耐えろ! エンシェント・ホーリー!」

 しかし破壊される寸前でエンシェント・ホーリーが発光したかと思うと、その光は牙王を弾き飛ばしてしまった。

「何!?」

 牙王は僕の前に戻り、エンシェント・ホーリーも多少ふらつきながらも空羽の場に戻る。

「くっ、なぜ破壊されない!?」

「このエンシェント・ホーリー・ワイバーンはトラスト・ガーディアンを素材にシンクロ召喚されている! トラスト・ガーディアンを素材としたモンスターは、1ターンに1度攻守を400下げることで戦闘では破壊されない!」

 

エンシェント・ホーリー・ワイバーン

攻撃力1300→900

守備力2000→1600

 

 一瞬焦るも、空羽の説明を聞きどうにか頭を冷やす。

「1ターンに1度……、ならそれももう終わりだね」

 これでエンシェント・ホーリー・ワイバーンに耐性は無くなった。

(牙王以外でシンクロモンスターを攻撃するのは少し怖いが、すでに牙王がいるなら大した問題ではないか)

「グリーン・バブーンでエンシェント・ホーリー・ワイバーンに攻撃!」

 気を取り直し、改めてモンスターたちに指示を出していく。グリーン・バブーンはエンシェント・ホーリーの懐に飛び込み、棍棒をその首元へ叩きつけた。もともとふらついていたエンシェント・ホーリーにそれに抗うすべはなく、そのまま地に倒れふし今度こそ破壊に成功する。

「くっ!」

 しかしここまで来て空羽は一向に伏せカードを発動するそぶりはない。

(ということはあの伏せカードはブラフ)

「ならばあとはモザイク・マンティコアのダイレクトアタックで、……っ!?」

 しかし攻撃を指示しようする矢先、空羽のフィールドに光がともり、先ほど破壊したはずのエンシェント・ホーリー・ワイバーンが姿を現した。

「なぜ破壊したはずのエンシェント・ホーリー・ワイバーンが!?」

「エンシェント・ホーリー・ワイバーンの効果を発動したんだ。このカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、1000ライフを払うことでこのカードを特殊召喚できる」

 

遊司LP1600→600

 

エンシェント・ホーリー・ワイバーン

攻撃力2100→300

 

「まだそんな効果があったか……、だがもはや君のライフは600。もう一度エンシェント・ホーリーを破壊すれば、残ったガオドレイクのダイレクトアタックで終わりだ」

 何も焦ることはない。しかし空羽はそんな俺に不敵に笑って見せた。

「おいおい。よく見てみろよ」

「何?」

 空羽に言われ、もう一度復活したエンシェント・ホーリー・ワイバーンを注視すると違和感があった。そしてその理由はすぐにわかる。

「……なっ、攻撃表示だと!?」

 それは表示形式。当然守備表示で出されたものだと思っていたが、よく見れば守備表示ではなく攻撃表示だったのだ。その攻撃力はわずか300。このまま攻撃すれば終わりだ。

(どういうことだ。何故このタイミングで攻撃表示に……)

 相手の行動の意味が分からず混乱してしまう。

「どうした? 攻撃しないのか? ならお前の手札は0だし、俺のターンになるが」

 そんな俺をしり目に挑発的な態度を取る空羽。しかしそれが逆に僕の頭を冷静にしてくれた。

(わざわざあんな態度を見せると言うことは明らかに罠か。……いや、待てよ)

「……そうか。そういうことか。君の狙いが分かったよ」

「………」

 考えてみれば悩む必要などないことだった。何せあの伏せカードはブラフだとさっき確信したばかりなのだから。

「それは、ハッタリだ。この状況で逆転の可能性を持ったシンクロモンスターを失うわけにはいかない。そのためにあえて攻撃表示にすることで、何かあると思わせ攻撃をためらわせようとしているんだ」

「くっ……」

 どうやら図星ようだ。空羽は悔しそうに手を握りしめ明らかに動揺している。

「種が分かれば止まる理由はない! 行け! モザイク・マンティコア!!」

 マンティコアが叫び声をあげ、エンシェント・ホーリーに跳びかかる。

「遊司さん!」

 空羽を心配してか、奴の名を呼ぶ声が聞こえるがもう遅い。マンティコアの爪がエンシェント・ホーリーを切り裂き、空羽のライフは0になる。

(勝った!)

 そう、僕が確信するには十分な状況。そのはずだった。

「……かかったな、美馬坂!」

「!?」

 その声にはっとして空羽を見ると、その手はデュエルディスクのボタンを押していた。伏せているカードを発動させるためのそれを。

「リバースカード発動! 罠カード、ホーリージャベリン!!」

「ホーリージャベリンだと!?」

 空羽のフィールドにあった伏せカードが表になる。そこから現れたのは先に天使の羽が付いた投げ槍。

 

ホーリージャベリン

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。

その攻撃モンスター1体の攻撃力分だけ自分のライフポイントを回復する。

 

(馬鹿な!? あのカードは……!!)

「このカードは相手モンスターの攻撃宣言時に発動でき、その攻撃力分のライフを回復する! 行け!!」

 空羽が飛びかかるマンティコアを指すと、ホーリージャベリンはマンティコアに向かって投擲され、その頭に突き刺さる。それによりマンティコアはバランスを崩しエンシェント・ホーリー・ワイバーンの前に落ちてしまった。

 さらに突き刺さったホーリージャベリンが光となって消え、それが空羽を包み込むと、そのライフを大きく回復させていった。

「これでライフを2800回復! 同時にライフがお前を上回ったためエンシェント・ホーリー・ワイバーンの攻撃力が上昇する!!」

 

遊司LP600→3400

 

エンシェント・ホーリー・ワイバーン

攻撃力300→3100

 

 エンシェント・ホーリー・ワイバーンが天に向かって嘶き、それに応えるように光が降り注ぐ。すると弱々しかった姿態は見る見るうちに神々しく輝きだし、その身を天空へと飛翔させた。

「くっ!」

 攻撃力は逆転され、しかもすでに攻撃宣言は行っている。マンティコアが起き上がり空を見上げる頃にはすでにエンシェント・ホーリーはその力を解き放とうとしていた。

 エンシェント・ホーリーの背に刻まれた古代文字のような模様が輝き、その口の前に同じ文様が輪となって出現すると、その中心に光が集まり大きな塊となっていく。

「迎え撃て! シャイニングブレス!」

 その指示に応え、エンシェント・ホーリーは光の塊を閃光として放つ。それは容赦なくマンティコアを飲み込み、その断末魔の咆哮すら掻き消してしまった。

「ぐあ!!」

 爆風が周囲を包み、思わず僕も一歩下がる。

 

心LP2400→2100

 

エンシェント・ホーリー・ワイバーン

攻撃力3100→3400

 

 僕のライフが減ったことで、さらにエンシェント・ホーリーの攻撃力が上昇する。これで牙王の攻撃力すら上回られてしまった。

 しかしそんなことに頭を悩ませるのは後回しだ。それよりも僕にはどうしても理解できないことがあったから。

「ば、馬鹿な! そんなカードが伏せてあったなら、なぜ初めからエンシェント・ホーリー・ワイバーンを攻撃表示にしていなかった!?」

 そう、あれは相手の攻撃に合わせてライフを大幅に回復させることができるカード。ならば初めからエンシェント・ホーリーを攻撃表示にしておけば、ライフを1000も削ることも無かったのだ。

 なぜ最初に守備表示で出したのか。それが全く理解できなかった。

「……決まってるだろ。牙王を警戒したからさ」

「な、に……!?」

 しかし空羽は何でもないことのようにその意味を話し始めた。

「お前の言う通り初めからそうしていれば、確かに俺は1000ポイントのライフを払う必要もなくお前のモンスターを倒せていたかもしれない。だが、ホーリージャベリンは対象を取るカードだ。残念ながら牙王には効かない」

「っ! 読んでいた、というのか!?」

 それこそありえない。あの状況で牙王を出せたのは偶然のようなものだ。フィールドは埋まり、召喚できるシンクロはレベル7か12。牙王のレベルには合わない。しかも空羽の口ぶりはまるで初めから牙王の効果を知っていたかのようだ。

 しかしそれにすら空羽は「別に特別なことじゃないさ」と答えた。

「あの時言ってたじゃないか。そいつはお前のお気に入りなんだろ? お前ほどのデュエリストが信頼するモンスターならどんな効果を持ってるのか気になってさ。ちょっと調べてみたんだよ。そうして効果を知っていたから、あの状況ならきっと牙王がお前に応えてくれる(・・・・・・)だろうと予測できたのさ。あとはうまく相手が勝手に想像を膨らませてくれるよう誘導するだけだ」

「……っ!」

 それは、カードが持ち主に応えるとはつまり、空羽の言っていた信念。「カードが人を選ぶ」ということに他ならない。これは奴の信念の勝利だということだ。

「……僕は、君の手のひらの上だったと言うのか?」

 今思えば、あからさまに伏せカードに何かあると思わせる、「希望が繋がる可能性」という言葉。そして逆に一向にそれが発動されないことによって、それをブラフだと思い込ませ、最後に分かりやすい挑発を行うことによって、あの状況で攻撃表示で蘇生させることの不自然さによって生まれる混乱を冷静になったかのように思わせる。こうして後になってみれば、そのすべてが相手のミスリードをうまく誘っていることが分かる。

「さあな。ま、どちらにせよまだデュエルは終わってないし、このまま攻撃してもお前のライフを0にはできない。あとは次のターンのドロー次第さ」

 空羽はそれを肩をすくめて流した。全てがそうなのかどうかは分からないが、少なくともエンシェント・ホーリーを出してからのこの状況が奴の予測通りなのは明らかだ。

 あれだけの状況を作って、勝利を確信して。偉そうに言っていたのがこの様だ。空羽の周到さと自分の浅はかさに怒りやら羞恥やらで頭がどうにかなってしまいそうだ。

(だがまだだ! まだ諦めない!!)

「くっ、僕はナチュル・ガオドレイクを守備表示に変更し、ターンエンドだ!」

 相手の手札は0。場には攻撃力3400のエンシェント・ホーリー・ワイバーンが1体のみ。墓地で発動できるカードも無い。そして僕のライフはまだ2100。もし攻撃力が一番低いグリーン・バブーンを攻撃されてもダメージは800止まり。これならまだ可能性は十分ある。

(そうだ! まだ僕は負けてない! 次のターンが来ればすぐに逆転してみせる! 僕は勝つ! 勝たなければならないんだ! 絶対に……っ! 僕の世界を護るために!!)

「………」

 しかし一向に空羽は動こうとしなかった。ただこちらをじっと見つめているだけだ。

「どうした。お前のターンだろ。さっさとドローしたらどうだ」

 その眼がまるで僕を嘲笑しているかのように思えて、怒りと焦りが強まる。もう自分に勝ち目などない。お前にそんな力はなかった。そんなありもしない言葉が心を抉っていく。

 そんな僕に、空羽は不思議そうに声をかけた。

「……お前、何をそんなに恐れてるんだ?」

「何!?」

 心を、鷲掴みにされたような気がした。

「デュエルに負けて、これまで奪ってきたカードを全部失ってしまうこととか、そういう所じゃないよな。もっと根本的な、デュエルに負けるという事実、そのものを恐れているように見える」

 空羽の言葉が胸に突き刺さる。触れてほしくないものに触れられてしまったかのような、足元に築き上げてきた世界が今にも崩れてしまいそうな感覚。

「……っ!! お前には関係ないことだ!!」

「………」

 僕は必死にそれに抗うしかなかった。これまでずっと護ってきたもの。護らなければ壊れてしまうもの。それが怖いと感じ始めたのがいつの頃だったかはもう忘れたが、いつだって僕はその恐怖を隠してきた。

「はあっ……はあっ……」

 それは人に悟られてはならない。なぜならそれは僕の弱さだ。人は弱さを見つければそれにつけ込んでくる。それでは僕の世界を護れない。

(僕は強くなくちゃならないんだ。僕の世界を護れるだけの強さが必要なんだ!)

 僕は負けてはならない。弱さを見せてはならない。知られてはならない。だからこのデュエル、必ず勝たなければならない!!

「……そうだな。確かに関係ない。でもさ――」

 空羽が何かを言っているが、気にする必要はない。どうせ自分の信念がどうだとか、もしくは僕の弱さを見つけて煽って来るのだろう。だがそんなの無視すればいい。どうでもいいことだと、違ったのだと適当に思わせられればそれで………

「――デュエルって、そんなに苦しんでやるものじゃないだろ」

 ………。

(………)

「……は?」

思わず素っ頓狂な声が出た。それはあまりにも予想していた言葉とは違ったから。空羽が何を言っているのか、うまく理解できなかったのだ。

 そんな俺に構わず、空羽は続けた。

「少なくとも俺はこのデュエル、楽しいと思ってる。そりゃあ負けたらやばいデュエルだけど、それでも、実力の拮抗してる者同士、その駆け引き、予想もつかないような動きの数々。俺は、すごく楽しい」

 空羽の顔にも声にも、こちらを嗤うようなものは感じられない。別に僕を哀れんでいるようにも感じられない。それはただの純粋な言葉。

「もちろん負けたくはないし、負ければ悔しいけど、でもそれで終わりってわけじゃない。そこからやり直せることだって、きっとたくさんあるだろ。もし俺が負けることになっても、こんなデュエルの後なら、きっとちゃんと納得できる。そしていつか必ずもう1回挑んで、その時に取り戻して見せる。美馬坂が何を抱えてるのか知らないけど、お前はそう思えないか? 負けたって、もう1度始めればいいってさ」

 僕のデュエルに空羽は何かを感じて、だけど空羽はそれを聞こうとも理解しようともしていない。さっきの拒否で、それが僕にとって嫌なことだと分かったから。なのに空羽はそこにつけ込もうとはしない。だから空羽は哀れもうともしない。

 その上で空羽は、それでも僕に求めていた。ただ純粋に、気持ちを共有しようとする友人同士のように。

「って、なんか説教臭くなっちまったな。デュエル中に何言ってんだか。悪い。……でもさ、もしそんな風に思えれば、きっともっと、デュエルが楽しくなると思うからさ」

 一緒に楽しもう、と。

「………」

「……さて、それじゃあ、行くぞ! 俺のターン、ドロー!」

 伝えたいことは伝えた。というように、空羽はカードを引く。さっき言った通り、とても楽しそうに。よく見ればそれは、僕に追い込まれていたくせに突然元気になって挑発してきた時と同じ顔だった。

(あの時から君は、いやもしかしたらもっと前から、君はこのデュエルを楽しんでいたのか……?)

 答えがあるはずもない。空羽は引いたカードを見て、すぐにそのカードをデュエルディスクに差し込んだ。

「魔法カード、貪欲な壺を発動! 墓地に存在する5枚のモンスターすべてをデッキに戻し、デッキからカードを2枚ドロー!」

 

貪欲な壺

魔法

①:自分の墓地のモンスター5体を対象として発動できる。

そのモンスター5体をデッキに加えてシャッフルする。

その後、自分はデッキからカードを2枚ドローする。

 

 空羽の墓地に眠るモンスターはそよ風の精霊3枚と暴風小僧とトラスト・ガーディアンの丁度5枚。それが全てデッキに戻り、カードを2枚ドローする。

 それを僕はただ茫然と見守るだけだった。

(正直、負けても終わりじゃないなんて考えたことがなかった。世界の中心で居続けるためには勝ち続けなければならない。そのためには力がいる。そのためならどんな手段でも取る。そのためのアンティルールだった。負けるわけにはいかない。ずっとそう思ってきた。負けたら、全部終わりだと。なぜなら負けるということは、1番強いのではないということ。それは、中心にはいられないということだから)

「……来たか!」

 空羽は引いた2枚をそのままデュエルディスクに置いて行く。

「俺の墓地にモンスターがいない時、このカードは特殊召喚できる! 天空を翔る一筋の風よ。導きに応え、今舞い降りろ! ガーディアン・エアトスを手札から特殊召喚! さらに装備魔法、女神の聖剣-エアトスを装備!」

 突風が吹き荒れ、大きな白い翼を持つ女性が、羽根を散らしながら舞い降りる。その手にはすでに愛用の聖剣が握られていた。

 

ガーディアン・エアトス

攻撃力2500→3000

 

「さらにエアトスの効果発動! 聖剣を破壊し、相手の墓地からモザイク・マンティコア、虚栄の大猿、キーマウスの3体を除外し、攻撃力を1500ポイントアップする! 聖剣のソウル!」

 エアトスが聖剣を掲げると刀身が輝きだし、閃光が僕のデュエルディスクを貫く。その光に導かれるように墓地のモンスターたちが剣に吸収されて行った。剣の放つ光は増していき、今にも弾けてしまいそうだ。

 

ガーディアン・エアトス

攻撃力3000→2500→4000

 

(でも、そうじゃないのか? 負けることと弱いことは違うのか? ……正直、今の僕にはよくわからない。だけど……)

「バトルだ! ガーディアン・エアトスでグリーン・バブーンに攻撃! フォビドゥン・ゴスペル!」

 エアトスがその聖剣を振り下ろすと、纏っていた全ての光が圧倒的な力となってずっと戦線を維持してきたグリーン・バブーンをついに吹き飛ばした。

「ぐあっ!」

 

心LP2100→700

 

 爆風によろめき、改めて空羽を見る。天空の女神と聖龍を従えたデュエリストを。

(今の空羽の姿を見ていると、確かにそう思える。負けてもやり直せばいいと言った奴は、正直、眩しかった。自分もそうありたいと思えるほどに、強かった)

 それは今まで信じてきた、権力とも、金とも、そして暴力とも違う力。

「美馬坂のライフが減少したことで、エンシェント・ホーリー・ワイバーンの攻撃力が上昇!」

 エアトスの聖剣が砕け、代わりにエンシェント・ホーリー・ワイバーンにさらに力が降り注ぐ。

 

エンシェント・ホーリー・ワイバーン

攻撃力3400→4800

 

(僕もそうなれるだろうか。それを手に入れることができれば、何かが変わるのか。……もしそうなら、もう負けることに怯えては駄目だろう。負けたとしても、また初めからやり直せばいい。それすらできないで、何が世界の中心だ)

 負ける=終わり。その考え方自体がすでに弱さだったのだと、ようやく気付いた。それに怯える日々はもう終わりにする。

「これで、終わりだ! エンシェント・ホーリー・ワイバーンで神樹の守護獣-牙王に攻撃!」

 空羽の声に応え、エンシェント・ホーリー・ワイバーンに刻まれた文様が輝きを増す。口を開き、そこに集約される光もこれまでのどれよりも大きい。

 ふと視線を空羽に戻すと、それに気付いた奴は心底楽しそうに笑った。

「行くぞ! 美馬坂!!」

 デュエルが始まる前には考えられない楽しそうな声。ふと、昔は自分もそうだったような気がした。デュエルモンスターズを始めた最初の頃は、きっと僕も今の空羽のようにデュエルを楽しんでいた。

(思えば、楽しむことなどいつの間にか忘れていたな。……ああ、それは何か)

 そして最後の攻撃を、空羽が叫ぶ。このデュエルの最後を飾るにふさわしい、とっておきの攻撃を。

「シャイニング・オーバー・ブレス!!」

 エンシェント・ホーリー・ワイバーンの放った光が、僕を護るように立った牙王を越えて視界を覆い尽くす。

 そんな光の中で、僕はただ思った。

(……勿体無いな)

 

心LP700→0

 

 

『1回戦勝者! 空羽遊司!』

 教頭先生のアナウンスで勝者が発表され、会場が沸き立つ。

「……ほら」

「え?」

 突然の歓声にドギマギしていると、突然美馬坂がカードを投げてきた。慌ててそれを受け止める。訝しみながら確認すると、それは美馬坂のエース、牙王だった。

「約束だ。牙王は今日からお前のものだ。奪ってきたカードも全部もとの持ち主に返す」

「美馬坂、お前……」

 正直、まさか本当に約束を守ってくれるとは思っていなかった。というか、牙王については美馬坂が勝手に言っただけで別に渡さなくてもいいんだけど。

 少し複雑な気持ちで美馬坂を見ると、バツが悪そうに顔を背けた。

「僕は約束は破らない主義なんだ。だが……」

 しかしすぐにいつもの堂々とした態度に戻り、挑発するような笑みまで浮かべる。

「僕に勝った以上は、必ず優勝しろ。でなければ牙王を持つにふさわしくない」

 しかしそこには嫌味のようなものは無くて、一瞬呆けてしまった。

「……なんだ」

「あ、いや。……しかしかなり勝手な注文だな、それ。お前らしいっていうか」

 そんな俺に焦れたのか、美馬坂は俺を睨みつけてくる。慌ててそれを誤魔化して、さっきの言葉に応えることにした。そんなことを急に言ってきた美馬坂に、ついつい嫌味っぽいことを含ませてしまうのは出会いが出会いだったのだから仕方がない。

「ふん。ずいぶん弱腰だな」

 それに対し、負けじと煽ってくる。それを俺は美馬坂なりの激励なのだと受け取ることにした。

「まさか。必ず優勝して見せるさ」

「……そうしろ」

 笑って答えた俺に、美馬坂は呆れたようにため息をついて踵返した。その背に、俺はさっきの勝手な約束のお返しとして、勝手な約束を投げかけることにした。

「美馬坂! またデュエルしようぜ! 今度はアンティ無しでな!」

 それは俺の純粋な願いだ。あんなに楽しいデュエルができたんだから、今度はお互い何にもとらわれずにデュエルしたい。

 しかし美馬坂は結局それに応えず、会場を出口へと歩いて行った。

(でもなんか、笑ったように見えたのは、俺の勘違いかな)

 そんなことを考えた自分に、自分で肩をすくめて俺はデュエルが終わったとようやく息を吐いた。

「遊司ー!」

「ん?」

 観客席の方から声が聞こえ目を向けると龍可が手を振っていた。真も一緒にいるようだ。歓声はまだ続いているが、とりあえず龍可たちの方にだけ手を振ってとっとと控室の方に行くことにした。だってみんなに応えるとかなんか恥ずかしいじゃん。

 すると、控室の前に光が待ってくれていた。そう言えばデュエル中に声が聞こえたけど、あの時から外にいてくれたのかな? そう思うと早くお礼が言いたくなった。ちょっと小走りで光の元へ向かう。

「よ! 応援ありがとうな、光。声聞こえたぞ?」

「ふえ!?」

 お礼を言ったら予想外の反応をされた。なんで驚いて、というか恥ずかしがってんだ?

「あ、えと、それはあの……。は、はい! あの、すごかったです!」

「はは。……おう!」

 少ししどろもどろになったが、ようやく答えてくれた。なんかファンに応援されてるみたいで少しこそばゆいな、これ。

 そうして話していると、選手呼び出しのアナウンスが鳴り、控室の扉が開き中から別の人が出てきた。おそらく次のデュエルに出場してる光の対戦相手だろう。

 そいつは俺を見ると、機嫌悪そうにそっぽ向いて、脇を通り抜けて行ってしまった。

「……なんだ。あれ」

 恨まれるようなことをした覚えはないのだが、どうにも嫌われているようだ。

 ふと、光が無言なことに気付きそちらを見るとさっきの奴をじっと目で追っていた。

「光?」

「え? あ、すみません! えっと、何ですか?」

 心配になって声をかける。すると、ハッとしたようにいつもの光に戻った。さっきの奴と何かあったのか? と聞いてみようかとも思ったが、そう時間もないだろうし、それは後にしたほうがいいだろう。

「いや。次、頑張れよ!」

「……はい。行ってきます!」

 今は応援だけしておけばいいだろう。すると光は気合の入った真剣な声で答えてくれた。でも何か少し気負っているようにも見える。

(やっぱなんかあったのか……? でも俺が口出しできることでもない、か)

「それじゃ俺は観客席に行って真達に合流するから、後でな」

「はい!」

 そうして光と別れ控室を通って、一旦外に出た。誰もいない中で、ようやく体を伸ばし一息つく。

(……勝てた、か)

 絶対に負けられないデュエル。だけど、やっぱりデュエルを始めてしまえば昔と同じだった。デュエルが楽しくて、勝ちたいとは思っても勝たないといけないっていう縛りはなくなる。そのデュエルの意味を考えればそんな風に思っちゃいけないんだろうけど、いつだってそうだった。今回だってあれだけむかついていた相手だったのに、結局楽しくなっちまって。

「……俺も相当なデュエル馬鹿だな」

 自分で自分に呆れてしまうが、別にそれを恥じることだとは思わない。デュエルってのはそれだけ楽しいものなのだから。

(美馬坂もそう感じてくれてればいいんだけどな)

 でも、もし本当に最後に美馬坂が笑ってくれていたんだとしたら、きっとそう感じてくれたんじゃないかと、少しだけ思えた。

「……さて、次は光の応援だ」

 すぐに観客ようの出入り口から会場に入りなおす。

(頑張れよ、光)

 

 

『では続いて2回戦を始めるわ! 2回戦で戦うのはこの2人、間宮櫂と龍凪光よ!』

 教頭のアナウンスによって紹介され、私たちは同時にデュエルフィールドに上がる。正直まださっきのデュエルの興奮と恥ずかしさが残っていて落ち着かない。

(うう、あんなにすごいデュエルを見ることができて良かったんだけど、なんであそこで叫んじゃったんだろ……、恥ずかしい)

 控室で見れるのに、遊司さんが危機だと思ってわざわざ会場まで出て行って叫んでしまった。その時に観客席にいた龍可さんがニンマリと私を見ていたのは忘れられない。でもそれは私も遊司さんの狙いに気付くことができなかったということ。やっぱり遊司さんはすごい。

「……ふん。あんなのはただのまぐれだ。そう何度もうまく行く筈がない」

「………」

 なんだろう。控室にいた時からそうだったけど、この人は遊司さんのことが嫌いなのだろうか。

「美馬坂も美馬坂だ。力押しするデッキを使っておきながら攻撃力で負けるとはな」

「………」

 対戦相手の方のことまで……。この人は常に誰かを馬鹿にしなければ気が済まないのか。彼らとは違い、デュエルを楽しんでいるようには見えない。

「そう言えばお前もまだ結果はわからないとか言っていたな。あいつの同類ならお前に勝ち目はない。絆だとかデッキを信じるだとか言ってる奴は、結局進歩がないんだ。俺はそうじゃない。常にデッキを強化し、最強を目指してきた。貴様も踏み台にしてやるよ」

「……そうですか」

「ん?」

 突然反応してきた私を訝しむように見る間宮さん。彼の言葉は自然と私の胸に落ちてきて、興奮も羞恥も怒りも、すべて平坦な思考に押しつぶされる。まるで、それが私であるかのように。

「では、頑張ってください」

「……何?」

 間宮さんはあからさまにイラついた様子でガン飛ばしてくる。でももう何も感じない。目の前にいる相手はデュエルの対戦相手。それ以上でも以下でもない。

 私は無言でデュエルディスクを構えた。

「ちっ」

 間宮さんもそんな私の態度に舌打ちすると、すぐにデュエルディスクを構える。互いにカードを5枚引き、私たちはデュエルの開始を宣言した。

『デュエル、開始!』

「……デュエル」

「デュエル!!」

 




次回予告

強くありたい。
二度と失いたくないから。
奪われたくないから。
そのために強さを求めた。
そのための強さが目の前にいた。
追い求めたものがそこにいた。
なのに、どうして――
「お前が、そんな顔をしてるんだよ」


次回 Episode10「強さを求めて」

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