真「今回から登場する主人公その2! 兵部真とは俺の事! (マンダム)」
作者「テンション高いな」
真「最初くらい上げていきたいじゃないか」
作者「まあ、この作品て結構常にテンション上げて書いてるけどね」
真「ま、とりあえず今回でこの作品の主要メンバーが揃うわけだ」
作者「前回から今回にかけてキャラの性格付けは終わり。これで学園編1年生前期もちゃんとスタートしたってこと」
真「学園編じゃ何がTAKEⅡなのかわからないけどな」
作者「そういうこと言わない。……ではそろそろ本編をどうぞ」
真「これからよろしく!」
自分で言うのもアレではあるのだが、俺と言う存在は特に個性のない、そこらで目に入る普通の一般人であると言える。
普通の生活に普通の友人、普通の成績、普通の身体能力。そして普通な毎日。ほんの少しの刺激があり、娯楽の1つや2つあればそれで十分な世界。
もう1度言おう。俺こと、
故に――
「空から真っ逆さまに落ちるとかそんな体験あんまりじゃねえええええええ!?」
俺、兵部真は、ただ今上空から紐なしバンジーに絶賛挑戦中である。
心からの叫びが、空にいるだけでこんなにも無意味だと初めて知った瞬間だった。
この1分ほど前、世界各地で小規模の地震が観測されていた。
震度は僅か3程度。それは誰の記憶にも残らず忘れ去られていった。
だが誰が想像できるだろうか。この揺れは従来の地震とは違い、プレートや火山などによって引き起こされたものではなかったことを。
誰が気づくことができるだろうか。その地震が、同時刻に世界中で満遍なく起こっていたことを。
それは、世界が文字通り「引っ掻かれた」が故に起こったこと。
始まりはここに告げられた。
あの槍座とのデュエルから翌日の早朝、俺は1人崖の上に立っていた。一望できる海からは日が出始め、朝靄が肌寒い。そして今日見る海の景色は、昨日とはまた違って見えた。そう、変わらぬものなどなく、少しずつ代わっていくのが世の常――
『現実逃避は良くないよ』
「って、現実逃避やめやめ」
ここで昨日の龍可の言葉が頭をよぎり、思考が途切れる。そう、今の俺には逃避する資格は無い。
「また朝までデッキを弄ってしまうとは……!」
あまりの大ポカ加減に頭を抱える俺。今まさに目の前にある大海原に、大声で叫びにいきたいくらいだ。
槍座とのデュエルでの熱さが忘れられず、ついデッキ調整に勤しみ、気づけば昨日と同じように徹夜。龍可に弄られること確定だ。……絶対に嫌だ。
そしてこのまま寝たら、きっと昨日の二の舞になってしまう可能性大。焦った俺は、開き直ってこう考えた。
寝てはいけないというのなら、いっそ寝なきゃいいじゃない。
某女王様のような暴論であるし、寝ないで今日を無事に過ごすことはまず不可能だろう。だが俺はそんな僅かな可能性に賭け、こうして眠気覚ましに寮から離れ散歩している。ベッドの近くにいると自分の欲求に抗えなくなりそうだったからだ。
(とりあえず、軽くストレッチでもするか)
このままじっとしていても眠くなるだけと判断し、ストレッチを始めることにする。朝早くからのストレッチも、朝の空気を吸いながらすると清々しい気分になるから不思議だ。
足や腕を伸ばしているうち、ふと数年前に友人に連れられてラジオ体操をやっていたことを思い出し、ラジオ体操に変更する。
「ラジオ体操第一~」
ラジオがないので、俺は声を出しながら1、2、3、4、と体を動かしていく。早朝から海の見える崖の近くで1人、ラジオ体操を口ずさみながら体を動かす自分。……うん、微妙な目で見られることは間違いない。
そんな思考に若干落ち込みながらラジオ体操を続けていると、後ろから2人分の足音が聞こえてきた。
「おーい、遊司!」
「お、龍可か。どうしたんだ、こんな朝早くに」
後ろを振り返れば、予想通りに俺の友人である龍可の姿ともう1人、槍座とのデュエルの後龍可と一緒にいた女の子の姿があった。
「どうした、はこっちのセリフよ。こんな早朝からお気に入りの場所にいるからビックリしちゃった」
「う! そ、それはだな…」
俺は龍可から気まずげに視線を逸らす。デッキ調整にまた徹夜してしまい、昨日の二の舞にならないようラジオ体操していたところです、なんて言えない。断じて言えない!
「つ、追試が気になって早く目覚めちまってさ! こうして英気を養いに来たんだよ!」
「……ふーん」
「それよりも! 後ろにいるその娘は?」
俺の言葉に龍可が疑わしげに目を細める。龍可が勘の鋭さを発揮する前に、慌てて話題を龍可の後ろから俺をじっと見つめる小柄な女の子――確か、光ちゃん? だったか――に変える。するとその子はハッとして慌てた様子でペコリと頭を下げた。
「あれ、遊司に紹介してなかったかな? この娘は私の友達の――」
「あ、えっと、初めまして。
龍凪と聞いて、俺は龍可の「光ちゃん」という女の子の噂をようやく思い出した。
龍凪光。主席入学の天才デュエリスト。この肩書きは伊達ではないと聞いた記憶がある。さらにその噂の中には、アカデミア伝説の有名な称号にして最強のデュエリスト、「カイザー」と同列あるいはそれ以上というモノまである。こんな小さな娘がなあ。
「あ、あのう?」
くりくりとした大きな白い瞳で上目遣いに首を傾げる彼女の声で、ずっと見つめていたことに気付く。
「あ、ごめん。俺は空羽遊司。龍可の友達だ。これからよろしく」
「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
俺の差し出した手を、光はオズオズと握り返した。本当に小さな手だな。中学生、いや下手をした小学生と見紛う程の低身長だし、ちゃんと飯食っているのだろうか。
「で? 英気を養いにきたのはこの際置いておくとして、遊司はここで何してたの? ストレッチでもしてるように見えたけど」
俺と光が自己紹介を済ませると龍可がそんなことを聞いてきた。ひとまず追求をやめてくれたのは幸いだ。
「ああ、ちょっとラジオ体操してた。ラジオはないけど」
「「ラジオ体操?」」
龍可と光が聞いたことも無いとばかりに首を傾げた。結構有名だと思っていた俺が首を傾げたいところだ。小さい頃に近所や近くの公園でしなかったのだろうか?
……そうか。したこと、ないのか。これは疑いを晴らすチャンス?
……一体全体どうしてこんなことになっているのだろう? 私は胸の内で自問自答する。
「5、6、前後に曲げる運動。弾みを、つけて、やわらかく、上体を逸らす……!」
「ああう……!」
「はあう……!」
訂正。そんなこと関係なく結構楽しいですこれ。日頃の疲れが取れるかのような爽快感が、全身に行き渡るような感覚が癖になりそうになる。
朝早く目覚め、散歩していたら偶然龍可さんに会った。そのまま龍可に誘われてお気に入りの場所とやらに向かう。すると、今度はあのときのデュエリスト、空羽遊司さんと出会った。まさかこんなに早く会うことになるとは思っていなかったから、どうしたら良いのか慌てたが、龍可さんが居てくれたおかげで自己紹介は無事済ませることができた。
そして今、私と龍可さんは彼、遊司さん(空羽さんと言ったら訂正させられた。私も、光で良いと言っておいた)からラジオ体操という名のストレッチを教えてもらっている。遊司さんから、「ラジオ体操を知らない? なら一緒にやろうぜ」と誘われたわけだが……何だろう、彼がそう言ったときに出ていた汗が妙に気になった。まるで嫌な話を逸らすかのようなあの態度。まあそれも――
「1、2、3、4、デ、ュ、エ、ル……!」
「う~ん……!」
「はあ~……!」
爽快感に流されてどうでもよくなってしまった。早朝にやると気持ち良いです。龍可さんも私と同様なのか気持ちよさそうな声を上げている。その際、その、この体勢だと龍可さんのとある部分が強調されて……。正直妬ましく思う。
そんな複雑な気持ちと爽快感に挟まれながらラジオ体操を続けてく。
清々しい気持ちが広がっていく中、それは唐突に来た。
「きゃっ!?」
「光ちゃん!?」
突然地面が揺れだし、視界がブレる。私は突然の揺れに対処できずバランスを崩してしまう。地面が近づき思わず眼を瞑る。しかしいつまでたっても衝撃は来ない。それどころか肩と腰の辺りに暖かさを感じる。龍可さんが助けてくれたのだろうかと思い、御礼を言おうと目を開けると――
「大丈夫か、光?」
遊司さんの顔が近くにあってその手が私の肩に腰にtdrxfどぁぜwz!?
「……は! だ、だいひょぶです!」
一瞬で思考回路が戻り、私は慌てて遊司さんの腕から離れようとする。しかし逆に強く抱きしめhfてsdfsざd!?
「落ち着け! まだ揺れが収まってないから!」
「ひゃ、ひゃい!」
揺れはその後数秒で収まり、あたりはまた朝の静けさを取り戻した。
「……収まった、か?」
警戒した様子で遊司さんが呟く。傍で伏せていた龍可さんも、あたりを見渡してほっとしたように息を吐いた。
「……そう、みたいね。それと遊司、それセクハラ」
そう言って龍可さんは私を指差す。私は羞恥心で体が上手く動かなかった。きっと顔も赤い。
「ん? ……おお!? ご、ごめん」
「ふえ!? あ、い、いえ! その、だ、だい、じょうぶ、です。あの、ありがとう、ございます……」
遊司さんが慌てて、ようやく身を引いてくれた。正気に戻ってお礼を告げたが、羞恥心がぶり返して最後は小さくなってしまった。私はちゃんとお礼を言えていただろうか。
それにしても助かった。本当に助かった。……穴があったら入りたい。龍可さんが生暖かい目で見ている気がするが、今はそれを気にする余裕もなかった。
しばらくして落ち着きを取り戻した私は、先ほどの地震について遊司さんや龍可さんと少し話し合う。龍可さんがニヤニヤとした目で私を見てくるが気にしないことにする。
そんな時、突然遊司さんが辺りを見渡し始めた。
「ん? どうしたの遊司」
「いや、何か聞こえなかったか?」
その言葉に私と龍可さんは耳を澄ましてみる。だが聞こえるのは波の音と草の音、風の音のみ。
――いや、微かに別の音が聞こえる。これは、人の声?
「上!?」
龍可さんが弾かれたように上を、空を見上げる。私と遊司さんも後に続くように空を見上げた。
空に1つ、黒い点が見え、それが段々と人の形をとって――
「うおおおおお誰か助けてえええええええ!?」
「え」
「え」
え。
「ヤバイヤバイヤバイ何か知らんがヤバ過ぎる!」
人生最大のピンチは断りもなく突然やってくるのは常識。だが一般人に対して行うピンチの数値が高すぎる!
上空の冷たい空気にさらされながら、俺は混乱しながらもどうこの事態を乗りきるか考え始める。眼下には様々な建物に港がある島。このままいったら陸に叩きつけられてお仕舞いだろう。せめて海に落ちたほうがまだましだ!
「どうする……! 考えろ俺、俺ならできるできるって!」
もう時間もない。俺は慌てていつも持ち歩いているカバンの中を、体勢に注意しながら漁る。
ボールペン2本ノートプリントデッキエチケット袋数枚漫画本1冊デュエルディスクお菓子の残り数個ペットボトル1本。そして着ている制服ブレザー1着。
「くっ! 碌なものがない!」
どうするという言葉が頭の中を巡る中、天啓のごとく1つの映像がそこによぎる。
確か、あの漫画本に空を飛ぶシーンがあって着地の際は――
ここまでよぎって、俺は反射的にエチケット袋を取り出し、風圧に耐えながら繋げていき2本の長い紐にする。次に着ていたブレザーを脱ぎ、その襟の部分と裾の部分にボールペンで無理やり2つずつ、計4つ穴を開ける。最後に、作った紐を通す。空気が抜けないように袖は結ぶ。そして紐の両端をしっかり握り両腕を広げれば――
「即席、パラシュート!」
ブレザーは上手く風を掴んでくれたようで、微妙にだが速度が落ちる。風の影響も受け、少しずつだが海の方へと俺は流され始めた。
「と、ど、けえええええ!」
とにかく足をじたばたさせ届けと足掻く。だが抵抗空しく遅々として進まず、段々近づいてくる島に焦ってしまう。
「おおおおお! ん? 人影?」
海を見渡せる崖の真上辺りに3人の人影を見つけた。……てか、このままだとそこに落ちるんじゃね?
「うおおおおお誰か助けてえええええええ!?」
つい助けを求めてしまった俺は悪くないと思う。結果として――
「べし!?」
「あ!?」
俺と同い年であろう男子の顔面に盛大にぶつかり――
「「どわあああああああああ!?」」
そのまま男子生徒を巻き込んで、崖から転落し海に転落してゴボボボボボボ!?
上手い形で落ちたのか水に叩きつけられたような痛みは思ったほどでもない。急いで泳ぎ、たっぷり数十秒かけて俺は海上に顔を出すことに成功した。そのまま近くにあった岩に手をかけ陸地に浮上する。
(た、たすかてよかた。本、当、によかた!)
激しく咳き込んでしまうが、どうにか整えて息をするたびに自らの生を実感する。浮上に賭けた時間的に結構な深さまで落ちた気がしたが、ここが底の深い場所で本当に良かった。
「ぶあっは! ゲホッ! ゴホッ!」
見ると隣から巻き込んでしまった男子生徒も同じく浮上していて、俺の隣で咳き込んでいた。さすがに悪いと思ったので謝罪しようと口をひら――
「ってえ~! 何すんだよ! 鼻が折れるかと思ったじゃねえか!」
「鼻で済んでよかったな」
「なんだと!」
あ、鼻で済んでよかったな俺なんてもう少しで某天空少女みたいに誰にも受け止められず母なる大地にフォーエバーするところだったんだぞ、とつい思ってしまったのだが、命の危機が去ったことに気が抜けて言葉にしてしまったみたいだ。慌てて訂正――
「はん! さすが紐なしバンジーを平気でする大馬鹿野郎は言うことが違うな!」
……ほう? 言っちゃいます? 今まさにそれで命を失いかけた俺に、そう言っちゃいやがります? 俺は冷静さを保てなくなっていた。
よろしい、ならば世界大戦だ。
「どこの世界に命を代償に空を駆け落ちる大馬鹿錬金術師がいるか! 大馬鹿野郎は俺と一緒に巻き込まれたお前だろう!」
「そんな錬金術師を想像してるお前が大馬鹿野郎だ! 第一突っ込んできて人に謝りもしないとか最低だろこの大馬鹿!」
「うっせえ! そんな特徴的な髪形してるから目印にされるんだ馬鹿! 三葉虫馬鹿!」
「んな! ひ、人が気にしてることを……!」
どうやら俺はあいつの地雷を踏み潰してしまったらしい。だって某ヒトデマンとか蟹さんなみに似てるんだもん。だが、今そんなことは関係ない! 頭に血が昇っている俺に奴がこう言った。
「頭にきた! おい、デュエルしろよ!」
「上等!」
俺はすばやく持っていたカバンの中からデュエルディスクを取り出しデッキを装着。あいつと同時にデュエルディスクを構えた。起動し、デッキがオートシャッフルされ準備が完了する。
「「デュエル!!」」
さあ、始めるぜ!
(ってあれ、デュエルディスク?)
1つの違和感に気づくと、急に頭が冴えてくる。あ、あいつの着てる青い制服どっかで……アカデミアの制服? アカデミアの制服、デュエルディスクでつながるものを考える。
(あ、これって遊戯王? コスプレ? コスプレだよねこれ!? え!?)
風と使者の邂逅は、燃える憤怒、それに大量の冷汗と共に始まりを告げた。
私と龍可さんが駆けつけた時には、デュエルはすでに始まっていた。
「おい、お前の先攻だぞ!」
「うおっと、俺の先攻!」
先行を取ったのは空から落ちてきた彼だった。少し長めの黒髪に、この辺りでは見かけない制服を着用していた。そんな彼は「考えるな俺、感じるんだ俺……!」とどこか挙動不審に見えるが、何かあったのだろうか? というか、何で遊司さんと彼はデュエルをしているのだろう? 喧嘩、だろうか?
「ちょ、ちょっと2人とも、一体何が――」
「「うるさい! 今は話しかけないでくれ!!」」
「な、なによ~!」
「る、龍可さん、落ち着いて……」
私と同じような疑問を持ったらしい龍可さん。だが2人とも目の前のことに集中してるみたいで、龍可さんに見向きもしない。……黒髪の彼は少し違う気がするけど。
怒った龍可さんとそれを止める私を置き去りに、デュエルは動き出す。
「終末の騎士を攻撃表示で召喚!」
ボロボロの騎士が剣を掲げ召喚された。
終末の騎士
星4 闇属性 戦士族
攻撃力1400 守備力1200
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる
デッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送る。
「うわ、マジで出たよ。……ゴ、ゴホン! さらにモンスター効果を発動! このカードが召喚・特殊召喚・反転召喚に成功した時、デッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送ることができる! 俺はデッキからこのカードを墓地へ!」
出てきた終末の騎士が剣を掲げる。それに呼応するようにデュエルディスクが自動で作動し、出てきたカードを黒髪の彼は遊司さんに見せる。しかしそれは彼以外のこの場にいる誰もを驚愕させた。
「!! カオス・ソルジャーだって!?」
カオス・ソルジャー。伝説のデュエリスト、武藤遊戯が扱った高レベルモンスター。過去の公式大会では禁止カードになるほどの強力なカード。今では禁止カードから外されているが、まさかそれを彼が? でも、どこか違和感が――
「……あれ? でもイラストがちょっと違うような……」
龍可さんの言葉にようやく気づく。そう、彼の持つカオス・ソルジャーは全体的に白かった。確か蒼い鎧を着ていたはずなのに。
「これがこのデッキの切り札、カオス・ソルジャー -宵闇の使者-!」
「宵、闇?」
初めて聞く名前に私、遊司さん、龍可さんが眉をひそめた。リメイクされたカードだろうか? でもカオス・ソルジャーほど有名なカードがリメイクされたのなら、それなりの情報が出ているはず。この学校に限って、デュエルモンスターズの情報が遅れるなんてことないはずなんだけど。
「んー。でもなんで切り札を墓地に送っちゃうんだろ?」
宵闇の使者について考えていると、龍可さんの呟きが聞こえた。確かにそれも疑問に思うところだ。カオス・ソルジャーを名乗る以上、ビートダウン型のモンスターだと思うのだけど、それをわざわざ墓地に落としたということは……。
「ま、念のためというやつだよ。さらにカードを1枚セットしてターンエンド」
私たちの疑問に気づいたのか、黒髪の彼はそう言ってターンを終了する。
「……戦士族だし、墓地回収手段は豊富にあるってことか。俺のターン! ドロー!」
そして遊司さんのターンが始まる。さっきまでの怒りはどこへやら、今は警戒した顔をしていた。遊司さんの言う通り、戦士族モンスターはサポートの多いカテゴリだ。自ら墓地に送ったということは、逆にいつそれが来てもおかしくないということでもある。
「俺はモンスターをセット。そしてカードを2枚セットしターンエンドだ」
「俺のターンだ。ドロー!」
遊司さんは警戒したのか、はたまた丁度いいカードがなかったのか、モンスターとカードをセットしただけ。相手にターンが移る。
「極夜の騎士ガイアを召喚!」
最初に行動を起こしたのは彼だった。かの有名なカード、「暗黒騎士ガイア」に似たモンスターが、黒い閃光と共に姿を現す。
極夜の騎士ガイア
星4 闇属性 戦士族
攻撃力1600 守備力1200
「極夜の騎士ガイア」の以下の効果はそれぞれ1ターンに1度ずつ使用できる。
●このカード以外の自分フィールド上の闇属性モンスター1体リリースして発動できる。デッキから戦士族・光属性・レベル4モンスター1体を手札に加え、その後手札を1枚墓地へ送る。
●自分の墓地の光属性モンスター1体を除外し、自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターの攻撃力は、相手のエンドフェイズ時まで500ポイントアップする。
「この瞬間手札から、幻蝶の刺客オオルリのモンスター効果を発動! このカードは通常召喚できず、戦士族モンスターの召喚に成功した時、手札から特殊召喚できる! 守備表示で特殊召喚! 来いオオルリ!」
「!」
次に出てきたのは蝶の羽を持った人型のモンスター。燐粉を撒き散らし終末の騎士の横に静止する。
幻蝶の刺客オオルリ
星4 闇属性 戦士族
このカードは通常召喚できない。
自分が戦士族モンスターの召喚に成功した時、このカードを手札から特殊召喚できる。
このカードはシンクロ素材にできない。
遊司さんは彼の展開に警戒し、慣れた様子で身構えた。
「行くぞ! 俺は、戦士族レベル4の終末の騎士と同じく戦士族レベル4のオオルリで、オーバーレイ!」
彼が叫ぶと、そのモンスターたちは雄叫びを上げ光球となり、突如地面に現れた渦の中へ飛び込んでいく。この召喚方法は……!
「誇り高き志を胸に推参せよ! エクシーズ召喚! 忍びの魂、機甲忍者ブレード・ハート!」
ビックバンが起こったかのような光と体が傾く結構な突風の後に、忍者の格好をした二刀を持つ戦士がいた。戦士の周囲には金色に輝く光球が舞い、その力の源であることを示している。
機甲忍者ブレード・ハート
ランク4 風属性 戦士族
エクシーズ
攻撃力2200 守備力1000
戦士族レベル4モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、自分フィールド上の「忍者」と名のついたモンスター1体を選択して発動できる。
このターン、選択したモンスターは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。
やっぱり――。
「エクシーズ召喚……!」
遊司さんが思わずといった様子で呻いていた。そう、これがエクシーズ召喚。シンクロが「連ねる力」ならば、エクシーズ召喚は「重ねる力」と言える。同じレベルのモンスター同士の上に、レベルと同じランクを持つエクシーズモンスターをEXデッキから特殊召喚する召喚法。そして、素材となったモンスターは、オーバーレイユニットとしてエクシーズモンスターをサポートするのだ。
これは最近発表された新しい召喚法のはず。まだ多くは出回っていないはずのモンスター群を使いこなす彼は一体何者なのだろうか?
「ブレード・ハートのモンスター効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使い、自分フィールド上の『忍者』と名のついたモンスターを選択して発動! このターンのバトルフェイズ中、選択したモンスターは2回攻撃できる! 俺はブレード・ハート自身を選択!」
「な、なんだって!?」
彼の言い放ったブレード・ハートの脅威の能力に、思考がデュエルの内容に引き戻される。ダイレクトアタックができれば4400ものダメージでワンキルが可能。下手をすればこのターンで決着がついてしまうし、そうでなくとも3800の大ダメージ。このままじゃ一気に流れを持っていかれてしまう。防ぐ手段があるとすればあの2枚の伏せカード。
「バトル! ブレード・ハートでセットモンスターに攻撃! 電磁抜刀、カスミ切り!」
ブレード・ハートは遊司さんがセットしていたモンスターに疾走していく。そして、あらわになった遊司さんのセットモンスターは、そよ風の精霊。ブレード・ハートは躊躇なく刀をそよ風の精霊に一閃し、破壊した。
そよ風の精霊
星3 風属性 天使族
攻撃力0 守備力1800
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、自分のスタンバイフェイズ毎に自分は1000ライフポイント回復する。
「っく!」
「まだいくぞ! ブレード・ハート、2回目の攻撃! ダイレクトアタック!」
その勢いのまま、ブレード・ハートは遊司さんに向けて刀を振り上げる!
「なんの! リバースカード発動! 罠カード、ドレインシールド! 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、その攻撃力分、ライフを回復する!」
「む!」
遊司LP4000+2200=6200
遊司さんを囲うように半透明なシールドが張られ、刀と拮抗する。ブレード・ハートは破ることは不可能と判断したのか、一旦距離を取り、主の元に戻った。威力はそのままシールドに吸収され、光となって遊司さんに降り注ぐ。
「防ぐかもとは思ってたけど、回復までされるか。でもまだガイアの攻撃が残ってる。行けガイア! ダイレクトアタック!」
「くう!」
ブレード・ハートと交代するように極夜の騎士が遊司さんに向かって走り、その矛から衝撃波を放つ。
遊司LP6200-1600=4600
「俺はこれでターンエンド」
「おっと、その前にもう1枚のリバースカードも発動だ。罠カード、リビングデッドの呼び声!」
リビングデッドの呼び声
永続罠
自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。
そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。
そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。
あれは墓地のモンスターを攻撃表示で特殊召喚するカード。今遊司さんの墓地には1体しかモンスターはいない。
「そよ風の精霊を攻撃表示で復活させる!」
「そよ風の精霊て……、珍しい物入れてるな。今度こそターンエンドだ」
黒髪の彼はフィールドに戻ったそよ風の精霊を珍しそうに見た後、改めてターン終了を宣言する。
「確かに使ってる人はほとんどいないけど、案外役に立つんだぞ? 俺のターン、ドロー!」
ドローしたカードを見ると、遊司さんは少し残念そうに肩をすくめて、フィールドに手をかざした。
「このスタンバイフェイズ、そよ風の精霊の効果発動! 自分スタンバイフェイズにこのカードが攻撃表示で存在する場合、ライフを1000回復する!」
精霊が遊司さんに向き直り、とても綺麗な声で歌う。すると緩やかな風が遊司さんを包み、そのライフを回復させていった。
遊司LP4600→5600
それが済むと、遊司さんは申し訳なさそうに手札のカードを1枚発動させる。
「魔法カード、マジック・プランターを発動! 自分フィールドの永続罠を1枚墓地に送り、デッキからカードを2枚ドローする。リビングデッドを墓地に送り、2枚ドロー。同時に、リビングデッドが消えたことでそよ風の精霊が破壊される」
そんな遊司さんにそよ風の精霊は大丈夫と言うように笑顔で手を振ってフィールドから消えて行った。遊司さんは結局自分で破壊する事になってしまったことを申し訳なく思っていたんだ。
「……なんというか、律儀な奴だな」
そのやり取りを見ていた黒髪の彼がポツリと呟く。私も同じ気持ちだ。いくらソリッドビジョンがあるとはいえ、ここまでできるデュエリストはそうはいないだろう。
「こいつらは、1枚1枚が俺を選んでくれたカードたちで、そして俺が大切に選んでデッキに入れたカードたちだからな。これくらい当たり前だろ」
恥ずかしげもなく、誇るわけでもなく、遊司さんはあたりまえのように笑顔でそう言った。
(……自分を、選んでくれたカードたち……)
その言葉に、私は無意識のうちに自分のデッキに触れる。そこにある、私を認めてはいないカードたちを。
(……私は――)
「さて、デュエルを再開するぞ!」
「――!」
遊司さんの声が聞こえて、はっとする。
フィールドに目を向けると、遊司さんが動き始めようとしていた。
「そよ風の精霊が運んでくれたのはライフだけじゃない! 永続魔法、神の居城-ヴァルハラを発動!」
「っ!!」
荘厳な神殿が遊司さんの後ろに現れる。ここで黒髪の彼の表情が初めて変わった。どこか余裕そうだった空気を、緊張感漂う空気に変えている。
「ヴァルハラの効果は、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合発動できる!」
「そしてその効果は、手札から天使族モンスター1体を特殊召喚すること……!」
「その通り! 俺は手札の天使族モンスター、ヘカテリスを攻撃表示で特殊召喚!」
遊司さんのフィールドに現れたのは、ヴァルハラを加える効果のあるモンスター、ヘカテリスだった。
「って、はい?」
黒髪の彼が肩透かしを食らったように気の抜けた声を漏らす。でもそれはこの場の誰もが感じたものだろう。ヴァルハラにはこの手のカードにありがちなレベルの制限がない。ほとんどの場合、あれは強力な効果の多い天使族上級モンスターを特殊召喚するために使用されるのだ。
でも、召喚権を使わずにモンスターを出すことができるのはそれだけで強力だ。あえて低レベルモンスターをフィールドに呼ぶためにヴァルハラの効果を使った以上、この後の展開はおそらくチューナーモンスターの召喚か、あるいは……。
「安心するのはまだ早いぜ? このモンスターを召喚したのには意味がある! 速攻魔法、地獄の暴走召喚を発動!」
「んなに!?」
「ええ!? ここで!?」
「!」
しかしそんな私の予想を覆し、遊司さんは対戦相手にできた一瞬の隙に切り込むように暴走召喚を発動させた。黒髪の彼、龍可さん、私は驚き声を上げてしまう。
「俺はデッキからヘカテリス2体を攻撃表示で特殊召喚だ!」
「くう! 俺はガイアを選択するが、このカードは1枚しか入っていない。よって出せるモンスターはいない」
遊司さんのフィールドにさらに2体のヘカテリスが並び立つ。まだ召喚権は残っている。けど上級モンスターをアドバンス召喚するくらいならヴァルハラで出してるはず。ならここからはやはり……!
「レベル4が並んだということはやっぱ……」
「当然! 俺はレベル4のヘカテリス2体で、オーバーレイ!」
3体のヘカテリスの内、2体が光球に変わり地面に表れた渦の中へと飛び込んでいく。そしてビックバンのごとき光と、それにより起こった突風の中からエクシーズモンスターが特殊召喚された。
「脅威迫りし時、超常の銃士が舞い降りる。重なれ星々よ! エクシーズ召喚! 穿て、
「ここでそいつか!?」
鳥銃士カステル
ランク4 風属性 鳥獣族 エクシーズ
攻撃力2000 守備力1500
レベル4モンスター×2
「鳥銃士カステル」の①②の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
①:このカードのX素材を1つ取り除き、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを裏側表示にする。
②:このカードのX素材を2つ取り除き、このカード以外のフィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを持ち主のデッキに戻す。
召喚されたのは銃を持つ鳥の獣人。黒髪の彼がその姿と効果を知っているらしく驚く。私は別の意味で驚いていた。
「エクシーズ召喚……。遊司さんもエクシーズモンスターを持っていたんですね」
「あれ、言ってなかったかな? 遊司、前にパックを買ったら当たったって言ってたし、私も見せてもらったことがあるよ?」
私の言葉を横から聞いていた龍可さんが教えてくれる。手に入れたばかりのエクシーズモンスター。遊司さんは、すでにそれを使いこなしているということか。
「鳥銃士カステルの効果発動! オーバーレイユニットを2つ使い、カステル以外のフィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動する。そのカードを持ち主のデッキへ戻す! 俺はブレード・ハートを選択! ブレード・ハートはエクシーズモンスターだから戻るのはEXデッキだ! 行け、バウンス・ショット!」
「まあそう来るよな!」
黒髪の彼が苦々しく言う。カステルが遊司の声に反応し銃を構え、ブレード・ハートに向けて銃弾を放った。その銃弾は見事にブレード・ハートを貫き、EXデッキに後退させた。
「さらにもう1体! チューナーモンスター、A(アーリー)・ジェネクス・バードマンを攻撃表示で召喚!」
A・ジェネクス・バードマン
星3 闇属性 機械族
チューナー
攻撃力1400 守備力400
自分フィールドの表側表示モンスター1体を持ち主の手札に戻して発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
この効果を発動するために風属性モンスターを手札に戻した場合、このカードの攻撃力は500アップする。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。
「! チューナーってことは……」
「このターンでシンクロもやっちゃうの!?」
「いいや、それは後のお楽しみだ。まずはこのままバトル!」
さらに現れたチューナーモンスターに黒髪の彼と龍可さんが反応するが、遊司さんはシンクロ召喚をせずにバトルフェイズに入った。
つまりここで召喚するつもりのシンクロモンスターよりも、このままの方が相手に与えるダメージが大きくなるということか。
私の思考を他所に、デュエルは進行していく。
「カステルでガイアに攻撃! クリティカル・ショット!」
「くっ! だが罠発動! 死力のタッグ・チェンジ!」
「何!?」
カステルはガイアに向けて銃を構え発砲。的確に鎧の隙間を打ち抜き、ガイアは苦しみの声を上げ消滅する。しかし発生するはずのダメージは、ガイアが消える直前にバトンタッチでフィールドに現れた機械の戦士によって受け流されていた。
死力のタッグ・チェンジ
永続罠
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスターが戦闘によって破壊されるダメージ計算時、その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージを0にし、そのダメージステップ終了時に手札からレベル4以下の戦士族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。
「死力のタッグチェンジの効果により、戦士族モンスターを通しての戦闘ダメージを0にして、手札からレベル4以下の戦士族モンスターを特殊召喚した。俺が呼び出したのはタスケナイト!」
タスケナイト
星4 光属性 戦士族
攻撃力1700 守備力100
このカードが墓地に存在し、自分の手札が0枚の場合、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
このカードを墓地から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する。
「タスケナイト」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。
「っ、タスケナイトの攻撃力は1700。残った2体じゃ太刀打ちできないか。ならバトルは終了。レベル4光属性のヘカテリスに、レベル3のA・ジェネクス・バードマンをチューニング!」
攻撃力が足りず、遊司さんは仕方なく攻撃を断念する。しかしメインフェイズ2に入り、すぐにとっておいたシンクロ召喚に入った。
A・ジェネクス・バードマンが3つの光の輪となり、そこに飛び込んだヘカテリスが4つの星となる。そのレベルの合計は7。
「争乱広がる時、先見を示す神器が降り立つ。連なれ星々よ! シンクロ召喚! 神々の傀儡、ヴァイロン・デルタ!」
ヴァイロン・デルタ
星7 光属性 天使族 シンクロ
攻撃力1700 守備力2800
チューナー+チューナー以外の光属性モンスター1体以上
このカードが表側守備表示で存在する場合、自分のエンドフェイズ時に自分のデッキから装備魔法カード1枚を選択して手札に加える事ができる。
光とともにフィールドに現れたのは機械の天使。しかしその表示形式から攻めるためのモンスターではないと分かる。
「ヴァイロン!? 守備力2800とはこりゃまた固いものを……!」
ヴァイロン、と彼が反応したと言うことは、その効果も知っているのだろう。でもどこか意外そうな顔をしている
「エンドフェイズに入り、ヴァイロン・デルタの効果発動! このカードが表側守備表示で存在する場合、エンドフェイズ時に自分のデッキから装備魔法カードを1枚手札に加えることができる。デルタ・セレクト!」
その言葉を受けデルタが発光。そしてデュエルディスクからカードが1枚飛び出て、奴がそれを手札に加える。
「俺が手札に加えたのは女神の聖剣-エアトス! これでターンエンドだ」
次への布石を整え、遊司さんはターンを終了する。それを見ていた龍可さんは感嘆したように気の抜けた声を出した。
「ふわあ。ホントに1ターンでエクシーズとシンクロ、両方決めちゃったよ」
「ヴァルハラと地獄の暴走召喚を使って召喚権を残したまま大量展開ができたからこそですね」
レベル4のモンスターを一気に3体揃えることと、チューナーを追加できる余裕。一気に使ってしまった手札の補充まで考えられていた。楽しそうに、気の行くままにデュエルしているようで、全ての動きが計算されている。
「これが、遊司さんのデュエル……」
「………」
遊司さんの戦い方を分析する私を龍可さんはどこか寂しそうに見ていたけど、私がそれに気付くことはなかった。
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