「俺のターン!」
状況は考えうる限り最悪。攻撃対象の限定。効果破壊に更なる展開。光子化もこれではなんの意味もない。
(このドローで何とかあれに対処できるカードを引かないと……)
デュエルディスクに収まった自分のデッキを見る。このデッキには、この状況に対処できるカードがちゃんとあるのだ。それを引けるかどうかで勝負が決まる。
デッキに手をかけ、勢いよくカードを引いた。
「ドロー!」
ゆっくりと引いたカードを確認する。
(!! 行ける!)
それを持ったまま即座にデュエルディスクの操作に入った。
「俺は墓地より光属性モンスターである白夜の騎士ガイアと闇属性モンスターである幻蝶の刺客オオルリを除外し、このカードを特殊召喚する!」
「何!? その召喚方法は!」
思わず、といったように秀が声を上げる。この召喚条件のモンスターはそれほど多くはない。となれば、何が出てくるかもある程度わかるのだろう。俺はそんな秀にニヤリと笑ってみせ、引いたカードをフィールドに出す。
ガイアとオオルリそれぞれ光と闇の球となり、フィールドに現れた混沌の渦に飲み込まれていく。その奥から1つの影が姿を現した。
「カオス・ソーサラーを攻撃表示で特殊召喚だ!」
漆黒の衣装をその身に纏う混沌の魔法使い。この場において、最高のモンスターの登場だ。
「! 真のやつ、よくやるよな」
外野にいる遊司からの賞賛の言葉に応え、その力を解放する。
「カオス・ソーサラーのモンスター効果! 1ターンに1度攻撃権を破棄する代わりに、フィールドの表側表示モンスター1体を除外する! 対象はチルビメだ!」
カオス・ソーサラーの右手に光が、左手に闇が集まる。反発する2つの力を1つに集束し、それを両手を広げるようにしてチルビメに放った。
「ディメンション・プリズン!」
混沌の球はチルビメの身体を貫通し、その後ろに現れた渦の中に飲み込んでいった。
「っ、チルビメ!」
「さらにライデンの効果発動! デッキからカードを2枚墓地へ送る! 送られるのは……フォトン・スラッシャーと幻蝶の刺客オオルリか」
残念ながら攻撃力は上がらない。だが、
「チルビメが消えたことで攻撃対象は自由だ! 行け、ライデン! マリーナに攻撃!」
体に膨大な力を纏ったライデンはマリーナに突撃していく。慌ててマリーナは光りを集めるが、遅い。ライデンが剣を振るうと、それは光の刃となってマリーナを切り裂いた。
4500-2800=1700
秀LP1900-1700=200
「くう!」
一気にライフを削られ秀が膝をつく。
「あと少し……。自分の場に光と闇の属性モンスターがいることで手札の魔法カード、混沌の種を発動。除外されたオオルリを手札に」
カオス・ソーサラーとライデンの間に種が現れ、それが割れると1枚のカードが手札に加わった。
「エンドフェイズ。ライデンの攻撃力は元に戻る。さらに効果でデッキの上から2枚墓地へ。……終末の騎士と闇霊術-「欲」。ターンエンドだ!」
ライトロード・アサシン ライデン
4500→1700
闇霊術-「欲」
罠
自分フィールド上の闇属性モンスター1体をリリースして発動できる。
相手は手札から魔法カード1枚を見せてこのカードの効果を無効にできる。
見せなかった場合、自分はデッキからカードを2枚ドローする。
ライデンの効果でうまくライトロードを墓地に送れていれば攻撃力が200上がって勝ちだったんだが、しょうがないか。
……ん? あれ? これって逆転フラグじゃね? 都合よく次のターンの布石も整えちゃったし、やばいんじゃね?
有利な状況なのになぜか真さんの顔は真っ青になっていた。一体どうしたんだろう。
「う~ん」
声に気づいてそちらを見ると、遊司さんがなにか悩んでいた。
「ん~。なんで手札に加えたのがオオルリなんだ?」
「あ、遊司。それはね――」
「次のターンにうまくレベル4モンスターを引けばエクシーズできるように、じゃないんですか?」
逆転される可能性をちゃんと視野に入れてるいい判断だと思うんだけど、なんで遊司さんは悩んでるんだろう。
「………」
「……?」
気づけば龍可さんがじっと私を睨んでいた。じ~~っと。
「え? あの、龍可さん? なんでそんなに睨むんですか!?」
「………」
「龍可さん!?」
こ、怖いから。お願いだから何か言ってえええ!!
「……なあ」
「! な、なんですか!?」
遊司さんが話しかけてくれたのでここぞとばかりに注意をそらす。龍可さんも仕方ないというように遊司さんのほうを向いてくれた。
「なんでオオルリなんだ? 次のターンのエクシーズに繋げようってのはわかるが、あれじゃもしレベル4引けなかった時に召喚できないし、それなら通常召喚可能なトラブル・ダイバーの方がいいだろ。もしくはカオス・ソーサラーの召喚で除外する光属性モンスターをフォトン・スラッシャーかもしくは他の通常召喚可能なモンスターにしてそれを回収した方がいいはずだって。どんな状況でも逆転可能なパラディオスだっているんだし、そもそもオオルリじゃ死力のタッグ・チェンジできないしな」
「「「あ」」」
遊司さんのもっともな指摘に3人揃って声を漏らす。って3人?
フィールドに目を移すと、慌てて顔を背ける真さんが。
「……真?」
「………」
遊司さんが呆れたように名を呼ぶが、真さんは知らんぷりを続けた。だ、大丈夫ですよ真さん! それくらいのミス誰だってやりますよ! 次また気をつければいいんですよ! それにオオルリだって利点はあるんですから大丈夫ですよ!
っべー、っちまったよ、言われてみればその通りだよチクショー。ああ、光ちゃんが心の中ですっごいフォローしてくれてるのが視線で分かる。でもそれが逆にすっごい辛いよ。
「……ふ、ふふふ」
「?」
1人絶望に打ちひしがれていると、膝をついた秀が笑っているのに気づいた。一瞬俺のプレイングミスについてかと思ったが、どうやらそういう感じでもない。それは心底デュエルを楽しんでる奴の顔だった。
「楽しいね。本当に楽しい。こんなに楽しいのは遊司とデュエルした時以来かな」
立ち上がった秀は戦意のこもった好戦的な目を向けてくる。そんな秀の調子に当てられてか、俺も先ほどの絶望感などどこかに消えてしまった。
「……ああ。俺も楽しい。遊司とのデュエルも、このデュエルも、最高に楽しい!」
それは俺の隠しようのない本心だった。
「楽しい気持ちを共有できる。これもまたデュエルの醍醐味だね」
うんうん、と頷く秀に俺も同意する。
「だが!」
それとこれとは、話が別。
「勝つのは俺だ!」
さっきはフラグが立ったとか余計なことを考えてしまったが、もうそんなのどうでもいい。プレイングミスは……まあ今後どうにかするとして、とにかく今はこのデュエルに絶対勝つ!
「いいや、勝つのは僕だよ! 僕のターン! ドロー!」
俺の勝利宣言に対し、秀はこれまで以上に闘志をむきだしにして答える。
さて、デュエル再開だ!!
「僕はローンファイア・ブロッサムの効果を発動! 自身をリリースし、デッキよりギガ・プラントを特殊召喚する!」
フィールドに残っていたローンファイア・ブロッサムが自身を光に変え、種を残していく。それはこれまでと同じように急成長し、大きな肉食植物へと姿を変えた。
ギガ・プラント
星6 地属性 植物族 デュアル
攻撃力2400 守備力1200
このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。
自分の手札・墓地から昆虫族または植物族モンスター1体を選んで特殊召喚する。
「ギガ・プラント……っ!」
ロンファの次に植物族にとって起点となるモンスター。ロンファが初動となり、ギガ・プラントがその場を盤石なものにする、植物族最大のコンビだ。
「さらにギガ・プラントを再度召喚! これによりデュアルモンスターであるギガ・プラントは効果モンスターとなる!」
デュアルモンスター。フィールド、墓地に置いて通常モンスターとして扱われ、こうして召喚権を使い再度召喚されることによって効果モンスターに化けるモンスター群のこと。手間がかかる代わりに、その効果は非常に強力だ。
「ギガ・プラントの効果発動! 1ターンに1度手札または墓地から、植物族モンスター1体を特殊召喚する! 再び咲き誇れ! 姫葵マリーナ!」
ギガ・プラントが蔓を伸ばし、秀の墓地からマリーナを引っ張り出す。苦労して倒したってのに、もう復活するのかよ!
「そんな!? せっかく倒したマリーナがまた!?」
「それだけじゃない!」
龍可の心配げな声に応えるように秀が叫ぶ。いつの間にか秀の場に伏せられていたカードが表になっていた。
「僕はこの罠カード。オーバー・デッド・ラインを発動していた。オーバー・デッド・ラインにより、墓地から特殊召喚されたモンスターの攻撃力は1000ポイントアップする!」
マリーナの体からオーラのようなものが発せられ、その攻撃力を上昇させていく。
オーバー・デッド・ライン
永続罠
このカードがフィールド上に存在する限り、墓地から自分フィールド上に特殊召喚した植物族モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする。
このカードは発動後2回目の自分のエンドフェイズ時に破壊される。
姫葵マリーナ
攻撃力2800→3800
「ここにきて攻撃力3800……っ!」
普段はおとなしい光ちゃんも驚愕のあまり戦慄の声を絞り出す。俺としてもこれは予想外だった。
(オーバー・デッド・ラインとか、また珍しいカードを……っ!)
「秀のやつ。本気だな」
遊司の言葉通りなのだろう。秀は得意げに笑い、フィールドに手をかざした。
「行くよ、真! マリーナでカオス・ソーサラーに、ギガ・プラントでライデンに攻撃だ!」
一気に秀は攻撃を行ってきた。手札はオオルリ1枚。タッグ・チェンジも発動できない。なすすべなくマリーナの放った光はカオス・ソーサラーを吹き飛ばし、ギガ・プラントの触手がライデンを弾き飛ばし破壊した。
3800-2300=1500
2400-1700=700
真LP2800-1500-700=600
「ぐあ!」
爆風に押され、思わず一歩後ずさる。
「これでターンエンド。さあ、ここから逆転できるかい?」
「へっ、やってみせるさ! 俺のターン!」
挑発的に言う秀に強気で返すが、正直状況は最悪だった。俺のエクストラデッキにはかの有名なエクスカリバーやカステルなどは無いし、このオオルリでははっきり言ってどうにもならない。それに対して秀はまだ3枚も手札があるし、なんとかこのターンで倒さなければもうこちらに勝ち目はないだろう。
(強がっては見たが、このドローで全てが決まる。でも可能性はゼロじゃない。後は、どれだけデッキを信じられるか、か)
ならば迷うことなどない。デッキに手をかけ、最後のカードを引く。
「行くぞ! ドロー!」
「………」
しばしの沈黙。ドローしたカードをゆっくりと自分の前に持ってくる。
「………ほんと、よく来てくれるよなお前は!」
「何!?」
さっきのデュエルを思い出すデジャヴのようなドロー。それはこのデュエルを終わらせるキーカードだ。
「自分の墓地の光と闇と属性モンスターが同数の時、どちらかの属性のモンスターをすべて除外することで、このカードは特殊召喚できる! 今俺の墓地の光と闇はどちらも5体!」
「!!」
「この召喚条件は!」
驚く遊司たちの声に応えるように、最高のタイミングで来てくれた、期待に応えてくれた最高の切り札をフィールドに呼び出す。
「墓地の光属性モンスターをすべて除外し、出でよ。宵闇からの使者! 正道を通り顕現せよ! 切り開け! カオス・ソルジャー -宵闇の使者-!」
フィールドに光点が現れ、それは徐々に広がっていく。そこから闇が溢れたかと思えば、そこには左右で白と黒の色違いの鎧をつけた究極の戦士が立っていた。
「宵闇の使者……。ふ、完敗だね」
力を抜き息を吐く秀。カオス・ソルジャーの攻撃力は3000。ギガ・プラントは2400。伏せカードもない。デュエルの終りを感じ、俺は最後の指示をカオス・ソルジャーに下した。
「効果は使わない。行けカオス・ソルジャー-宵闇の使者-! ギガ・プラントに攻撃! 宵闇、双・破・斬!」
カオス・ソルジャーが地を掛け、剣に混沌の光を纏う。その剣は容赦なくギガ・プラントを切り裂いた。
3000-2400=600
秀LP200-600=-400
「いいデュエルだった。君とはまたやりたいな」
「ああ! 選手はいつでも挑戦を待っている!」
デュエルが終わればみんな仲間だ! なんて言葉があるが、まさにその通りだと思わせてくれる良いデュエルだった。事実、俺たちはもう友達と言える仲だろう。
「で、秀はなんであんなところにいたんだ?」
近づいてきた遊司が秀に尋ねる。そういえばここはデュエルアカデミアのセントラル校だって龍可は言ってたな。ってことは、えっと、GXの舞台だっけ? あ、でも普通にエクシーズ出したし、あれよりもずっと未来の世界か。
「島を見て回るのは僕の日課なのさ。ここの自然はみな、僕が管理しているのだからね」
ってえ!? まさかの自分の庭宣言!?
「そうなの!?」
「すごいです……」
「ああ、そういやそうだったな」
さっき上から見た感じこの島結構広いぞ。あの森全部秀が管理してんのかよ。
「あはは。ありがとう!」
何でもないように答える秀が、なんだか急に大物に見えてきた。その秀はみんなに向けていた視線を俺に戻す。
「真。君は遊司たちの友人だよね。でもこの学校の生徒ではないようだ」
「え!? あ、いや、まあ、そうだ、な」
突然振られた話題に慌てる。
(どうする? まさか異世界から来たなんて言えないしな……)
言ったところで信じてくれるはずもない。気づいたら空の上なんて。
「そういや、誰かさんが意味不明な登場をしたせいで、結局なんで空から落ちてきたんだか聞いてなかったな」
遊司が思い出したように、少し嫌味を込めて言う。なあ遊司、それ俺に対しても言ってる?
「サングラスかけたイケメンに拉致されたあとにその飛行船から落ちたのかい?」
「それなんて天空の城?」
「いや違うから。飛行石とか持ってないから」
しかし秀はそんなものはどこ吹く風で平常運転だった。くそう、思わずツッコんじまったじゃねえか。
じゃあ、なんで? という視線をみんなから感じ、俺は慌てて頭を回転させる。とにかく答えなければ始まらない。……よし、嘘を交えつつ本当の事を言ってなんとか誤魔化そう。
「いや、俺もよくわからないんだよ。気がついたら空からフォーエバーでさ」
「え、なにそれ。記憶喪失?」
龍可の言葉につい言いよどむ。記憶喪失……そういうことにしたほうがいいのか? いやでも……。
「……ふむ。真」
「ん?」
秀に呼ばれ顔をそちらに向けると、秀は笑顔でこう告げた。
「なんにせよ不法侵入ってことで、ちょっと連行させてもらうよ」
「……え゛」
マジスカ。
「あ、おはよう遊司」
「お、おはようございます」
「ん? 龍可か。それに光まで、おはよう」
朝、寮から出ると龍可と光が外で待ってくれていた。龍可はいつものことだが、光もいるとは少し驚きだ。
しかし2人ともあまり元気がない。原因は聞くまでもないだろう。
「……真、もう島から出てっちゃったかな」
「……どうだろうな」
ぽつりと呟いた龍可に俺は曖昧に答える。
真と会ってから早くも1日たった。2回もデュエルをし、秀が真を連行すると告げると、愕然とする俺たちの前で指を鳴らした。するとどこからか車が走ってきて、有無を言わさず真を乗せ、そのまま学校の方へと走っていったのだ。
その後、いつの間にか時間が回っていたことに気づいて慌てて学校に行くも遅刻し、3人揃って教頭から「完全ロック! 恐怖の20ターン」の罰を受け、1時間ほどデュエル恐怖症に陥ったり、補習が増えたりして大変だった。
ふふふ、真の野郎。全部てめえのせいだというのにいったどこ行きやがった、コラ。
「ゆ、遊司さん?」
おっと顔に出てたようだ。冗談、冗談。……いやホントだからな? 冗談ダヨ?
「まあそれはそれとして。秀のことだから手荒なまねはしないと思うけどな」
「うん。そこは心配してないけどね」
少し遠くを見るような龍可に、俺たちは何も言えなくなる。そんなことは俺たちも一緒だ。ただ、せっかく友達になれたっていうのにちゃんと別れも言わずに離れていってしまったことが、寂しいのだ。
「……きっと、そのうち会えるさ」
「……うん」
今はこれしか言えない。そんな言葉しか言えない自分が少し腹立たしいが、多分みんな同じ気持ちだろう。
今日、秀にあったら必ず情報を聞くと誓い、俺たちは校舎へと向かった。
デュエルアカデミア・セントラル校では大学と同じように必修と選択科目があり、自分でやりたい授業を登録するのだが、デュエル以外の授業は寮別にはならない。デュエルの授業以外に5教科と体育が必修で、1クラス20人前後の全2クラスに別れることになる。
教室に入ると、龍可と光も一緒だった。今まで気づかなかったが、これから受ける授業は3人とも同じクラスのようだ。席は自由なので俺たちは3人揃って座ることにした。会話もなくただ漠然とテキストを開いて見ているうちに、通学してくる生徒も増えてくる。
そんな時、電子音が教室に響き渡った。どうやら何かお知らせがあるようだ。
『これより臨時集会を行います。全校生徒は速やかに第一会議室まできてください。繰り返し連絡します。これより臨時集――』
放送が終わるとみな顔を見合わせてだるそうに席を立ち始める。それは俺たちも同じだった。
「いったいなんだろう?」
「さあ」
龍可が疑問を口にするが、俺にもわからない。まあ、行ってみればわかるだろう。
第一会議室とはその名の通り普段は生徒会や先生方の会議で使われる場所なのだが、そこは非常に広く、集会や入学式、卒業式なども行われる場所なのだ。
会議室では既にほとんどの生徒が集まっていた。ここでは出席番号順に座らなければならないので龍可たちとも別れて自分の席に座る。
すると教頭先生が姿を現した。
「急遽みんなに集まってもらったのは、編入生を紹介するためです」
その言葉を聞き、教室内が途端に騒がしくなる。デュエルアカデミアへの編入生などそうそうない。そもそもがこんな孤島にあるわけだし、わざわざ途中から入ってくる理由などまずないからだ。
そんな珍しい出来事に俺も自然と興味が沸く。
「さあ、それじゃ、入ってきなさい」
「は、はい!」
教室に響く教頭とは違う声。その声に俺はハッとして龍可や光を見る。2人もまた俺や互いを見ていた。そんな2人の様子が、俺の考えを確信に変える。そしてそれを証明するかのように、その人物は教壇に姿を現した。
「えーと、今日から一緒に勉強することになる。編入生の兵部真だ。3年間よろしく頼む」
らしくもなく、やや緊張した様子で自己紹介するそいつは、確かに昨日デュエルをした男、兵部真だった。
「真! お前、編入生ってマジか!?」
「ああ。昨日いろいろあってな」
1限目の授業のある教室に移動しながら、昨日最初に会ったのと同じメンツ、遊司、龍可、光とともに移動していた。
予想はしていたが、それぞれ怒られたり安心されたりと表情が順繰り変わりながら詰め寄られる。でも、歓迎されていることだけは確かだった。
「で、結局なんで空から落ちてきたのか、思い出したのか?」
「お、おう! もともと編入することになってたんだが、ヘリから落ちたのさ!」
「「「なにやってんの!?(なにやってるんですか!?)」」」
素晴らしく盛大な嘘に思いっきり突っ込まれるが、そう言うようにと秀と打ち合わせしたのだから仕方がない。そう、仕方ない。
俺は適当に誤魔化しつつ、昨日のことを思い出していた。
秀に連行されていったのはデュエルアカデミアの校長室。そこにいたのは記憶にあるふくよかな校長ではなく、しっかりした体つきの40代前半くらいの男だった。しかし見た目に似合わずとても人が良くて話しやすい。
そんな校長と秀に質問漬けにされ早30分。流石に疲れてきた。
「……ふむ、なるほどね」
すると、少しの間黙っていた秀が考えをまとめたように顔を上げた。
「つまり君は空の城から来た天空人なんだね!」
「ちげえよ!?」
「ならばこの学校の生徒を調べに来た某ライバル校の密偵か!」
「だからちげえよ!? 某ライバル校ってなにさ!?」
「ということは歴史を操っている某未来結社からの使者なのか!」
「ちげえっての!! ってその存在知ってんの!?」
「ならばもう異世界人しかありえないね!」
「だから違っ、いや違わな、って違う!」
「なるほど。やはり異世界人か」
「バレた!? ……あ」
壮絶なボケとツッコミ合いの後、自分がカマをかけられたとわかった時には既に遅かった。こいつやりおる……!
「となると、身寄りの人もなく、それどころか住むところも金もない、と。校長どうしましょう?」
「ふむ。知ってしまった以上は見捨てるというのも目覚めが悪いですな」
「って、え? あれ? いや、ちょっと待って」
急に進みだした話についていけず慌てて待ったをかける。
「信じて、くれるのか? こんな突拍子もない話」
不安げに聞くと、秀は「そんなことか」とあっけらかんに答えた。
「僕らの方からカマをかけたのに、信じる信じないもないだろう? どう見てもわざとではなかったし、嘘ではないとわかった以上、異世界人として考えるさ」
「秀……」
やっばい。秀がさっき以上にスゲー大人に見えてきた。さっき馬鹿にしてすみませんでした!
「真。確認したいんだけど、帰る手段は今のところない。これで合ってるね?」
「ああ。どうやってここに来たのかもわからないしな」
そう答えると、秀は指で顎を抑え、また考えをまとめ始める。今更ながら、そういうポーズがすごい似合っていて様になっていた。印象が違うとこうも見え方が変わるものかと素直に感心する。
「……真、君さえよければ、ここに編入しないかい?」
「……へ?」
予想外の秀の言葉に頭がついていかず、呆気にとられてしまう。そんな俺の前で、秀は校長に確認を取り、校長はそれにOKを出していた。って軽いな校長!
「ここは全寮制だからね。生徒には
「で、でもいいのか? もしかしたら俺、戸籍もないかもしれないんだけど……」
「承知の上さ。それも僕が何とかしてみせる。君の友達として、もっと君といろんな話をしたいからね。君の生活を全面的に支援させてもらうよ」
なんだかすごいことになってきた。編入? 俺が? デュエルアカデミアに? 正直実感なんてない。俺にとってここは空想の世界で、そんなどっかの小説みたいな展開信じられるはずがない。
……でも、自分の感情に嘘は付けなかった。
デュエルディスクを使ったこの世界のデュエルの快感。それを通じ友達となった遊司、秀、龍可、光ちゃん。彼らともう一度話したい。もっと一緒にいたい。もっとたくさんデュエルがしたい。
気づけば、もう心は決まっていた。
「……ふう。わかった。悪いけど、頼むよ」
これから色々と世話になるし、強気に出る気にもなれない俺は、遠慮がちに秀にそう言う。そんな俺の緊張をほぐすように、秀はニカッと笑った。
「任せておきたまえ!」
……秀さんマジカッケー。
「えっと。つまり、これで真は一緒にいられるってこと?」
「そういうことだな」
「……よかった」
説明を終えると、皆それぞれ反応は違えど、喜んでくれているのはわかった。そんな3人の様子に、俺は柄にもなく感動を隠せない。
あれからいろんなことが決められ、単位もこの1年前期だけは既に過ぎた2ヶ月分は免除されることになった。これでほかの人と同じように授業を受けられる。そして受ける授業は遊司たちの受けている科目を見せてもらい、できるだけ重なるようにセッティングされた。2ヶ月も経てば少しずつグループというものもできてくるし、最初は知り合いがいたほうがいいだろうということだ。秀さん、校長、マジアザッス!
なんにしても、この楽しいメンツとまだまだ一緒にいられる。それがたまらなく嬉しかった。
「ん? なんだよ真。泣きそうな顔してんぞ」
「うえ!? な、んなわけねえだろ! これは、あれだ、さっきヘカテリスが鳩尾に突っ込んできたんだ!」
「え!? 大丈夫ですか!?」
「光ちゃんが信じた!?」
「なんでそこでそのチョイスにしたし……」
帰りたいって気持ちは正直ある。あっちにだって家族がいるし、友達もいるのだから。だけどこいつらと一緒にいると、ここが作り物の世界なんて思えなくなる。俺はそれだけここが楽しくて、気に入ったんだろう。
「真!」
「ん?」
龍可に呼ばれそちらに振り向く。すると龍可は満面の笑みで微笑んでくれていた。
「これからよろしくね!」
「……おう。よろしく!」
こんな風に笑ってくれる人がいるから。だからもし許されるのなら、もうしばらくはあっちの世界のことは忘れて、ここにいたいと思う。
この馬鹿らしくも愉快なみんなの下で、一緒に。
「ほ、本当に大丈夫ですか?」
「え、あ、だ、大丈夫だ。問題ない!(ええ子や。この子ほんまにええ子や)」
「真……、こんな良い子を騙すなんて……」
「え!?」
「ああ。なんてやつだ」
「え!? ちょ、2人共!?」
「え、騙し――」
「なんでもないよ!? 大丈夫大丈夫!!」
「は、はあ」
「「真……」」
「や、やめろ……っ、そんな目で俺を見るなああああ!!」
今回のおまけ NGシーン
「……ふむ、なるほどね」
すると、少しの間黙っていた秀が考えをまとめたように顔を上げた。
「つまり君は空の城から来た天空人なんだね!」
「ちげえよ!?」
「ならばこの学校の生徒を調べに来た某ライバル校の密偵か!」
「だからちげえよ!? 某ライバル校ってなにさ!?」
「ということは歴史を操っている某未来結社からの使者なのか!」
「ちげえっての!! ってその存在知ってんの!?」
「ならばもう頭のおかしくなった精神患者しかありえないね!」
「ひどくね!?」
「さあ、早くこの麻酔を! あちらに継ぎ接ぎだらけの黒い医者が来てるから!」
「その人いるの!? ってだから違うっての!」
「あ、1000万用意しろってさ」
「やっぱりあの人だよ! なんか会いたくなってきちゃったよ!」
「さあ! 君の未来のためにも今勇気を出すんだ! 逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめ、サ!!」
「なんかいろいろと台無しだよ!! ああもう誰かこいつ止めてくれえええええ!!」
俺の絶叫を聞き届けてくれる者は、1人としていなかった。