光「こんにちは。龍凪光です」
作者「どう見ても小学生です」
光「違いますよ!?」
作者「いやでも16歳で身長145センチって」
光「こ、これから伸びるんです!」
作者「目標は?」
光「教頭先生!」
作者「……あの身長高くて、ボンッ、キュッ、ボンッ、のモデル体型の?」
光「……少しくらい夢見たっていいじゃないですか(グッと構えて頭突きの体勢)」
作者「あわわわわわわ。ま、まあでも伯祖父とか母親はまだ物語としては秘密だけどあの2人だし、望みはあるって(汗)」
光「お母さんあんなに高身長だったのに……(さらに体勢を低く)」
作者「ああもう遊司!! 後は任せた!」
遊司「ここで!? あ、えっと光? 光は今のままでも十分魅力的だと思うぞ?」
光「ふえ!? そ、そんなことないですよ!」
遊司「あれ? 思った以上に良反応」
作者「ぶはあ!(砂糖)リ、リア充死すべし慈悲はない……っ(ガクッ) ……あっと、では本編をどうぞ」
「宵闇でダイレクトアタック!」
「うわちゃ!? やられたかー」
強デッキとも言われる容赦のないガチデッキに、好きなモンスターとそれをシナジーとしたファンデッキで勝つ。そんなロマンを最初は求めた。
「ガッチャ! とても満足したデュエルだったぜ!」
「くっ! これがカオスの底力だとでも言うのか……!」
もちろんデッキの回転率は悪い。それが不遇扱いされているモンスターや召喚条件の厳しいモンスターだったら尚更だ。強カードと呼ばれる、1枚で戦況を変えるカードさえ入れはしないのだ。苦労は押して図るべしである。
「宵闇3枚とか要らなくね? 2枚で十分だと思うけどなあ」
「こればっかりは抜けないね。なにせ、ロマンだから!」
そう、ロマンを求めていたはずだった。でも、あの時からロマンとは別のモノを求めていたように、今は思える。
いつからだったっけ? ただのカードゲームに、カードの1枚にあそこまでの憧れを抱いたのは。
「……あーっと? ……夢、かあ」
ここに来る前の夢を見た。今俺がいるのは、ブルー寮と呼ばれるオベリスクブルーの生徒専用の寮。秀と校長の御厚意によりここに住まわせてもらうことになった。
ブルー寮。この世界はどうやら、かのライディングデュエルやシンクロ発祥の世界、5Dsの未来の世界らしいことがわかった。「遊戯? ああ、あの伝説の」「十代? ああ、あのヒーローの」「遊星? ああ、あのチームの」といった言葉を遊司や秀などから聞いた。
あっちの世界から見れば、まさしく夢のようだ。皮肉が利いている。
「事実確認乙っと」
柄にもなく、と言うか「あっちの世界」のことはやはり早々忘れそうにはないらしい。まあ、小説のような現実が襲ってきたのだ、夢に出てきても可笑しくはない。
「……忘れたと、思ったんだけどなあ」
思わず苦笑してしまう。あっちの世界のことではない。いや、あっちの世界で起こった
「……この世界に来て思い出すとか、何ともまあ……」
その後言うべき言葉を失う。ロマンチストにも似ていて、リアリストに近い、かな?
「……やめやめやめ! 今は起床!」
考えても仕方ないと思い慌てて身支度をする。今日は休日。昨日秀が俺の世界の事をもっと聞きたいので朝飯を一緒にどうかと誘ってきた。こちらとしてもこの世界の情報が欲しかったのでOKした。その約束の時間よりも早く行くことになってしまうが、秀なら薔薇とポーズ付きで許してくれそうである。
この部屋を出る頃には、きっとさっきの夢を忘れていることだろう。
「……あるあさ~、りょうのなか~、しりあいが~、かくれてた~」
熊さんの歌に乗せて目の前の光景を描写する。部屋を出て秀の部屋へ向かう途中、廊下の突き当たりの左側へ視線を向け、こそこそスネーク行動をしている龍可を発見した。……何してるん元シグナー。龍可って、本当にあの龍可だよな……? イメージが崩れるんですけど。
「し~! 真、静かに……! こっちこっち……!」
「うん?」
(てかあの先って遊司の部屋じゃなかったか?)
手招きする龍可に俺は首を傾げる。しかもその視線の先には遊司の部屋があることに気づき、更に疑問に思う。一体何を見ているのだろうか?
龍可の隣に腰を落とし、その視線の先に目を向ける。
そこには、遊司の部屋のドアの前で行ったり来たりしている女子生徒、光の姿があった。まるで親に付いていくカルガモの子供のような、そんな可愛がりたい光景がそこにはあった。
「……ほう?」
「ね?」
龍可と顔を見合わせ楽しげに笑う。スネーク行動をする訳である。そして龍可は「いけいけ光ちゃん……! ああ……! もうちょっと……!」と小声で楽しそうに観察を再開していた。今日も元気一杯ですね龍可さん。龍可の光を見る目が、完璧に小動物を愛でる人の目である。
(……俺も俺も!)
秀との約束の時間までまだ余裕がある。俺もその観察という名の愛でる会に参加することにした。……癒しの時間は大切だ、うん。
……私は今までの人生の中で一番の難題を前にしている。
きっかけはいつも通り朝の散歩をしている最中。朝早く、誰もいない廊下で龍可さんに出会ったところから始まった。世間話をして一緒に散歩をする、という流れまではいつも通りだった。だがそこで遊司さんに教わったラジオ体操の話になり――
「ラジオ体操? あ、じゃあ遊司も呼んで一緒にやろうよ!」
という流れから――
「じゃあ光ちゃん、遊司を起こして来てもらって良い?」
「えっ」
という流れになった。龍可さんは呆然とする私を尻目に「じゃ、先にお気に入りの場所で待ってるね~」と走って行ってしまった。
……うん、大体龍可さんのせいですね。遊司さんの部屋については龍可さんに聞いたことがあるため容易く見つけることができた。結果、私はこうして遊司さんの部屋の前に立ってている。
(……髪とか変な方向になってないよね? あ、前に龍可さんに貰った香水つけた方が良かったかな? というか、起こしちゃっても大丈夫かな?)
つい色々なことを考えてしまって、ドアをノックするのを躊躇してしまう。そうこうしている間にも龍可さんが待っているのに一歩が踏み出せない。
「ふ、ふううううう……!」
つい意味もなく両腕が回ってしまう。どうすれば良いのかまったくもってわからない!
(か、かあいいなあ光ちゃん……!)
(身だしなみを気にする恋する乙女かっ……! 目の保養にはなるが遊司死すべし慈悲はない)
(うんうん、しつけ、じゃない教えたかいがあったよ)
(無垢な子に何してくれちゃってるん、龍可。だが良くやってくれました……!)
声が聞こえた気がして私は慌てて後ろを振り向く。だがそこには誰もいない廊下が見えるだけ。……気のせい? 龍可さんと真さんの声が聞こえたような……。
いや、そんな事より目の前のことに集中しよう。頭をフルに使って状況を整理する。
(そう、ただノックをして遊司さんを起こす。そしてラジオ体操に誘う。ただ、それだけのこと)
そもそも何故私が友人を起こすために身だしなみを気にしないといけないのか。別に、遊司さんは、その、特別な、人じゃ、ないし。そう、要は気にしなければ良い!
(あちゃ~、光ちゃんが妙なところに着陸し始めた)
(わかるのか?)
(あの少し暗さの残る笑みは私がしつけ、ではなく教えたから)
(……もう躾けたで良いと思うんだ)
私は目を閉じ、一度深く深呼吸して心を落ち着かせる。……いざ!
「(コンコン)ゆ、遊司さん、い、いますか~?」
1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、6秒……あれ? 数十秒程待ってみたが沈黙が続くばかり。ドアが開き、遊司さんが現れる様子がまったくない。訝しく思いながら私はもう1度ノックを敢行する。
「(コンコンコン!)ゆ、遊司さ~ん?」
先ほどよりも大きくノックしたが、まったく反応がない。居ないのだろうかと思いドアノブに手をかけ回してみる。
ドアは小さな音を立ててあっけなく開いた。
(……ええ~!?)
さすがの私もこの状況は混乱を隠せない。か、鍵が開いているということは中に居る? でも何度ノックしても出なかったし、居たとしてもかなり無用心ではないだろうか?
(こ、これは中に入って、確認したほうが良いのかな?)
だがそれはどうなのだろうか? 男の人の部屋に無断で入るなど、淑女としてはしたないと思う。だが、確かめない限り真実には近づけない……!
(おおっと、光選手棒立ちになってしまいましたね。解説の龍可さん、どうでしょうこの状況は?)
(迷って固まる光ちゃんも可愛いよね……!)
(うん、重症だと思うんだその域。アイドルを追い込んで過労死させるファンかって話しで)
先程同様、深呼吸を念入りに行う。心の中で「自分の行動は正当性があるので問題なし! 行けるって!」と念入りに思い込む。……いざ!
意を決してドアを開け部屋の中に入ろうと――
「ほわっ!?」
した瞬間ドアがひとりでに開き、ドアノブを掴んでいた私は体勢を崩してしまう。慌てて両手を前にして地面に手を着こうとするが、顔が温かい何かにぶつかり倒れることはなかった。
「うん? ……光か、どうしたんだ?」
というか遊司さんだった。顔を上げると、寝癖の付いた遊司さんが意外そうな顔をして私を見ていた。眠そうな様子からどうやら今まで熟睡していて、私のノックに気づかなかったらしい。
(なんだ、遊司さんか。……あれ、ということは私は遊司さんに抱きついてえくいぇcbksbcjbcyjせ!?)
(うわあかんやろあれ、爆ぜろ)
(真っ赤になってる光ちゃんが可愛すぎてつらい……!)
(……いいかげん正気に戻れ……!)
(いたっ)
(……はっ!?)
とりあえず遊司さんから慌てて距離をとる。気づくのが遅くなったのは気のせいだ。……うん、気のせい。
「す、すみません!」
「っと、いや別にいいけど?」
私の声に驚いたのか、少し体を揺らすも笑って許してくれる遊司さん。何とも申し訳ない気持ちになる。と、そこで本来の目的を思い出し、体を伸ばしている遊司さんに慌てて話す。
「あ、ゆ、遊司さん! わ、私たちと一緒にラジオ体操しませんか!? あ、龍可さんは先にお気に入りの場所で待ってるって言ってました!」
やっと言えたことに私は内心安堵する。龍可さんが遅いと軽く拗ねていそうではあるが、ようやく向かうことができる。
「龍可? 龍可ならあそこにって、真も一緒に居るな?」
「えっ」
遊司さんは不思議そうに私の後ろを指差す。瞬時に後ろを振り向くと、「あっ」「やべ、見つかった」とこちらを見て慌てている龍可さんと真さんの姿が。……み、見てましたね!?
「真、お前今日用事があるとか言ってなかったか?」
「あ、いや、早く起きちまって……って光さん!? 何故こっちに走ってゴッフ!?」
真さんが言い終わるよりも早く、私の渾身の頭突きが彼の鳩尾に炸裂する。思い出すのも恥ずかしいあれやこれやを影で盗み見ていたのだ、これぐらいは勘弁して欲しい。
「な、何故頭突き……ガッハ」
お腹を押さえた折れた真さんに、龍可さんと遊司さんが「ま、真~!?」と言いながら彼に駆け寄る。何故頭突きか? 顔が赤いのを見られないためです!
結局、その場が落ち着くのに30分はかかりました。
「なあ真。夢でお前が急に巨大化してデュエルを始めて、3分くらい経ったらいきなりデュエルディスクがピコンピコンって点滅し始めてたんだが……大丈夫だよな?」
「やだ、それ何て光の巨人……!?」
遊司さんと真さんの会話を背に、しばらく私は龍可さんから謝罪と同時に頭を撫でてもらい、ようやく落ち着きを取り戻した。あの醜態を他の学生に見られなかっただけマシと思っておこう。
「っと、そろそろ約束の時間になりそうだから行くわ。光、面白いモノ、ごっそさって悪かった悪かった! だから突撃体勢やめれ!」
「今のは真が悪いよ」
龍可さんの言葉に賛同する。両手を挙げて降参のポーズをとる真さんの姿には胡散臭さしかない。この人は本当に反省しているのだろうか?
真さんは「んじゃな御一行」という言葉を残して去っていった。秀さんに誘われて一緒にお茶会をするらしいのだが、私には突っ込む人のいないボケボケ祭りになるのではないかと思う。2人の行動に似たようなものを感じたのは私だけではないらしく、「……ちょっと頭が痛くなってきた」と遊司さんは真さんの去った廊下を見て米神をもんでいた。
「さてと! それじゃ、俺たちも行きますか」
「ラジオ体操に、だね」
「そう、ですね」
色々ありすぎて忘れそうになったが、本来はこっちが目的だった。ラジオ体操は羞恥心による過労にも効果があるのだろうかと考えながら、私は2人と共にお気に入りの場所に向けて歩き始めた。
「お兄様! これは一体どういうことですか!?」
「ぶっほっ! ま、マイシスター!? 一体どうしたんだい!?」
彼、真とのお茶会を有意義なものにするため、僕は自ら淹れた紅茶の試飲をしていた。椅子に腰を掛け、中々に味わい深い紅茶を淹れた感動に浸っていたところに、金色の妖精、我が愛しの妹である庭瀬(にわせ)瑠奈(るな)は僕の部屋に飛び込んできた。……紅茶を噴出すという紳士にあるまじき行為をしてしまった、反省しなければ。
それよりも、僕は瑠奈がかざしている新聞に目がいった。
『かの庭の皇太子、庭瀬秀敗れる!? 相手は我が友。まさかの裏切り!?』
「これはこれは」
随分と大仰に書いたものだと僕は苦笑する。負けたという噂を流したのは、実はこの僕だ。僕が負けたという彼、真の存在は学園中に広まり、その彼とデュエルしようと大勢のデュエリストが彼に挑戦するだろう。これは、この学園に早く馴染ませてあげたいという、僕のいたずら心だ。この学園の生徒たちと、多くの絆を育んで欲しい。
(でも、裏切りとは。真とは親友なのになあ?)
「お、お兄様、これは本当のことなのですか!?」
我が家の姫君が随分と慌てた様子で僕に迫る。……瑠奈はオベリスクブルー一年の女子生徒全員の代表。兄である僕が敗北したとなればその権威に罅が付いても可笑しくはない。そのことを気にしての焦りなのだろう。僕は少し浅慮だったかもしれないな。
「……本当だよ。僕は確かに友に負けた」
「……あふん」
「ああ、瑠奈!?」
そう言って瑠奈は崩れ落ちた。慌てて僕は椅子から立ち上がり彼女の背を支える。我が愛しの妹にとって相当にショックだったことに、僕の胸は張り裂けそうになるほど痛んだ。友情のためとはいえ少し反省しなければならない。今度、瑠奈のために何か埋め合わせをしなければ。
「ごめんよマイシスター! 僕が(友情のための結果とはいえ真に)敗北してしまったばっかりに!」
「い、いいえお兄様! (あの三葉虫、遊司に裏切られたのですから)仕方がないことですわ、(そのような忌々しい存在を)私が見逃していたせいで!」
頼りない僕をずっと見ていなかったと、自分のせいだと謝る可愛い妖精に、僕の心は愛しさと切なさでいっぱいになった。瑠奈は僕の手を借り立ち上がって、決意した表情をその女神のような顔に宿らせる。
「っ! ……そうか(真とデュエルをしに)行くんだね、瑠奈?」
「……はい。私も(あの忌々しくもお兄様を裏切った男、遊司と)決着をつけたいと思っています」
「止めはしない。……明日、オベリスクブルー生徒専用のデュエルフィールドを解禁しておくよ。(真のデュエルを肌で感じ)思う存分に戦うといい。いい経験になるからね」
「はい! (良い処刑場所を用意して頂いて)ありがとうございます、お兄様! 存分に(制裁)デュエルをしてきます!」
この瞬間、僕たちの思いは1つになっていた。瑠奈は僕にお礼を言うと、足早に部屋を退出した。これからデッキを調整に行くのだろう。
(抜かりのない様で少し安心した。これならいいデュエルをしてくれるだろう)
紅茶をもう一度淹れ直し、感慨深く、明日のデュエルを心待ちにしながら一口飲む。
真が来たら、我が華麗なるプリンセス自慢のついでに、ちょっとした忠告でもしようかなと思いながら。
秀の部屋のドアが閉まる。彼女、瑠奈は廊下に出て、暗く笑い始めた。
「……ウフフ、待っていなさい遊司あん畜生。私のお兄様を裏切った罪は……重過ぎて奈落に真っ逆さまの刑、ですわよ?」
そこににこやかさなどはまったくない。遊司が刑を執行されたところでも想像しているのだろうか、彼女の足はスキップを刻み去っていった。
その様子を、彼女の反対側の廊下の影からこっそり見ていた俺、真はつい小声で言う。
「……こりゃあ、荒れるでえ……!」
あんな不安しか煽らないスキップは初めて見たと思いながら、腰を上げて秀の部屋へ。ちなみに会話は盗み聞きしていた。秀に女の影!? と野次馬根性が働いてしまったからだ。お蔭様で兄弟の会話が物凄くすれ違っていることに気づいてしまったわけだが。
(……遊司が危ないわけだが)
秀が居る部屋のドアの前で立ち止まり、少し考えてみる。あの勘違いを解いた場合、彼女の狂気は石から放たれた光が天空の城を指すがごとく、真っ直ぐに自分に向かってくることだろう。最終的に崩壊の予感しかしない。……うん。
「明日ドローパンをおごってやろう。エイメン遊司」
静かに胸の前で十字を切る。許しは請わない。大人しく奢ってしまおうではないか。
そんな決意を胸にドアを開ける。そこにはこれから起こることをまるで知らない、能天気な男が笑みを浮かべて待っていた。
「……なるほど。デュエルが社会の根幹にない世界、か。興味深いね」
「まあ、そっちからしてみればそうだろうな」
異世界の情報を吟味する秀を見やりながら、渇いた喉を2杯目の紅茶で潤す。秀が手ずから淹れた紅茶は驚くほど美味い。渇いた喉に染み渡るように味が広がっていく。
お茶会を始めて数時間。俺の居た世界のこと、この世界のことを互いにできる限り話し合った。どんな世界か、どんな文化があるか、歴史はどうなのか、暮らしはどうだったか、社会の構造など話の種は多岐にわたり質問が尽きることはなかった。
今まで見聞きした情報、それらから推測したことの裏付けが取れたことで、俺の心は幾分か余裕を取り戻した。地縛神? なにそれ美味しいの?
(……さすがに、未来の世界で再登場! ってのはないよな?)
終わっている物語、必要のない設定のはず。……ここで考えるのをやめる。これ以上考えても何の得にもならない。
「……1つ、聞きたいことがあるんだ」
「? 何だ改まって」
俺が紅茶を飲み終わったタイミングで、秀が真剣な、あるいは心配そうな顔つきで問いかけてきた。
「帰りたいと、思うかい?」
当然の疑問だった。帰りたい。帰りたいはずだ。
「………」
なのに、俺はそれ以降言葉を発することができなかった。
翌日、俺はまたあっちの世界の夢を見た。昨日と同じ夢を見る自分に少し呆れた。乙女か俺は。
早朝に目が覚め眠れなかったため、この島の探検をしようと寮を出て歩いていた。
「……ふー」
遊司たちと会った場所に腰掛け海を眺める。気分は一向に晴れる様子がなかった。これがホームシックか、とも思ったが何か違う気がする。何か、こう、心に燻るモノがあるのだ。
あの後、秀とのお茶会はそこでお開きとなった。「愚問だったね。すまない」と、彼の言葉と表情に俺は引き攣った笑みしか返せなかった気がする。
心のどこかで思っていたのだろう。帰れないかもしれない、帰れない可能性が高いと。燻るモノが心の中に出来始めたのもそのときからだった。一体なんだというのか。
「……真?」
訳がわからず唸っていると、後ろから声を掛けられた。
振り向いた瞬間、俺は驚くと共に、振り向いたことを若干後悔した。見るべきではなかったと。
そこに居たのは、あの明るい性格とは違い暗い雰囲気を纏った龍可だった。見られたくないものを見られてしまったという顔だ。慌てて付けたその笑みは無理をしているように見え、泣いていたのか少し目元が赤く腫れている気がする。
こんな早朝に何故泣いていたのか、俺にはわからない。そして、そのことを問いただすことはしない。
何故なら――
「……よう龍可。座るか?」
俺に女の子を慰めるという器用な真似は、できないから。
「……はは。ありがと」
俺の言葉に驚いたのか目を見開き、軽く笑って俺の隣に腰掛ける龍可。驚く要素があったか?
そのまま俺と龍可は、無言で朝日が眩しい海を眺め続けた。正直気まずいどころの話ではなかった。何か話したほうが良いのか悪いのか。
「……真は、聞かないんだね」
「……聞かないさ」
悩んでいると龍可の方から話を持ちかけてきた。その言葉に肩を竦める。聞かないのではなく、聞けないの間違いだ。俺に、そんな資格があるのだろうか? 彼女の悲しみ聞くという、そんなある筈もない資格が。
「……そっか。ありがと」
そう言って笑う龍可に、俺は自分の無力さを再認識させられた気分だった。そして、燻っていたモノをより実感した気がした。
(ああ、そうか)
きっとこの燻っていた思いは――
(怒り、か)
自分への怒り。あの世界でもこの世界でも、無力な自分の情けなさに対しての怒りだったんだ。
そこから何を話したかは覚えていない。いつの間にか龍可はいなくなり、俺だけが残っていた。
そろそろ戻ろうと立ち上がり、海を背にこの場を去る。まだ心の中で燻っている怒り。どうしたら良いのかわからない。……聞くべき、だったのだろうか?
(……まったく、俺って奴は――)
その瞬間、誰かが俺の横を擦違った。
(――っ!!)
怒りも思考も何もかも、すれ違った者から感じた
反射的に振り向くもそこには誰かが居た痕跡はなく、ただ歩いてきた風景が目の前にあるのみ。
(女、の子?)
目の端に捕らえていたのは女の子らしき姿。容姿は見えなかったが、身長から自分より年下かもしれない。だが、あれはなんだ? 背筋が凍るほどの恐怖でもなければ、強者特有の威圧感でもない。そんな単純なモノではなく、ただ時が止まったとかいきなりの重圧とか、そんな超常現象的な気配。
遊司たちが声を掛けてくれるまで、俺はそこから一歩も動けなかった。
今回のおまけ NG
「……ウフフ、待っていなさい遊司あん畜生。私のお兄様を裏切った罪は……重過ぎて奈落に真っ逆さまの刑、ですわよ?」
そこににこやかさなどはまったくない。遊司が刑を執行されたところでも想像しているのだろうか、彼女の足はスキップを刻み去っていった。
その様子を、彼女の反対側の廊下の影からこっそり見ていた俺、真はつい小声で言う。
「……こりゃあ、荒れるでえ……!」
あんな不安しか煽らないスキップは初めて見たと思いながら、腰を上げて秀の部y――
「――見ましたわね?」
「うおあ!?」
「うふふふふふ……」
「え、いや、えっとお!?」
「うふふふふふふふ、うふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!」
「いやああああああああああああああ!?」
「おや? 部屋の外で我が親友の悲鳴が聞こえたような。……気のせいかな?」