秀「就活生は大変だね。僕たちにはまだ先の話だけど」
作者「でも君ら基本的に大学行かないで、即プロを目指してるんじゃないの?」
秀「そう言って入って来る人がほとんどなのは事実だけど、実は次第に気持ちが変わる人も多いんだ」
作者「と言うと?」
秀「プロは安定しないからね。今ここはI2社が仕切っているから、そちらに就職する人も多いし、その系列の大学を目指す人もいるんだよ」
作者「へー。昔はKCに行く人は少なかったんかね」
秀「あそこは入社試験の難易度が高すぎたのさ。今でこそそうでもないけど、前社長が殉職して以降、KCは随分衰えてしまったからね。そこを目指す人もいるけど多くはないんだ」
作者「あの人が社長じゃそりゃ簡単に入社できるはずもないか。ってなんか真面目な話になってる!?」
秀「ところで就活って秀が勝つって聞こえないかい?」
作者「唐突に何言ってんの!?」
秀「ハハハハ! みんな就活は計画的にね!」キラッ☆
ギャラリー「「「「キャー!」」」」
作者「余計なお世話だ! ってかギャラリーどこから湧いて出た!?」
秀「じゃあねみんな! 今日は僕の妹が活躍するよ! アディオス!」
さてみんな。理不尽、って言葉があるだろう? 道理をつくさないこと。道理に合わないこと。そんな意味を持つ言葉だ。みんなはどんな時に理不尽だって感じる? 例えば、ちゃんと宿題をやってそのあと出かけたのに帰ってきたら有無を言わさず母親に宿題しろって怒られた時とか。他には、友達に会ったので声をかけたら急に殴られたとか。カードパックを5つも箱買いしたのに狙っていたレアでもないカードが1枚も当らないとか。まあ、そんなところだろう。
「何をしてますの!? あなたのターンですわよ!!」
「あ、ああ……」
そして今の俺は心からそう叫びたい。いや、これはもっとこう、最悪だと自分の運命を罵るような言葉の方があっているかもしれない。それにこの場の状況を考えると叫ぶのもどうかと思う。つまり深くため息をつく感じの絶望の言葉こそがあっているだろう。
そう例えば某ツンツン頭の少年のように、盛大にため息をついて幸せを逃がしながら。
「……不幸だ」
とか。
「ようやく終わったな。……おい、いい加減起きろ!」
「ゴフッ!? ……な、おまっ、もう少しマシな起こしかたないのかよ……」
4時限目の授業が終わり、時刻は12時30分。昼飯時だ。熟睡していた真の鳩尾を軽くたたいて(殴って)とっとと現実に引き戻してやる。
「早く行かないと龍可たちに怒られるからな」
「逆にもっと深い眠りについちまうわ!」
「ははは。それくらいちゃんと加減するって。こう、手をクイッと」
「なにその無駄スキル」
俺が手首を返す動きを見せると、真が恐怖と呆れの混じった顔で俺を見るがそこは華麗にスルー。
「ほら、早く行くぞ」
「……はあ、そうだな。レディを待たせるわけにはいかないしな!」
諦めたように1つため息をつくと真はすぐに平常運転に戻った。ブレないな、ほんと。
真と一緒に向かうのは学食だ。この時間、龍可と光は授業を取ってないので、いつも先に学食に行って席をとってくれているのだ。
「っていうかさ、なんで錬金術なんていう不思議授業があるんだ?」
「さあ。確かデュエルモンスターズとは切っても切れない関係にあるかららしいけど、ぶっちゃけよくわかんねえ」
先ほどまで受けていた選択授業である錬金術について真に聞かれるが、正直俺もよくわかってない。ずいぶん昔からやってるらしいけど、実際どうなのか。デュエルアカデミアの七不思議である。ちなみに10個以上あるそうだ。全部は知らないし詳細は省くけど。
「まさかいずれ、俺も陣を描けば錬金術が可能に……!?」
「いやそれはない」
他愛もない話をしながら、俺は真の様子を窺う。今朝、なぜか日課となってしまった光たちとの朝の体操をするため、いつものようにあのお気に入りの場所まで向かったのだが、そこで立ちすくんでいる真を発見したのだ。その時は適当にはぐらかされてしまったが、俺にはその時の真が、どこか無理をしているように見えた。
そしてもう1人、龍可も真をどこか気まずげに見ていた。まるで悪いことをしてしまったとでも言うように。
(2人に何かあったのか? でも今はそんな様子はない、よな。いったいなんだったんだ?)
「ん? どうした遊司」
ずっと見られていたことに気付いた真が首を傾げる。そんな様子に、とりあえず今はそのことは頭の片隅にでも追いやっておくことにした。ただの勘違いや思い過ごしかもしれないし、もしそうじゃなくても、誰にだって言いたくないことくらいあるだろうから。
「いや、なんでもない。早く行こう」
「おう!」
それにいつか、真の方から話してくれるかもしれない。それくらい信頼を持てるようになれれば、きっと。
「そろそろ授業も終わったころだね」
学食に備え付けの時計を確認して呟く。学食で4人分の席を確保しているのだが、すぐ戻ると言って光ちゃんが席を外してしまい、今は私1人だ。Dパット――デュエルアカデミアで生徒たちに配られる携帯端末。携帯電話と同じ機能に加え、デュエルの戦績やカードデータ、DPの処理などが行える――を手に持っていたから、たぶんメールか電話でもあったのだろう。
「……はあ」
(……なんか、1人でいると、だめだな……)
机に突っ伏して、何を見るでもなく虚空を見つめる。どうにも1人の時はいつものように振舞えない。気を紛らわすことができないからだ。
誰かと一緒にいれば、その人を気にしていればいい。困っているなら力になりたいし、笑っているなら一緒に笑っていられる。普段から勢いに任せて少しテンションを上げているのもそのためだ。デュエルアカデミアに入って、遊司と話すようになって、すぐそうするようになった。
しかし1人ではそうもいかない。1人でいるといつも
(私って、こんなに弱かったんだ……)
寝ていても、悪夢ばかり見る。朝はいつも汗だくで、泣いてしまうこともあった。今朝もそれで、いつもみんなと行くあの場所に向かったのだ。あの場所なら、笑顔の思い出しかないあの場所なら、少しは落ち着けると思ったから。
そしてそこで、真に会った。
思わずその名を呟いてしまい、気付かれてしまった時は焦った。慌てて笑顔を作ったが、直前まで泣いていたあの顔を隠せたとは思えない。きっと心配されるだろうと思った。どうしたんだって聞かれると思った。そして、それがすごく怖かった。まだ、だれにも触れてほしくないことだったから。
だけど真は何も指摘せず、何も聞かず、ただ一緒にいてくれた。それがどれだけ安心できたか、きっと真はわかっていないだろう。去り際、真はどこかぼうっとしていて、その眼は私の方を向いても私を見てはいなかった。もしかしたら、自分のことを不甲斐ないと思っていたのかもしれない。だけどあの時の私にとって、真が傍にいてくれたことが何よりも助けになっていたのだ。だから、きっとあの時はちゃんと聞こえていなかったお礼を、もう1度伝えたい。
(そういえば、真はなんであんな朝早くにあの場所にいたのかな)
思い返すと、あの時は自分のことで精いっぱいで気付かなかったが、真もどこか表情が暗かったように思う。真は真で何か悩みがあるのだろうか。
「もしそうなら、私も力になりたいな」
私がそうであるように、真も簡単に触れてほしくはない何かを抱えているのかもしれない。だとしたら、私はすぐに何かをするべきではないのだろう。真がしてくれたように、私もただ真と一緒にいよう。それはただの傷の舐めあいで、前進なんかしないことかもしれないけど、でもそれでもきっと意味はあるから。
「お待たせしました。……って、龍可さん? どうかしましたか?」
気付けば、いつの間にか光ちゃんが戻ってきていた。
……さて。
「うう……、光ちゃんがいなくて寂しかったよー!」
「ふわ!? え、ちょっ、龍可さん!?」
光ちゃんが戻ってきた以上、センチメンタルに悩んでる姿なんかとはさよならだ。いつもの私に戻らなきゃね。っていうか光ちゃんの前でうじうじ悩んでる暇なんかない。光ちゃんへのこの抑えきれない愛という名の愛だけは完全に素だからね!
飛びつくように抱き着いて腕の中の感触を楽しみながら頭を撫でる。もう半ば無意識のうちにやってしまうのだから光ちゃんの魅力というのは恐ろしい。
「ひゃっ! ちょ、龍可さん! 変なところ触らないでください! みんな見てますから! 恥ずかしいですくすぐったいです~!!」
「光ちゃんが何か言った気がするが私のログには何もなかったのだ~♪」
「聞こえてるじゃないですかー!!」
「ゴフッ!?」
光ちゃんの渾身の頭突きが頭にクリーンヒットした。この私が光ちゃんから離されてしまうとは、世界が狙える素晴らしい頭突きだと記しておこう。真、君もこれをくらったんだね……。
「もう! 龍可さんはいつもふざけすぎです!」
「あはは。ごめんごめん!」
「本当に反省してます!?」
平謝りしながら再び光ちゃんの頭を撫でる。文句を言いながらもどこか気持ちよさそうにしているのがもう可愛くて仕方がないが、ここはグッと堪える。怒られた直後にまた同じことをするわけにもいくまい。
(何にしても、これで光ちゃんも気がまぎれたかな。なんとなくだけど、さっきの光ちゃん、少し表情が暗かったし、ね)
「龍可さん! ちゃんと聞いてますか!?」
「もちろん♪ いくらでも撫でてあげるよ?」
「何も聞いてない!?」
やっぱり光ちゃんと一緒にいると楽しいなあ♪
それにしても。うう……、額が痛い……。真の時もそうだったけど、これもう光ちゃんの特技でいいんじゃないかな。
「……受けよ、これぞ、光スペシャル。あ、なんかそれっぽい」
「何の話ですか!?」
「………」
「……なあ、遊司」
「……なんだ?」
「行くなら今じゃないか」
「……そうだな」
楽しげな2人の様子を学食の入り口から見守りながら俺と遊司は出ていく決意をした。いったいあの2人は何をやっているんだか。学食に入ったら龍可が光に飛びついて撫でまわして頭突きされて謝ってまた撫でてコントが始まって、ってタイミング掴みづらいわ!
「あいつらはいったい何やってんだか……」
なんというか、みんなのキャラ性というものが分かってきた気がする。もう龍可のイメージなんか吹っ飛んじまったけど。
「あ、2人とも遅いよ!」
「悪い。しかし半分はお前のせいだ」
俺たちに気付いた龍可が腰に手を当てて叱ってくるが、ズバッと渾身の突っ込みをする遊司。俺もうんうんと頷いて同意する。
しかし、ここからが龍可の本領発揮だった!
「なんで? ……は! まさか私と光ちゃんのいちゃいちゃを陰から眺めていた!?」
「その通りだが眺めていたのはただのコントだ」
「遊司と秀には負けるよ」
「んなっ、どういう意味だ!? あとこの場にいないやつを出すなよ!」
「甘いね! 僕はいつだって君の近くにいるよ!」
「どっから湧いて出た!?」
「ふっふっふっ。2人の関係がついにばれちゃったわね」
「いつも遊司さんの傍に? ま、まさか2人はそういう関係で!?」
「ああ。前から怪しいとは思ってた」
「龍可てめえ! 光に変なこと吹き込むな! そして真も適当に乗っていんじゃねー!!」
「「「「キャー! 秀さんこっち向いてー!」」」」
「はははは! みんなありがとう! 僕はみんなのための秀であり続けるよ!」(ビシッ)
「うっさいわ! お前も今すぐ帰れ!!」
「つれないねえ。では、アディオス!」
「素直に帰った!?」
「おっと。忘れてた」
「と思ったら戻ってきた!?」
「真ー!」
「秀ー!」
「「へーい!」」(ハイタッチ)
「お前らいったい何なの!?」
「では今度こそ。またね遊司!」
「「「「羨ましいっ! 空羽許すまじ、慈悲はない」」」」
「俺がいったいなにをしたああああああ!?」
「遊司は大切なものを盗んでいきました。それは、秀の心です」
「なっ、真てめ!?」
「「「「キャー!!♪」」」」(龍可含む)
「ゆ、遊司さん……」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!」
いったい誰がいつ発動したのか、
「疲れた……」
「だ、大丈夫ですか?」
机に突っ伏して抜け殻となった遊司に光が心配そうに声をかける。しかし遊司はうめき声かどうかも判別できないような声で答えるだけだった。さすがに同情……ないな。
「ほら、元気出して! 昼食取って来るけど、何がいい?」
「……任せる……」
「じゃあ、撃甘ホーットケーキ・ティアラミススペシャルで――」
「カレー普通盛りで」
「オッケー♪」
おい龍可やめろ。これ以上遊司をいじってやるな。そしてその撃甘って、
視線で訴えてみると龍可もそのつもりようで肩をすくめて苦笑いで返した。
「光ちゃんは何がいい? 取って来るよ?」
「え、そんないいですよ! ちゃんと自分で……」
「もう。わかってないなあ。光ちゃんは遊司についていてあげて! ちゃんとポイント稼がなくちゃ」
「る、龍可さんっ!!」
遠慮した光ちゃんに即座にダイレクトアタックをかましてケラケラ笑う龍可。光ちゃんの前だとテンション高いなほんと。そんな龍可にため息1つ、俺はその頭を軽く小突いて黙らせる。
「俺たちで行ってくるから、何がいい?」
「そう、ですか? すみません。……じゃあ、ミートパスタでお願いします」
龍可の抗議の視線を華麗にスルーして手早く光ちゃんに聞くと、申し訳そうにしながらも答えてくれた。
「わかった。行くぞ龍可」
「ん。了解!」
踵を返して券売機の方へ向かうと、龍可もすぐに追ってきた。どうやらさっきのことは特に気にしていないようだ。
「しっかし、昼でもここはあんまり人いないな」
「大体の人は寮の食堂に行くからね。ここは校舎から近いけどDPかかっちゃうし」
龍可の説明を聞き、納得する。寮の食堂は無料なのだ。DPはカードの購入に使えるし、むやみに使いたくはない。だからわざわざ寮まで戻って昼食を食べるのだろう。
ま、俺たちは単純に一緒に食べたいからここにくるんだけど。寮の食堂は他の寮生に飯でないし。そもそもオベリスクブルーの食堂の料理って金掛かってそうなものばかりで庶民な俺には合わないんだよな。どちらかと言えばオシリスレッドの方があってるかもしれん。いや朝食と夕食はオベリスクブルーで食べてるけどさ。
「そういえば、今日の授業の時眠そうにしてたけど、大丈夫?」
龍可は俺の顔を覗くように首を傾げて聞いてくる。龍可とは1限と3限で一緒に授業を受けていたのでその時のことを言っているのだろう。
「ああ、遊司に鳩尾殴られた」
「なんで!? というかそのウィークポイントはもはやネタですか」
「そんなものにした覚えはねえよ!」
泣いて否定するが本当に龍可の言う通りのような気がしてきた。ま、まさかこれからも何かあるたびに鳩尾に……。
「い、いや、しかし……。そんな、馬鹿な……っ!」
「受け入れるのだ。少年」
龍可が悪魔のささやきによって思考を誘導しようとしてくる。そうだと頭で分かっているのに、もはや切り替えることができない。
「う、嘘だっ、そんなの嘘だ!」
「あ、真!」
あの苦しみが繰り返されるという恐怖に思わず走り出すと、慌てた龍可が左手で俺の右手を掴んだ。しかしそれがいけなかった。
「うわ!」
「え、きゃ!?」
走り出した直後に止められたことによってバランスを崩し、龍可を引っ張るように倒れる。そして龍可は咄嗟に右手を前に突出し。
「ゴッフ!?」
仰向けに倒れた俺の鳩尾に龍可の右ストレートが綺麗に鳩尾に入った。急激な苦しみに意識が飛びそうになる。
「わ、ご、ごめん!」
龍可はすぐに手をひっこめてくれるが、あまりの痛みに俺は蹲るしかない。
「だ、大丈夫?」
「ぐふっ。もはや……避けられない、運命だとでも、言う、の、か……」
心配そうにかけてくれた声に、俺は絞り出すように答える。すると龍可は急にまじめそうに顔を引き締め。
「少年よ。これが絶望だ」
と告げた。
……え、それ確かにネタだけど、それお前がネタにしていいのかよ。あの人が不憫すぎんだろ。
「で、なんでそんなことに?」
気を取り直して話を戻す龍可。おい、少しは労われや。
「いや、早く起きろと……」
「うわー。遊司も容赦ないなー」
腹を押さえつつ、ゆっくりと立ち上がりながら答える俺に龍可は苦笑する。
「容赦なさすぎだろ。俺に何か恨みでもあるのかよ」
言いながら短い間ではあるが遊司との思い出をたどる。空から強襲して海に落として、罵り合ってデュエルして和解して、突っ込み属性らしいことが分かったので全力でボケにまわって、弄りまわしてツッコミされて……。
「うん。何もないな」
「うん。たくさんありそうだね」
「「え」」
龍可と俺の間に深刻な認識の差がありそうだった。
友達に精神をガリガリ削られた今日この頃。そんな日常が当たり前になったのはいったいいつのころだったろう。俺がツッコミ属性だなんて、いったい誰が決めたんだろう。……ああ、俺か。ふふ……。もう疲れたよ。パト〇ッシュ。もう、ゴールしてもいいよね……。
「遊司さん!? 現実に、現実に戻ってきてください~!」
「ヘッブシ!? は! 俺は今何を考えていた!?」
「重症すぎるなおい。……あれおかしいな。遊司の後ろに犬と女の子の幻影が」
「私も見えた。やりすぎた、かな」
死んだ目で虚空に手を伸ばし始めた遊司さんを思わず叩いてしまったけど、どうやら正気に戻ってくれたみたい。よかった~。
「ほら、お前の分のカレーだ。DPは倍で払ってくれればいいぜ」
「どこの悪徳金融だお前は」
さすが遊司さん。起きてすぐなのになんてツッコミの切れ味。って違う!
「はい光ちゃん♪ ミートパスタとお水とデザートのプディンセス・ショコラ・ア・ラ・モードだよ」
「え、あの、頼んだ覚えのないものが……」
龍可さんが持ってきてくれたお盆の上にはミートパスタと一緒にショートサイズのはずなのに普通のそれより二回りは大きなケーキが乗っていた。これ確か1日数個しか売られない限定品じゃあ。
「あ、それは私の奢り。っていうかもう全部奢っちゃう!」
「ちょ!? それはさすがに悪いですよ! ちゃんと払います!」
「えー」
「えー、じゃないです!」
なんだか最近龍可さんの愛が重いです。なんとか説得し、Dパットを使ってDPを渡す。ミートパスタの分とデザートの値段の半分。
「あれ、半分?」
「これは龍可さんが勝手に持ってきたんですから、ちゃんと責任とってください。私はそんなに食べきれないですから」
本当に食べきれそうにない。もともと少食だし。それに龍可さんが買ったのだからちゃんと龍可さんにも食べてほしい。手に入れるのが難しい限定なのだし、次いつ手に入るかわからないのだ。
そんな思いで出した提案だが、龍可さんの返事がない。どうしたのかと龍可さんを見てみると、体を震わせて何かを耐えている龍可さんがいた。……え。
「龍可ちゃんありがとううううう!!」
「またああああああ!?」
また飛びつかれて抱きしめられて撫でまわされた。は、速すぎる……、何て反応速度。これが龍可さんの力……っ! って違う!
「ひゃっ! ちょ、龍可さん! 変なところ触らないでください! みんな見てますから! 恥ずかしいですくすぐったいです~!! ってさっきも同じこと言った気が!?」
「光ちゃんが何か言った気がするが私のログには以下略~♪」
「いい加減にせい!」
「びゃ!?」
遊司さんのツッコミチョップが龍可さんに炸裂した。そのおかげで龍可さんの動きが止まり、その隙に何とかそこから抜け出す。
「うう……。もう遊司! レディにはもっと優しくしないと駄目なんだよ!」
「大丈夫だ。お前は特別だ」
「そこだけ取れば大胆発現なのに何も嬉しくない!?」
……は! この会話をつづけさせるとまた混沌空間が発動する可能性が!
慌ててこの場を治めてくれる誰かを探すと真さんと目が合った。とてもいい笑顔でサムズアップしてきたので、きっと同じ可能性に思い至ってくれたのだろう。やっぱり真さんは大事な場面では頼りなる。
「龍可。俺はお前の味方だぜ!」
「真!」
「真さんを頼った私が馬鹿でした!」
真面目な顔で意味不明な参戦をした真さんに代わり、なんとかその場を諌める。龍可さんが微笑ましげに私を見ていたのが印象的だった。いい加減怖いです。
「光……」
そしてなんだか遊司さんが仲間を見る眼で私を見ていた。なんでだろう。嬉しいはずなのに全然嬉しくない。
結局一向に話は進まず、途中で時間がギリギリなことに気付いた。なおかつ5限目は私しかとっていない。私だけが慌ててご飯をかき込むという理不尽な展開が私を待っていた。
もしかしたら、混沌空間はすでに発動していたのかもしれない。
5限目が終わり、光も帰ってきたところで今日の俺たちの授業は全て終わった。真と龍可はなんだかいい笑顔で俺と光はどこか疲れた顔をしているあたり、このグループ内での役は確立してしまったのかもしれない。
「さて、放課後なわけだが、これからどうする?」
「う~ん。ぶっちゃけやることがないな」
デュエルアカデミアは孤島なので周りに何もない。だからこういう時には不便だ。デュエルすれば、と言われても、毎回それというのも味気ない。
「いっそ火山でも登ってみるか。ピクニック気分で」
「それ休みの日にやる事だろ」
言われてみればその通りだ。
「なら今日の3限目で出てた宿題でもみんなでやりませんか?」
「勉強会か、いいかもな」
今日の3限目は数学で、俺たちは全員同じクラスなのだ。確か、結構な量の宿題が出ていたはずだ。
「え、宿題なんか出てたの?」
「真……」
ああ、そういやこいつ3限目からすでに限界っぽかったからな。
「なら丁度いいな。ほとんど寝て過ごしてた真に、今日の授業をレクチャーしてやってもいいし」
「あ、それ面白そう!」
「ちゃんと教えてくれそうなのが光ちゃんしかいないという罠」
真の失礼な発言に、俺と龍可は目を逸らすことで答えた。真は顔を引きつらせるが、容赦する気はない。
と、その時だった。
「見つけましたわよ!」
「ん?」
廊下の向こう側に金髪縦ロールな美少女が1人、俺を指差して立っていた。って、俺?
「……は! 忘れてた!」
突然真が目を見開いて何かに気付く。どうやらこの状況に心当たりがあるようだった。
「忘れてた? 真、何か知ってるのか?」
「っ、……遊司、今度ドローパン奢ってやるぜ。スィーユーネクストタイム!」
「は?」
真は一瞬辛そうな顔をした後、意味不明なことを言ってダッシュで去っていった。なんか動作の全てがわざとっぽくて何も信用できないんだが。いったいどういうことだ?
「空羽遊司! オベリスクブルー専用の第一デュエル場で待っていますわ! 逃げたら承知しませんわよ!」
「へ? あ、ちょ」
縦ロールさんもこちらの話を聞く気はないのか、用件だけ述べると踵を返しツカツカと早足で去って行った。おそらく宣言通り、第一デュエル場に向かったのだろう。
(いったい何がどういうことだ? つかあの子どっかで見たことあるような……)
「……ああ。なるほどね」
「む。龍可、何か分かったのか! 教えてくれ!」
龍可はどうやらこの状況に察しがついたようだ。龍可は神妙に頷き、そして笑顔で俺を見た。
「だが断る!」
「言うと思ったよ!」
まったく使い物にならなかった。今回も龍可は平常運転である。
「はあ。光は何か知ってるか?」
「すみません。私は何も……」
「そっか。あ、気にするなよ」
申し訳なさそうに光は言うが、光は何も悪くない。悪いのは全部真と龍可だ。
「……まあ何にしても、行くしかないか」
言われた通りにデュエル場に向かうと、やはり彼女は先に来ていた。予想はしていたが、デュエルリングの片側に立っているあたり、どうやらデュエルがお望みらしい。
「……ふん! 逃げずに良く来ましたわね!」
「いや、逃げる理由も特になかったしな」
挑発してくる彼女に適当にかえしつつ、ギャラリーを確認する。
(えーと、龍可と光は当然として真も合流してやがるな。後は……、ん? 秀?)
するとその中に秀がいた。なんか首を傾げているが、あいつは知っていたからここにいるんじゃないのか?
(ってかそうだ。思い出した。この金髪縦ロール美少女って秀の妹じゃん!)
「逃げる理由はない、ですって!? この私など相手にならないと!? それとも罪の意識がないのかしら!?」
「は? 罪?」
俺の返事が気に食わなかったらしい妹さん――ええと確か、瑠奈、だったか?――が食って掛かる。一応デュエルリングには上がっておくが、罪っていったい何のことだ?
「……呆れましたわね。そんなことでよくもお兄様を……っ、この私とデュエルなさい!」
顔を真っ赤にして憤怒の顔を向けてくる。どうやら再び逆鱗に触れてしまったらしい。と言われても俺には何がなんだかさっぱりだ。
「お前、確か秀の妹の瑠奈、だよな。よくもお兄様をって……、俺なんかしたっけ?」
言った瞬間、瑠奈の顔から表情が消えた。
「しらばっくれるおつもりですの? ええ、そうですか。わかりました。……もう許しませんわ」
「え!? いや、そういうことじゃなくて!」
ゴゴゴという音が聞こえてきそうなほど怒り狂っているのが分かる。なんか後ろに炎が見えるし。慌てて誤解を解こうとするが、もはやそんな暇はなかった。
「お黙りなさいっ!
「え、わ、デ、デュエル! ってなんか今ニュアンスがすごいことになってなかったか!?」
思わずデュエルディスクを起動させてしまったが、正直もう全力で逃げ出したいです。
(うわー。予想はしてたとはいえ、これほどとは。遊司マジごめん)
あらかじめドローパンを買う用意はできている。流石にこれは謝らなければいけないだろう。
「で、真。これってやっぱりあの新聞が原因?」
「ん? 龍可か。光ちゃんも」
観客席で遊司たちの様子を見ているといつの間にか龍可たちが傍まで来ていた。やっぱりってことは龍可は予想がついたんだな。
「ああ。昨日、秀のとこに行ったときに偶然2人の会話が聞こえたんだが、秀の奴、妹が勘違いしてることに全く気付いてなくてな。その結果があれだ」
「なるほどね。あの子よく思考が暴走するからなあ」
ん? あの子? 知り合いなのだろうか。
「今の言い方、もしかしてあの妹のこと知ってたのか?」
龍可の言い方が気になって聞くと、龍可は苦笑しながら答えた。
「うん。あの子、瑠奈ってなんでかよく私に突っかかって来るの。私としては仲良くしたいんだけどね」
そうだったのか。それなら、確かにすぐ予想できるわな。
「あの、私は全然ついて行けてないんですが……」
「あ! ごめんごめん! えっとね、まず新聞のことだけど――」
おずおずと手を上げた光ちゃんに龍可が慌てて説明し始めた。さて、説明は龍可に任せて、俺はデュエルの方でも見てようかな。
先に動いたのは瑠奈。ということは先攻は瑠奈か。さて、どんなデュエルをするのか。
「私から行きますわ! 私はトリオンの蠱惑魔を召喚! 効果発動ですわ!」
彼女が召喚したのは触角を頭につけた可愛げな少女……って。
(トリオン!? うわ、これは……)
トリオンの蟲惑魔
星4 地属性 昆虫族
攻撃力1600 守備力1200
このカードは「ホール」または「落とし穴」と名のついた通常罠カードの効果を受けない。
このカードが召喚に成功した時、デッキから「ホール」または「落とし穴」と名のついた通常罠カード1枚を手札に加える事ができる。
また、このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。
「デッキから『ホール』または『落とし穴』と名のつく通常罠カード1枚を手札に加える事ができる。私が加えるのは奈落の落とし穴ですわ!」
宣言しながら瑠奈はデッキから加えたカードを遊司に見せた。そこに描かれたイラストは、奈落に落ちていく悪魔の姿。
奈落の落とし穴
罠
相手が攻撃力1500以上のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動できる。
その攻撃力1500以上のモンスターを破壊し除外する。
「げえ!?」
誰でもそうするであろう嫌なものを見た顔をした遊司に、瑠奈は笑顔を向ける。
「ふふふ。簡単には殺りません。じっくりねっとり甚振ってあげます……!」
ゾクッ!
一瞬、俺まで背筋が凍った。正面からあれを向けられた遊司は完全に逃げ腰だ。一体どれくらい恐かったのか……、想像したくもないな。
瑠奈は手札を2枚とり、デュエルディスクに差し込む。
「カードを2枚セット! これでターンエンドですわ!」
いやーな笑顔で瑠奈はターンを終了する。あのどちらか片方は十中八九奈落の落とし穴か。
「うわー。こうなると精神的にきっついな」
「奈落の落とし穴が伏せてあるのはわかってるけど、だからってそう簡単に対処できるわけじゃないしね」
攻撃力1500以上のモンスターなら即退場。しかも除外。動きは遅れるし、致命的なことになりやすい。奈落探知機で有名な魔導戦士ブレイカーでもいれば良いのかもしれないが、遊司のデッキにそれはない。致命的なモンスターでない限りは使わないという選択肢もある以上、上級モンスターを狙い撃ちされるのは必然だ。
さて、奈落相手に遊司はどう出る。
遊司は厳しい顔を見せるもすぐ真っ直ぐに前を見てデッキに手をかけた。
「俺のターン。ドロー!」
ドローしたカードを確認し、それを手札に加える。
「……ふむ」
思考は一瞬。遊司は手札を1枚とり、それをデュエルディスクに差し込んだ。
「俺は手札から永続魔法、神の居城-ヴァルハラを発動! そして効果発動だ!」
「ここで、ヴァルハラを使った……!?」
天使たちの降臨させる荘厳な神殿が遊司の後ろに出現する中、思わずといったように光ちゃんが叫ぶ。ヴァルハラは自分の場にモンスターがなければ手札の天使族をそのレベルに関係なく特殊召喚できるカード。すなわち、その真価は高レベルモンスターをアドバンテージの損失無く特殊召喚できる点にある。つまり、もちろん例外はあるがそのほとんどが攻撃力1500以上のモンスターとなるのだ。そしてそれは相手の伏せている奈落の落とし穴の射程圏内ということでもある。故に今ヴァルハラを発動するというのは不可解だ。
「奈落がある状況でいったい何を出すつもりだ?」
下手に上級モンスターを出せば、即奈落行き。しかも上級モンスターなら十分にキーカード足り得る力を持っているだろう。それを失うのは大きい。もし囮のモンスターを出すのだとしても、それは相手にとって脅威になるものでなければならない。
この状況で遊司はいったい何を出そうというのか。そんな疑問、あるいは期待のこもった視線の中、遊司は1枚の大天使を見せつけた。
「特殊召喚するのは、こいつだ! 神域より姿を現せ! マスター・ヒュペリオン!」
天空より神殿へと降り注ぐ光の中舞い降りたのは、黄金の鎧を身に纏い炎の翼を持つ代行者たちの主。絶対の力を持つ太陽を司る大天使が降臨した。って、は!?
「ええー!?」
出てきたのはレベル8のフィールドのカードを破壊する能力を持つモンスター。
「ふん! 何を出すかと思えば……、罠発動! 奈落の落とし穴! マスター・ヒュペリオンには退場願います!」
そんな脅威となるモンスターを見逃すはずもなく、瑠奈は即座に伏せていた奈落を発動。ヒュペリオンはフィールドに降り立つとともに奈落に引きずり込まれていった。
おいおい。まだ条件が整っていなかったとはいえ、フィールド上のあらゆるカードを破壊する能力を持つヒュペリオンを無駄撃ちって、どういうことだ?
さすがに呆れながら遊司を見る。だが――
「……!」
「俺はモンスターをセット。さらにカードを2枚セットし、ターンエンドだ」
淡々とカードを伏せていき、遊司はターンを終了する。そんな遊司に光ちゃんや龍可は困惑を隠しきれないでいた。
「ああもう、遊司ったら何やってるのよ。……真? どうしたの?」
龍可は急に反応を示さなかった俺を訝しむ。俺はそれに応えるため、口を開いた。
「……今、遊司のやつ――」
「笑ってたね」
「うわ!?」
突如、誰もいなかったはずの右隣から声をかけられ、全力で飛び上がってしまった。
「秀さん!? いつの間に!?」
そこにいたのは事の元凶の1人たる秀だった。秀は未だに跳びあがった体勢のまま唖然としている俺にかまわず、いつものように周囲にキラキラをまき散らしながら「たった今さ!」とポーズをとる。なんて奴だ。
「それよりも、どうやら今のところ遊司の計算通りみたいだね」
「え?」
そして途端に真面目モードに突入。本当にマイペースな奴である。俺は諦めて元の場所に戻り、話を聞くことにする。
「それって、奈落の落とし穴で破壊されてしまうことが分かった上で、マスター・ヒュペリオンを出したってことですか?」
「そうでなければ遊司があんなことをするとは思えないからね。ね、真?」
秀に話を振られ、俺もさっきの光景を思い出しながらそれに応える。
「ああ。確かに遊司はヒュペリオンが消えた時、笑ってた」
奈落に落ちていくヒュペリオンの方に目が行っていたし、ほんの一瞬の事ではあった。だが確かに遊司はあの時、笑っていた。
「! じゃあ、わざと奈落の落とし穴を使わせたってこと?」
「おそらくね。だけどその後、後続の上級モンスターを出さなかった。つまり囮に使ったというわけでもない。さて、何を見せてくれるのかな」
楽しげに遊司を見ながら笑う秀。それはライバルが自分にも予測できないことをしようとしているということに対する期待と誇り故のものだろう。俺も同じ気持ちだからすぐにわかる。
(まったく、楽しませてくれるな。ホントに)
相手の行動を注意深く観察する遊司に、俺は秀と同じ視線を送るのだった。
「……ところで、妹さんを勘違いしたままにした不手際については」
「……遊司には後で謝らないとね」
光のツッコミがせっかくの雰囲気をぶち壊したが、それを咎められるものはそこにはいなかった。
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