女だらけの聖戦士伝説に召喚された 真・恋姫†有双……になるはずが(仮)番外編 作:生甘蕉
「あれがガロウ・ラン……」
たどり着いた先にはすでにガロウ・ランが集結していた。
グライウィングという風の谷の姫姉さまが使用していたような小型飛行機や強獣の上に乗って。
「でかい……」
中でもリーダー格と思われる少女の乗っているルグウは巨大。体長はたしか約40メートルだったはず。
ゲームでは意識しなかったけどなにこの体格差。序盤の敵でこれはありえなくね?
「行くわよ、コウイチ」
いまだ華琳ちゃんの後ろに乗っけてもらってる俺。その言葉に従うしかない。
「う、うん。祭もしっかり掴まっていてね」
「まかせろ」
フェラリオの祭は助けた俺を気に入ってくれたらしく、いつもくっついている。
そんなとこまで同じじゃなくてもいいんだけどな。オーラバトラーにも同乗してくれるんだろうか。
始まった戦闘で俺は吐きそうになった。
P-ドラグーンに酔ったわけではない。生身のガロウ・ランをライフルで撃つことでおかしくなりそうだったからだ。
聖戦士伝説の主人公は、ためらいも無くガロウ・ランを撃っていたけど、俺には……。
ルグウに乗っている少女もなかなか可愛いし、殺したくない。傷つけたくなんかないよ。
それでもなんとか戦い続け、みんなのフォローもあって吐かずにすんだ。
戦闘が終わると秋蘭が4レベルになっていた。
……俺のレベルは上がらなかった。経験値はもらえたのに。
聖戦士伝説では、トドメをささなくても攻撃すればそれだけで経験値がもらえるし――一番大きいのはトドメを差した時だけど――、戦闘が終了すれば参加ボーナスの経験値を参加者全員に与えられる。
つまり、俺はまたトドメを差すことができなかった。そのおかげで吐かずにすんだんだけどさ……。
俺のフォローで忙しかったのか、3騎士もレベルが上がらなかった。ううっ、むこうはレベルを見れないとはいえ、一方的に気まずい。
でも1つわかったことがある。
攻撃した時、俺と華琳ちゃんの増えた経験値が同じだった。俺が1レベルで華琳ちゃんが4レベルなのにもかかわらず。俺のレベルが上がらないほど、少ない経験値だったんで、華琳ちゃん基準になっていると思う。それとも人数で割られているのだろうか?
聖戦士伝説では敵とのレベル差が大きいほど入手する経験値も大きい。
俺の低いレベルに合わせて入手する経験値が大きければ、華琳ちゃんにもメリットがあって、このタンデムをもっと続けられるのに……。
「あらかた片づいたようね。……? あれは……どこの部隊?」
華琳ちゃんが向いた方角から現れたのはオーラバトラー、ゲド1機とオーラボム、ドロ2機。オーラボムは触手の生えた円盤というかクラゲのような空中戦闘艇だ。操縦には数人が必要で性能はオーラバトラーに劣る。
『そこの部隊。ここは麗羽さまの御領地だ。武器を収め、こちらの指示に従え!』
ゲドに内蔵されえていたのか、スピーカー越しのその声。
「……あの声は猪々子ね。面識もあるわ、従いましょう」
よかった。オーラマシンと戦わずにすむらしい。
「……麗羽の領地だと? ここはリの領土だぞ!」
春蘭はおかんむりだったが。
「……ガロウ・ランの討伐ですかー」
茶褐色の地味なゲドのコクピットから降りてきたのは猪々子。やはり少女だ。ボーイッシュな感じがするのは、胸が薄いせいだけではないだろう。
「ええ、急を要していたの。時間が無かったから麗羽に連絡できなかったことは許しなさい」
「いやー、こっちも騒いじまってすみませんした、華琳王さま」
「責務を果たしただけでしょう。気にしないでもいいわ」
「ありがとうございます! これであたい、麗羽さまにおしおきされないで済みます!」
おしおきするのか……。いったいどんな? ちょっと気になる。
バーンのはずの猪々子もこんなだし、麗羽もドレイクのイメージと違うのかもしれないな。
「それで、あの、そっちの男の人はもしかして……」
「恋人、とでも言うつもりかしら?」
え? 俺が華琳ちゃんの恋人?
「やっぱりそうなんですか! あの華琳王が後ろに乗っけてるなんてそれしかないと思ったんですよ!」
「冗談よ」
「……本当ですか? そこんとこはっきりさせてもらわないと、麗羽さまに報告できないです」
隣国の王の恋人って報告する必要あるのかな? ……あるのかもしれん。
「あなたも噂ぐらいは聞いたことがあるでしょう。リの国に伝わる聖戦士の伝承を」
「すると、そのおっ、お兄さんが……」
猪々子、おっさんからお兄さんに言い直してくれてありがとう。でもそんなことされると余計に気になったりする。
「コウイチ……。我が国を救うべく現れた聖戦士よ」
「聖戦士……」
あからさまにまじまじと俺を観察する少女バーン。
いや、信じられないのもわかるけど。
「あたいは猪々子! 聖戦士殿、よろしくな!」
「こちらこそよろしく」
この子が黒騎士になるのか?
「では華琳さま、あたいたちは国境の警備に戻ります。さっきのガロウ・ランが、アの領内に入ると困るんで」
猪々子は慌しく去っていった。
やっぱり元気な子だな。黒は似合いそうにないけど。
城に戻るなり、華琳ちゃんたちにレベルやステータスの説明をすることに。
だけどその前に重要な話があるという。
「オーラマシンのこと?」
「ええ。ラース・ワウで大量にそれらが生産されつつあるわ。そして、麗羽はオーラマシンを各国に売買している」
それは知っている。かなり稼いでいるはずだよ。
「とりあえず確認できたのは、美羽王が治めるクの国」
「自らの主である何進王にも、何体か献上しているようですねー」
稟と風が資料を見ながら教えてくれた。
「あんな強力な兵器が、各国に出回ってるというのか……」
春蘭も驚いている。知らなかったのね。
「そこで、我が国にもオーラマシンを導入するか否か、検討したいのよ。あなたの意見も聞きたいわ」
この選択肢は聞いてくれるか。
よかった。本当によかった……。
「いいかい? この選択はとても大きな意味を持つ」
「ええ。戦力は強化されるでしょうけれど、敵を呼ぶことにもなりかねないわね」
「そうだけど、そうじゃない。これから始まる今までにない大きな戦乱の、終わり方を決める重要な選択肢」
そう。聖戦士伝説においてもっとも大事な選択肢。
オーラマシンを持つか、持たないか。
これによってエンディングは大きく変わる。
「なにを言っているの?」
「いいから聞いて」
信じられないような先の話をする俺に驚きつつも、華琳ちゃんたちは俺の話を聞いてくれた。
「これが俺の知るだいたいの分岐かな。他にもあるけど、今はまだ思い出せない」
その場になれば思い出せるだろう。そんなタイミングでは役に立ちそうにないけれど。
「信じられないわね」
「だよねえ。俺の知ってる話だとみんなのほとんどが名前も性別も違うから、どこまであってるか、俺にもわからない」
「しかし、この後、麗羽殿からガロウ・ラン討伐の書状が届けば証明にはなりますね」
ありがとう稟、信じてくれるのか。
「もしそうなった場合はコウイチさんがリの王ですかー」
「風、おかしなことを言うな。リの王は華琳さまだろう!」
「春蘭、あなた聞いてなかったのね。賢王は死んで、聖戦士に王位を譲るそうよ」
「なんだと貴様!」
俺の襟首を掴む春蘭。
「落ち着きなさい。あくまでそれはコウイチの知る物語の場合よ」
「うん。俺だってそんなことはさせるつもりはない! 華琳ちゃんに死なれてたまるか!」
「コウイチ、あなた今……」
あ、つい、ちゃん付けで呼んじゃった。いつもは華琳王って呼ぶように気をつけているのに。
言いわけしようと焦っていたら、伝令が現れる。
「ラース・ワウより、使者の方がいらっしゃいました」
……嫌な沈黙に包まれる。タイミング悪いなあ、もう。ある意味俺は助かったんだけどさ。
現れた使者は斗詩と名乗った。ガラリア担当だけど、ガラリアと同じく女性。性反転ではなく、全員女性化なのだろうか?
彼女の運んだ書状にはガロウ・ラン残党討伐の協力要請。
華琳ちゃんはこれを受諾した。
「コウイチを信じる要素が1つ増えたわね」
斗詩が去ったあとも会議は続く。むしろこれからが本題。
「信じてくれるなら、要求を断ればよかったのに」
聖戦士伝説では強制イベントだけど、断ることができれば華琳ちゃんは死なずにすむのに。
「それはできないわ。それに、くるとわかっている暗殺を防げなければ、私はそれまでだったというだけ」
「そんな……」
俺はこの女の子に死なれたくなかった。タンデムで密着した状態が長かったせいかもしれない。家族を除けば、俺の人生で一番親しい女性といっていいだろう。失うわけにはいかない。
「華琳さまの命はわたしが守ります!」
「俺だって……」
まだレベルも低く、オーラバトラーもないけどさ。盾になるぐらいはできるはずだ。
「コウイチはもう1人で乗れるわね? でないと連れていかないわ」
「わかった……まさか、俺を暗殺に巻き込まないために?」
「違うわ。足手まといと一緒じゃ、かわせる攻撃もかわせなくなるもの」
本当にそうだろうか?
華琳ちゃんの表情からはその真意は伺いしれない。
「それよりも、さっきの話の続きをしましょう。風、オーラマシンの開発をするわ。麗羽との交渉を任せる。開発の雛型に、何体かのオーラマシンを買い入れて」
「……ぐー」
寝てる、のか?
風は目を閉じて動かない。
「オーラマシンを持っていると、戦乱を早めに鎮めないとバイストン・ウェルから追い出されるよ」
「持っていなければ、オーラマシンごと敵が排除され、戦う相手のいなくなったバイストン・ウェルを手に入れられる、だったかしら。そんな勝利はいらないわ」
むう、そりゃ俺もオーラバトラーには乗りたいけどさ。
もしもバイストン・ウェルから地上に戦場が移ったら大変なんだよね。ロウルートなんて選んでいたら、グッドエンドでも全滅を免れない。カオスルートでもそのエンドはある。
「私は勝利して、全てを手に入れる!」
「そうなると……」
俺は再び、聖戦士伝説の情報を話すのだった。
ルート分岐はだいたい覚えているから、だいじょうぶなはずだ。攻略本情報は当てにならないから、失敗して最初からやり直したこともあった。本当に何周したか覚えてないな……。
ガロウ・ランの森に到着したリの騎団は左翼をまかされて、猪々子と別れた。
もしかしたら彼女は狙撃できるポイントに向かったのかもしれない。
……狙撃はフレイボムだったはずだから彼女のゲドにはついてないし、あの感じでは性格的に暗殺にはむいてないようにも思える。別のやつなんだろうか?
「1人でできるかしら? 気を抜いては駄目よ」
ここまではなんとかP-ドラグーンもいうことを聞いてくれた。たぶん平気だ。そう自分に言い聞かせる。
「そっちこそ。ちゃんと用心してくれよ」
華琳ちゃんが微笑んで、そして戦いが始まった。
前回吐きそうなぐらいに悩んだ俺の前に、倒したはずの少女がやはりルグウに乗って現れた。
死んでなかったのか。……強獣の死骸は見たけど、彼女の死体は見なかったな、そういえば。
聖戦士伝説でも、ガロウ・ランのシン・ドロやゴドは何度も出てくる。気にしすぎだったのかもしれない。
「ルグウが3匹もおんで!」
真桜の言う通り、あの巨大な強獣が3頭もいた。それぞれに少女らしき人影が乗っているのがわかる。他にはグライウィングが3機。
竜騎士初心者にはこの敵は重いなあ。華琳への狙撃も注意しなきゃいかんのに。
「隊長は我らがお守りします!」
ありがとう凪、頼りにしてるからね。
「もう少しだ……がんばってくれよ」
ライフルやP-ドラグーンによるアタックで、敵はだいぶ削れた。
反撃で俺たちも被弾してはいるけど、まだだいじょうぶだ。華琳ちゃんを守るためならこの程度我慢できる。だから俺の乗ったドラグーン、もうちょっとだけ堪えてくれ。あとで美味いみじんこ食わせてやるからな!
「そんなちびちびとした攻撃ばかり、ちぃたちをなぶり殺しにするつもり?」
ルグウの少女が俺に怒鳴る。いや、別にそんなつもりはないけどね。……いかん、敵と話すと倒しづらくなる。俺は黙って、敵のDP――聖戦士伝説じゃない他のゲームだとHPってされることが多い耐久力――を削るのと、陣形を作らせるのに集中した。
華琳ちゃん、春蘭、秋蘭は周囲の警戒も兼ねて少し離れた場所にいる。きっと俺たちの戦いも見ているはずだ。
3騎士が連携して、逃がさないように陣形を作らせて準備完了。その間に俺のレベルは上がり2レベルになった。
ちょうどいいか。
「よし! ブレスだ!」
外れないでくれと祈りながら、ブレスをP-ドラグーンに発射させる。今まで使わなかったのは、敵にこの攻撃があるのを悟らせないため。
竜の口から放たれたそれは一気にルグウ3頭、グライウィング1機をまとめて仕留めることに成功した。
響き渡るレベルアップの音。さっきも鳴ったけどさすが俺の夢、こんなとこまで再現してるよ。
残る2機のグライウィングも倒して、戦いは終わる。
落下した残骸を見ても少女たちの死体はないようだ。よかった。上手く逃げてくれたようだ。
まったく、なんでガロウ・ランまで美少女かな。元と同じおっさんだったらもうちょっとは攻撃しやすかったろうに。
……聖戦士伝説でもモブのガロウ・ランの女は美人さんだったっけ。
「上手くいったのかしら?」
「うん。見てたでしょ。そっちは?」
「春蘭が狙撃手を探しに行ったわ」
まずいなあ。リの王様が狙撃されるのは戦闘後のこのタイミングなのに!
「っ!?」
レベルアップのおかげか、鋭くなった俺の感覚がその火球を察知。とっさに自分と飛竜で射線へと割り込む。
「ぐっ! ぐおぉぉぉ!?」
この熱さはやはりフレイボムかな……。
「コ、コウイチ!」
「聖戦士様!」
華琳ちゃんたちの声を聞きながら、俺の意識は薄れていく。
これで夢から覚めるのかな?
どうせなら華琳ちゃんが助かったかぐらいは確かめたかったな……。