本作品が初投稿になります。
物語は南ことりの一人称で展開されます。
不慣れなために、わかりにくい箇所があるかもしれません。
短い物語になりますが、お付き合いいただければと思います。
それでは、どうぞよろしくお願いします。
カーテンの隙間からさす太陽と、名前のわからない鳥のさえずりで目を覚ました。
体を起こして時計に目をやると、まだ七時を回っていないらしい。
せっかくの日曜なのに早く起きすぎてしまったかなとも思ったけれど、こう暑くてはもう一度寝るのも嫌になってしまう。
軽く伸びをしてベッドから立ち上がり、カーテンを開ける。
強い日差しに寝起きの目がくらみ、半目で空をうかがうと、そこには七月の太陽と細くちぎられた綿のような雲があった。
ますます二度寝なんてする気分になれず、あくびをかみ殺しつつ一階のリビングに向かった。
あまりお腹がすいていなかったため、食卓においてあったビスケットを数枚とアイスティーを朝食にした。
さて、今日は何をしようかな。
学校の宿題は昨日済ませてしまったし、他にやらなくてはいけないことといえば新曲のための衣装作りくらいだけれど、それももう完成が見えている段階だった。
テレビを付けると、女性のアナウンサーが今日は一日快晴で、絶好の洗濯日和だと終始笑顔で伝えてくれていた。
確かに今日はすごく日差しが心地良いだろうし、午前中は気温もそこまで上がらないみたいだ。
部屋に戻って着替えを済ませ、歯をみがき、携帯とハンカチだけもって外に散歩に行くことにした。
蝉がすこしうるさいことを除けば、今日は完璧な夏の日だった。
新しい太陽に洗われた朝の世界はいつもよりも輪郭がくっきりしているように見えた。
行先が未定のまま歩き始めてしまったけれど、どこに向かおうかな。
空いた両手の隙間にそよ風が通りぬけるのを感じつつ、そんなことを考える。
天気が素晴らしいから外に出ただけであって、どこかに行くかはそんなに大切じゃないけれど。
しかししばらく歩くと額に汗がにじんできたので、日陰があって、座れる場所に行きたくなった。
それなら神田明神に行こう。
たまたま方向が一致しているし、もしかしたら希ちゃんがお手伝いにきてるかもしれない。
昨日練習で行ったばかりだけれど・・・・・・
神田明神は、私たちμ’sがいつもダンス練習やトレーニングで使わせてもらっている神社だ。
ほとんど毎朝、裏口にある長い階段を走りこんで体力づくりをしているわけだけど、あれってすごく大変なの。
おなじみの階段の前に差し掛かり、日陰になっている側をゆっくり上っていくと、階段の一番上に誰かが座り込んでいた。
もしかして本当に希ちゃんかも。
ところがそこにいたのは希ちゃんじゃなくて真姫ちゃんだった。
どうして真姫ちゃんがここにいるのかな?
彼女の手には一冊のキャンパスノートと一枚のルーズリーフ、そして彼女のお気に入りの、赤ワインみたいな色の音楽プレーヤーが握られていた。
日曜日なのにどうしてか音ノ木坂の制服を着ていて、表情は今日の空模様とは正反対に曇っていた。
頬に汗が一筋つたっているけれど、そんなことは少しも気にしていないようだった。
「真姫ちゃんおはよう。」
声をかけつつ、ぽんぽんと彼女の左肩に触れる。
すると彼女は今初めて私に気が付いたようで、少し驚いた様子で顔を上げた。
私は彼女の真正面から歩いてきたのに。
よほど真剣に何か考えていたのかな。
イヤホンを外し、音楽プレーヤーに巻き付けながら彼女は応えた。
「おはようことり。今日は練習休みなのにどうしたのよ。」
「すごく良い天気だったからお散歩しに来たの。真姫ちゃんはここで何してるの?」
ちらりとルーズリーフに目をやり、ああ、と浮かない表情でつぶやいた。
「新曲の作曲よ。海未が一昨日歌詞を完成させたでしょ。ことりは衣装づくりうまくすすんでる?」
「うん。もうデザインは完成したの。海未ちゃんの歌詞のイメージに合わせて少し変えてみたんだ。作曲はどんな感じなの?」
彼女は再びルーズリーフを見つめ、口を閉じたまま小さく動かした。
思いがうまく言葉にならず、それが動きになって現れているようだった。
私は彼女の左に腰かけた。
「なんだかしっくりこないのよ。作曲はもう何回かやってきたけど、今回は少し苦戦してるわ。私たちが九人になって初めての曲だからかもね・・・・・・」
そうなのだ。私たちμ’sは生徒会長の絵里ちゃんと副会長の希ちゃんを新たにメンバーに加えて、九人グループになった。
真姫ちゃんが今作曲に苦しんでいるのはμ’sが九人で歌う最初の曲だった。
僕らのLIVE 君とのLIFE。
この曲は近くオープンスクールで披露する予定のもので、それが彼女に余計にプレッシャーをかけているのかも。
「だから今日は学校で作曲の続きをする予定なのよ。学校の方が、その、私たちらしいメロディーが思い浮かびやすいかと思って。」
「そっかあ。だから制服なんだね。学校で作曲するって、良いアイデアかも!」
「うん・・・・・・だから学校に先生が来る時間まで、ここで曲を考えることにしたの。」
それはこの神田明神も、私たちになじみの深い場だからだろう。
真姫ちゃんは強がりで、ちょっとツンツンしてるけれど、本当はメンバーのことが大好きで、すごく大切に思っている。
そのことは私だけじゃなくて、みんなもわかっている。
少し強めの風ふいて、真夏の真緑の葉がざわざわと音をたてた。
太陽は少し高くなったようだ。
携帯に目をやると、学校が開くまでにまだ20分近くある。
「ねえ真姫ちゃん、ちょっとお散歩しようよ。歩いてたら良いイメージがつかめるかも!」
「・・・・・・え?ちょっと、ことり?」
私は立ち上がって、真姫ちゃんの左手を少し強く引いた。
彼女は少し面食らった様子で、右手でお尻をはらいながら立ち上がってついてきてくれた。
確かにあまり私らしくない振る舞いかもしれない。
ちょっと穂乃果ちゃんっぽいかな?
私には作曲理論について彼女にアドバイスなんてできない。
作曲家の頭のなかでどうやってメロディーが持ち上がり、連結していくのかは想像もつかない。
でも私は二年生で、彼女は一年生。
μ’sでは先輩も後輩も関係ないってことになっているけれど、やっぱり、年上として何か彼女の力になりたいと思った。
「ねえ真姫ちゃん。よかったら真姫ちゃんの思ってること聞かせてほしいな。」
彼女は私の右隣で少し首をかしげつつ、私の顔を見ている。
いつもの勝気なつり目は何だか今日は少し迷いを秘めているように見えた。
なるべく明るいトーンを心掛けて、彼女に尋ねる。
「一人で悩むより、吐き出しちゃった方がきっといいと思うの。私も、μ’sのメンバーだから、真姫ちゃんの悩みを共有させてほしいの。」
「・・・・・・べ、別に、そんなに大したことじゃないわよ。ただ、いつもより進みが悪いだけで・・・・・・」
数秒の沈黙が訪れた。
すこしぬるくなった風とつんざくような蝉の鳴き声が、私たちの間に割り込んできた。
私は不自然なくらいの笑顔をつくり、わざと沈黙を壊さないように努めた。
すると案の定、耐えかねたように、観念したように、真姫ちゃんは足をとめてつぶやいた。
「じゃあ、ちょっとだけ、話、聞いてくれるかしら・・・・・・」
何だかすごく照れくさそうに、顔を少し斜めにしている。
頬が少し赤らんでいるのは、暑さのせいだけじゃなさそうだ。
右手は紅のくせっ毛をくるくるするのに忙しい。
恥ずかしい時の癖。
困った時の癖。
そして、本当は嬉しいときの癖。
「うん。聞かせて?」
両手を後ろで組み、少し屈んで、彼女の顔を覗き込んだ。
今度は、笑顔は作る必要はなかった。
最後まで読んでくださった方、どうもありがとうございました。
あと二回の投稿で、物語は完結する予定です。
次回は希が登場し、ことりの心が動いていく様子を描写したいと考えています。
それでは、次回もぜひよろしくお願いします。
感想はどんなものでも大歓迎です。