憂鬱よ、さようなら   作:ハルカナツキ

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こんにちは。ハルカナツキです。
「憂鬱よ、さようなら」の第二話になります。

今回はことりと真姫、希の会話部分がメインになっています。


今回も最後まで読んでいただけたら幸いです。
それでは、よろしくお願いします。


2:バイオレット・インサイト

 学校に着くまででいいから、と真姫ちゃんは再び歩き始めた。

 ハンカチを取り出して、頬の汗をぬぐい、しばらく左目のあたりを押さえていた。

 ふうっと小さく息をつき、彼女は話し始めた。

 

 

「私はね、完璧な詞なんてないと思ってるわ。もちろん完璧なメロディーも。そう思ってないと作曲なんて到底やってられないもの。完璧な衣装だって、そんなものは存在しないでしょ?」

「う、うん。そうだと思うよ。」

「でもね、ある詞に対しては、その、それにとって最も適当なメロディーが、旋律が存在すると思うの。なんていうか、こう、ぴったりと重なり合うものが。私はそれを目指してるの。今回の曲については、特に。海未の書いた詞、とっても良かったと思うから。」

「うん。何だか元気になれる感じだった。・・・・・・子どもみたいな感想で恥ずかしいなあ。」

「ふふっ。でも私もそう思ったわ。これから始めるわよって感じの、スタートにふさわしい詞だった。そういう思いに溢れたフレーズがたくさん散りばめられていたわ。」

 

 

 少し話疲れたみたいに、彼女は唇をなめ、再び話し始める。

 

 

「だから、私の曲でこの詞の足を引っ張るようなことは絶対したくないの。この曲は、未来の音ノ木坂の生徒に聞いてもらう曲でもあるんだから・・・・・・」

 

 

 海未ちゃんの歌詞が書かれたルーズリーフを左手に、いつもとは打って変わって熱っぽい口調で彼女は話してくれた。

 右手は髪をいじるのをやめ、ノートを強く握りしめている。

 

 

 ここまで彼女が真剣に作曲に取り組んでいるのは、少し意外だった。

 今までの曲だって懸命に考えてくれていたのだろうし、実際どれもとても良い曲だったけれど、それは彼女の音楽的素養が優れているからだとばかり思っていた。

 でもそれだけじゃなかったんだ。

 そのメロディーたちは冷えた頭からではなく、むしろ熱い心からうまれていたのかもしれない。

 

 

 気付けばもう音ノ木坂の校門が見えるところまで歩いていた。

 体感的にはそんなに歩いた気はしないのだけれど。

 もう校門は開いていて、学校を自習室代わりに利用している三年生があたりに数人見られた。

 

 

「その、聞いてくれてありがとう。じゃあ、行ってくるわ。ことりは制服じゃないし学校に入れないでしょ?」

「あっ、そうだった・・・・・・うん、頑張ってね真姫ちゃん。」

「そうね。頑張らなくちゃ・・・・・・」

 

 

 そう言って向きを変え、彼女は校門へ向かっていった。

 一秒でも早く音楽室に行って、ピアノの前に座らなきゃとばかりに、早足で。

 ノートと五線譜とお弁当の入ったスクールバッグは歩みのリズムで揺れていた。

 足取りには心の焦りが容易に見て取れた。

 

 

 真姫ちゃんを見送ると、私は来た道を戻って帰ることにした。

 

 

 真姫ちゃんと二人でこんなに長く会話をしたのは初めてかもしれない。

 私はそこまでおしゃべりが得意ではないし、彼女は尚更そういうタイプだろうから。

 勉強もピアノも出来て、歌も上手な彼女にも難しいことがあり、悩むことがある。

 そのことを話してくれたことが、何だかとても嬉しかった。

 

 

 神田明神まで戻ったところ、そこでは巫女の姿をした希ちゃんが竹ぼうきを手に掃除をしていた。

 白衣と緋袴、後ろでひとつにまとめた長くて綺麗な、紫の髪。

 彼女はこのうだるような暑さなど超越した存在に感じられた。

 

 

「あれ、ことりちゃん?こんな朝早くにどうしたん?」

 

 

 相変わらずの、関西弁の混じった優しくて柔らかい口調で彼女は話した。

 

 

「おはよう希ちゃん。朝早くって、もう九時になるよ~。ちょっと早起きしたから、お散歩してたの。」

「なるほどなあ。一日の始まりに神社にお散歩なんて、なんか良いことがありそうやん。」

「えへへ、じゃあついでにお参りしていこうかな。」

「そうしとき。あれ、でもことりちゃん、なんで家の方向と反対から来たん?」

「ここに来るときに真姫ちゃんに会って、一緒に学校に行ったの。学校で作曲するって言ってたよ。」

「へえ~、新曲の作曲かあ。海未ちゃんの詞、めっちゃ良かったし、楽しみやね。」

「うん。でも真姫ちゃん、何だかすごく悩んでたよ。あのね・・・・・・」

 

 

 

 私が話し終えると、希ちゃんは右手で前髪を梳きながら、言葉を探しているみたいに見えた。

 

 

「なるほどなあ。九人で歌う最初の曲、かあ。なんかそんな風に真姫ちゃんが思ってくれてたなんて、新メンバーとしては嬉しいやん。」

 

 

 希ちゃんは少し上を見上げて、目を細めていた。

 一束の髪と紅白の巫女装束は風のなすがままに揺れていて、ぱたぱたと音を立てていた。

 せっかく集めた落ち葉は風に散らされ、もう、とつぶやきながら彼女は再び竹ぼうきを動かし始めた。

 

 

「ねえことりちゃん。こうやって落ち葉は簡単に散らばっちゃうけど、私たちμ’sはどうやろ?」

 

 

 唐突な問いかけに、一瞬時が止まってしまったような気がした。

 突然、何を言い出すの?

 

 

「そんな、そんなことないよ。九人じゃなきゃダメだから、希ちゃんはμ’sって名前を考えてくれたんでしょ・・・・・・?」

 

 

「もちろんその通りや。急に意地悪なこと言ってごめんな。」

 

 

 少し前屈みになって微笑みをたたえながら彼女は続けた。

 

 

「でも、真姫ちゃんが心の底で心配してるのは、これだと思うんや。自分の曲の出来が悪くて、ライブが失敗したら?それが原因でみんながギクシャクしてしまったら?私たちはバラバラになっちゃうのでは?・・・・・・こんな感じやろか。真姫ちゃんは今まで友達らしい友達もいなかったやろ?だから尚更、μ’sを、やっと見つけた大切な自分の居場所を、失うのがひどく怖いんやないかな。・・・・・・一人ぼっちがつらいのは、ウチにもよくわかるんや。」

 

 

 まるで諭すような口ぶりで、彼女はゆっくりと語った。

 そうかもしれない。

 以前の真姫ちゃんは、傍から見れば孤独だった。

 昼休みは一人で音楽室に向かい、ピアノを奏で、歌うことが唯一の心の慰めだった。

 穂乃果ちゃんが声をかけ、スクールアイドルに勧誘するまで、そこは彼女と音楽の二人きりだった。

 

 

 では、彼女の作曲の原動力は、メロディーの源は、一人に戻ることへの恐怖だったのか。

 みんなで一緒にライブを成功させる喜びではなくて?

 

 

 それは、そんなことは間違ってる。

 そうじゃない。

 きっと、本当はそうじゃない。

 

 

「そうやね。気付かせてあげなきゃ。真姫ちゃん、今もそういう気持ちと、一人で戦ってるかもしれんよ。」

 

 

 見透かしたようなことを言って、彼女はお社の方へ歩いて行った。

 あとは、わかるやろ?とでも言いたげな、そんな足取りだった。

 

 

「ねえ、希ちゃん。相談があるの。」

 

 

 足を止め、ゆっくりと微笑みがこちらを振り返る。

 手持ち無沙汰な休日に、急きょ予定ができた。

 すごく大切で、後回しにはできないこと。

 風はぴたりと止み、あらゆる物事は静止しているようだった。

 強みを増す太陽の光だけが唯一の例外だった。

 

 




最後までお付き合い頂いてありがとうございました。

ストーリーを言葉で紡いでいくってすごく難しいですね・・・・・・

予定では次回で完結になりますが、もしかしたらもう少し長くなるかもしれません。


次回も精一杯書きますので、よろしくお願いします。
それでは。
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