百花繚乱の騎士団長   作:楠富 つかさ

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公務員、騎士団長に就任する。

 いつも通りの日常が続いていくと思った。公務員として家と職場を行き来するだけの退屈な日々。仕事のストレスを癒す唯一の手段はブラウザゲーム。エロ要素があると尚良し。美少女に囲まれて、いやらしいことして、そんな毎日を夢見たことがある。だから……最初は夢だと思ったんだ。

 

「団長さん、目を覚ましましたか。ようこそ、スプリングガーデンへ」

 

 幸か不幸か、俺がリリース当初からはまっていたブラウザゲーム『FLOWER KNIGHT GIRL』の世界へやってきてしまったらしい。どうして?

 

 

 

 状況を整理しよう。俺、藤枝士は27年の人生で今、最も混乱している。職場から帰ってきて、パソコンを起動して、お気に入りからフラワーナイトを選択したことまでは覚えているのだが……。気付けばベッドで寝ている。しかも、風景はパソコン画面で見たことのある団長の執務室――の隣にある寝室。起きてすぐ執務室に移動し、椅子に座らされる。

 

「私はナズナ。団長さんの秘書をさせてもらいます」

 

 そう言って、茶髪の女性――ナズナは説明を続ける。どうやら、原作ゲームのストーリーと大きな違いはないようだ。現在いるのは花騎士育成学校に併設された騎士団の本部。国籍はブロッサムヒルとなる。現在、そこそこの人数が騎士学校に在籍しているようで、卒業を控えた最高学年の主席が、俺の率いる騎士団の副団長になるらしい。誰かというのは、何となく予想がつく。

 

「入っていいですよ。セントポーリアさん」

 

 やっぱりだ。

 

「は~い。初めまして、団長さん。これから宜しくお願いしますね~」

 

 執務室の重厚な木製扉を開けて入ってきたのは、薄紫色と白を基調とした服を纏った金髪の美少女。服の色と同系統の色をした眸が俺を見つめる。髪には自身の名と同じセントポーリアの花を模したピンをしている。

 

「彼女、おっとりしてますけど、優秀な花騎士ですよ」

「も~、ナズナさん! 言わないでくださいよ~」

 

 ぴょんぴょんと踵を上下させて怒りを表すセントポーリア。それに連動して豊満なバストも……。彼女はゲーム開始時に初めて引くガチャで入手できる。チュートリアルとして好感度100パーセントボーナスをくれるのも彼女が最初だ。貴族出身の優しい彼女をおか……ごほんごほん。俺が煩悩を振り払っていると、ナズナからゲームにはなかったセリフが告げられる。

 

「この騎士団の団長は、騎士学校の校長でもあります。後で教師陣とも挨拶をしてもらいますからね。こちらにも準備がありますから、この書類に目を通しておいてください。セントポーリア、後はよろしくね」

「は~い。校長先生」

「もう、校長は彼ですよ」

「は~い。そうでしたねぇ」

 

 ……書類を渡して部屋を後にするナズナに挨拶するセントポーリア。意外な発言を耳にしてしまったのだが……彼女が前任の校長なのかよ!

 

「じゃあ。団長さんが書類を見るの、眺めてますね~」

 

 そう言ってセントポーリアは部屋の片隅にある椅子を執務デスクの前に置いて、にこにこと俺を眺める。集中するのが凄まじく難しいが頑張って書類を見てみる。どうやら、在籍している花騎士候補生のリストらしい。

 

「なぁ、種組、蕾組、花組っていうのは?」

「学年のことですかぁ? この学校では年齢に関係なく、花騎士としての能力の開花状況によって学年を組むんです~」

 

 ふむふむ。書類をパラパラと捲ると中学生から大学生くらいまでいる。……ふむ、ヤったら犯罪な娘には気をつけよう。若干名、年齢の枠が不自然に潰されているのも、気にしたらいけないよな。

 職業上自制心は強いはずだが、やはりゲームの時に通じてしまった花騎士と実際になんて、思わずにはいられないからなぁ。在学している生徒はゲームの頃で言うと☆3以下のキャラが多い。セントポーリアの他にも何人か☆4のキャラが混じっているが、☆5以上の花騎士はあんまりいない。こっちは先生のリストか。やっぱりという人からこの人もかという人まで、なかなか人材が豊富だ。にしても……。

 

「セントポーリア」

「はぁい?」

「この書類は誰が作ったんだ?」

「ナズナさんだと思いますよぉ?」

 

 やっぱりか。そう思いながら花騎士候補生と教員のリストを読み進める。ブラウザゲームではようやくキャラ毎のクエストが増えてキャラのバックストーリーを知ることができるというところだったのに。まぁ、ゲームでは知ることのできない情報が多く載っているが。アイギスみたいに本が出れば……また違うのかな。戻りたい、という訳ではないが日本でのことが脳裏をよぎる。

 

「団長さぁん」

 

 甘ったるい声の直前の甘さ、不愉快でないギリギリの甘さの声が俺の耳朶をうつ。執務机につっぷすセントポーリアのものだ。……机に押し潰されて谷間が強調された胸からは視線を外せ、俺!

 

「お仕事、ファイトです~」

 

 こうして彼女に応援されながら、数多くの書類に目を通す。リストの他にも学園と騎士団詰め所の見取り図、あとはゲームにもあった花騎士の属性についても説明があった。もっとも、こちらでは属性ではなく所属するクラスとして書かれていたが。斬撃、打撃、刺突、魔術の四つがある。

 セントポーリアは花組斬撃クラスの所属ということになる。斬撃クラスの主席でもあり、学校全体の主席でもある彼女は、現在俺のベッドで寝息を立てている。……やましいことはしていない。目の前で眠られて集中力をそがれたからどかしただけだ。なんて、誰へのものでもない言い訳をした自分が可笑しくてしょうがない。

 

「団長さん、歓迎会の準備が……おやまぁ、早速お楽しみですか?」

「違う!!」

 

 ノックも無しに入ってきたナズナの邪推を叫ぶように否定する。そのせいでセントポーリアが起きてしまったのだが、ナズナは気にするでもなく話を続ける。

 

「さて、全校集会です。団長さんの就任を祝して、盛大にいきましょう!」

 

 言われるがままにナズナについていく。先ほど頭に叩き込んだ見取り図と脳内で照らし合わせながら、一番広い訓練場に向かっているだろうと予想してみる。その予想は的中し、ゲーム的にはガチャを引く時の背景になっている空間へと連れてこられた。そこには、色とりどりの服装、髪色をした女の子たちが集まっていて、まさに花畑のように感じられた。一段高いのがステージだろうか、女の子ではなく女性と表現すべき艶やかな方々が並んでいる。もちろん、リストで確認したここの教員だ。

 

「さて、まずは団長さんに少し喋ってもらいましょうか」

「え?」

 

 ナズナの発言を確認する間もなく壇上の真ん中に押しやられる。

 

「え、ええと。この度、騎士団長及びここの校長になった藤枝士だ。まだまだ未熟な俺だが、皆と一緒に成長できたら嬉しい! よろしく頼む!」

 

 マイクなんてものはないが、皆が静かに聴いてくれたのと、場所の構造によるのか、俺の声は思いのほか響いた。花騎士候補たちにも響いてるといいな、なんて思いながら、すたすたとナズナのいる方へ戻る。

 

「土壇場でも強いのですね」

「偶然だ。にしても、彼女らの奥にあるご馳走は?」

「スイレンが作りました」

 

 ひそひそとやり取りを続ける中、教頭先生でもあるカラーの音頭によって、俺の就任式は宴会状態になった。彼女らは一目散に後ろにある料理を皿に取り、数人のグループになっておしゃべりに花を咲かせている。

 それらの料理を作ったというスイレンが、俺にいくつか料理を取ってきてくれた。お団子にひっつめた金髪とグラマラスな身体を包むメイド服が特徴な彼女の料理は、今まで食べたことない美味しさであり、それでいてどこか安心する味付けがなされている。

 

「コチョウランにも手伝ってもらったのよ。彼女にも言ってあげないと」

 

 そう言いながらスイレンは生徒たちの方へ歩いていった。コチョウランというのは貴族出身だがメイドを自称している花騎士候補で、蕾組の斬撃コースに所属している。

 

「さて、先生たちも集まってください!」

 

 ナズナの召集によって、この学校の先生たちが俺を取り囲む。俺からすれば同年代くらいであろう彼女たちに囲まれるというのは、なかなか緊張するものだ。

 

「教頭のカラーです。生徒達の才能を開花させることに喜びを感じて、ここで教鞭を取っております。打撃クラスで授業をしています」

 

 グレーの髪と、髪色と同系色のドレスを身に纏った女性。カラーだ。ゲームではイベント配布の彼女も、この騎士団には最初からいてくれるらしい。

 

「魔術クラスを受け持っています、ヤグルマギクです。付属図書館で司書もしております。宜しくお願いします」

 

 フラワーナイトにおける先生キャラはこの人から始まる。短くさっぱりした髪型とインテリ眼鏡。腰のホルダーに納められている本。まさに先生という感じだ。

 

「刺突クラス担当のバラだ。完璧な教員を志し、貴族の身ではあるがこうして働かせてもらっている。よろしく頼むぞ、団長」

 

 教員の中では最年少、それでいて風格を持っているのは貴族ゆえか。白いブラウスを押し上げる胸に視線が行ってしまいそうだ。

 

「斬撃クラスの担当のブルーロータスです。団長さん。よろしくお願いします」

 

 透き通るような水色の髪と艶やかな声色。チャイナ服のようで生足は見せないマニアックな装いと、豊満そのものの胸。先生たちの豊満さはたまらないな。

 

「本当はもう少しいるのですが、討伐任務に出ているので紹介は後日に。さてと、私も呑んじゃおうかな」

 

 今いる先生たちの紹介を終えたナズナはスイレンのもとに駆け出した。……酒、頼みに行ったのかな。

 

「ナズナったら、校長を降りてから昔に戻ったみたいね。団長さん? 貴方もお酒、呑みませんか?」

 

 ブルーロータスに勧められるがまま彼女オススメのカクテルを何杯か飲み、その日はお開きとなった。その夜、眠る前にふと気付いた。

 

「どうして俺、ここに呼ばれたんだろう?」

 

 起きてからナズナに聞けばいいだろ、そう思って俺はベッドに潜るのだった。

 ……セントポーリアのせいだろうか。枕からいい匂いがするのは。




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