真剣で帝王に恋しなさい(イチゴ味)   作:yua

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おかしいな、書いても書いても終わらないぞ?


10帝王の一日・中盤戦

男子家を出ずれば七人の敵あり(だんしいえをいずればしちにんのてきあり)

とは、社会に出れば多くの困難がある事を指す。

帝王もまたその敵に会わんとしていた。

 

ケース1

風紀委員

 

「あー、服装チェックやってるなー」

 

川神中学の校門に辿り着けば、校門の前で風紀委員が登校してきた生徒を一人一人止めて髪型を注意したり、襟元を正させたりしている。

奔放な行事やイベントがある半面、厳しくする所は厳しく締める。川神中学が進学校としての面目を保てているのは、こう言った地道な活動を大事にしている地盤があるお陰である。

百代もまた緩めていた首もとのスカーフを締め直すなど自己チェックをし始めたが、

 

「ご苦労」

「はいはい……」

 

周りから頭一つ抜けた南斗天は教師さながらの態度で軽やかに突破し……

 

「って……待てや、そこの番カラー!!」

 

思いっきり止められていた。

んっ、と後ろを振り向き勘違いだったかと校舎に向かおうとする天の前に風紀委員(男)が回り込む。

 

「一年の南斗天だなぁ~……」

 

地獄の底から響く様な積もり積もった怨念を感じさせる低い声を発しながらギョロリと目を剥く風紀委員に、天は眉間に皺を寄せ口も上向きに寄せて困った様な表情をする。具体的には

 

「……(ニュッ)」

「その、因縁つけられる覚えはありませんなー、と煽りかました顔をするなー!書いてる人が表現に困っとろうがー!!」

 

作者の表現不足によりお見苦しい文章があった事をお詫びいたします。

 

 

「ふぅん、しかし我は校則通りの制服しか着ていないぞ」

「いや、その理屈だと上半身裸でもまかり通っちまうからな」

 

両腕を広げて肩をすくめる天。本人は意外と真面目に言っている辺り手に負えない。

 

「制服の替えはこちらで用意しよう。とりあえずは立て替えるが代金は払えよ」

 

手渡される制服にその場で着替えようとして、百代にぶっ飛ばされる天であった。

 

 

そして、朝のホームルーム。

担任が出欠を取る時には両肩が破け、裾はしがボロボロな番カラ天さんの姿が!

 

「何でだよっ!」

 

どこから来たのか、教室の扉をガラガラピッシャンと開けて風紀委員(男)がツッコミを入れに来た。

 

「先輩よ、ホームルームは受けないと内申に響くぞ?」

「くそっ、見た目の割りに妙に常識的なのが腹が立つ!」

 

うんうん、と頷く百代も居る。

 

「しかし、先輩よ。これは仕方ないのだ」

 

悩む様に天は顔の前で祈る様に手を組む。

 

「ほう、言い訳位は聞いてやろう」

 

腕組みをしてかかってこいと言わんばかりの風紀委員(男)。ちなみに担任は何事も無かった様に出欠をとっている。

 

「例えば、百代に殴られたとする」

「前提があれだが、まあお前を止められるのは百代くん位だからな」

「まともに食らえば我とて只では済まない一撃を受ければ服などは当然破けるのだ」

「……まぁな」

「そこでっ!」

 

天はやおら立ち上がり、制服を脱ぐと後ろの席の男子生徒が真新しい制服を天に着させる。

 

「来い、百代!」

「えっ、あぁ、またやんのか」

 

仁王立ちで構える天に、何故か慣れた風に構えを取る百代。

 

「川神流無双正拳突き!!」

 

その一撃は正に地を砕き、天を割る必殺の一撃!

しかし、教室内には風一つ立たないのは標的にのみ威力を集中させる百代の達人レベルの技術があってか。否、そこにあるのは

 

「ぬっ、ぐ……ふぬっはぁー!」

 

天が叫ぶと同時に、天が着ていた制服の肩口が破け裾はしがバリバリー、とばかりに裂けていく。

 

「高橋ー」

「はーい」

「土浦ー」

「風邪で休みでーす」

 

周りの状況が淡々と出欠を取っているだけにシュールさここに極まっていた。

 

「……えっ?」

 

風紀委員(男)が理解が追い付いてない顔で固まっている。

 

「お疲れさまっす、天さん」

「ふぅー、極限の集中力が居るなやはり」

「集中ありゃ出来るってもんでも無いが……まぁ、凄いわな」

 

やりきった感で席に座り始める天や百代に頭を抱えながら風紀委員(男)は言葉を絞り出す。

 

「えっ、何?ギャグ?」

 

周りからおだてられ、いい気に高笑いを始める天を見ながら風紀委員(男)の横にいつの間にやら九鬼揚羽の姿が。

 

「フハハハハ、我が説明しようっ!」

「あの……出来れば普通に歩いて出てきてください」

「気配を読め!まあ、つまり百代やら何やらの一撃は周りを巻き込んで被害が出るからな。天はいつの間にやら自分だけに威力を集中させて周りに被害が出ない防御術を編み出したと聞いている!」

「はあ、凄いっすね」

「完全に威力を殺し切れなくて服が一部破れてしまうそうだがなっ!まだまだ奴も未熟者と言う事よ、フハハハハ!」

 

高笑いをして一瞬にして姿を消す揚羽。

二年の教室から

「フハハハハ、我はここに居るぞっ!」

とか聞こえて来るので出欠の確認の合間に来たらしい。呆然とする風紀委員(男)の前で

 

「南斗ー」

「フハハハハ、ハイ!」

 

天は手を挙げながら元気よく返事をするのだった。

ちなみに三年の後半位から南斗天は普通に服装検査を通過出来る様になったとか。

街中で警察に職務質問を受ける回数は逆に増えたらしいが。

 

「天さん、制服破けて無いと逆に似合わないっすね」

「そうか……」

「コスプレっぽいよな」

百代の何気ない一言にガチで落ち込むのはまた別の話である。

 

 

大道芸さながらのホームルームも終わり、一時間目が始まる。

百代が速攻で舟をこぎ始める横で、天は黒板に書かれた文字をノートに書き写していく。真面目にやっているのだが、本気であるが故の周りが劇画調になる重苦しい雰囲気と、黒板を睨み付ける眼力が強すぎて教師はいつ天が「貴様の死に場所はここだ」とか言い出すんじゃないかと気が気ではない。天と百代の担任曰く「慣れればイケる」らしいが、そんな豪胆な教師は日本中探しても川神学園か川神中学のこの教師だけである。ちなみに去年は九鬼揚羽の担任も勤めた事からこの教師は問題児対策のスペシャリスト扱いのようだ。教育委員会の影の七人だとか、一人例外児童対策課とか言われている。

さて、真面目に勉強に勤しむ南斗天だが、ここでも難敵は舞い降りる。

 

ケース2

古典

 

普段は古風な言い回しや前時代的な身ごなしが目立つ天ではあるが、古文は苦手である。どれだけ苦手かと言うと

 

「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる…有名な文ですね。では南斗君、現代語に訳して見て下さい」

「うむ…春は明け方の風情が良い。徐々に白くなって行く山の辺り、特に紫色の雲が細くたなびく所など特に良い。まあ、つまりは…」

 

目の辺りを抑えて面白くてたまらん、とばかりに天が笑う。

 

「我が世の春が来たー!と叫びだしかねん位に春が好き過ぎて堪らん、と言った所だな。迸る感情を読者に感じさせるこの作者はお茶目に過ぎるぞ、フハハハハハ!」

「うん、零点。隣の川神さんは?」

「えっ、春は過ごしやすいからよく眠れるよな?」

「…」

「…」

「…」

 

「今時、廊下に立たされるとはな」

「前時代的だよな」

 

真剣な顔で頭と両手、右足の膝の上に水の入ったバケツを乗せた鶴の構えで廊下に立たされる天と百代。毎回、趣向を変えた罰を与えられる二人を校内を巡回する教頭か校長が見つけてビビるのが恒例になっているのだった。

 

 

午前中を辛くも乗りきった聖帝。

 

「フハハハハハ、頭を使うとカレーが食いたくなるな。カレーがっ!!」

 

執拗なカレーアピールに前髪をいじる百代はうっとおしそうに

 

「勝手に食えばいいだろう」

 

とすげない反応。

 

「う…む…」

 

少し肩を落としながら寂しそうにしょんぼりと立ち尽くすのであった。

昼休みの喧騒の中でのそんな聖帝に、クラスメイトは生温かい視線を優しく送る。

「天さんは相変わらず百ちゃんラブやな」

「というか、未だに我が儘言えるのが百ちゃん位なのが何と言うか…ふふ、恥ずかしながら母性本能くすぐられてしまいましてね」

「基本、人見知りだからね天さん」

 

理解度の高い友人が出来ていたりする。

しょんぼりとする天に仕方無いなとばかりに溜め息をつき、百代が立ち上がろうとすると

 

「へへ、天さん。今日は月一の特別ランチがカレーですぜ。一緒に…食べに行かないか?」

 

天の後ろから肩を叩くのは何故か舎弟とか三下とかの単語が思い浮かぶクラスメイト(男)。

 

「ふ、フハハハハハ!ま、まあ一緒に学食もやぶさかではないな!行こうではないか、さあ行こう!」

 

意気揚々とクラスメイト(男)と肩を組んで大股に歩き出す天の後ろ姿を、百代が眉間に皺を寄せ不機嫌な顔で見送る。

 

「ふふ、百ちゃん…一緒に学食行こうか。今なら天さんと一緒の席になれる特典付きさ」

「いや…わざわざ一緒に座るつもりは…」

「判ってる判っているわ。ただ、私達は百ちゃんと天さんと一緒に学食で青春したいだけなのよ」

 

今まで感じた事の無い生温い感じの気を発するクラスメイト(女)に何とも言い難い気分になる百代だったが、流されるままに食堂に向かうのだった。

 

 

ケース3

学食の食券

 

さて、食堂では学生が立ち並び食券販売機に列を成している。頭三つ位抜けて並ぶ天の違和感は遠近感という言葉の存在を危うくさせていた。

 

(やべえ)

「フハハハハハ、特別ランチが楽しみだなっ!」

(やべえ)

 

前後に並ぶ学生の顔が戦慄で青くなっているのがまた気の毒な感じである。

 

「つうか、あいつに並ばすなや」

「いや、天さんが食券買いたいって…」

「多分、ボタン押したいんだね…」

 

列に並びながら空気を切り裂く風切り音でボタンを押すシャドーを繰り返す聖帝。

ボッ、ボッ、ボッ、と人間種に属する生物が越えちゃいけない感じの音の壁を越えている音がするが、気のせいだろう。

 

そして、食券販売機の前に辿り着いた天が万札を販売機に差し入れ、構えを取る。

ユラユラと円を描く様にゆっくりと、しかし止まる事なく肩から指先まで流れる運動エネルギー。

見る者が見ればその熟練された動きに才能とたゆまぬ努力の跡を、素人ですらその動きによって帝王が放つ不動にして凝縮されていく膨大な気(エネルギー)の気配に知らず知らずの内に後退せざるを得ない。

食堂が奇妙な静寂に包まれ、天の周りがポッカリと開いた穴の様に人の輪が出来た。

天の気配が溜め込む様な重厚さから、鋭く弾ける様な気配へと変わった瞬間、

 

「ヒョウッ!」

 

風が駆け抜けた。

 

………

 

「何かしたの、今?」

「凄いスピードでボタンを押したんじゃないか?私もよく見えなかったけど」

 

川神百代をして見えない速さとはいかほどのものか。常人には捉えられぬ正に神速の領域。

 

「ホアタッ、ホアッホアアアタッ、ホアタタタタタッ!!」

 

流派が違う掛け声と共に天の指が食券販売機の上を駆け抜ける。風が巻き起こり、紫雷(しでん)と見間違うぶれる腕、指先はしかしあくまでもソフトタッチで販売機のボタンを押す。

正に極致、正に至芸、正に神業。

速さ×質量=破壊力だと言うのに、帝王は武神すら見切れぬ速さとその丸太の様な腕で前後する莫大なエネルギーを食券販売機のボタンを押し込む瞬間だけ壊れない様に指先だけで見事に操作しているのだ。

ただ速いだけならば食券販売機は無惨に穴だらけとなっただろう。

ただ気を操作するだけばその反動で食券販売機は吹き飛んでいただろう。

帝王が誇る速さを僅(わず)かにも損なう事なく、聖者の如き優しさでもってその反動を自らの腕に受ける事でこの絶技は地上に現れた奇跡として顕現したのであるっ!

 

「ところで、食券が一枚も出てこないみたいだけど…」

「速すぎて機械が反応出来てないんだろ」

「フハハハハハ、まだまだ行くぞ!」

 

結局、百代に後頭部をしこたま強く殴られて止められるまで聖帝オンステージは続いたのだった。




一話だけで終わるはずがどうして終わってないのか。
帝王様はホンマにファンタジスタやでぇ……。

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