真剣で帝王に恋しなさい(イチゴ味)   作:yua

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まだまだイクよー!


11帝王の一日・後半戦

昼食の月一特別ランチカレーバージョンはミートボール入りだった。

 

「……(スゥ)」

「何で天さんは泣いているんでしょうか?」

「いや、いちいち私に聞かれてもな。判んないよ」

 

カレーの器を捧げる様に持ったま目を閉じ涙を流し始めた天に恐怖に近い感情の視線を向ける一同。

 

「我がカレー人生に悔い無し……」

 

異様に透き通った声を出す天に、ギョッ、とする周りの反応を更に驚愕に導いたのは、天が天国への階段を昇る様なポーズで物理的に上昇し始めた事だ。

 

「えっ、何?新技?」

「て、天さんが天に召されていらっしゃる!?」

 

教会にでも飾られそうな絵画みたいになって昇天していく天の余りの神々しさに一同、茫然自失となって立ち尽くしている。

 

「お止まりなされ、南斗殿ー!!」

 

凄まじいスピードと絶叫で天の片足に飛び付いたのは九鬼揚羽の従者、小十郎。

物理法則を無視して上昇していく天の足に必死に食らい付き、天の両足を振り回す様に上半身をねじ曲げ下半身は床を噛む。

結果、物理法則内に強制帰還した天は小十郎の全体重を持って空中から引きずり降ろされた勢いのままにボディスラムの形となる。つまり、顔面から床に叩きつけられるのだった。

 

「……!……!!」

 

声も出ないままに顔を両手で覆い、床を転げ回る天。

 

「フハハハハハ、生きながら昇天しかけるとは南斗の将星はやる事がいちいち飛び抜けているなっ!」

 

腕組みをして仁王立ちした揚羽がカラカラと笑いながら現れる。

 

「揚羽様ー!任務完了致しましたー!!」

「うむ、大義である小十郎!」

 

絶叫従者の爆音会話でようやく茫然自失となっていた百代も意識を復帰させた。

 

「揚羽先輩、有難うございました。何か呆然としてしまって……」

「何、良い余興を見た借りを返しただけよフハハハハハ!」

「揚羽様のご機嫌が良くなるならば例え火の中、水の中、川神院の中でも飛び込んで見せますっ!!」

「うおお、姉御格好いいッス!」

「小十郎さんも可愛いー!」

「あーげは!あーげは!!」

 

気っ風よく豪快に笑う揚羽に周りが揚羽コールを始める中で、実家を火の中とかに並べられた百代が妙に味のある顔になっていたのは仕方無い事であった。

 

「フハハハハハ、旨い!お代わり!!」

 

何やかんやで席も確保し、絶叫主従含めて昼食を囲む中、天はカレーを貪り食っていた。

 

「天殿、三杯目はそっと出した方が…」

「フハハハハハ、我も負けられんな。お代わりだ、小十郎!」

「喜んで、揚羽様ー!」

「意味が全く違うが、また食い過ぎで腹壊すなよ天」

「も、百ちゃんが諺(ことわざ)を理解している……だと!?」

 

戦慄するクラスメイトに苦い顔で川神院で(勝手に)居候している天を親指で指差す。

 

「……アレが川神院で何時もお代わりしてジジィに言われているの見て知った」

 

ああ、川神院でもあんな感じなんだ。

と、周囲が見る先で、天はチンチンとカレーの器をスプーンで叩いているのを学食のおばちゃんに行儀が悪いと怒られている。

 

学食で腹を満たした天達は大満足の昼休みを過ごした。這い寄る次なる難敵の存在に気づきもせず。

 

ケース4

睡魔

 

よく食べ、よく学び、よく遊び、よく成長する中学生。彼等の食欲は満たされた。

生理本能は次なる欲求、睡眠欲を満たすべく学生を次々にその歯牙へかけていく。常人の数倍の体力、数倍の耐久力、常人の数倍の忍耐力を誇る聖帝とてその鋭く深く食い込む牙には抗えない。されど、それに屈するのは敗北に他ならない。肉体を鍛え、精神を磨く者として本能などに遅れを取るなどあってはならないのだ!

同レベルのそれらを持つはずの百代が隣で気持ち良さげにスヨスヨと寝ているのは視界から外して頂こう。彼女は女性的な部分も多分に成長期であり、それを妨げるのは人類の損失なのだからして。

さて、帝王に敗北はないのだ、と眠気に耐える天の眼光は今にも閉店しますとばかりに閉じそうになる瞼(まぶた)を怒りの形相と見間違わんばかりにクワッと見開き、口は痛みを耐えんばかりに唇をかみしめ、身体全体を巡る気を眠気を吹き飛ばさんとばかりに活性化させている。

具体的には何か、ゴゴゴゴゴ、とか物理的な音が出ている本気100%で死闘に挑(のぞ)む世紀末帝王が中学校の教室に出現する訳であった。

川神中学、いや世界でも有数レベルの胆力を誇る天と百代の担任教師ですら背中に感じる圧倒的圧力に背筋は冷や汗が滝の如く、黒板に今にも叩きつけられそうで足すらもよろける。

そして、三本目のチョークを折った処で諦めて振り返った先には!

安らかに意識を手放し、スヤァ、と眠りこける聖帝がおったとさ。

睡魔には勝てない。

これは実例を伴った教訓である。

類似例・睡魔には勝てなかったよ…。

 

 

さて、放課後となり掃除も終わった天達は帰り支度を整えていた。

武術と暗殺術の違いはあれ、心身を鍛え上げるにはたゆまぬ修行に身を投じねばならず部活に費やす暇はない。

残念がるクラスメイトと別れの挨拶をすませ、川神院への帰途につく二人に更なる難敵が立ちふさがる。

 

ケース5

寄り道と買い食い

 

成長期の学生のみならず、ありとあらゆる人類を誘惑する夕飯前の帰宅に襲う空腹。更に街中で日々、集客に勤しむ店舗の魅力は例えようのない魅惑空間!

禁欲的な日々を送る彼等を……(一話から十話までを参照中)……結構、充実した日々を送る彼等だからこそしてクラスメイトなどと交わす流行り廃りの会話から寄り道して服や漫画、ゲームに音楽の新作を見てみたいという欲望を制御出来るのか!!

 

「おっ、あの服ちょっといいな。覗いてみるか」

「我は本屋で新刊を少し見たいな。今、読んでいる大河小説の新作が発売日のはずだ」

 

……躊躇う事なく青春大爆発していた。

物理的に爆発すればいいのに(百代は自分から爆発する必殺技を持っています)。

 

「おっ、コロッケのいい匂いが……」

 

場所は川神駅前の商店街、金柳街。精肉店の店先からはジャガイモや野菜を衣に包んで揚げる香ばしい

香りと油の弾ける食欲を誘う音がしていた。

 

「我はカニクリームコロッケ一択だ!甘い所を頼むぞ!」

「いらっしゃい、百代ちゃん。天ちゃん。太らないようにねー」

 

顔馴染みの初老に差し掛かろうという恰幅の良い女性が慣れた仕草で手招きしながら、百代と天に笑いかける。

 

「食わないと痩せるんだ。二十個頼む」

「川神院の者にもついでに土産だ。二百個頼む」

 

顔は恐いが気前はいい聖帝である。

 

「はいよー。朝から天ちゃんの為に揚げてる気分だよ。ありがとうねー」

「フハハハハハ、我に奉仕する精神が染み込んでいるようで結構ではないかっ!」

「うるせぇ、店先で高笑いすんじゃねぇ!客が逃げちまうわっ!」

「ぐわっ!」

 

店の奥から目にも止まらぬ影が飛び出し、スカーン、と天の頭に命中するお玉。膝から崩れ落ちる帝王。

そんな光景を口の回りにコロッケの衣をつけてムグムグと食べながら見る百代。

 

「天に当てるとか親父さんは何者なんだろうな」

「さあ……あの人は昔からお玉を外した事ないからねぇ」

 

あの川神鉄心がサウザーとブイブイ言わせてた時から外した事がない。当然、サウザーも天と同じく膝を地につけていたらしい。

 

「ぐぅ、痛い」

 

涙目になりながらコロッケの袋を受けとる天。

川神駅前の商店街、金柳街での何時もの光景である。

曜日によって立ち寄る店は違うが、二人はこうして両手に一杯の袋を持ちながら肩を並べて夕陽の射す川神市を歩き、川神院へと帰っていく。

本当に爆発すればいいのに(イチゴ味原作の聖帝はダイナマイトで爆破されても全身包帯だけで普通に戦っていました)。




まだだ、まだ川神院に帰ってからの話が……。
何で閑話のつもりが本編並の話数になるのかと……。
まあ、やってる事は変わらないからもう一話だけ続きます。
その次は今までの話の小ネタや専門用語の解説の話を挟み、南斗のあの方や北斗のあんな方の閑話をやっていく予定です。
あー、小雪や辰子も書きたいけど、まゆっちとかも早く出したいです。
多くの感想や評価、お気に入り有難うございます。凄い励みになります。
特に評価が申し訳ない位に高くて嬉しいやら、恐縮やらで……
楽しんで頂けるよう精進していきます。

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