「フハハ、フハハ、フハハ!!」
まだ日の開けきらぬ河原を不審者が走っていた。
煌めく様な金髪を短く刈り込み、無駄に目力の強い三白眼とガッシリとした顎、少年の癖に世紀末社会でも生きて行けそうな鍛え上げられた体。
具体的にはスッキリとしたwagi先生の原画的世界に行従妹先生的劇画風な場違い感溢れる少年だ。
「ふぅ、聖帝マラソンへの道は遠いな」
意味を知っていてもいなくても意味不明な独り言を吐きながら少年、
「へ、へうう……」
今日は日曜日。家庭事情と身体的特徴から虐められ、仲間外れにされている孤独な少女、小雪はいつも楽しそうに遊ぶ同年代の子達に今日こそは仲間に入れて貰おうと意気込んで来たが即効心を折られて半泣きになっていた。
大人でも声をかけるのを躊躇うスキル威圧持ちの劇画風世界観な少年が居れば、草むらに隠れて涙をこぼすのも仕方無いが。
「ん、お前どうしたんだ?」
そこにバンダナを頭に巻いた少年を筆頭として、少年達がやって来た。
「へうっ!?」
後ろから突然声をかけられ硬直する小雪と、
「誰か居るの、か……!?」
小雪に声をかけた少年達も硬直する。
先程までスポーツドリンクをがぶ飲みしていた天が見ている。何と言うか視線(物理)と言わんばかりの凄い勢いのガン見であった。
バシュン
と爆発した様な音を立てて天の持っていたスポーツドリンクのペットボトルが弾けた。
硬直した体をビクリと震わせる少年少女達。
ポタポタと指の間から液体を滴らせ、こちらを見る天の顔が徐々に変化していき、三白眼の目はそのままに口だけが弧を描く。
笑うという行為は本来攻撃的なものであり 獣が牙をむく行為が原点である。
そんな一文が頭に浮かぶのだった。
「アホかお前は!」
凄い勢いで空中を滑空して、黒髪の少女が天を横から蹴り突き刺す。
「ぬおぉっ!?」
横腹からくの字に折り曲がり、シュールな形で吹き飛んでいく天は最後にバシャーンと派手な水音をさせるのだった。
「フハハ、フハハ、フハハ!」
只今、天が両手を翼の様に広げ空を左右に滑空しています。しばらくお待ち下さい。
「すまんな、あいつの変な行動で驚かせて……いや、大抵の奴は見た目だけでも驚愕するんだが」
申し訳なさそうに頭を下げる黒髪の美少女、川神百代。
「い、いいよ俺達もビックリしただけだし。あんたは学年も上だし助けて貰ったからな。むしろお礼を言いたいくらいだぜ」
バンダナを巻いた少年、風間翔一は朗らかに笑う。
「ふふふ、運命の出会いってやつかもな」
「格好よかったぜ、あの飛び蹴り。俺様もやってみるか」
ニヒルに笑う直江大和とアチョー、と百代の真似をして横蹴りをして見せる肩幅が立派な島津岳人。
「フハハハハハ、帝王に構えは無いのだ!うむ、乾いた」
そこに滑空している途中で急に仁王立ちになり、ストンと垂直に落下する天。
「い、今のおかしくない?物理学的に」
引きつった顔で線の細い師岡卓也が疑問を口にするが、
「出来るのだから仕方あるまい」
「まあ、こう言う奴だから気にするな」
天と百代にスッパリと言い切られて沈黙した。
「う、あ……あうぅ」
少し距離を取り、髪も肌も真っ白で赤い瞳をした小雪は手を伸ばしかけては引っ込め、声をかけようとしては言葉にならずオロオロとしている。
それに気付き、天が
「むっ、貴様も年下の様だな。挨拶をしろ、挨拶を」
と、ウザい先輩風を吹かし始めた。
「大体、髪を脱色し過ぎて白になるとはどれだけの凝り性だ。第一、貴様臭いぞ。風呂に入って居るのか風呂に。修行中ならともかく、体を洗わぬ輩は帝王たる我の前に立つ資格も無……」
「はい、黙れ!」
グキン、と天の首を後ろから真下へ回す百代。
首の骨が枯れ木を折る様な音を立て、天は白目を剥く。ちなみに正面に居た小雪とは反対側に体を回転させてからだったので、そちらに居た少年達にはホラー映画並の残酷映像が展開され、悲鳴の大合唱となったが。
「お前、デリカシーの無さが酷いぞ。女の子に向かって臭いだの何だの」
「ふっ、臭いものは臭い」
回復の早さもずば抜けて天が首をコキコキと鳴らしながらニヤリと笑う。完全に悪役である。
「いい加減、初めて会う人に人見知りして緊張する癖を直せよ。さっきだって、緊張し過ぎてペットボトル握り潰しただろう?」
「ふっ、百代よ。人見知りだから初めて会う人には緊張するのだ。簡単に直せたら苦労はない」
この帝王、どや顔である。
「全く、こんな娘まで怯えさせといて……そう言えばお前、名前は?」
百代に話しかけられ小雪は今日初めての笑顔を浮かべた。
「小雪、ボクの名前は小雪だよっ!!」
何やかんやで知り合った彼等は七人で集まり遊ぶ事が増えた。
特に意外な事は天が小雪の面倒をよく見た事だろう。
何事につけ、言葉足らずでどんくさい面のあった小雪を
「帝王の足を引っ張る輩に我が周りに侍る資格無し。体力をつけろ、体力を!」
とランニングに誘ったり、
「貴様に足りんのは知識だ。頭の回転は悪くないが、勉強をしろ、勉強を!」
と学校の宿題を手伝ったりしていた。
後に大和や百代達は述懐する。
「天は酷いツンデレだった」
と。
さて、そんな日々の中でとあるイベントが小雪を悩ませていた。
それは、友達のお宅訪問。
気軽に行ける家から気兼ねしてしまう家まで様々であるが、小雪の家は母親が小雪を虐待するわ、片付いてないわ、お茶請けのお菓子なんぞ勿論無い非常にランクの低い家である。
家での接待ランクが友達コミュニティのヒエラルキーを決める以上、小雪は是が非でも我が家に友達は招きたくなかった。
しかし、子供はそこら辺の空気を読まない。いや、読めないのだ。特にこの少年は。
「ほう、ここが小雪の家か」
相変わらずの不遜な劇画顔。我等が帝王は今日もふてぶてしい悪役顔である。
「う、うん。狭くてゴメンね?」
既に侵入済みである。小雪は母親がいつ帰って来るか気が気ではなく白い顔を青くして伏せている。
「ふ、屋根があり雨風に打たれない立派な家ではないか」
意外なお褒めの言葉に顔を上げる小雪。
普段の天ならば
「茶菓子位は出さぬか、この下郎!」
位は言い兼ねない。実際、川神院に行った時に一度言っている。
「勝手に居座った居候の癖に何様だお前!」
と百代に吹き飛ばされていたが。
驚きに目を見開く小雪に天は
「なに、我が師足るサウザーと修行をしたのは山奥だったからな。家など無かったものよ」
山奥で修行するからと言って家に住まないと言う理屈は成り立たないが、小雪には修行をした経験は無いので、そーなのかー、と言った具合である。深刻なツッコミ不足。百代の存在プライスレス。
「小雪、誰か連れ込んでいるのっ!」
ヒステリックな叫び声に小雪がビクリと体をすくませる。小雪の母親は旦那に逃げられるわ、小雪の特徴的な外見にストレスを感じて小雪を虐待するわ、の駄目親まっしぐら。今も知らない子供を連れ込んだ小雪を叩こうとしたが、その場に居合わせた相手が悪い。天は最も愛深き男に育てられた男、否、漢。そんな漢の前で小雪を叩こうとすれば、その手を掴み
「なってない、なってないぞ!小雪の母君よ。小雪は未だ修行を始めたばかり。そんな強さで叩いては無駄に肌が傷むだけよっ!」
と、勢いを弱めてペチリと小雪の頬に小雪の母親の手を当てる。
「えっ、あれ?」
事態が掴めない小雪母。
しかし、天は満足そうに。
「ふむ、小雪よ」
「な、何かな?」
母親に叩かれると思ったら、久し振りに母親の手が頬に優しく置かれた手が温かいなぁ、とか思っていた小雪は意識を天に戻しながら答える。
「貴様の母親は修行のつけ方が下手くそのようだぞ」
呼び方が母君から母親になっている辺り、修行をつけるのが下手くそ相手は天にとってヒエラルキーが低くなる要素らしい。実にどうでもいいこだわりである。
「我はお師さんに愛深く修行をつけて貰い、今では立派に帝王邁進出来るまでになった。修行は大事、これは判るな」
「え、大事なのかな?」
小雪がツッコまざるを得ないレベルの天の突飛な話について行けず小雪の母親は放心状態である。
「そこで、フフフ、そこでだな」
いい事を思い付いた悪役顔でニヤリと笑う天。小雪の母親はこの時点で涙目である。
「帝王に付き従う者は強く賢くなければならん。小雪がもし、望むなら我は面倒だが、非常に面倒だが……」
偉そうに背を仰け反らせ、チラチラと小雪を少し頬を染めながらチラ見して、
「我が毎日、修行をつけてやろう。この家で」
「この家でっ!!?」
小雪の母親が絶望の声を上げ、救いを求める様に小雪の方に視線を送ると。キラキラした瞳で天を見つめる小雪の姿が。
(あ、これはあかん流れだわ)
小雪の母親が人生修了の旗をかかげるのと、小雪が嬉しそうに天に抱き付くのはほぼ同時であった。
小雪の母親が精神崩壊して、小雪が養子に出される二週間前の事であった。
「うむ、小雪の脚力には天性のものがあるな」
「ほんとっ!?天にも勝てる?」
「脚力だけで我には勝て……いや、南斗のあの男ならばやりかねんな」
「わっほーい、ボクその人に修行つけて貰うよっ!」
「まあ、良いか」
後に南斗のぶっぱ獄屠脚の小雪、通称、
「うちの弟子が獄屠『拳』をちゃんと使ってくれない」
などの名物スレの元になったとかならなかったとか。
川神は誰かの犠牲の上に成り立って今日も平和です。
かつて小雪をこんな救済した二次創作があっただろうか。
無い、と信じたい。二次創作を書く人の良心を信じたい。