戦闘描写はありません。
さて、瀕死に焦げ目がついて運び込まれた板垣一家。治療と平行しつつ、身元捜索をした所、両親は失踪、家は治安の悪い親不孝通り、と不幸が連続コンボをかまし、更に普通の施設に預けるには次女の辰子はずば抜けた怪力を持ち、他の姉弟達も少なからず腕っぷしが立ち、性格も癖があるというボーナスまでついたため問題を起こすのは確実であった。
かといって
「川神院で預かるのは駄目なのか?」
腕相撲を初めとした力較べで全力を出し合える辰子を百代は人一倍気に入っていた。
「川神院はあくまで武の高見を目指す場所じゃ。保育所ではないからの」
鉄心の鶴の一声には泣き寝入るしかない。
「一人増えても二人増えても同じだろう。器が小さいな川神鉄心よ、フハハハハハ!」
高笑いする天を指差し、百代は
「アレはいいのか?」
「川神院以外でアレを止められるのかの?」
「むう、厄介だなアレ」
川神一族に厄介者扱いされる天であった。
「ふむ、ならば我が師の知り合いに頼んでみるとしよう」
板垣一家の扱いに頭を悩ませる川神院に天が珍しく建設的な意見を吐き、一同の顔色を曇らせた。
「また南斗か」
小雪が最近、天に似て飛び蹴り連打で空中飛行し始めたと聞いて頭痛がしたばかりの川神院一同である。
「いや、南斗は手の開いている者がいないのでな。北斗に頼むつもりだ」
天の言葉に鉄心は頭上でハテナマークを出す。
「北斗とは北斗神拳のことかの?確か南斗とは敵対していなかったか?」
「古い話よ。我が師がその垣根を取り払ったと聞いている。電話を借りるぞ」
スタスタと廊下を歩き設置された電話のボタンをプッシュし始める天。完全に我が家の様な振る舞いである。
「あー、我だ。何、帝王足る我の声……おう、ジャギ殿かすまんな。ヘルメット越しでは仕方あるまい。何、お互い様よフハハハハハ!」
何やら和気藹々と会話し始める天に意外な社交性を発見し、驚く一同。
「ならば一週間後に。うむ、ラオウ殿やトキ殿にもよろしく頼む。ケンシロウは、まあ適当に。そうだ、フハハハハハ、あやつはそれ位でないとな、フハハハハハ!」
ガチャンと電話を切り、スタスタと一同の元に戻る天。
「話は通ったのかの?」
鉄心の言葉に
「うむ、あちらは北斗の四兄弟で来るそうだ。こちらも四人身繕わなければな」
「ふむ、板垣姉弟は丁度四人じゃからな」
鉄心の返事に天は眉をしかめり。
「何をボケている川神鉄心。あの武術の武の字も知らぬ奴等に北斗神拳の相手が務まるものか。我の他に三人川神院から腕利きを揃えるがいい」
憤然と言い放つ天に川神院は一瞬の沈黙の後、絶叫に包まれるのだった。
天を一人五発づつ殴り、落ち着いた一同。
天は四発辺りで体力ゲージが尽きる為、治療されては殴られてを繰り返していた。
「ぐふっ、貴様らこんな力を隠していたとは……」
「あー、天君。大人しくしてなさいねー」
辰子に押さえ付けられ、天使や龍兵に包帯をグルグル巻きにされている天。亜巳は天の急所に指をめり込ませて起き上がろうとする度に指を深く刺し、グフっ、とかガハッ、とか悲鳴を上げさせては頬を赤くして息を荒げている。
「さて、北斗神拳について知っている者はおるかの?」
鉄心と釈迦堂以外は互いに顔を見合わせる。
川神院は武の総本山だが、クリーンな面が強く裏社会には通じていない所がある。表に出れば叩き潰せるという強さがあるのも、それを助長していた。
「あー、伝説の暗殺拳ってやつかぁ?」
一人、釈迦堂のみは伝え聞いた事があるらしい。川神院に入る以前は、裏社会にも名を知られていた経歴があると言われている男の面目躍如か。
「うむ、指一本で人を死に至らしめる最強の暗殺拳。南斗鳳凰拳のサウザーとの対決こそ避けたらしいが、他の南斗の流派は悉(ことごと)く敗れたとか」
南斗と言えば愛深き男サウザーを筆頭に鉄心と協力し、裏社会を安定に導いた伝説的存在である。それを圧倒する者とは……戦慄する一同に
「喝っ!」
鉄心の喝が飛んだ。殆どの者が体を硬直させる中で、師範代二人はゆったりと座り、しっかと鉄心に視線を合わせている。
「ふむ、やはり釈迦堂とルーか」
顎髭をしごき、キラリと瞳の奥を光らせる鉄心。
「当然だぜ。伝説の暗殺拳、相手にとって不足はねぇ!」
「川神院の師範代として恥ずかしくない試合にするヨ」
釈迦堂はともかく、ルーも珍しく好戦的に闘気を立ち昇らせて語尾を強くする。
「うむ、儂を含めて四人で北斗神拳に、武の本懐はは川神院にありと見せつけるのじゃ!」
「応っ!」
と団結する一同。
その横で包帯によって気道を防がれ、手足を生まれ持っての怪力で押さえられ、急所に深く指を刺された将星の輝きが消え去ろうとしていた。
「おや、南斗極星の横に死兆星が」
北斗神拳伝承者の一人が異変に気付いたが、物理的に距離が離れすぎて何を出来るでもなかった。
以外、ダイジェスト。
「北斗神拳は秘孔を突くのが奥義。離れていればこちらの勝ちよ、行けよリングゥ!」
「天破活殺(てんはかっさつ)!」
「な、何ぃ!?」
「やるね、私の早さについて来れるとは驚きヨ」
「激流を制するは清流……さあ、行くぞっ!」
「この拳王の剛拳に耐えられるかな?」
「ぐぅ、流石は北斗神拳か」
「否、貴様の前に立つはこのラオウ。拳王の一撃と知れっ!」
「ひゃ~はっはっはっ、俺の名を言ってみろー!」
「ガ、ガソリンとかありか!?熱い、熱、熱い!!」
「フハハハハハ、所詮貴様らは雑兵の拳。我が帝王の拳の前には悉く制圧前進あるのみよっ!」
「くっ、天翔十字鳳まで使うとか馬鹿なのか。お前、奥義だろうそれっ!?」
「フハハハハハ、フハハハハハ!!」
最終的には何か乱入してきた天を全員がかりで鎮圧して友好を深めました。
板垣一家は長女の亜巳は北斗神拳史上最も華麗なる技を持つトキに、次女の辰子は類いまれなる剛拳を誇る北斗最強のラオウに、龍兵と天使は武器も南斗の拳も使う何でもありのジャギに弟子入りする事となった。
ちなみに北斗神拳の正当伝承者であるケンシロウは数合わせで付き合っただけらしい。
天は板垣一家に感謝される事もなく、ボロクズの様に道場の隅に転がされ、別れの言葉もなく彼等と別れるのだった。
「おーい、天。夕飯できたぞー」
「ぐっ、体が動かん。おのれ、北斗の奴等め容赦なく秘孔を突きおって。この屈辱、必ず返すぞ!」
悔し涙を流し、歯ぎしりをする天。
南斗と北斗の新たな因縁が生まれたのだった。
因縁は生まれても相手が今後出てこないので、伏線でも何でもない帝王の戯言です。ご注意下さい。
次は少し時間が飛ぶ予定です