とある世界の無限剣製《ブレイドワークス》   作:中田魔窟

14 / 14
遅れたというかそう言う次元ではないですね。本当に申し訳ありません。続きを書こうとしても上手くいかずちょくちょく書いては放置してを繰り返して約2年。初期のコンセプトも目指した物も朧げになりつつありますが、このままいてもどうにもならないと判断し、投稿することにしました。
難産も難産で、ほぼ旧作のままなのに2年くらい引っ張った挙句、この後に続く話も未だにふにゃふにゃしているので次回の投稿時期も確約できない超駄作でありますので、それでも良いという方だけ目を通していただければと思います。




 衝撃音を聞きつけた土御門は神裂に諸々の処置を任せ、衛宮と上条がいる筈の部屋へ向かった。

 

「カミやん無事、…か?」

 

 部屋の中で呆然としている当麻に声をかけると同時に部屋の状況を知る。

 床が約一メートルに渡って陥没している。崩れた場所のすぐ側には男が一人、目を見開いたままぶっ倒れている。この海の家には上条の面々しか泊まっていないこととソイツの手には三日月形のナイフが握られていること、その現状から判断するにどちらから仕掛けたかは分からないがこの男とおそらく上条と共にこの部屋に残っていた衛宮が争い、結果勝利したのだろう。

 それだけなら、追っ手を殺さず捕まえられたのか良かったぜ、で終わる話のなのだがもう一人の新たな登場人物が事態を悪い方向へと導いていた。

 

「問二。何故邪魔をするか」

「ふむ?襲撃者を撃破した直後に乱入してきた相手に凶器を向けられた人間を見捨てるのが当然だとでも?」

「解答五。平常時において貴方の答えは正答。ただ、現状は通常ではない。私が用があるのはそこの少年だけだ。時間はかけない」

「君は私の話を聞いているのかね?腰にノコギリやら釘抜き(バール)やら金槌やらをぶら下げている様な相手と当麻を一対一にさせるとでも思っているのか?」

「警告。コレ以上の妨害は私への敵対行動と見なす。即刻引け」

「…ふぅ。君と話していると人間と会話している気がしないな」

 

 目の前にはウェーブのかかった金髪で全体的に赤いの装束を纏った下半身辺りが妙にエロっちいシスターと鋭い目つきと雰囲気を発する衛宮が相見えている。

 赤いシスターは右手にノコギリを握り冷たい殺気を放ち、衛宮は得物こそ持ってはいないもののその鋭い視線を油断なくシスターを見据え、腰を地に付けてしまっている上条の前に立ちはだかっている。

 このままでは二人はその内殺し合う(おっぱじめる)だろう。

 

「…コレは一体どういう状況なんだカミやん?」

「お、俺にもサッパリ。衛宮が床砕いたら火野が出てきて窓からその子が出てきて衛宮と、」

「分かった。もう良い」

 

 瞬く間に変遷する状況についていけていないであろう当麻を放置し、目の前で睨み合う二人の間に割り込む。

 

「イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の土御門元春だ。一度刃を収めろ」

「む、元春か」

「…」

 

 赤いシスターはノコギリを腰に収め、それを見届けてから衛宮も警戒を解く。

 

「一体どういう状況なんだ?」

「私も詳しい事は分からん。俺はただ襲撃者共を迎撃しているだけだからな」

「…じゃあ、今度はお前に聴くぞ。所属と目的を言え」

 

 衛宮と話している最中も微動だにしていなかったその少女に問いかける。

 

「解答六。私はロシア成教、『殲滅(Annih)白書(ilatus)』所属のミーシャ・クロイツェフ。目的は『御使堕し(エンゼルフォール)』を引き起こした容疑のあるそちらの少年への詰問だ」

「…ロシア成教も動いたのか」

「…本物なのか?」

 

 衛宮が質問を投げ掛ける。

 素人に初見でイギリス清教とロシア成教を判別しろというのは中々酷な事だろうと納得し、解説する。

 

「ああ。アイツの腰に付けてるヤツは分かるか?」

「む、…『処刑塔(ロンドンとう)(なな)道具(どうぐ)』か?対人拷問用の霊装のようだな」

「ああそうだ。もしかしたらもう分かっているのかもしれないが、ありゃ処刑塔(ロンドンとう)の霊装の中でもブランド品でな。おいそれとそこらの魔術師が手に入れられる代物じゃねーんだよ。つまり、教会の人間って事ですたい」

「…そうなのか」

 

 納得して貰えた所で、衛宮にだけ聞こえる声量で呟く。

 

「…ついでに言えば、イギリス清教が対人の専門機関だとすりゃあ、ロシア成教は対霊、幽霊退治を専門にしている連中だ。中々極端な考えをお持ちだから、『イイユウレイダカラコワクナイヨー』なんて言った所で見逃してくれるかは分からんぜい」

「…成程、心得た」

 

 こんな緊急事態の最中でも、『亡霊の類は全て偽者に過ぎず、本物がいたとしても天国地獄にも存在を許されない大罪人である』なんて思想を持った連中が幽霊を自称している衛宮を放っておくか不明であった為、一応釘を刺しておく。

 それから改めて、ミーシャを名乗る少女へ向き直る。

 

「連れが迷惑をかけたな。だが、あまりオレ達の護衛対象に手荒な真似はよして貰えないかにゃー?」

「問三。ならば貴方がその少年の潔白を証明出来るか」

「『必要悪の教会(ネセサリウス)』の公式見解ぐらいなら教えてやれるが…」

 

 堅っ苦しいミーシャの問いに対して、上条当麻には魔術の知識がなく『御使堕し(エンゼルフォール)』を起こせるとは思えないという事。超能力者が魔術を使うと肉体に負荷がかかる筈だが、それが見当たらない事。上条当麻が『御使堕し(エンゼルフォール)』の影響を受けないのは、おそらくあらゆるオカルトを触れただけで打ち消す事の出来る『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の作用によるものだと言う事を説明した。

 ただ説明を終えてもミーシャは『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の部分だけは引っかかっている様に見える。

 

「そこまで疑うんならカミやんに魔術をぶつけてやると良いぜい。ただし、簡単にいなせる程度のをな」

「えっ、ちょっと待て!そりゃおかしいだろ!?」

「…賢答。構えると良い、少年」

「お前も乗せられるなよ!!」

 

 上条の反論も空しくすぐさま詠唱に入るミーシャ。

 

「数価。四〇・九・三〇・七。合わせて八六」

 

 ズバン!とミーシャの背後の床下から噴水の様に水の柱が飛び出す。どうやら、砕けた床の地下の水道管から無理矢理持ってきたらしい。そこに倒れていた火野神作が部屋の隅へと転がっていくのが見えた。

 

「照応。水よ、蛇となりて(メム=テト=)剣の様に突き刺せ(ラメド=ザイン)

 

 その言葉と共に水の柱が鎌首をもたげ、神話の多頭龍の様に幾本にも枝分かれし上条を突き刺さんと迫る。

 

「うおっ!?」

 

 幾つかの水槍が床を穿つ最中、その内の一本が確実に上条を捉えた。

 咄嗟に上条が右手で防ぐ。

 水槍は四散し、上条は見えない盾に守られるかの様に傷もなく、濡れる事もなく完全に元の状態でそこにいた。

 ミーシャは辺りを見回した後、申し訳なく思っているのかも分からない口調で謝罪の言葉を口にする。

 

「正答。イギリス清教の見解と今の実験結果には符合するものがある。この解を容疑撤回の証明手段として認める。少年、誤った解の為に刃を向けた事をここに謝罪する」

「刃を向けたっていうか突き刺したじゃん今!ってか謝るなら人の目を見ろ!」

「問四。しかし貴方が犯人でないならば『御使堕し(エンゼルフォール)』は誰が実行したものなのか。騒動の中心点は確かにここの筈なのだが、犯人に心当たりはあるか」

「聞けよお前!ってか、実はちっともさっぱり反省してねーだろ!?…って、ああ…そう言えば心当たりなら一応…」

 

 と、叫んだ後、ふと思い出したかの様に指を指す。

 そこにはいつの間にか倒れた状態から、手錠と足枷によって自由を奪われ壁に立てかけられている状態へと移行していた中年男を指差す。

 

「問四。私の来た時から気絶していた方か」

 

 ミーシャは静かにその男に近付いてじっくりと観察する。

 

「ああ。なんか床下に潜伏してたみたいなんだ。結局衛宮に床ごと踏み倒されたんだけど」

「へー」

 

 と、土御門は話題に上がった衛宮へと視線を向ける。

 

「…(あれが『魔術』か。魔力の動き自体は俺のと大差ないが、体内の魔力の巡りに違和感があるな。『魔術回路』ではないとなると体内の器官を魔力の循環に使っているのか?回路が要らないとはな…)」

 

 小声でブツブツ呟きを漏らし、水流が食い破った箇所を眺めている。なぜだかとても興味引かれているようである。

 今のはフェニキア文字とヘブライ文字による詠唱に用いていたようだが、効果も特筆する様なものはない。何を感心しているのだろうか。

 疑問は覚えたものの、とりあえず衛宮に意見を求める。

 それから衛宮がこの場にいる全員に言い聞かせる様に話し出す。

 

「ニュース位しか情報源(ソース)がないんだがな。…この男の名前は火野神作。今現在も逃走を続けている脱獄犯だ。刑務所に入る前は『儀式殺人』とか言う殺人法で二十八人も殺害したらしい。愛好家(マニア)模倣犯(コピーキャット)も結構いるらしい、今回の脱獄もソイツらの手助けがあっての事らしいな」

 

 『()()殺人』か…。

 

「だが、コイツ床下にいる時にエンゼル様とか呟いてたし何かしら関わっている可能性はあると思う。後はコレだな」

 

 衛宮が大学ノートくらいの大きさをした木の板を差し出してくる。

 

「コレは?」

「そこの男の所持品らしい。持っていたナイフで英単語が刻まれてるから何かの魔術かも知れないとも思ったんだ。元春なら何か分かるんじゃないか?」

 

 渡された板を良く見てみる。

 ナイフで適当に刻んだ様な不恰好な単語が適当に板中に書いてある。何度も何度も上から重ね書きをしたのだろう、そこに書かれているもので判然としている単語は一つもない。

 これ自体は霊装の類ではない。

 

「スマンが俺にも分からん。可能性があるのはコレは誰かからの受け取った指示を書き込んであるだけのものなのかもな。魔術だとしたら神託か自動書記の類ぜよ。ニュアンス的には『こっくりさん』とか『プランシェット』みたいなもんだにゃー」

「その誰かって言うのが黒幕って事なのか?」

「さぁな。現段階では何とも言えん。まぁコイツが事件に関わっているかどうかは入れ替わっているのかいないのかを調べりゃ分かる事さ」

 

 話し合いをしていると、『人払い』を張り終わったらしい神裂が部屋に入ってきた。

 

「土御門。『人払い』を二階に仕掛けておいたのですが……」

「どうしたねーちん?」

「店員は一階に寝泊りしているらしく、目撃されてしまいました。幸い店主は二階で作業中との事です」

 

 確かに神裂の後ろを見てみると見た目が学園都市第三位の超電磁砲(レールガン)になっている店員がビクビクしながら立っている。

…いや上条夫婦の連れの少女の方がそうだったか、ならこの少女は、と考えていた土御門に対して店員が数歩近づいてくる。

 

「な、なぁ、コレって特撮ヒーロー番組収録か何かか?」

 

 多少冷静さを取り戻してきたのかおずおずと話しかけてくる。その喋り方は見たままの年齢、どころか性別の違いすら感じさせる。

 

「我々の事は深く探ろうとしない方が身の為です」

 

 神裂がピシャリとその質問を拒絶する。

 土御門は

 

「ちょいとお前さん、質問しても良いかにゃー?」

「ん?アンタ良くテレビに出てる…」

「いや、そんな事はどうでもいい。突然だがアイツ誰に見える?」

 

 オレの指差す方向には未だに気絶している火野の姿がある。

 

「って、ソイツ火野神作じゃねーか!?アンタらが捕まえたのか!?」

「ああ、まぁな」

 

 コレで決定だ。

 火野神作は入れ替わりを起こしていない。

 

「じゃ、じゃあ俺が電話で通報を…」

 

 急いで奥の部屋に戻ろうとした時、土御門が衛宮に目配せをする。

 

「…」

 

 衛宮は黙って頷く。

 そして、出て行こうとする彼女の首筋に手を当てる。すると、音もなく姿勢を崩し、予め構えていた衛宮の腕の中に収まる。

 

「あなたは何を…!」

 

 神裂が詰め寄ろうとすると、衛宮は片手で制した。

 

「ただ気絶させただけだ。いつまでも動き回られると困るのは神裂も同じだと思うが?」

「…」

「そういうわけだから、俺がこの…()をベッドに連れて行っている間にそこ男から何か聞き出しておくと良い」

 

 そう言って店の奥へ消えていった。

 衛宮の背中を見送った後、土御門が切り出した。

 

「…さぁて、聞きたい事を手っ取り早く尋ねるとしますかにゃー」

「って、どうするんだ?」

「カミやんはちょっと後ろ向いてた方が良いかもしれないぜい」

「なんでだ?」

 

 土御門は上条に笑いかけたまま、眠り続ける男の目を覚まさせる為に、腹を蹴飛ばした。

 

 

「……、分からねぇよ、何だよ、それ、何ですか、えんぜるふぉーるって、知らないよ、エンゼルさま、コイツらナニ言ってんですか、分かんないよ、答えてください、おかしいよ、おかしいんだ、何でこんな事になってるんだ」

 

 俺が部屋に戻ってきた時、火野は元春、神裂、ミーシャによって囲まれていた。

 無理矢理気絶させられて、そして、無理矢理覚醒させられた火野は今この状況を理解しているのかいないのかも分からない状態で一心に喋り続けている。喋り続けている間も右手は動き続け、自分の指を圧し折りそうな勢いで床の上を駆けずり回っている。アレがエンゼル様の意志って奴なのだろうか?

 

「そんじゃ、本格的に始めるか。とりあえず肘の関節でも外すか。関節の外れた腕は思いの外よく伸びるモンだけど、まずは一センチずつ伸ばしていくかにゃん?」

「…」

「…」

 

 そんな火野を前に元春はニヤニヤと、ニタニタと愉快げに笑いながら、ミーシャは右手にネジ回し(ドライバー)を、左手にノコギリを持って、神裂はただ冷静にしかし威圧する様に佇んでいた。

 

「…俺の出番はなさそうだな」

 

 俺も拷問の方法は心得ているものの、『人間狩り』に特化したイギリス清教の面々と拷問専用の道具を持った奴がいるのであればわざわざ俺が出しゃばる事もないだろう。

 というわけで俺は彼らの後ろに居心地悪そうに座っている当麻の所へ行く。

 

「火野の様子はどうだ?」

 

 自分以外の犯罪者一人と魔術師三人が同じ部屋の中でヤバイ事をしているというのはあくまで一般人の当麻にはキツイ所があったらしく、俺が話しかけただけで少し楽になった様に見える。

 

「どうもこうもずっとあのまんまさ。知らぬ存ぜぬの一点張り」

「ふむ」

 

 かなり錯乱している様だし真実を話せないのも無理はない様な気はするが…。

 

「ん?」

 

 と、火野を捕まえる時に踏み抜いた大穴が目に入ってきた。そう言えば、火野にかまけて砕いた床の事を忘れていた。

 

「…床直しとかないとな」

「…目の前で人が拷問されてる時によくもまぁそんな事を言えるな」

「別に殺されてるわけでもないからな。今は非常事態だし、死なない程度には役に立って貰おう」

「クールですねー…」

 

 立ち上がって穴へ近づく。

 教会の連中は火野に首っ丈の様で、俺の方には見向きもしない。

 元春に一言断ってから俺の壊した畳と床、ミーシャが破裂させた水道管の修復に取り掛かる。

 

「(…この規模なら一分も要らないな)」

 

 早速修復の工程に移る。

 脳内に『わだつみ』全体の設計図を構築し、この部屋の破損部位(患部)をピックアップ。次に物体に宿った蓄積年月から設計図を逆算、元の設計図を再現。最後に設計図通りに残骸を組み立てる。

 ハイ、完成。来た時と変わらない床の仕上がりだ。

 本来なら軽い達成感を味わっている所なのだが、少し腑に落ちないことが胸の中にわだかまっていて、どうにも素直に達成の余韻に浸れない。

 

「お疲れさん、ってか疲れてねぇか」

 

 修理の工程を眺めていた当麻が労いの言葉をかけてくる。もう少し時間がかかると踏んでいたのか、予想以上の速さに少し驚いている様にも見えた。

 

「…そうだな。朝飯前には違いない」

「朝飯ねぇ。幽霊って飯食うのか?」

「食事の必要はないけど、食べられないわけじゃない。栄養は魔力に還元出来るが、微々たるもんだよ。人間の頃の名残みたいなもんだ」

「ふーん。死んでるんだしそんなもんか」

「……」

「……、ん?……なんだ衛宮。考え事か?」

 

 突然黙り込んだ俺に疑問を持ったのか当麻が尋ねてくる。

 とりあえず、吐き出す事でモヤモヤの解消を図る。

 

「…疑わしいと判断した俺が言うのも何なんだけど、火野が本当に魔術師なのか、そもそも今回の事件を引き起こしたのか気になってな」

「え、でも」

「ああ。火野が怪しい事には違いないさ。でもアイツが魔術師だとしたらわざわざ床下に潜んで毒塗りのナイフなんかで一々襲うのかと思ってな。天使を降ろせるほどの魔術師なら人一人葬るなんて簡単だろ?」

「それはそうかもしれないけど…ってあれ毒塗りだったの?」

 

 自分を突き刺す筈であった短剣にそんなもんが塗られていたと知り、愕然としている。

 

「ああ。ご丁寧に解毒出来ない様にアフリカの先住民が狩りに使う毒毛虫を主成分に毒蜘蛛、毒蛇、毒蛙の毒をブレンドしてあった。本当に刺されなくて良かったな、もしアレで刺されてたらものの数時間でポックリ逝ってたぞ」

 

 魔術師の腕を借りれば吸い出すのも難しくはなかったかもしれないけれど、まずは刺されない事が重要だろう。

 

「…よく分かるな、そんな事」

「まあ、な。コレでも生前は何度も毒殺されかけた事があってな。自然と毒物の知識は付いた」

「…ま、まあ、火野神作がわざわざナイフを使ったのもカモフラージュだったかもしれないじゃん」

 

 当麻は色々複雑そうな俺の話題は軽くスルーして火野の話題へ強引に戻すつもりらしい。

 俺も詳しく聞かれても困る話題だし、好都合なので構わない。

 

「それにも一理あるだが…。アイツには魔力の痕跡の欠片もないんだ。あのナイフも製造日から今まで魔力に触れた事さえないし」

「うーん…」

 

 当麻も何か引っかかっている事があったのか考え込んでいる。

 

「…そうだ!」

「む?」

 

 突然当麻が声を上げる。

 それにつられて火野の方を向いていた三人もコチラに注意を向ける。

 

「二重人格だよ。さっきのニュースでもやってた」

「ああ、確かにそんな事は言ってたけど」

「もしさ、火野は入れ替わりを起こしていないんじゃなくて、二重人格同士、つまり『人格(なかみ)A』と『人格(なかみ)B』が入れ変わってたとしたら、外見に変化は起こらない」

 

 なっ…、とそこにいる全員が驚く。俺も例外ではない。

 

「…そんなことが?」

「学校でも習ったんだけど二重人格ってのは『人格A』と『人格B』が綺麗に切り替わるだけとは限らないんだ。右手と左手を別々の人格が動かす『共存』パターンだってあるんだよ。もし、火野の言っているエンゼルさまって言うのがその入れ替わった人格だとすれば…」

 

 全員が火野の絶えず動き続ける右手を見つめる。

 

「ふざ、ふざふざふざふざふざふざけるなよ!おま、お前らもアレか、あの妙チクリンな医者とおんなじ事を言うのか!エンゼルさまはいるんだ!エンゼルさまは本当にいるんだ!何でそれが分からないんだ」

 

 先程までブツブツと呟いていただけの火野が当麻を睨みつけ叫ぶ。

 火野にしてみればエンゼル様の存在を否定されるのは命を奪われる事より辛いんだろう。何せ、火野はエンゼルさまの為なら、人を殺す事さえ躊躇(ためら)わなかったのだから。

 

「医者に……。医者に、言われたのですか?あなたのエンゼルさまは、ただの二重人格だと?そういう診断を受けたのですか?」

 

 しかし、火野の言葉は当麻の発言を聞かされた後では神裂達に強い疑惑を抱かせるだけのものだった。

 

「ひっ!…やめ、やめろ、そんな目で見るな。あの医者は何も分かっていないんだ。何にも分かっていないだけなんだ!」

 

 そのあまりの痛々しさに耐性のない当麻は顔を背ける。

 無理もない、当麻は人一人の人生を否定したようなものなのだから。

 

「…決まりだな」

 

 元春は皆の目の前で宣言する。

 

「火野神作は、『御使堕し(エンゼルフォール)』の犯人じゃない」

 

 

 俺が火野をもう一度寝かせた後でも全員が固まってしまったままだった。

 火野が犯人ではない、そう決まってしまっては振り出しに戻ってしまったに等しい事だからだ。

 

「それで、火野が、『御使堕し(エンゼルフォール)』の犯人じゃないのなら一体犯人は誰なんです?」

「そんな事言ったって……」

 

 その問いに誰も答えられる筈はなかった。

 誰が、他に入れ替わっていない人間を知っているというのだろうか。

 …いや、いるか。ここに一人。

この後に及んで黙っているのも限界か。

 

「……」

「どうしたエミやん?」

 

 俺の様子が気になったのか不審な様子で元春が質問してくる。

 

「…いや、知っている。後一人だけ、入れ替わっていない人間を」

「何だと?心当たりがあるっていうのか?」

 

全員の視線が俺へと集まる。

 

「誰なんです?」

「ミーシャを除いたお前達なら一度は見た事がある筈だ」

 

 俺は召喚されて間もない時の事を、次の日の朝を思い出しながら、告げる。

 

「上条刀夜。…彼だけは『御使堕し(エンゼルフォール)』の前後でその姿を変えていない」

 

 




おひさしぶりですnakataMk-Ⅱです。
本当に申し訳ありません。この文言も何回めだという話ですが、もう一度言わせていただきます。
楽しみにしていただいた方の期待を裏切り続けた上で、今更こんな作品を更新してどうなるんだという意見が多いと思います。
ただ、更新を待ってますという感想もいくつも受け取っておりなんとかしないと思い今回の更新に至りました。
今後どうするといった言葉は現状書く事は出来ませんが、何とか次の更新もしていきます。今後も更新されていたら、気が向いた時だけちらりと見ていただければ嬉しいです。
誤った箇所や矛盾している点等見つけましたらご指摘頂けると嬉しいです。
それでは。

○10/11日追記
・ご感想等頂けるのは非常に嬉しいのですが、ボキャブラリーが貧困なので大抵が同じような文章になりそうなので返信は意見等にのみにさせていただきます。申し訳ございません。
・FGOとの設定の兼ね合いで少しパラメータの耐久と魔力のランクを弄りました。前者とあるサーヴァントの設定の影響で、後者はFGOで本職のキャスターでもAランク持ちはそれほど多くなかったのが理由です。
・ちょっと設定を変更。刀夜が入れ替わっているのに気づかないのは間抜けすぎるとの声をいくつか貰っていたので、一応気がついていたということにしました。少しずつ修正していきます。
○10/12追記
・いつも通り一話からざっと見直して誤字脱字、違和感のある言い回しの修正をしました。
・⑧の人称を整理。今まで、禁書側は三人称っぽく、エミヤ側は一人称っぽく書いていたのにこの話だけは混ざっていたので修正しました。三人称難しい。しかし一人称も内面を上手く書かないといけないから難しいです。文才がないだけか。
・衛宮の一人称を一日目以降だいたい統一。よく二次創作でも使われていた設定かもしれませんが仕事用と日常用で口調を使い分けていく予定。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。