「守護者の集合が終わりました」
セバスがアインズの部屋に報告に来る。後ろにはアルベド。
「そうか。私とはくたくはアルベドとともに向かうからセバスは先に玉座の間に向かってくれ」
「了解しました」
セバスが退室し、部屋に残るのはアインズ、はくたく、アルベドの三人。打ち合わせも終わり後は玉座の間に行くだけだがその前にアルベドに聞かなければならない事がある。
アインズが覚悟を決めアルベドに
「アルベドよ。お前は私をあ、あ、愛しているのか?」
指輪を迷いもなく左手の薬指に嵌めたアルベドの翼がビクリと反応する。
金色の目を期待に輝かせながらアルベドは答える。
「はい!もちろんでございますアインズ様!指輪を渡された後にそのような事をおっしゃられるという事はこれはプロポーズ!!!
そして守護者を玉座の間に集めたのは私との婚約発表という事ですね!!」
「そ、それは・・・」
(まあシチュエーション的にはそうだよな)
はくたくは話が脱線しないようにする。
「落ちつけアルベド。アインズさん、説明を」
「は、はい。んん・・・アルベドよ、実はお前が私を愛しているというのは、実は私がそうあれと歪めてしまった物なのだ。だから…」
アインズは口ごもる。希望すれば元に戻すと言おうと思っていたが、戻し方が分からない。
スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンと玉座のマスターコンソールで修正が出来ないのは確認済みだ。
アルベドが微笑んだままアインズに語りかける。
「アインズ様が変えられる以前の私はどのような私だったのですか?」
「それは…」
「恋多き乙女…と言った感じかな?少なくともアインズさん一筋といった感じではなかった。アルベド、アインズさんは今は手段を見つけてはいないが、お前が希望するのであれば手段が見つかり次第元に戻したいそうだ」
アインズだけでは話が進みそうにないと思ったはくたくは助け舟を出す。
アルベドは迷いなく答える。
「そうであれば、私としてはこのままでもよい事だと思います。それにアインズ様がそうあれと決めた事で、どうしてアインズ様が御心を痛められる事がありましょう?全てはアインズ様の御心のままに・・・」
「しかし…」
「しかし?しかし何でしょう?」
「・・・・・・・・」
アルベドの微笑を浮かべながらも気迫がにじみ出る顔にアインズは黙る。
(よし!押し切られるな。よかったよかった。まあしっとマスク最大保持記録タイのモモンガさんがサキュバスに勝てるとは思ってなかったけど)
はくたくはアインズと二人きりの間に相談された時は口には出さなかったが、内心ではアルベドを元に戻すことには反対だった。その理由はアインズの心労の軽減だ。自分は一応生物の体を持っているため幾らでも気晴らしは出来る。だがアンデットの体のアインズはどうだ?眠れず、食事も取れず体はスカスカの骨。肉体的精神的には問題なくても心は摩耗する。アルベドが傍にいればモモンガも心が癒されるのではと考えていた。
「アインズ様、よろしいのではないでしょうか?」
「え?」
アルベドがアインズに畳み掛ける。
「アインズ様、重要なことは一つだと思います。ご迷惑でしょうか?」
「い、いや、そんなことはないぞ」
「ならばよろしいのではないでしょうか?」
「私はお前の創造主タブラさんの設定を歪めたのだぞ?いいのか?」
「タブラ・スマラグディナ様であれば娘が嫁に行く気分でお許しくださると思います」
「・・・・そ、そうか?」
アインズの視線がはくたくに向かい「助けて」と訴える。
はくたくは頷く。アインズは一瞬希望を持つが、その希望は打ち砕かれる。
「ギャップも萌えが信条のタブラさんなら許してくれると思いますよ。玉座での予定にはなかった婚約発表、入れてもいいんじゃないでしょうか?」
「ちょっとはくたくさん!」
「アインズさんだって下心が無けりゃああいう事しなかったでしょ?」
「それは…」
アインズがうつむき口を閉ざす。
(痛い所を突いてしまったか。やはり設定書き換えた事に責任感じているんだな…)
「とりあえずその件は後にしましょう。もう少し状況が安定してからでもいい事です。それでいいなアルベド?」
アルベド微笑を湛えて返事をする。
「はい、時間は幾らでもございます」
「そう言う事ならこの件は終わりでいいですね?アインズさん」
「ええ…それでは守護者を待たせていますし、玉座の間に向かいましょう」
ナザリック地下大墳墓第十階層、玉座の間。
今ここにはナザリックのほぼ全てのNPCが集っている。それに加え各階層守護者の選りすぐった高レベルのシモベも集められている。彼らは扉から玉座まで走る赤い絨毯の左右に分かれ控えている。音一つ立てることなく跪く彼らからの忠誠心を一身に受けながら玉座に座るアインズは口を開いた。
「まずは我々が勝手に動いた事を詫びよう」
声音からは謝罪の雰囲気は全く感じられない。これはあくまでも建前であり、謝罪する事で彼らを信用していない訳ではない事を示すためだ。
「何があったか仔細はこの後アルベドから聞くように。ここに皆を集めたのはこの事を伝える訳ではない。先程我々と言った事から察した者もいるだろうし、既に階層守護者から話を聞いたり、姿を目にした者もいるだろうがここで改めて伝えておく」
レメゲトンと玉座の間を隔てる扉があけ放たれる。
「はくたくさんが帰還した」
扉を開けた者―――いや魔獣は絨毯を進む。
甲殻を背負う頑強な体、猛禽類のような手足、しなやかな尾を鋼青色の鱗が覆う。
地龍を思わせる頭から二本の角を生やし、甲殻からも鋭い棘が複数突き出している。
黒い手足を足甲と手甲で覆い、片手に同じく黒色の
ゆっくりと絨毯を横断し玉座への階段を上がると玉座に座るアインズの横に立つ。
はくたくは斧を杖のようにして柄で床を突きカツンという音を響かせる。
跪き頭を下げたままの部下を一度見渡し皆の意識が自身に集まっている事を確信し声をかける。
「皆面を上げよ」
バッという音を立てて全員が顔を上げる。その顔には全て歓喜の色が浮かんでいた。
もう一度全員を見渡してからはくたくは言葉を続ける。
「まずはお前たちと共にいる時間が短くなっていった事、そしてその事でモモンガさんに迷惑をかけた事を謝りたい。モモンガさんが一人でナザリックにいる事を知りながら、そしてお前たちが私を待ち侘びていた事を知りながら、そうしてしまった事を」
はくたくは本心から頭を下げる。これはモモンガへの、そしてこうして意志を持ったNPC達への自分なりのけじめだ。
NPC達に動揺が走るが、それをアインズが手で制しはくたくに応える。
「私はこうして帰ってきたはくたくさんを許そうと思う。お前たちの中で言いたい事がある者は今進み出よ」
暫くした後にアルベドが一歩進み出る。
「何だ?アルベド」
「我々は至高の41人に仕える為に生きております。仕えるべき御方が再び帰還した事を喜びこそすれそれに不満を持つ者など居る訳がありません」
アルベドの言葉に皆が首肯する、中には涙さえ浮かべている者もいた。
はくたくは頭を上げ、全員の表情を確認した後に告げる。
「お前たちが私に替わりなく忠誠を誓ってくれる事を嬉しく思う。…湿っぽい話は好きじゃない、話題を変えよう。アインズさん」
はくたくの言葉を受け継ぎアインズが続ける。
「そうですね。お前たちをここに集めたのは、はくたくさんの帰還を伝えるだけではない。私は名前を変える。これからは先程はくたくさんがそう呼んだように―――」
アインズは玉座の後ろに掲げられているギルドサインを指し示す。
「アインズ・ウール・ゴウン、アインズと呼ぶが良い。意義のあるものはいるか?」
立つ者はいない。
「よろしい。では次に指揮系統についてだ。これまでナザリックの方針が割れた場合、我々は多数決を取ってきた。だが今は二人だ。ナザリックが割れる事を防ぐため、最終的な指揮の優先度は私が一番、はくたくさんを二番目とする。これはあくまで指揮権に関する事だけだ。それ以外においてはこれまでと同じである事を忘れるな。そして新たにギルドメンバーが帰還すれば再び元に戻すという事も覚えておけ」
これは二人の話し合いで最後まで揉めた事だった。はくたくはこれはどうしても必要という事でアインズを説得した。これからの方針で二人の意見が違う事が出てくる可能性を考えると考えておかなければならないからだ。ナザリックを割らない為というはくたくの言でアインズはしぶしぶ納得したが、はくたくにはもう一つ理由があった。
(ナザリックが割れた場合、自分に着く奴は少ないだろうからなあ)
聞けば彼らは否定するだろうが、最初から最後までギルドに尽くしたアインズと帰って来たばかりの自分とで忠誠度に差があるのは当然だろう。想像したくはないが、いざとなればどうなるかは嫌でも予想できる。
「これはアインズさんと自分で考えが割れた場合にのみ適用されるし、大抵の事では話し合いで決着がつくだろう。お前たちが深く考える必要のない事だ。頭の隅に入れて忘れなければいい。次にアインズさんから我々の指標となる方針が示されるので皆傾聴せよ」
暫く待ち全員が聞く準備が出来てからアインズは玉座から立ち上がり床に手に持つスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを突き立て宣言する。
「かつていた世界では私のこの名を、このギルドを知らぬものはいなかった。お前たちに厳命する!この世界でも同様に我が名を、そしてアインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説にせよ!」
アインズは力の有る声で続ける。
「この名を地の果てまで、地に、天に、海に轟かせよ。この世界の全ての知性ある者にアインズ・ウール・ゴウンの名を刻みつけるのだ!」
アインズの宣言が広間の全員に染みわたり、二人を除く全員が一斉に音を立てて頭を垂れる。
はくたくが彼らに告げる。
「今は雌伏の時だが、それはいつかナザリックがこの世界の表舞台で最も輝くための準備と心得えよ。アインズさんから他に何か?」
「いえ。では以上で我々からの話は終わりだ。これからも忠義に励め」
二人は玉座から退室し、レメゲトンから
二人が消えた玉座の間では熱狂が渦巻いている。彼らが使えるべき主が一人帰還し、さらに果たすべき使命を与えられたからだ。ナザリックに仕える者にこれを勝る幸せなど存在しない。
「皆、頭を上げなさい。重大な話があります―――デミウルゴス」
「畏まりました」
デミウルゴスはアインズとはくたくの発言を皆に教える
「アインズ様とはくたく様が夜空に上がられた時、アインズ様は私にこう仰いました。『この世界が宝石箱ならこの宝石は我々で独占すべきものではないな。ナザリック地下大墳墓を、そしてわが友たちとこのアインズ・ウール・ゴウンを飾るものだろう』そして最後にこう仰いました。『世界征服なんて面白いかもな』と。それにはくたく様が『世界征服か。ロマンはあるな』と返されたのです」
それを聞いた者の目に炎が宿る。それは決意と忠誠の色だ。
同じ目をしたアルベドが全員を見渡し、宣言する。
「至高なる二人の真意を受け止め、それに応える事こそ真の忠義である。ナザリック地下大墳墓の最終的な目標はこの世界―――この宝石箱をお二方に捧げる事とだと知れ」
全員が声を揃えて宣言する。
「「「この世界を我らの主たちの手に」」」
二巻目からはもっとオリ要素入れれるように頑張ります