オーバーロード 破壊の魔獣   作:源八

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護衛

ンフィーレアと冒険者二チームはエ・ランテルを北上し、今は森の外縁に沿って東へとゆっくり進んでいた。平野を東に進んでから北上するルートもあったが、今回はモンスター狩りも兼ねているためモンスターと遭遇する確率の高い森のそばを通るルートを取っている。一行はンフィーレアの乗る馬車を中心に、前方警戒をルクルットとはくたくが、側面護衛をペテルとダインとニニャが、後備えにアインズとナーベラルという隊列を組み移動している。はくたくとアインズはここまでの行程で、幾度かルクルットの発言とナーベラルの態度に幾度か肝を冷やしながらも、漆黒の剣とンフィーレアから様々な情報を得る事が出来た。

 

(漆黒の剣を依頼に組み込んだのは正解だったな)

 

彼らから魔法や武技、有力な冒険者や周辺の情勢についてなどを聞き出し、はくたくは陽光聖典捕虜から絞り取った断片的な情報の穴埋めをしていく。

 

(このあたりで香辛料が比較的安い理由が魔法で作り出しているからとは、ンフィーレアから聞かされるまで思い付きもしなかった)

 

話を聞けば聞くほどより専門的な疑問が増えていく。今の所、彼らは進んで情報をアインズに提供してくれている。

 

(彼らがやたらと協力的なのはあのデモンストレーションが効いたからかな?)

 

アインズ達は出発する前に、街の外で彼らに軽いデモンストレーションを見せた。彼らにナーベラルの<電撃(ライトニング)>と、アインズとはくたくが巨木を一太刀で断った所を見せたのだ。それによって彼らに残っていた、自分たちの実力に対する不信感が消えたようだ。自分たちが大言壮語ではなく裏打ちされた実力を持っているからこそ彼らは協力的なのだろう。また出発するにあたってはくたくが装備を整えるとそれにも彼らは驚いていた。アイテムの質もそうだがモンスターがアイテムを使いこなすというのも珍しいようだった。

 

(街にいる間は何もつけていなかったけど、二級装備を着けただけであんなに驚かれるとは思わなかった)

 

はくたくとアインズはエ・ランテルに行くにあたって貴重品を持ちこむ際のトラブルを避けるため、いつもの神器級のマジックアイテムは外している。それらの代わりに伝説級と聖遺物級のマジックアイテムを装備している。はくたくはアクセサリの類はすべて外し、暗赤色のオーラを纏う手甲と足甲を嵌め、長柄の戦斧(ポール・アックス)を手に持ち、投げ斧(フランキスカ)を二本ベルトで腰に付けている。

手甲と足甲は合わせてセットの剣闘獣の装甲という防具で、装着者の防御力と筋力と命中補正を強化する。ポール・アックスの刃は穂先と槌頭と斧刃を合わせた形状をしている為刺突斬撃打撃を使い分けることができ、込められたデータクリスタルは物理攻撃力と耐久力に特化している。フランキスカは投擲用に調整された短めの柄と上向きに湾曲した斧頭を備えた斧で、これも同じく物理攻撃力と耐久力に特化している。防具とポールアックスはソロ時代に使っていた聖遺物級のアイテムだが、フランキスカは別でギルド加入後もモンスター狩りとPVPで愛用してきた伝説級の投擲武器だ。

アインズも複数の聖遺物級のマジックアイテムを装備しているが、<上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)>によって外装を統一している為、外からは甲冑一式とマントしか見えない。そのためはくたくのように漆黒の剣の面々に個別のアイテムについて根掘り葉掘り聞かれる事はなかった。

 

(魔法ってのは色々便利だよな。テレポートしたり外装統一したり幻術使えたり。こんな事になるなら魔法詠唱者にしておくんだったよ)

 

森の外縁を歩きながら歓談しているとンフィーレアが気になる事を言った。

 

「このあたりから『森の賢王』のテリトリーに入るので、強力なモンスターはいないはずです」

「森の賢王ですか」

「ええ。このあたり一帯を支配している魔獣です。それのおかげでこのあたりにはモンスターが少ないんですよ」

 

アインズがカルネ村で集めた情報を思い返す。

 

(森の賢王は情報によると確かこの周辺の森の主だったか?魔法を使用する恐ろしい魔獣で森の奥に塒があるせいか目撃情報は少ないがいる事は確からしい。モモンガさんは情報から森の賢王の正体は鵺だと予想していたな。その魔獣が本当に数百年も生きているのならば素晴らしい知恵を備えていたり、自分たちが知らない事も知っているかもしれない。自分たち以外のプレイヤーの存在とか・・・)

 

はくたくが森の賢王について考えていると、再びルクルットがナーベラルに絶対成就しないアプローチをしているが無視する。はくたくはルクルットとナーベラルの件はアインズに丸投げする事にし決めている。自分はアドバイスこそすれ、最終的な人事はアインズが決めているのだから今胃を痛めるのはアインズの役割だ。それでもナーベラルが爆弾発言は聞き逃さなかった。

 

「やっぱりさー、口では否定してるけど、ナーベちゃんとモモンさんって恋人関係なんじゃないの?」

「こっ、こ、ここ恋人!?何を言うのですか!私なぞではなくアルベド様という方が!」

「なっちょいおま!!」「おいぃ!」

 

はくたくはナーベラルの超ド級の爆弾発言に思わず振り向く。ナーベラルは自分の失態に気付いたのか青い顔で口を押さえている。

 

(うーんルプスレギナを冒険者にするよう進言すべきだったかな・・・・いや今更考えても後の祭りか)

 

前に向き直るとペテルがアインズに謝っているのが背中から聞こえるが、ルクルットは相変わらず軽口を叩いている。はくたくは会話に参加せずに景色を眺めていると、森の方向からこちらに進んでくる足音を察知した。隣を見るとかなり遠い為ルクルットは近づいている集団にまだ気付いていない。はくたくはアインズにハンドサインを出す。

 

<二足歩行生物の群れ、小規模、小型中型混合>

 

「ハクが何かの集団を感知しました。馬車を止めてください」

 

アインズの宣言を受けて馬車が止まり、漆黒の剣の面々に緊張感が漂う。ルクルットも地面に頭を付け、こちらに向かってくる音に遅れて気付く。ルクルットが森の一角を指差す。

 

「あっちから来ているな」

 

全員がその方向を暫く観察していると、森が揺れ木立の間から平原へモンスターの群れが平原へ姿を現す。小鬼(ゴブリン)が15体、人食い大鬼(オーガ)六体、そして―――最後に現れたオーガと同じくらいの大きさの巨人を見てンフィーレアが声を上げる。

 

「あれは・・・もしかして妖巨人(トロール)!?」

 

それに緊張した声音でペテルが返す。

 

「あれはトロールですね。我々だけでは撤退すべきモンスターですが、どうしますモモンさん」

 

トロールの難度は金プレートの冒険者が適正だ。単体ならともかく、ゴブリンとオーガのオマケつきでは漆黒の剣の一行だけではかなり厳しい。だが今はアインズ達がいる。

 

「私とハクが正面からゴブリンとオーガを蹴散らしてトロールを仕留めます。ペテルさんたちはナーベと共に零れた敵の処理とンフィーレアさんの護衛をお願いします」

「相手はトロールですけど大丈夫ですか?」

 

アインズは自信たっぷりに答える。

 

「あの程度の雑魚に苦労していたら単なる大口たたき(ビッグマウス)ですからね。これを機会に我々の実力を見ていただきます」

「我々の支援魔法は必要ですか?」

「私たちは結構ですので仲間の補助に専念して戴いて構いませんよ」

「了解しました。ではルクルットが彼らを平原に誘導するので、彼らが森から離れてから攻撃をお願いします。我々もモモンさん達の戦闘を出来る限り支援します」

「それではお願いします」

 

アインズ達との作戦会議が終わるとペテルは仲間に指示を出していく。彼らはペテルの指示を一言で理解し、阿吽の呼吸でスムーズに戦闘方針を決めて行く。はくたくの隣でそれを見たアインズがほうと感心した息を漏らす。自分たちが策士ぷにっと萌えや防衛指揮官のぶくぶく茶釜の指揮の元で発揮していたチームワークに比べると稚拙ではあるが、彼らにそれに繋がる片鱗を見たのだろう。はくたくはナザリックに入りたての頃を思い出しながらアインズに声を掛ける。

 

「いいチームですね」

「ええ。もう少し鍛えれば上のランクも余裕でしょう」

 

二人は懐かしい気分で彼らが準備を整えるのを見守った。

 

 

 

 

 

ルクルットが放った矢の挑発に乗せられたモンスターたちがこちらに突撃して来た。オーガを戦闘にその後ろをゴブリン、トロールの順でこちらに向かってくる。モンスターが距離を詰める間にルクルットの矢がゴブリンが数匹仕留め、ニニャがペテルに防御魔法<鎧強化(リーインフォース・アーマー)>を飛ばし、ダインの<植物の絡みつき(トワイン・プラント)>で発生した蔦がトロールを足止めする。

 

(うん、いい連携だ)

 

彼らが必死に迎撃するなかはくたくとアインズは武器を手にのんびりとモンスターへ歩いていく。モンスターとの距離が詰まってくるとアインズは150センチを超えるグレートソード二本を軽々と構え、はくたくも200センチを越える長物のポール・アックスを軽く振りまわしてから構える。アインズが巨大な剣を棒きれのように軽々と扱う様は堂々たるもので、はくたくも長柄武器を扱う動きからは歴戦の戦士の武器に習熟した雰囲気が漂っている。

 

「あなた方は・・・なんという・・・」

 

アインズとはくたくを見た全員を代表してペテルが言葉を喘ぐように漏らす。戦士として彼らがどれだけの鍛錬と経験を積み上げてきたのかを即座に理解したからだ。自分たちと彼らは同じ冒険者だが、彼らは立っている次元が違う。そうペテルは確信する。

二人の威圧感を受けてオーガは変わらず突撃を続けるも、ゴブリンが避けるように遠回りを始めるとそれに合わせてはくたくも動き出す。

 

(オーガはモモンガさんに任せてこちらはゴブリンを殲滅する事にしよう)

 

視界の端にアインズによってトロールが一撃で両断されるのを納めながらはくたくはゴブリンの前に立ちはだかる。ゴブリンの数はルクルットの矢によって数を減らし今は12体。

 

「お前たちの相手をしてやろう」

 

はくたくを倒さなければペテル達を襲えないと判断したゴブリンははくたくを囲み始める。自分を支援する為動こうとするペテルを手で制する。

 

(モモンガさんがオーガを一人で相手しているのに、こっちだけ手伝ってもらうのは格好悪いからな)

 

ゴブリン10体がはくたくを包囲する。少し体格と装備がいいゴブリン二体は後ろから他のゴブリンに指示出している。はくたくはそのリーダー格らしき二体に声を掛ける。

 

「準備は終わったかな?」

「カコマレタ、デモニゲナイ」「コイツハバカダ」

 

ゴブリン達がはくたくを嘲笑する。自分たちに包囲されているのに何もしない事を馬鹿にしているのだ。自分たちよりも強そうな魔獣とはいえ数でかかれば勝てると踏んでいるのだろう。

 

「どっちが馬鹿か、すぐにわかるだろう」

 

そう言い放ったはくたくがリーダー格に一歩踏み出すと

 

「カカレ!」

 

包囲したゴブリン一斉にはくたくに飛びかかる。が―――

 

「邪魔だ」

 

飛びかかったゴブリンは全員バラバラに砕け散りながら弾き飛ばされる。周辺にボトボトとゴブリンの内臓やバラバラになった体が落ちていく。はくたくはポール・アックスを数度振るって飛びかかったゴブリンを全て槌頭で叩き飛ばしたのだ。リーダー格のゴブリンとはくたくを見守るペテル達には、一瞬はくたくの腕と得物が消えるとゴブリン達が吹き飛び、物言わぬ肉塊になったようにしか見えなかった。

アインズとはくたくの戦いを見ていたペテルは呟く。

 

「信じられない・・・オリハルコンどころかアダマンタイト級なのか・・・」

 

一滴の帰り血も浴びていないはくたくは残る二体のゴブリンに向かって歩きながら声を掛ける。

 

「さて、馬鹿がどちらか明らかになったな」

「ニ、ニゲ―」

 

はくたくはゴブリンが逃げ出そうとする前に素早くフランキスカを投げつける。脳天に斧を受けゴブリン二体が仰向けに倒れる。アインズの方を見ると最後のオーガを処理し終えたようだ。はくたくは歩いてアインズに合流する。

 

『モモンガさんいい動きしてますね』

『本職のはくたくさんに比べればまだまだですよ』

『さて、残るはトロールですがどうします?』

 

トロールは蔦の縛めから逃れつつある。トロールは強い再生能力を持つが、首を斬り飛ばすか脳幹を完全に破壊すれば問題はない。

 

「私に任せては貰えないでしょうか」

 

いつの間にか二人の後ろにナーベラルがいた。

 

(ンフィーレアを護れって言ったんだけどなあ。多分さっきの失敗を取り戻したいんだろう)

 

『ナーベラルに任せてみませんか?』

『そうですね。彼女だけ皆さんに実戦を見せていませんし』

「ナーベラルよトロールを排除しろ。ただし使う魔法には気を付けろ」

「はっ」

 

ナーベラルが二人の前に進み出る。蔦の縛めから解き放たれたトロールは一番近いナーベラルに向かって突進を始めるが―――

 

「焼け死ね。<魔法最強化(マキシマイズマジック)電撃球(エレクトロ・スフィア)>!」

 

ナーベラルがトロールに向け広げた手の中で、通常の二倍の大きさの電撃球(エレクトロ・スフィア)が作られトロールに放たれる。愚鈍なモンスターが避けられる訳もなく電撃球はトロールを直撃する。魔力で強化された電撃球によってトロールを中心に周辺に電撃が飛散し、昼だというのに更に明るい光が周辺を照らし出す。強化された電撃球を直接受けたトロールは、のたうつように痙攣した後に煙を上げながら大地に転がる。強力な再生能力も体内から電撃で焼かれてしまっては意味はない。風に乗って馬車にまで獣肉を焦がした匂いが届いた。

 

 

 

 

 

死体から生臭い匂いと焼け焦げた匂いが漂う中アインズ達と漆黒の剣がモンスターの死体から耳を剥ぎ取っていた。はくたくも二匹のゴブリンの頭からフランキスカを引き抜き、こびり付いた脳漿を死体で拭うと耳を切り取る。

 

「すみません、耳を切り取ると知っていればもうちょっと綺麗にやったんですが」

 

はくたくは耳を集める面々に謝罪する。ゴブリンの大半をバラバラ死体にしてしまい耳集めが若干手間取ることになってしまった。ペテルが代表してはくたくの謝罪に返す。

 

「いや、戦闘で殆ど何もしていない私たちに謝る必要はありませんよ」

「そう言っていただけるとありがたいです」

 

はくたくは焼け焦げたトロールの死体と周辺を探すように見渡すアインズとナーベラルに気付く。集めた耳をニニャに渡しアインズの横に立つ。

 

「モモン、どうかしたのか?」

「ん?ああ。遺留品(ドロップ・アイテム)を探していた」

 

<伝言>に切り替えて話を続ける。

 

『ユグドラシルのようにデータクリスタルをドロップする訳ではないようですね』

『ですがこちらはこちらでいい事もあるようですね』

 

はくたくはトロールの傍に落ちている焼け焦げた棍棒や防具を指差す。

 

『ああいう装備品はユグドラシルだとドロップ制限がかかりますが、こちらではそうではないようです』

『という事は』

『PKに成功すれば相手の装備を根こそぎ奪えます』

 

アインズとはくたくの中にPKギルドの暗い欲望が燃えあがる。ユグドラシルではプレイヤーをPKしても一番高価なアイテム一つだけしかドロップしないが、この世界にそんな救済措置は存在しないのだ。只のゲームバランス上の制限なのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。馬車の方角からの声に二人は我に帰る。どうやらペテル達がゴブリンとオーガの耳を集め終わったようだ。トロールの耳を切って三人が馬車まで戻ると、漆黒の剣とンフィーレアが口々に三人へ賛辞の言葉を投げかける。

 

「すごかったです、モモンさん!あの腕力はいったいどんな鍛錬をして身に付けたのか、戦士として教えてほしいです!」

「ハク殿のあの武器捌き!達人としか言い様が無いのである!」

「いやいや、最後にナーベちゃんが見せたビリビリ球もすごかったぜ?トロールを一撃で仕留たんだからな」

「ええ。第三位階の魔法どころかそれの強化まで修めているなんて凄いです!」

 

ナーベラルが当然といった感じ鼻を高くしているが諌める気はない。はくたくもこれ程の純粋な賛辞を受けた事が素直に嬉しかったからだ。

 

「皆さんもこの程度、研鑽を詰めば出来るようになりますよ」

 

アインズが謙遜して言った言葉にペテル達は苦笑いを浮かべている。彼らがどれだけ努力を積み重ねてもたどり着けない高みを「この程度」と言われればそのような顔をしても仕方がない。彼らをはくたくがフォローする。

 

「才能や運というものがこの世にはあるので、努力すれば皆さんが私たちのように絶対になれるとは断言できません。ですが、皆さんが努力すればきっとミスリルやオリハルコン冒険者になれると思いますよ」

 

これははくたくの心からの言葉だ。たとえ才能や力に恵まれなくても経験と努力で辿りつける領域、そこまでは彼らが辿りつけるだろうと。はくたくの言葉でペテルたちの顔が少し和らいだ。

 

「そう言ってくれると有難いです」

「では行きましょう。野営までにもう少し距離を稼げます」

 

再び陣形を組み歩きながらペテル達は確信する。今自分たちが共に旅する人たちは、偉大なる英雄として、この世の誰もが名を知る、英雄譚に出てくるような冒険者になるのだと。

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