オーバーロード 破壊の魔獣   作:源八

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再訪カルネ村

冒険者の朝は早い。夜明け前に朝食を済ませると手早く準備を整え夜明けと同時に出発する。朝食は固焼きパンに昨日のシチューだった。昨晩に打ち解けた一行の雰囲気は明るい。警戒のために隊列は組んではいるが森の賢王の領域にかなり入りこんでいるため警戒は薄い。アインズとニニャがこの世界の竜について話すのを聞いているうちにカルネ村が見えてくる。

 

「皆さん、あれがカルネ村・・・」

 

朝から起源のいいンフィーレアがカルネ村を見て不安な顔をする。

 

「…おかしい。あんな柵前はありませんでした」

「このあたりは辺境なんだからモンスター対策であるのが普通じゃね?」

「それはそうなんですが、カルネ村は森の賢王がいますからこれほど厳重な柵は作っていなかったんです」

 

はくたくやアインズは彼らに口を挟まない。ここに来た事はない事になっているのだから。今いるのはアインズではなく冒険者モモン一行だ。

 

『エ・ランテルにこの襲撃の情報は行っていないようですね』

『あの少年は惚れた人の村が襲撃されたのに平気ていられる人間ではなさそうですし、薄々そうだとは思っていましたが』

『はくたくさんどうして公表されていないと思います?』

『王国としては法国と事を構えたくないからでしょう』

 

法国もこの一帯の領有権を主張しているが主に争っているのは王国と帝国だ。陰謀を公表しなかったのは王国上層部の藪を突いて三国で最も国力が大きい国が出てくるのを避けたいという判断だろう。

ナーベラルに<飛行>と<不可視化>を使わせ偵察させて一行を安心させ進ませる。畑にゴブリンが潜んでいる事をはくたくと偵察に出したナーベラルは知ってているが彼らには話さない。ルプスレギナからの報告でエンリが<小鬼将軍の角笛>からゴブリンを召喚している事は把握済みだ。

 

(自分がゴブリンごときを感知しないのはおかしいからな)

 

はくたくはアインズと申し合わせた通り一行がゴブリンの待ち伏せ地点に入る直前に動きだす。唐突に道の左右に広がる麦畑に腕を突っ込み、麦を全身に巻きつけたゴブリンの首を掴んで引っぱり出す。反対側の麦畑にも腕を突っ込み似たようなゴブリンを引っ張り出す。

 

「うわっ!」「放せ!」

「これは…ゴブリン!」

 

即座に警戒態勢を取る漆黒の剣とンフィーレアはアインズに任せ、はくたくは麦畑の中に呼び掛ける。

 

「訪問者をこういう風に歓迎するのがこの村の流儀か?隠れるのは得策ではないぞ」

「ばれちまいましたか」

 

前方の麦畑から複数のゴブリンが武器を構えながら顔を出す。どれも野生のゴブリンと比べ装備も体格も良い。村から一匹のゴブリンがこちらに近づいてくる。体格と装備をみるに彼がリーダーだろう。そのゴブリンがある程度離れた所から先頭のはくたくに呼び掛けてくる。

 

「よろしければ部下を放してもらえませんかね?荒事は少なくしたいんでさぁ」

「そちらがこちらに危害を加えないと約束するならな」

「約束しますぜトゲトゲの兄さん」

 

(トゲトゲ・・・)

 

はくたくは掴んでいたゴブリンを優しく降ろす。解放されたゴブリンはこちらを警戒しながらリーダーの後ろへと下がっていく。後ろではくたくの行為にンフィーレアや漆黒の面々が何か言っているがアインズが押さえる。

 

「そちらが仕掛けてこないならこちらからは何もしない」

「そいつはありがてぇ。アンタと後ろの全身鎧の人とその隣の姉さんからはヤバイ雰囲気がバリバリ感じるんでねぇ」

 

(角笛から出てきたゴブリンは野生よりも言葉が上手いし頭も回るようだ)

 

「薬草取りに来た薬師とその護衛に対して随分警戒するんだな」

「村が帝国騎士の格好をした奴らに襲われたんで念の為って奴でさぁ。今来る姐さんに確認して貰えば警戒は溶けるんで辛抱してくだせぇ」

 

ゴブリンの言葉を受けてンフィーレアが何か騒いでいるが、出入り口から現れたエンリを見てそれよりも大きくその名前を叫ぶ。

 

「エンリ!」

 

それにエンリも大きな声で返す。その声は親しい間柄の人物への好意に溢れたものだった。

 

「ンフィーレア!」

 

二人のやり取りを見てはくたくは昨日の晩のンフィーレアの恋話を思い出す。

 

(昨日言ってた好きな人ってエンリだったのか)

 

 

 

 

 

「世間ってのは狭いですね。あの時助けた少女がンフィーレアが懇意にしている少女と同一人物とは」

 

エンリが召喚したゴブリンというトラブルはあったが、一行は村に入る事が出来た。今アインズ達は村を小高い丘から眺めている。眼下では村人がゴブリンから弓の訓練を受けていた。あのような襲撃があれば当然だろう。

 

「そうですね・・・はくたくさん、ちょっとまずい事になったかもしれません」

 

アインズの声が変わる。

 

「何かありましたか?」

「村に潜ませているシャドウデーモンからですが・・・ンフィーレアがアインズがモモンだと気付いた可能性があると」

 

村を見るとエンリの家からこちらにンフィーレアが走ってくるのが見える。

 

「どうして気付かれたんです?」

「エンリに使ったポーションの情報からです」

「あ、あー」

 

(さっきは衝動的に村を助けたのも良い事があったなとか思ってたけど撤回、撤回だ!)

 

「始末しますか?」

 

ナーベラルが殺気を漂わせ始める。

 

「いや、それには早いな。それはこっちに来て話を聞いた後からでも遅くはない。はくたくさんそれでいいですね?」

「そうですね。まだばれた事がマイナスかどうか判断できません」

 

ンフィーレアが息を切らせながらこちらにやってくる。丘を登り切ったのだろう

 

「さてどっちに転ぶかな」

 

到着したンフィーレアは息を整え汗を拭うと、意を決したのかアインズに正面から向き合う。

 

「モモンさんがアインズ・ウール・ゴウンさんなのでしょうか?」

「そうだ」

 

ここは変に誤魔化さないほうがいいだろう。

 

「ありがとうございます。この村を、エンリを救ってくださって。何か理由があって名前を隠されているのは分かりますが、どうしてもこの村―――いえ、エンリを、僕の好きな女性を助けてくださった事にお礼を言いたかったんです」

「そうか、ナーベは少し離れていろ。三人で話す事がある」

 

ナーベラルが少し離れた所に行ったのを確認してから、はくたくはンフィーレアから依頼を受けてから確認したかった事を質問する。

 

「ここに来たのは礼を言いに来ただけじゃなくて、別に何かあると思うんだが」

「ええ。実は…」

 

ンフィーレアがこれまでの経緯を説明する。彼がこちらに接触したのは、やはり赤いポーションの出所とのコネ作りが目的だった。アインズ=モモンがばれたのはポーションのせいであり、ナーベラルのアルベド様発言は根拠の補強程度だった。

 

「そういう理由からモモンさんを雇ったんです。すみません」

 

ンフィーレアは頭を下げる。それを見て二人は顔を見合わせる。謝罪理由が分からないからだ。

 

「謝る必要があるのか?」

「え?」

「自分たちと知り合うきっかけに欲しかっただけだろ?依頼内容も正当な物。何が問題なんだ?」

 

しかもそうなるように誘導したのはこちらからだ。

 

「モモンの言うとおりだな。実の所君との接触自体は織り込み済みだったからな」

「どういう事ですか?」

「この耳は地獄耳でね。ポーションを渡した冒険者が君の店に鑑定に行った事は知っていた。じきに接触が来ると思っていた所に―――君が依頼に来たという訳だ」

「何もかもお見通しという事でしたか…」

 

アインズが本題に入る。

 

「それで、ポーションの製法を知ってどうするつもりだったんだ?」

 

ンフィーレアは考え込んた後に答える。

 

「そこまでは考えていませんでした。僕もおばあちゃんもあくまでも知識欲の一環だったので」

「それならば別にどうもしないさ。金儲けや悪用する意図が無ければ問題はない」

「そうですか……やはり……エンリが憧れるだけの人ですね」

 

ンフィーレアがアインズを見る目はまるでスーパースターを見るファンのようだ。先程からのンフィーレアをみていたはくたくはしみじみとこう思う。

 

(若いって、いいなあ)

 

好青年と感心している場合ではない。確認すべきことはまだある。

 

「モモンとアインズが同一人物と知っているのは君だけか?」

 

ンフィーレアが頷く。

 

「そうか。それは良かった」

 

こちらにとっても、ンフィーレアにとっても。

 

「それではこれからもその事は秘密にして欲しい。自分やナーベを連れているからモモンは目立つんだ、良くも悪くも。凄腕の剣士に加えて魔法の達人となると目立ち過ぎる。そして力に吸い寄せられるのは君のような人間ばかりではない、生まれながらの異能で有名な君ならわかるだろう?」

「はい、この事は誰にも言いません。改めて、エンリとこの村を救ってくださってありがとうございました」

 

ンフィーレアは二人に真剣な眼差しで、心からの感謝の言葉を伝える。そんな態度に照れくささを感じたのかアインズが照れ隠しをする。

 

「村を救ったのは偶然、たまたまですよ」

「それならばあの角笛は必要なかったはずです」

「あれはハクが昨日ニニャに渡したアイテムと同じ、自分には必要のなかった物ですよ」

 

その言葉を聞いてもンフィーレアは、彼らはそれ程のアイテムを惜しみなく与えられるのだと更に瞳を輝かせるだけだった。

 

 

 

 

 

森に向かう打ち合わせを終わらせたンフィーレアが村へ帰っていく。それを二人が眺めていると、アルベドの言葉を洩らした時のように青い顔をしたナーベラルがこちらに戻ってくる。戻ってくるやいなや

 

「申し訳ありません!」

 

と言って勢いよく頭を下げた。そして

 

「アインズ様とはくたく様のご計画を滞らせた罪、この命を以て謝罪を!」

 

首に剣を当てようとするナーベラルに二人のチョップが飛ぶ。

 

「止めろ、ナーベラル」「簡単に命を捨てるな」

「も、申し訳ございません」

 

(失敗したからって直ぐに物理的に詰め腹を切るような真似はやめてほしいんだがなあ。悪の秘密結社じゃあるまいし)

 

「誰にでも失敗はあるのだ。同じ失敗を繰り返さなければそれでいい」

「アインズの言うとおりだな。それに今回の件は元はと言えば我々が現地民に渡したポーションが原因だ。お前が気に病む必要はない」

「で、ですがはくたく様」

「この村とナザリックは繋がりがある。お前の失言が無くてもあの少年はいつか気付いただろうさ。それに結果として悪くはなかったのだから、お前が今後注意してくれればいい」

「畏まりました。二度とこのような失敗を犯さないように注意します」

 

(人間の下等生物呼ばわりも止めてくれたらいいんだけど、無理だろうなあ…)

 

「まあ、彼は我々に必要となればナザリックに連れていく事になるかもしれんが」

 

彼の生まれながらの異能を<星に願いを>で引き剥がせた場合、それはアインズはくたく両者にとって魅力的だ。彼の能力はアインズにも効果的だが、特にはくたくの重い種族ペナルティ<マジックアイテム使用制限>さえ打ち消せるかもしれないのだ。

 

「では今すぐに?」

 

はくたくは再びナーベラルをチョップする。今度は先程よりかなり優しいが。

 

「もう少し考えろ、それは最終手段だ。友好な関係を築けている今は必要ないし、それに今彼は依頼主だ。まったく…アインズさん、例の件はアウラに連絡済みですか?」

「ええ。昨日の内に」

「ではそろそろ時間ですし村に行きましょう」

 

 

 

 

 

森の中で一行は警戒しつつ薬草集めに勤しんでいた。森での薬草採集はモンスターと遭遇する危険があるが、天然ものの薬草を使うと薬効が養殖の薬草と比べ一割程良くなるらしい。はくたくは匂いで薬草を嗅ぎつける事を期待されていたが、匂いから薬草の場所までは分かっても雑草と薬草を見分ける事が出来なかった。それでも効率が上がった一同から感謝はされたのだが。

 

(採集系の職業を取らなかったとはいえ、この仕様の壁に当たるたびに訳が分からなくなる)

 

採集を初めて小一時間程経ったころ、森がざわめき始めた。

 

「なんかこっちに来てるぜ。多分やばい奴だ」

 

ルクルットが異変に気付いたようだ。

 

「でけぇのが蛇行しながらこっちに向かって来てやがる。森の賢王じゃないかこれ」

 

モモンはなんといった事はない感じでペテルに聞く。

 

「それでは打ち合わせ通り皆さんは撤収、我々が殿を務めるという事でいいですか?」

 

ペテルは信頼した表情で頷く。

 

「ええ。それでは後はお願いします。くれぐれも無理をしないでくださいね」

 

森の中に一行が消えて行くのを確認してからナーベラルが訪ねてくる。

 

「ではアインズ様、予定通りこの後はアウラ様が誘導してくる森の賢王を従わせるという事ですか?」

「ああ。それにしても彼ら一片も我々を疑っていませんでしたね」

「彼らは実力主義ですからね。ンフィーレア君はなおさらでしょう」

 

アインズ達は昨日の晩に既に森の賢王を捕える事を決めていた。一行が森に入って暫くした後にアウラが森の賢王を誘導、それをアインズ達が捕えてエ・ランテルに連れ帰る手筈だ。魔獣を従えるというのは冒険者にとってステータスと言うのは体験済みだ。このあたりでポピュラーな奴を連れて帰ればより名声が速く広がるだろうと判断したのだ。

 

「おっと、そろそろ来ますよ」

 

はくたくの聴覚がやって来る存在が近い事を知らせる。その存在はこちらに接触する前に止まり、少し離れた木々の陰からこちらをうかがっている。ナーベラルを下がらせ二人が待ち構えていると空気がしなり、アインズに鞭のようなものが飛んできた。アインズは剣を盾のように構えるが―――

 

「よっと」

 

その鞭が剣にぶつかる直前にはくたくが横からそれを掴む。それは鞭ではなく堅い鱗に覆われた尻尾だった。

 

(魔獣の位置からここまで大体20メートルかな?鵺はこんな攻撃してこないからモモンガさんの予想は外れだな)

 

はくたくは次にこの攻撃を分析する。

 

(この攻撃…漆黒の剣なら受ける事も出来ずに一撃で死ぬな。ということはこの尻尾の持ち主が森の賢王という事は確実だろう)

 

森の賢王が尻尾を引き戻そうとしているが、はくたくの握力から逃れる事は出来ないようだ。森の賢王が抗議の声を上げる。

 

「それがしの尻尾を放すでござるよ!」

「ござる・・・」「それがし・・・」

 

二人は顔を合わせる。この語尾はどういう事だ、と。アインズが考察する。

 

「翻訳するとこういう口調になるんじゃないですかね」

「現地の古い言葉を使っているのでしょうか」

 

(日本語に変換すると一番近いのがこのござる口調という事か?)

 

「それがしの尻尾の一撃を掴むとは見事でござる。それに免じて尻尾を放し森から出るのであれば追わないでおくが…どうするでござるか?」

「そういう訳にはいかないな。我々はお前を捕まえに来たんだから…なっ!」

「何?…おおおおおおおお!?」

 

はくたくは尻尾を引っ張り森の賢王を引きずり出す。巨体が茂みをかき分け二人の前にその姿を現す。その姿を見た二人は強い衝撃を受ける。はくたくも思わず掴んでいた尻尾を放してしまう。出てきたものが余りに予想していた物と違っていたからだ。尻尾を引っ込めながら森の賢王が二人の態度に胸を張る。

 

「それがしの威容を見て驚いたようでござるな!そちらから驚愕と恐れが伝わってくるでござるよ」

「うーん・・・」

「なんというか・・・」

 

はくたくは首を捻る。コイツを言い表す言葉が喉まで出かかっているが、出てこない。アインズも同じようだ。

 

「はくたくさん、こういう動物って何って言うんでしたっけ」

「・・・あっ!」

 

はくたくは手をポンと叩く。ある動物を思い出したのだ。思い付かなかった理由は、目の前のとサイズが違い過ぎるからだ。はくたくは森の賢王に問いかける。

 

「ちょっと聞きたいんだが、お前の種族名は・・・・・ジャンガリアンハムスターとかじゃないか?」

 

二人の目の前にいる森の賢王、それは尻尾を除けば巨大なジャンガリアンハムスターまんまの姿をしていた。

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