「それがしは生まれてこの方ずっと一人で暮らしてきた故に同族を知らないでござる。もしかしてそなたはそれがしの種族名を知っているでござるか?」
「うーん・・・」
森の賢王がはくたくに尋ねてくる。改めて森の賢王を観察するが、その姿はどう見ても巨大なジャンガリアンハムスターにしか見えない。あの長い尻尾とサイズを除いて、ハムスターを飼っていたギルドメンバーに見せられた画像と森の賢王は瓜二つだ。
「ハムスターという似た動物を知っている事には知っているが、サイズはもっと小さかったしそんな尻尾は無かったから別種だな」
「そうでござるか・・・それがしも同族と子孫を作らねば生物として失格なゆえ期待したでござるが・・・」
「そうか・・・役に立てなくてすまんな」
はくたくとアインズのやる気が急激に失せて行く。森の賢王という呼び名からもっと賢者のようなモンスターと思っていたら、可愛らしい毛玉が出てきたとあってはやる気が霧散してしまっても仕方ない。
「はくたくさんどうします?コレを連れ帰っても仕方がないような」
「さっきの尻尾を受けた感じ王国戦士長位の強さはありますね。現地で使うには丁度いい強さですし持って帰りませんか?」
「そうですね。仮に役に立たなくても現地のオリジナルモンスターですからアウラに渡せばいいですし」
「さっきから何を話していると思ったら、そなたらはそれがしを捕える気でござったか!そうはいかないでござるよ!」
森の賢王もとい巨大ハムスターが頬を膨らませ戦闘態勢を取るが、こちらには可愛らしさしか伝わってこない。
「それがしの領地に入り込みあまつさえそれがしを捕えようなどと考えるとは傲慢な!無駄話は終わりでござる。命の奪い合いをするでござる。それがしの糧となるでござるよ!」
「・・・らしいですけどどうします?戦いますか?モモンの戦士レベルを考えるといい練習相手ですが」
「いい年して巨大ハムスターと戦えなんて勘弁してくださいよ・・・おい、森の賢王といったな」
「なんでござるか全身鎧の者よ」
初めてアインズに話しかけられた森の賢王は戦闘態勢を少し緩める。
「・・・私達を見て何か感じないか?私は戦士に、はくたくは只の魔獣にしか見えないのか?」
「…何が言いたいのかよく分からないでござるよ。煙に巻こうとしても無駄でござる、さっさとかかってくるでござるよ!命の奪い合いでござる!」
「賢王の癖に<
「わかりました」
アインズとはくたくは指を森の賢王に突きつける。魔法の類が来ると判断した森の賢王は警戒態勢を取る。
「<絶望のオーラ>」「<畏怖すべき存在>」
「「・・・レベル1」」
アインズとはくたくから精神に恐怖を与える寒気が周囲に広がる。森の賢王はそれに中てられた途端、全身の毛を逆立て悲鳴を上げながらひっくり返った。
「降伏でござる~それがしの負けでござるよ~」
(賢王とはいうが所詮はハムスター・・・)
モコモコの腹を見せながら情けない声を上げる賢王を見て二人は完全に気が抜けてしまった。
「殺しちゃうんですか?それなら皮を剥いでいいですか?そいつから良い皮が取れると思うんです」
何時来たのか、木の上からアウラが森の賢王を見下ろしている。皮を剥ぐと聞いた森の賢王は尻尾を抱えてブルブル震え出す。森の賢王は円らな瞳を潤ませながらアインズとはくたくを交互に見る。
(そんな目でこっちを見るな。なんかこちらが悪い事をしてる気分になるじゃないか)
「実力は分からせましたし、連れて帰りましょう」
「ええ。では、森の賢王よ、私の真の名はアインズ・ウール・ゴウン、こちらははくたくという。我々に仕えるならば殺しはしない」
「あ、ありがとうでござるよ!命を助けてくれたこの恩、絶対の忠義で二人にお返しするでござる!」
(もうちょっと格好いい魔獣なら格好いいシチュエーションなんだが、巨大ハムスターだと締まらないな)
はくたくは自身に忠誠を誓い、同じように忠誠を誓の証としてアインズに体を擦り付けている賢王を見ながらそう思った。
森を出てンフィーレアと漆黒の剣に合流する。森の賢王を彼らに見せると最初は警戒していたが、二人が賢王を支配している所を見せると安心したのか警戒を解いてくれた。漆黒の剣の面々は森の賢王に近づきまじまじと賢王を眺めている。
「これが、森の賢王ですか・・・」
森の賢王を見ながらニニャが呟く。本当に森の賢王か疑っているのだろう。
(でかいから初見のインパクトはあるけど、所詮はハムスターだからな。コイツ魔法を仕えるみたいだし、それを見せたら信じてくれるかな?)
「すごい…何て立派な魔獣なんだ!」
(えっ)
ニニャは心の底から感激しているようだ。
「瞳から強大な力と英知を感じるのである!」
ダインの言葉に皆が頷いている。
(強大な力と英知?ハムスターに?)
「こんなの偉業を成し遂げるたぁ、ナーベちゃんを連れ回すだけの力はあるわ。こりゃ参ったぜ」
ルクルットは感心している。
(偉業?これが…)
「これほどの魔獣と遭遇していたら、我々だけでは皆殺しにされていたでしょう。流石の三人、お見事です」
(まあその評価は間違っていないんだけどさあ…ハムスターだよ?)
漆黒の鎧全員から賞賛を浴びながら、アインズとはくたくは顔を見合わせる。
『はくたくさんはコイツから何か感じますか?』
『いや・・・尻尾が変なだけのでかいハムスターとしか』
自分たちにはハムスターにしか見えないのだが、もしかして森の賢王は自身の姿を偽る
「おい、お前皆に変な幻とか見せていないか?可愛いと思われていないぞ」
「殿、それがしはそのような能力を持っていないでござるよ」
「ハクさんはこの魔獣が可愛いと思うのですか!」
はくたくの可愛いという発言に全員がとんでもないという反応をする。ダインだけは理解したような表情で頷いている。
「ハク殿は人間ではないのだから我々とは感性が違って当然なのである」
「いや、私も可愛いと思いますよ。ほら、この円らな瞳とか可愛らしくないですか?」
アインズも森の賢王が可愛いという事に同意すると、全員が目をこぼれ落ちそうになるほど目を見開いた。どうやら自分たちが森の賢王に抱いた感想はこの世界の常識をかなり逸脱しているようだ。
「モモンさんはこの魔獣の瞳が可愛らしいというんですか!」
「え、ええ」
「信じられません。流石はモモンさんです。ニニャはこの瞳をどう思う?」
「…深みのある英知を感じさせる物で、この魔獣の強大さを感じます。どうやっても可愛らしいとは思えません」
(??????)
はくたくは全員の態度からニニャの言葉がこの場にいる者の共通認識だと理解し自分の感性との隔絶に目眩がした。
(ちょっと待てよ、自分を紹介した時はこんなこと言わなかったよな)
はくたくは森の賢王の隣に立つ。
「そう言えば皆さん、自分と森の賢王を比べるとどっちが強そうに見えます?」
漆黒の剣の一同は顔を合わせた後、ペテルが代表して答える。
「はくたくさんも森の賢王と同じ位強大な魔獣に見えますよ」
「なん・・・だと・・・」
(巨大ハムスターと同等だと…なんだこの敗北感は…)
『はくたくさん、見栄張って大きくなろうとしないでくださいね?』
『しませんよ!・・・ちょっとやろうかと思いましたが・・・』
ナーベラルに感想を聞いても瞳から力を感じさせると答えられ、二人が頭を悩ませているとンフィーレアが不安そうに問いかけてきた。
「その魔獣を連れ出すと、カルネ村にモンスターがやってくるようになりませんか?」
「おい、お前がいなくなるとどうなるんだ?」
「村と言うのはあれでござるな?ふむ…実の所それがしとこの村の安全は関係ないでござる。最近森の中に変な奴らが来たでござるよ。そいつらは近づく物を全て殺しながら、何か大きい物を建てているでござる。殿達がここに来る前にトロールと遭遇したのもそいつらのせいで森が荒れているからでござるな。それにそれがしはこの領地に居座ろうとしない限りやってくる者を追わないでござる。つまりそれがしがいようといまいと移動するモンスターがこの村を襲う可能性は変わらないでござる」
ンフィーレアは森の賢王の答えにショックを受けているようだ。
『コイツの言ってる森の中で大きい建物を建設しているのって私たちの事ですよね?』
『変な奴らってのは、モモンガさんがアウラに建設を命じた避難所兼物資集積所を建ててるシモベでしょう』
ナザリックが森の中に作っている避難所の分、森の縄張りが崩れてモンスターが森の外へ押し出されたというわけか。
『自作自演ですがンフィーレア君に恩を売る機会です。彼の恋人が居る村を守ってあげましょう。元々カルネ村は重要な足ががりですから守るのは決定していますしね』
『モモンガさん、彼に対価として何を要求します?』
『今は思いつきませんし、恩を売るだけ売っておいて必要になったら返してもらいますよ』
先程からこちらに向かって口を開きかけ、それから閉ざすという行為を繰り返していたンフィーレアが、意を決したのか口を開いた。
「モモンさん、ハクさん」
「なんでしょう?」
アインズの声音は得物を捕えたという気持ちを隠そうとしているからか若干優しい。
「モモンさん!僕をあなた達のチームに入れてください!」
ンフィーの提案を要約すると、恋人のいる村を守る為にずっと自分たちを雇う事は出来ない。だから自分たちのチームに入って魔法詠唱者として強くなりたいという事だった。そう言うンフィーレアの表情には自分たちのように損得の計算無しの、大切な人を守りたいという男の真摯な思いがそこにはあった。はくたくはそれを眩しく感じるし、少し羨ましい。
「……はっ、ははははは!」「ははっ」
二人は明るく笑う。決して彼を馬鹿にした響はない。笑い止むとアインズはヘルムを脱ぎ、深々と頭を下げ、はくたくもそれに倣う。アインズが朗らかに告げる。
「君の気持は分かった。チームに入りたいとの事だが、君は二つの加入条件の内片方しかクリアしていないのでそれは出来ない」
異形種かつ社会人という加入条件を彼は片方しか満たしていない。それに加え隠し条件のギルドメンバーの過半数の賛成が必要だ。未だ在籍している四人の内二人が行方不明の今、アインズとはくたくが賛成したとしてもギルドメンバーを増やす事は出来ない。その代わりにはくたくは気前よくンフィーレアに掛けあう。
「だが、この村を守るという件については喜んで力を貸させてもらおう。ただ、場合によっては君の協力も―――」
「はい!やらせていただきます!」
「詳しい話はエ・ランテルに帰ってからでいいかな?モモンと私が君のおばあさんと話し合う事があるからな」
「はい。ありがとうございます!」
森の賢者の協力により薬草も普段より多く集める事が出来た。採集を終えた一行は森の賢王を引き連れカルネ村に凱旋した。一行はカルネ村で入植者用の空き家を借りて一泊する。明日の明朝に村を出発して夕方にエ・ランテルに到着の予定だ。アインズ達と漆黒の剣で空き家をそれぞれ貸し切り、ンフィーレアはエンリの家に滞在している。一行はエンリの家で食事をした後解散しそれぞれの家に分かれた。
借りた家の中でアインズ、はくたく、ナーベラルがテーブルを囲む。森の賢王改めハムスケ―――アインズ命名―――はドアで腹がつかえたため外で寝泊まりだ。
「少し予想外の事態がありましたが、英雄モモン計画は良いスタートを切れそうですね」
「ええ…ですが、明日本当にハムスケに乗って凱旋するんですか?」
アインズからはやりたくないというオーラが滲み出ている。
「彼らのお墨付きは貰いましたし、村人の反応も確かめたじゃないですか」
はくたくはニヤニヤしている。自分たちの感覚ではハムスケに乗っての凱旋は只の罰ゲームだ。
「・・・はくたくさんが乗ってみては?」
「魔獣が魔獣に乗るのは変ですよ?それに勇者モモンの宣伝になりませんよね」
「うっ」
アインズは頭を抱える。
「いい年してメリーゴーランドに乗る破目になるなんて…」
アインズが呻くのを楽しんでいると民家のドアが唐突に開き、閉じる。村人が見ればドアがひとりでに動いたように見えるが、はくたくとアインズにはルプスレギナの姿が見えている。家の中に入るとルプスレギナは透明化を解除した。はくたくは彼女に声を掛ける。
「よく来たなルプスレギナ」
「只今参りましたアインズ様、はくたく様」
「ここに呼んだのはお前に命じていたカルネ村の監視の件でだ…アインズさん」
アインズがハッとする。
「え、ええ…んん!ルプスレギナよ、お前にはシャドウデーモンと共にカルネ村の監視を命令していたな」
「はい、アインズ様」
「命令を変更するので心して聞け。シャドウデーモンは監視の一体を除いて全て撤収し、お前には今後直接カルネ村と交流してもらう。ナザリックと村とのパイプ役をを任せる」
「はっ」
「村への援助ですがはくたくさんは何をしたらいいと思います?」
話を振られたはくたくは少し考えた後に答える。
「
「そうですね、まずはそれから行きましょう。ルプスレギナよ、我々がここを発ってから数日後にゴーレムをカルネ村に連れてきて、私からの援助として村人に与えよ。村人にゴーレムについての知識が無ければ使い方も教えてやれ」
「畏まりました。ではナザリックで準備をしますので、失礼します」
ルプスレギナは再び透明化を使い出て行った。はくたくは村の保護について尋ねる。
「村の防衛に関してはとりあえずは彼らだけで頑張ってもらって、ルプスレギナから何か報告が上がり次第対策を練りますか」
「そうですねとりあえずは何もしないでおきましょう。必要になればナザリックからシモベを森に派遣すればいいだけですし」
はくたくは大きく伸びをし、ベッドへ向かう。
「では話し合う事も終わりましたし、明日まで仮眠を取らせてもらいます。明日の英雄モモンのエ・ランテル凱旋が楽しみです」
アインズが再び声にならないうめき声を上げた。