オーバーロード 破壊の魔獣   作:源八

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旧版の二話と三話の纏めになります
同じく修正箇所が多々…


闘技場

第六階層に転移した二人が一方通行の通路を進んでいくと闘技場入り口の格子戸が見えてきた。入り口から漂う森の香りが二人に改めてこれがリアルであると感じさせる。

 

「モモンガさん、匂いますか?」

「ええ。第六階層は森林がありますからね。」

「自分は鼻がありますがモモンガさんはどうやって匂いを?」

「・・・よく分かりません。声帯のない自分が今どうやって会話してるのかすらも。まあ今考えても仕方ないですね」

「ここの階層守護者は」

「アウラとマーレですね。ぶくぶく茶釜さんが製作したNPCです」

 

格子戸に二人が近づくと格子戸は自動的に開く。二人はそのまま開いた場所へと進む。そこはローマのコロッセウムを想起させる巨大な闘技場。無数に設置された永続光(コンティニュアル・ライト)により周囲はかなり明るい。客席には客としてゴーレムが配置されている。ここは円形劇場(アンフィテアトルム)

ゴーレムが観客、貴賓席にギルドメンバー。侵入者の殺戮が演目の劇場だ。ゲーム時代は1500人の討伐隊以外の侵入者は全てここで撃退された。はくたく自身もここで多くの侵入者を倒し、喰らった。二人は闘技場の中心まで進み上を見上げる。空はには本物と見まごう程の夜空が広がる。だがここは当然地下だ。第六階層に夜空があるのは、自然を愛したギルドメンバーが空を再現しためだ。今は夜空だが日中は太陽が浮かび外と同じように階層を日光で照らす。

 

(いや、嘗てあったような空を再現したかといったほうが正しいな)

 

はくたくは自分の知る日本の空を思い出す。スモッグに覆われ一年間の殆が曇りだった日本の空を。自然を愛したあのギルドメンバーはたとえ偽りでも、ここに本来あるべき自然を再現したのだ。しばらく美しい夜空を眺めていると、貴賓席の方から元気な声が聞えてきた。

 

 

 

 

「とあ!」

 

その声の持ち主は六階建てに近い高さの貴賓席から跳躍し、見事な一回転を決めて着地する。

 

「ぶい!」

 

満面の笑みでピースを作る。完璧な着地をアピールしているのだろう。飛び降りてきたのはここ第六階層の階層守護者であるダークエルフの双子の片割れのアウラ。少年のような格好をしているがれっきとした可愛らしい女の子だ。アウラが小走りでこちらに近づいてくる。小走りなのは見た目だけでかなりのスピードだ。敵対しているような表情ではないがはくたくは念の為いつでも飛びかかれるように意識する。罠であった場合、即座に爪と角と牙で斬り裂き自らの胃袋に収めるために。アウラのステータスとサイズならば少しダメージを与えれば生きていてもステータス判定に失敗するため、問答無用で消化できるはずだ。アウラは二人の前で急ブレーキする。その動きはこちらに土がかからないように計算済みだ。そして「ふぅ」と汗をぬぐう仕草をした後、子供らしい笑顔で話しかけてきた。

 

「いらっしゃいませ、あたしたちの守護階層へモモンガ様。そしておかえりなさいませ、はくたく様!。この日をずっと待っていました!」

 

そう言うと自分達の前で跪いた。

 

(アルべドの時もそうだがNPCの反応を見るに自分は一年間インしていなかっただけなのに、ナザリックからいなくなっていて帰還した事になっている?)

 

とりあえずいきなり襲いかかれる事はないと確信し、モモンガと目を合わせ警戒を解く。自分は体から力を抜きモモンガもスタッフを握っている手を緩める。

 

(玉座の間ではモモンガさんに殆ど任せっきりだったな。今度は自分の番だ)

 

はくたくは一瞬どうするか考えてから声を掛ける。

 

「久しぶりだなアウラ。留守の間もしっかりしていたようだな。ここにはモモンガとやる事があって来たのだが、マーレは何処にいるんだ?」

 

そう問いかけるとアウラはさっと貴賓席の方を向く。はくたくがそちらに目を向けると丁度貴賓席から飛び降り駆け寄ってくる姿が見えた。双子のもう一方のマーレだ。アウラとそっくりの顔をしているが髪型と服装が違う。スカートを穿き仕草も女の子っぽいが、れっきとした男の子だ。アレも当然付いてる。

 

「マーレ!!早く来なさい!至高のお方を待たせちゃだめでしょ!」

 

マーレも小走りに見えてかなりのスピードでこっちに来る。はくたくの見立てではアウラより速い。マーレはアウラの横まで来るとアウラと同じように跪く。

 

「モモンガ様第六階層にようこそ、そしてはくたく様お帰りなさい!」

 

ここでモモンガが小声で話しかけてくる。

 

「とりあえずこの二人は大丈夫そうですね」

「そのようですね。じゃあ残りのメンバーが来る前に実験を終わらせてしまいましょう」

 

気合の入った例の支配者ボイスでモモンガが二人に話し始める。

 

「二人とも腰を上げよ。ここに来たのはちょっとした視察と実験、あとははくたくの肩慣らしの為だ」

 

アウラとマーレが立ちあがる。二人を代表してアウラが質問する。

 

「実験ですか、その実験ってモモンガ様が持ってるその例の伝説のアレを使うので?」

 

二人がキラキラとした目をギルド武器に向けている。

 

(伝説のアレ?)

 

「ああ、その通り。このスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使う。…そうだな、このスタッフを解説してやろう。この七つの蛇が加える宝石はそれぞれが神器級アーティファクト。そしてこれらはシリーズアイテム。よって…」

 

ギルドメンバー全員で作りあげたギルド武器について聞かれたからか、モモンガの解説に力が籠る。平時ならともかく時間が無い今は止めなければ。はくたくが小声で耳打ちする。

 

「モモンガさん、検証時間無くなりますよ!」

 

ハッと気がついたモモンガはルド武器の説明を切りあげる。

 

「…まあともかく世界に二つとない凄い杖というわけだ。この杖の性能の確認と杖から召喚した物ではくたくさんの肩慣らしをやる。二人とも分かったな?」

「了解しました。しもべに標的を準備をさせます」

「それと一時間後に階層守護者が集まる。…現状の確認とはくたくさんの帰還を階層守護者伝えるためにな」

「え?ならそのための準備を」

「その必要はない。時間が来るまで私達の検証でも観てると良い」

「了解しました。モモンガ様、はくたく様」

 

守護者が集結する前に自らの力を確かめておく必要がある。やる事はゲームと同じだが、今はゲームと違い負ければ死ぬ。はくたくは生まれて初めて本当の命の奪い合いをする覚悟を決める。

 

 

 

 

 

はくたくはモモンガがアウラのしもべが用意した藁人形を吹き飛ばすのを眺めている。モモンガの魔法は使えるようだ。自分はこの肉体を完璧に使えるか確かめなければならない。モモンガと交代し、設置された藁人形と対峙する。

 

(まずは体のサイズを少し戻そう)

 

はくたくの今のサイズはギルド加入後あまりの巨躯に施設が利用できないために、サイズ変更が出来る課金職業<サイズチェンジャー>で縮めたサイズだ。その職業の特殊技術(スキル)を使いサイズを元のサイズに近付ける。はくたくの体がぐんぐんと体が大きくなり本来のサイズの半分程度まで巨大化する。本来の半分ではあるが体長10メートル、体高7メートルはある。さながらおとぎ話や大昔の映画に出てくる『怪獣』だ。

 

(サイズはこれくらいでいいかな。まずは体の動きから)

 

はくたくは藁人形に全力で突進し爪を振るう。抵抗なく藁人形は切り裂かれる。そのまま棘が着いたを尾を振るい近場の藁人形をバラバラにする。

 

(うん、身体能力は問題なく発揮できているな。次はスキルだな)

 

定位置に戻り別の藁人形に意識を向け、タラスクの固有スキル<棘射出>を発動させる。頭部の角が爆発音をあげ驚異的な速度で射出され、藁人形に綺麗な穴を穿つ。目的を達した、射出された角は既に朽ち始め塵に還りつつある。一方角があった場所にとてつもない速度で角が再生され、既に元のように角が生えている。続いて残りの評的に棘が付いた甲羅をむけ同じくスキル<棘射出>を発動させる。甲羅の棘が複数同時射出され残っていた藁人形の標的は全て射出された棘によって貫かれる。

 

(棘も問題なく射出できるな。あとはあのスキルの確認だ)

 

横にどいて待機していたモモンガに向き直り提案する。

 

「モモンガよ肩慣らしは終わったのでスタッフからスパーリング相手を召喚してくれ。相手はそうだな、根源の火精霊(プライマル・ファイヤー・エレメンタル)を頼む」

 

小声でモモンガが告げる。

 

「一応最上位精霊ですけど大丈夫ですか?」

 

自信を持って返す。

 

「スキルは発動できました。これなら余裕です安心してください」

 

モモンガは頷くとスタッフを掲げた。

 

「わかった。では出でよ!|根源の火精霊召喚《サモン・プライマル・ファイヤー・エレメンタル》!」

 

スタッフの蛇が加える赤い宝石が煌めき、モモンガがスタッフを付きつけた先に火球が生じる。そして藁人形の残骸を巻き込みつつ巨大な炎の渦が巻き起こる。どんどん渦が巨大化し熱波が二人を襲うがモモンガもはくたくもこの程度の熱量何ともない。モモンガはマジックアイテムで本来弱点である炎への完全耐性を保有しているし、はくたくの炎耐性は溶岩の海を泳いでも何ともない程に高い。そして巨大化した炎の渦が人型の化け物の形を取った。根源の火精霊。元素精霊(エレメンタル)の最上位クラスでレベル80後半のモンスターだ。アウラとマーレが目をキラキラさせながらスタッフの力の発動にに拍手をしている。

 

「いざとなれば攻撃を中止させます。根源の火精霊よ、はくたくを攻撃せよ!」

 

臨戦態勢のはくたくに根源の火精霊が襲いかかる。はくたくは根源の火精霊の繰り出した拳を受け止め、がっつり四つを組む。根源の火精霊は大きめの部類モンスターに入るがはくたくも負けていない。流石に接触すれば若干の炎ダメージを受けるが、ダメージを自動回復する常時発動型特殊技術(パッシブスキル)  <再生(リジェネレーター)>によりやけどを負う端から回復していく。妖巨人(トロール)等が持つ似たような自動回復スキルは炎や酸で阻害されるがはくたくのスキルは高レベルモンスターの炎をものともせず傷を修復していく。

 

(痛みを感じるが精神の中でそれを隔離できている…これなら腕がもげても戦えそうだ)

 

冷静に状況を分析し、今度はこちらから攻撃に移る。根源の火精霊の拳を握り潰し、怯んだ隙に爪による斬撃、角による刺突、尻尾による打撃を加える。だが純粋な魔法生物である元素の精霊への物理攻撃はあまり有効ではない。引き裂かれ、穴を空けられ、打ち据えられても体を元に復元し襲いかかってくる。

 

「まあそうなるな。だがこれならどうかな?」

 

再び四つを組むがはくたくは先ほどのような攻撃は繰り出さず

根源の火精霊に噛みついた。

根源の火精霊の体に喰い付き、喰いちぎった炎の体を飲み込む。先ほどのように喰いちぎられた箇所が元どうりに修復するかに見えた。だが喰いちぎられた箇所は修復しない。その事実に根源の火精霊は驚愕の叫びを上げる。

 

これが隠し種族原始の獣(タラスク)の最も驚異すべきスキル世界を喰らうもの(ワールドイーター)。有機物無機物あらゆるものを喰らい、その糧とする。喰らったものに応じて一時的なバフ効果を得る事が出来るこのスキルは、当然敵対プレイヤーやそれが身に付けるマジックアイテムも含む。それから得られるバフ効果でさらに暴れプレイヤーを捕食する。ひとたび捕まれば装備品を全ロストする可能性。その危険度からナザリック地下墳墓への侵入者やアインズ・ウール・ゴウンの敵対者たちの間で、はくたくは最も恐れられたギルドメンバーの一人だった。

 

根源の火精霊が食われた箇所を回復できないのはその個所を満たす魔力を喰われたためだ。必死にはくたくの拘束から逃れようとするも、食らった魔力からのバフ効果で再生スキルと力が強化されつつあるはくたくから逃れられるわけはなく、根源の火精霊はそのままはくたくに貪り喰われた。

 

 

 

 

 

アウラとマーレからの大きな拍手を背に体を普段ののサイズに縮小しながら観戦していたモモンガの前に歩いて行く。

 

「いやー、相変わらずはくたくさんの戦い方はえげつないですね」

「死霊使い、それもえげつない隠し玉を持ってる人が言いますかそれ」

「スキルや魔法はゲームの時と同じように使えるみたいですね」

 

二人が検証結果について情報交換しているとアウラとマーレが近づいてくる。二人とも口調をくだけた感じから支配者口調に切り替える。

 

「これがアイテムインベントリ空け方だ」

「なるほど。それでセバスはなんと言ってた?」

「ナザリック周辺は草原に。モンスターも知的生物も無し。天空城も浮かんでいない」

「沼地ではなく?やはり全く別世界に転移したという事か?」

「そう考えて戦略を練ったほうが…うん?」

 

気付くと近くに来ていたアウラとマーレが揃って口を開く。

 

「流石はアインズ・ウール・ゴウンを象徴する武器ですね!凄い力でした」

「そのあとの精霊とはくたく様の戦いもそ、そ、その、凄かったです」

 

次々とアウラとマーレが双方を誉めたたえる言葉を矢継ぎ早に繰り出していく。悪い気分はしないので二人は双子の頭を撫でる。

 

「あ、ありがとうございますモモンガ様」

「ありがとうございますはくたく様。えへへ…」

 

(それにしても可愛いなー。茶釜さんいい仕事してます。男の娘ってのは良く分かりませんが)

 

そう思いながら先ほど教えてもらったやり方でインベントリからグラスと無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレスウォーター)を取りだし、グラスに無限の水差しから冷たい水を注ぎ飲む。さらに二つのグラスを取りだしアウラとマーレにも普段のねぎらいとして飲ませる。そして一応もう最後の一人にも勧める。

 

「モモンガも一杯どうかな?」

 

当然予想されていた答えが返ってくる。

 

「いや、この身には水は不要だ。そもそも喉も乾かないからな」

 

無限の水差しと双子から返されたグラスをインベントリにしまいつつ考える。アンデットは食事睡眠が不要だ。自分も神話の怪物のような体になった。先ほどの戦いでも全く恐怖は感じず、自分の中にあったのは相手を叩きつぶし、喰らいたいという闘争本能。自分の身に起こった変容に身震いする。だがモモンガの事も考える。

 

(生物飛ばしてアンデットになったからなあ、モモンガさん。恐らく自分よりも強烈な変容を体験しているはずだ。相談に乗らないといけないかもしれない)

 

モモンガに双子を任せ、はくたくいろんな事をぼんやり考えた。気が付くと、守護者たちに指示しておいた集合時間まであと僅だ。闘技場に転移門(ゲート)が開く。

守護者たちが集結を始めた。

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