襲撃してくるのはせいぜい
「神よ・・・!」
兵士は槍を握りしめながら神に祈る。アンデットたちが扉を壊そうとする音は時間と共に強くなっている。あと数分もすればアンデットが扉を破り自分たちを殺すだろう。いや、殺されるだけならまだいい。アンデットとなり彼らの仲間入りをする羽目になるかもしれない。それだけはは嫌だ。そう兵士が思っていると、後ろから声がした。
「門を開けろ」
「このあたりのアンデットは一掃しましたかね」
アインズが剣に付いた血を振り飛ばしながらはくたくに尋ねる。門の辺りにいたアンデットはは数十秒でアインズとはくたくに殲滅された。周辺にこちらを襲ってくるアンデットはもういない。はくたくはここが門から見えない事を確認するとアインズに提案する。
「そうですね。提案なんですが、ここで二手に分かれませんか?」
「そうする理由が?」
「アンデットの軍勢は自分とハムスケで蹴散らして衛兵や冒険者を守りつつ、夜明けまでアインズさんの邪魔をしないように誘導します。その間にアインズさんとナーベラルで首謀者の排除とンフィーレア君の救出するって作戦を今考えたんですが」
アインズは少し考えた後に頷く。
「それでいきましょう。空からの抜け駆け対策をやっておきます。<下位アンデット作成・
10羽のボーン・ヴァルチャーがアインズの周囲に沸き立つ。
「空から墓地に侵入者が来たら追い返せ。出来る限り殺すな」
アインズの命令を受けたボーンヴァルチャーが骨の翼をはためかせて墓地の空へ散っていった。
「それではアンデットはそちらにお任せします。行くぞナーベラル」
「はっ」
アインズと空に浮かぶナーベラルは墓地の中心地へと消えていった。
「さてハムスケ、こっちも動くぞ」
「了解でござる」
「ちょっと待て、雑魚を蹴散らすなら元の大きさがいいな」
「元の大きさ、でござるか?」
はくたくは体のサイズを元の大きさまで戻す。このサイズならばハムスケも少し大きいハムスターみたいなものだ。はくたくがハムスケを見下ろして目を合わせた瞬間――
「ゲェー!」
ハムスケはひっくり返って腹を見せながら叫ぶ。そのまま足をばたつかせながら叫び続ける
「殿が大きくなったでござるー!怖いでござるー!」
ハムスケの情けない声に森の時のように脱力感がはくたくを襲う。
「・・・落ちつけ。そのコントみたいなリアクションをやめろ」
「申し訳ないでござる。まさかそれが殿の本来の大きさでござるか?」
「そうだ。普段は色々面倒だから体を縮めている」
「なんと!想像を絶するその巨躯!二人とも強大な力はお持ちだと思っておりましたが……このハムスケ、さらに忠義を尽くすでござるよ!」
「一応言っておくがアインズの正体も戦士じゃなくて骸骨の魔術師だから覚えておけよ」
「分かったでござるよ」
元の大きさになったはくたくに気付いたアンデットの群れがこちらに近づいてくる。はくたくは自身の大きさに合わせて巨大化したポール・アックスをインベントリから取り出し軽く振り回す。
「さあ行くか。ハムスケは少し離れてついてこい」
はくたくはそう言うとアンデットの大軍へと駆け出した。
(飽きた…)
はくたくがポール・アックスを振るい、血と肉と臓物が空に舞う。爪を振るい、血と肉と臓物が空に舞う。尻尾で薙ぎ払い、血と肉と臓物が空に舞う。最初こそ面白く感じたが、十分もするとこの作業にすっかり飽きてしまった。低級アンデットの攻撃は欠伸が出るほど遅く単調、こちらからの攻撃はどんな物でもオーバーキル。飽きないはずがない。
(大昔の黎明期のゲームには似たようなことをするゲームがあったらしいが、昔の人々は何が面白くてこんな草刈りじみたことをやっていたんだ?)
「殿、役に立てなくて申し訳ないでござるよ」
頭の上から張りのない声が聞こえる。はくたくはハムスケを攻撃に巻き込まないように頭の上に乗せて戦っている。巻き込まない自信はあるが万が一攻撃が当たればハムスケがアンデットと同じ運命を辿るだろう。
「最初からお前の戦闘能力にはそこまで期待していないから気にするな」
「申し訳ないでござる・・・」
はくたくは武器の構えを解き周囲のアンデットを片付けたはくたくは大きく欠伸をする。後ろから二十体ほどのスケルトンが周辺にいる最後のアンデットとしてこちらに向かって来たが尻尾の一振りでバラバラにした。はくたくがほかの場所のアンデットを倒すために移動を開始する。その時、聴覚が複数人がこちらに向かってくる足音を聞きつけた。金属のこすれる音と整然とした足音はそれがアンデットではない事を示している。
(冒険者かな?頑張っているようだしちょっと釘を刺しておくか)
そう思った矢先アインズから<伝言>で連絡が来る。
『ミスリルプレートの冒険者がボーン・ヴァルチャーを一体倒しました。こちらに向かってくるかもしれません』
『分かりました。ちょっとした『説得』をして追い返しておきます』
はくたくは足音の方向に向かった。
冒険者チーム「天狼」のリーダー、ベロテは仲間とプラチナプレートの冒険者チームを二つ連れて墓地を進む。昨日一カ月かかった任務をやっと終えて宿屋で休んでいる所を組合から緊急招集されたため最初は不満だったが、アンデットの大軍が発生したとあっては話は別だ。組合長から壁の防衛は低ランクに任せ自分たちはプラチナプレート冒険者二チームと共にアンデットの発生源の特定と可能ならそれの排除を依頼された。ベロテは即決で依頼を受けた。
「アンデットの強さは大したことはないが…数が多すぎる!」
ベロテはミスリルの剣で複数のゾンビを一気に切り捨てる。墓地に踏み込んで最初に遭遇したボーン・ヴァルチャーはかなり強力なアンデットだったが、それ以外はゾンビやスケルトン、ワイトが大半だ。自分たちやプラチナプレートの冒険者の敵ではない。問題は数だ。墓地内に踏み込んでからひっきりなしにアンデットの襲撃を受け前進は遅々としたものとなっている。
「一度撤退すべきか?」
ひとまず近くのアンデットは撃退したが、遠くには未だ雲霞の如くアンデットがひしめいている。自分たちはまだ余裕があるが、プラチナプレートの幾人かに疲労の色が見え始めている。ベロテが撤退を考え始めた時、仲間のレンジャーが青い顔で話し掛けてきた。
「巨大な何かがこっちに来てる。今すぐ撤退すべきだ」
「
レンジャーは首を振る。
「何倍も大きくて速い。こっちに真っ直ぐ来ている」
「分かった」
ベロテは剣を振って全員の注目を集める。
「皆、仲間が何か危険な物を感知した。今から撤退す―――」
ベロテは声が出なくなった。墓地の闇の中に、あまりに巨大な魔獣を見たからだ。他のメンバーも遅れてソレの存在に気付くが誰も声を発しない。本能で理解したのだ。あいつには勝てない、やり過ごさなければならない、と。だが彼らの祈りはあえなく砕かれる。その魔獣はこちらを見るとアンデットを薙ぎ倒しながら恐ろしいスピードで真っ直ぐこちらに向かって来た。
「プラチナプレートは俺たちの後ろに下がれ!」
ミスリルとはいえここまで上り詰めてきた冒険者としての矜持という物がある。ベロテは覚悟を決めて指示を飛ばした。みるみる内に魔獣が近づいてくる。その魔獣は頭に強大な魔獣を乗せていた。小さい方でさえ自分たちには手に余るだろう。魔獣はこちらの魔法の射程に入る前に小さい方を頭から降ろしてからこちらに近づいてくる。行く手を塞ぐアンデットを斧のようなもので薙ぎ払いながら。
「<
マジックキャスター、ドルイド、クレリックが各自一番効果的と思う魔法を発動していく。だが魔獣に向けた攻撃魔法や補助魔法が効いているようには見えない。後ろから放たれる補助魔法を受けてベロテの能力も向上するが、アレに対抗できるとは到底思えない。レンジャーが悪態をつきながら放った矢が弾かれた。自分たちと魔獣を隔てていたアンデットの最後の群れが排除された。魔獣は自分たちの目の前まで来ると何もせずにこちらを眺めている。ベロテたちが攻撃を仕掛けるか否か迷っていると、魔獣が思いもよらない言葉を話した。
「皆さんは冒険者組合から派遣された人たちですか?」
はくたくはハムスケを頭に乗せ再びアンデット無双を始めた。ハムスケが質問する。
「殿、あちらの方々と何を話していたでござる?」
「夜明けまで墓地に入らないように頼んできただけだ」
「あの者たちは攻撃してきたでござるが問題ないでござるか?」
「あの程度の魔法効きはしない。それに攻撃は向こうのちょっとした勘違いという事だったから問題はない」
はくたくは頭の上で自分を称えるハムスターを無視し先程の冒険者の事を考える。
(それにしてもミスリルプレートの冒険者が大人しく言う事を聞いてくれてよかった。戦闘なればあとからややこしい事になるからな。それにしても彼らは自分をハムスケより弱いとは思っていなかったな。やはり大きさってのは現地民にも分かりやすい指標なのだろう)
そんな事を考えているとアインズ達が向かった霊廟を中心にぐるりと一周し、アンデットの大軍を粗方倒し終えた。まだ少し残っているが全て倒すと夜明けまでに誰かがやって着かねないから放置する。はくたくはハムスケを頭から降ろす。
「アンデットの相手は終わったでござるか?」
「ああ。いまからアインズ達の所へ向かう…おっ?」
霊廟の方を見ると
「あっちにちょっとは歯応えのある敵がいるかもしれんな。行くぞハムスケ」
「殿ぉーおいて行かないで欲しいでござるよー」
はくたくは骨の龍がいる方向へと駆けはじめた。