ワールドアイテム
ナザリック九階層アインズの部屋にはくたく、アルベド、アウラ、マーレ、コキュートス、セバスが集まっている。ドアを誰かがノックしするとアルベドが訪問者を確認に向かう。そのあとはくたくの元に戻り誰が来たかを告げる。
「デミウルゴスが到着しました」
「入れろ。これで全員揃ったな」
デミウルゴスは入室しはくたくに一礼すると口を開いた。
「シャルティアがナザリックを裏切ったというのは本当ですかはくたく様」
「ああ。手に入れた情報を分析するとその可能性は高い」
シャルティアの件を受けてはくたくは外に出でていた階層守護者とプレアデスは全員ナザリックに帰還させるようアインズに進言した。デミウルゴスははくたくの許可を得てから他のものと同じようにソファに腰を下ろし、ナザリックに属する者として当然の質問をはくたく投げかける。
「シャルティアへ討伐隊は何時差し向けるのですか?」
「アインズと私はその前にやるべき事があると判断した」
「しかし、至高の御方に反逆する者を処分なさらないのですか?」
「至高の御方の判断に口をはさむというのデミウルゴス!」
「・・・その通りですねアルベド。申し訳ございませんはくたく様」
「構わない。そう考えるのは当然だからな」
アルベドの連絡を受けアインズとはくたくはナーベラルを宿屋に待機するよう命ずるとすぐさまナザリックに帰還した。玉座のマスターコンソールの情報と第五階層氷結牢獄にいるアルベドの姉ニグレドによる情報系魔法の調査から、二人はシャルティアが精神支配された上でエ・ランテル近郊に放置されているという事をつきとめた。
その後どうするかという段階で二人の意見が分かれた。
はくたくの案ははアインズ、アルベド、はくたく、マーレによる少数精鋭の討伐隊と、シャルティアが囮だった場合逆に敵を包囲するデミウルゴス、アウラ、コキュートス及び高レベルのシモベによる伏兵部隊の二段構えでのシャルティア討伐。アインズの案はまず、有益な効果を経験値と引き換えに叶える事が出来る超位魔法<星に願いを>をノーコストで発動できるアイテム
精神支配を受けたシャルティアが罠ならば解除の為に接近するだけでも相当危険だ。はくたくがアインズの案に反対したのはそのためだった。結局ははくたくが折れまずはアインズの案を試しそれが駄目ならはくたくの案を実行するという事になった。
一応の結論を出した後、アインズは冒険者組合の会合――強力な吸血鬼、おそらくシャルティアの事だろう――に出向いた。はくたくはナザリックで待機している。
「全員が集まったし皆に今回の事態について説明しようと思う。現在シャルティアはエ・ランテルから少し離れた地点に精神支配された状態で放置されている。現在シモベによる監視体制を敷いているが動きは無い。セバスの報告を鑑みるにセバスと分かれた後に何者かによって精神支配されたようだ」
「ドノヨウニシテ敵ハアンデットノシャルティアヲ精神支配シタノデショウカ?」
アンデットは種族の基本能力として精神作用を無効化する事が出来る。コキュートスの問いは当然だろう。
「分からない。だからこそ外に出ていた者をナザリックに呼び戻した。シャルティアから情報を聞き出していた場合危険に晒されるからな」
はくたくは指を三つ立てる。
「アインズと私はシャルティアを洗脳した可能性は少なくとも三つあると考えた。一つ目はこの世界のマジックアイテム」
この世界には叡者の額冠のようなユグドラシルには無かったアイテムが存在する。その中にアンデットを従えるアイテムがあってもおかしくはない。
「二つ目はこの世界で開発された魔法」
ニニャからユグドラシルにはなかった魔法の存在や、新たな魔法の開発がされているという事を聞き出している。現地魔法にアンデットを支配できる魔法がある可能性はある。開発されている魔法の効果と位階は比例する。この予想が当てはまった場合、シャルティアを支配できるような呪文を使える術者はプレイヤーと同等の実力を持っている、もしくは現地魔法を習得したプレイヤーだろう。
「三つ目は
ンフィーレアのような破格の生まれながらの異能持ちが居るのだから、アンデットを支配する能力の生まれながらの異能持ちがいる可能性はある。
「そしてシャルティアへの対応だが、まずはアインズが超位魔法<星に願いを>を行使できる流れ星の指輪でシャルティアの精神支配解除を試みる。それに失敗した場合…お前たちの力が必要になってくるかもしれん」
はくたくの後半の言葉を受けてこの場にいる全員の表情がさらに引き締まる。それはシャルティア及び彼女を洗脳した者との戦闘を意味するからだ。
「アルベド、シャルティア討伐隊と伏兵部隊の選抜は終わっているな?」
「既に完了しております」
「よし。・・・そろそろアインズから連絡が来る時間だ」
はくたくがそう言うと丁度アインズと<伝言>が繋がる。
『冒険者組合の会合が終わりました。出現した吸血鬼はシャルティアで確定です。自分たちが一時間後にシャルティアの居る場所に行く事になりました』
『こちらで伏兵と討伐隊の準備をさせます』
『あとミスリルのチームが勝手について来るのでそれを始末する準備もお願いします』
『分かりました』
「一時間後に作戦開始だ。アルベド、準備を開始しろ」
「第二部隊は既にここから離れた場所で待機しています」
冒険者チーム「クラルグラ」のリーダーイグヴァルジの頭から
「そういえばアインズさんは、彼らについてくるなと警告はしなかったんですか?」
「一応、ついて来たら死ぬとは言いましたが彼らはついて来ると言って聞きませんでした」
(予想通り自分たちに嫉妬する輩が出てきた訳か)
「それなら仕方がないですね。彼らには良いサンプルになってもらいましょう」
はくたくは彼らを纏めてアインズが造り出した
「邪魔者は始末しましたし、シャルティアがいる所まで案内しますのでついて来てください」
はくたくはナーベラルとハムスケに見送られながらアインズ、アルベド、マーレを連れシャルティアの所へと向かう。その途中でアインズが告げる。
「<伝言>では伝えませんでしたが、アンデット騒ぎの首謀者はズーラーノーンというアンデットの秘密結社の人間だったようです。しかも不味い事にあの二人の遺体が消失してしまいました」
「それは本当ですか?」
彼らを蘇生され尋問されると色々と不味い事になるのは明らかだ。
「ええ。彼らについて会合に来ていた都市長の歯切れが悪いので自分が部屋から出た後に魔法で盗聴したんですが、衛兵詰め所の安置所に置いていた遺体が消えてしまったと言っていました」
「彼らの死体は機を見て回収する手筈でしたが・・・・シャルティアの件でそこまで手が回りませんでしたね。回収したのはズーラーノーン、はたまた別の組織か・・・」
(蘇生された場合少し不味い事になるな。いやここは前向きに考えよう)
「彼らから引き出せる情報は少ないですしそこまで深刻に考えなくても大丈夫だと思います。それにこの件のリスクはモモンが英雄として名を高めれば高めるほど小さくなりますしね」
「どういうことです?」
「人には自分の信じたい物を信じる性質があります。モモンが英雄として名を高めれば高めるほど人々はモモンの正体がアンデットだとは信じないでしょう。そしてモモンがアンデットだと主張する人間が出てきたら、そいつが死体を回収した奴です」
「今はシャルティアの件に集中しますか」
森の大きく開けた場所にシャルティアはいた。ニグレドの魔法で見た時から全く身動きしていないようだ。
「シャルティア」
アインズの問いかけにも感情の抜け落ちた表情をするシャルティアは答えない。予想していた反応であるが改めてはくたくは目の前の状況に驚く。
「アンデットの精神支配、一体どうやったのやら。シャルティアの今の状態についてアインズさんの意見は?」
「シャルティアは精神支配を受けた後、命令が空白のままで放置されていると思います」
「精神支配を受けた演技をしている可能性は?」
「その可能性はありますが・・・陽光聖典の捕虜を精神支配した時の状態に酷似していますからその可能性は低いかと」
はくたくは周囲の状況と、伏兵部隊から何の感知報告も来ていない事から現状を考察する。
「あくまで推測ですが・・・シャルティアは精神支配を仕掛けた者を相討ちになり、精神支配を仕掛けた者の死体ないし重症者となったその者を別の誰かが回収して撤退したという事でしょうか?」
「撤退していない可能性はあります、気は抜けません。それではさっさと無効化してしまいましょう」
「・・・それを使うのはもったいなくないですか?」
「また話を蒸し返すんですか?シャルティアの身には替えられないと言いましたよね?」
「そうでしたねすみません」
(とうとうレベル1ダウンの魔法効果をノーコストで発動できるアイテムを使うぐらいなら、自分たちと守護者でシャルティアを倒したほうが良いとははっきりと言えなかった。自分が間違っているのか?)
はくたくがそんな事を思っているとアインズが流れ星の指輪を作動し、アインズを中心に超位魔法特有の巨大なドーム状魔法陣が展開される。
「それでは行きます…シャルティアに掛けられた全ての効果を打ち消せ!」
アインズがそう宣言した瞬間、魔法陣が攻撃等によって中断された時のようにバラバラに砕け散る。アインズとそれを見たはくたくは大きく動揺する。
「―――な、なんだと?」「馬鹿な!」
(おそらくアインズさんは出現した選択肢から魔法効果の無効化を選んだはずだ。超位魔法による効果は通常の魔法やアイテムの効果に優先する!それが無効化された・・・まさかシャルティアはこの世界特有の何かでは無く―――)
アインズとはくたくはほぼ同時に同じ結論に到達する。アインズがこれまでになく狼狽して叫ぶ。
「全員撤収だ!近くにこい!」
「分かっている!早くしろアルベド!マーレ!」
「は、はい!」「はい!」
アインズは全員が詰まると即座にあらかじめ設定して置いたナザリック近郊の撤収ポイントに転移する。だがアインズとはくたくは転移後も警戒を解かない。はくたくが叫ぶ。
「追跡者に警戒しろ!」
アインズとはくたくは何時でも戦闘に移れる態勢を取る。少しして伏兵部隊が同じように転移してくる。はくたくはフランキスカを構え、敵が現れたら即座に叩きこめるように全神経を集中する。それからしばらくして、誰も追跡してこないと確信してから二人は緊張を解いた。はくたくは大きく深呼吸をするとアインズに話しかけようとするが―――
「糞が!糞!糞!糞!」
アインズが罵倒を繰り返しながら大地を何度も蹴り上げる様に声を掛けるのをためらう。精神の沈静化が何度も起こっているようだが怒りが収まる様子はない。
(確かにアレにはビビったが…ここまで怒るか?)
守護者やシモベ達が怯え始めているのに見かねたはくたくは意を決してアインズに声を掛ける。
「アインズさん落ちついて下さい…皆が怯えています」
皆のといった途端アインズはピタリと暴れるのを止める。
「頭は冷えましたか?」
「ええ、すみません。怒りのあまり我を忘れてしまいました」
「それで、あの時何が起こったか説明してくれますか?・・・予想は付いていますが」
「まずその前に<星に願いを>について説明します。この魔法は願いを叶える魔法に変化していました。当然願いに応じて消費する経験値は増えますが。おそらく、生まれながらの異能でさえ奪えるようになっています」
「それは凄いですね」
アインズはこまごまとした仕様の変化をはくたくに説明する。様々な事がゲームから現実へと変換される時に変化していることは既に体験していた。この魔法も同じようにゲームから現実に移行するにあたっての変化したのだろう。
「ですが魔法は無効化されました。超位魔法に打ち克つ力は一つしかありません」
超位魔法や神器級アイテムに優先する物などユグドラシルには一つしか存在しない。
「それは―――」
二人の声が重なる。
「「