アインズとはくたくはナザリックに戻ると直ぐにアルベド、ユリ、シズを連れてナザリックの宝物殿へと向かった。そこに保管している
「―――という事でワールドアイテムが必要になったのだ」
「なるほど外ではそのような事態になっているのですか。ではモモンガ様、ついにあれらが力を振るう時が来たのですね!」
「う、うむ」
(うわキツイ)
はくたくは思わずビシッとポーズを決めたパンドラズ・アクターから目を逸らす。ハニワ人間のドッペルゲンガー、軍服、気障な台詞廻し、オーバーなアクション。どれか一つもしくは二つなら耐えられる。だが全部備えているとなると『歩く黒歴史』だ。横から見ていてこれだ、創造者のアインズの心境はいかほどだろう。
(あっ沈静化した)
やはり歩く黒歴史ノートには耐えられなかったようだ。
「…持ちだすのは<強欲と無欲><ヒュギエイアの杯><幾億の刃><山河社稷図>を持っていく」
「畏まりました」
シャルティアの精神支配がワールドアイテムと分かった今、外に出すレベル100守護者にはワールドアイテムを打ち消せるワールドアイテムを持たせなければならない。アインズは既にワールドアイテムを所持している。
「はくたくさんはワールドアイテムを持つ必要は無いですよね」
「
はくたくの隠し種族タラスクのレベル5で取得できるこのスキルは、ギルドメンバーたっち・みーの所持する職業ワールドチャンピオンと同様にワールドアイテムの効果を打ち消せる副次効果がある。
「それでは霊廟に取りに行きましょう。…どうしたパンドラズ・アクター?」
アインズはパンドラズ・アクターが何か言いたそうなのに気付く。
「そのような事態であれば、私の力が必要になるのではないでしょうか?ここを出て他の階層でも働いた方がよろしいかと愚慮します」
「・・・お前は切り札だ。外には余り出したくない」
「ここから出したくないのは分かりますけど、パンドラズ・アクターに指輪を渡しましょう。彼は活用すべきです」
パンドラズ・アクターはドッペルゲンガーとしてギルドメンバー41人の姿と能力を八割という制限とはいえ全て行使できる。アルベドやデミウルゴスに匹敵する頭脳の持ち主という事も考えると使いようはいくらでもある。アインズの自身の黒歴史をしまっておきたい気持ちは分かるが宝物殿で腐らせるには惜しい人材だ。アインズはしばらく考え込んでいる。
「・・・・・・・」
パンドラズ・アクターは片手を胸に当ててアインズへ自らをアピールしている。それを見たシズが
「うわぁ」
と小さく声を上げる。
(また沈静化した)
長考の後にアインズは指輪をパンドラズ・アクターに投げた。
「お前の存在をナザリック内に周知する。暫くしたらここから出ても構わない。お前の能力には期待しているぞ。それと私は名前を変えた。今後はアインズ・ウール・ゴウン、アインズと呼べ」
「畏まりました、必ず期待に応えて見せます。私の創造主、アインズ様!」
パンドラズ・アクターがビシリと芝居がかった仕草で敬礼を決める。それを見たアインズの精神が再び沈静化した。
(モモンガさん、心中お察しします・・・・そういえばパンドラズ・アクターは何処までギルドメンバーを模倣できるんだ?)
はくたくはパンドラズ・アクターの能力を確かめたくなった。ここに来た時にはタブラ・スマラグティナの姿を取っていたが、自分の姿を何処まで再現できるのだろう。
「パンドラズ・アクター、試しに自分の姿になれるか?」
「…申し訳ありませんが、はくたく様の姿を取るにはこの場は手狭かと」
「ならそのままでいい。自分の能力をどの位まで模倣できる?」
「はくたく様の力の八割を模倣する事が出来ます。しかし全てを喰らい糧とするその御身の力は私の力ではとても」
ドッペルゲンガーの能力で課金職業サイズチェンジャーや種族タラスクのスキルワールドイーターは模倣できないというのはユグドラシルから変わっていないようだ。
「ならばアインズの格好になれるか?その軍服のままで」
「それならば可能でございます」
「えっ」
アインズが止める間もなくパンドラズ・アクターの姿が歪み、次の瞬間には軍服を纏ったアインズが現れた。
「いかがでしょうかはくたく様」
「うん。次はそのコートに片袖だけ通すのとか止めてきちんと軍服を着てみろ」
「畏まりました」
パンドラズ・アクターが着崩していた軍服を直す。
「うん、軍服に骸骨は悪くないな。そう思わないかアルベド」
「アインズ様は何を着ても似合うと思います」
「我が創造主の御姿を褒めて頂きありがとうございます!」
パンドラズ・アクターは大げさに礼をする。
(そのポーズで台無しだけどな!)
「おーいちょっとこっち来ーい!」
耐えかねたアインズがパンドラズ・アクターを部屋の隅に引っ張って行く。二人は「元の姿に戻ってくれ。あとその敬礼は止めないか?」「
「待たせました、はくたくさん行きましょう。指輪をパンドラズ・アクターに渡してください」
アインズとはくたくはパンドラズ・アクターにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを渡す。今から向かう霊廟にいるゴーレムはこのアイテムを持っていると攻撃する。ここに来るにはこの指輪が必要なためそれを知らない侵入者はゴーレム達に袋叩きにされる。ギルド拠点が陥落した後の征服者への最後の嫌がらせだ。
「アルベドはここで待機しろ。パンドラズ・アクターはユリとシズを使ってシャルティアの蘇生資金を玉座の間へ動かしておけ」
「了解しました」
アルベド達の深いお辞儀に見送られながら二人は霊廟の奥へと向かった。
「はくたくさん、話があります」
霊廟の最奥部からワールドアイテムを回収したアインズははくたくに宣言する。
「シャルティアとは私一人で戦います」
「…正気ですかモモンガさん」
神官系職業と物理系職業を兼ね備えたシャルティアは信仰系魔法詠唱者で肉弾戦等にも長ける。それに加えアンデットのシャルティアにはアインズが重点的に修めている死霊系魔法は聞き目が悪い。
「シャルティアとモモンガさんは7:3ですよ?」
シャルティアの職業構成は自己回復と攻撃手段に富み単独で戦闘を継続できるようになっている。はくたくも通常のポーションや魔法のバフ効果だけでは6:4をつけられる。神器級アイテムや最上位の金属を喰い潰してバフを得ていいなら話は別だが。
「分かっています」
アインズは短く平たい木の棒を取り出すと霊廟のゴーレムが保持するアイテムに近付ける。木の棒がアイテムに触れるたびに文字が浮かび上がる。
「作戦は考えていますか?それに勝算はあるんですよね」
「シャルティアのスキルとMPを使いきらせた後戦士化魔法を使いここのアイテムを装備して肉弾戦に持ちこみます。その後は<
PVPに慣れたアインズならではのアイデアだ。だが―――
「もしシャルティアがスキルやMPを温存したら?」
「そうならないように誘導するつもりです」
「分が悪い賭けですね・・・・そこまでして一人で戦う理由はなんです?」
シャルティアが精神支配されたと知ってからのアインズの態度からなんとなく予想できる。
「この世界に自分たちのようなプレイヤーがいる可能性は高いと分かっていました。それなのにワールドアイテムの可能性を考慮できなかったギルドマスターとしての自分の責任だからです。それにナザリックのNPC達は皆の忘れ形見です。彼らが殺し合う姿を見たくありません」
後半のNPC達への思いがアインズの本音だろう。はくたくにもそのような気持ちはあるが合理性に優先する程ではない。こちらに転移してきてから薄々アインズとの違いは感じてきたがここで改めて自覚させられた。これが人間だった時の違いなのか種族としての精神構造の違いなのか今となっては分からないが。
(こうなったモモンガさんに何言っても説得は無理だろうな。ならば…)
「分かりました。ですが一人で戦うにも条件があります。不足の事態に備えて自分とアウラ、マーレを後方で待機させてください。後は出来ればですが不測の事態が発生した場合に確実に撤退するためにヴィクティムも連れて行きたいですね」
先程のアインズの言葉を考えれば却下されるであろうヴィクティムの出撃をはくたくはあえて聞く。ヴィクティムの死亡時に発動する足止め系スキルがあれば撤退する事態になっても容易だからだ。
「守護者の蘇生が出来るか分からないのでヴィクティムを連れていくことはできません」
断られるのは想定済みだ。それでも聞いておかなければならない。
「分かりました。では最後に約束してください。勝てないと判断したら後方の自分たちを呼ぶと」
「約束します」
アインズははくたくに頷く。はくたくは大きくため息をついた後に肩をすくめる。
「勝算はかなり低いですね。もしこのPVPに自分が賭けるならシャルティアの方に賭けますよ」
「はくたくさん、一つ忘れていませんか?」
「?」
「自分のPVP勝率は六割ですが、情報が揃った状態では八割を超えています。そしてシャルティアについて制作者のペロロンチーノさんを除いて一番詳しいのが自分です」
アインズは自信たっぷりに宣言する。
「経験と情報の差で勝ちを掴んでみせますよ」
三巻分終わったらオリジナルエピソードが入ってくると思います