週一か週二を目標に投稿していきますのでよろしくお願いします。
はくたく、アウラ、マーレは高台からシャルティアの元へと向かうアインズを見送った。アウラとマーレには<山河社稷図><強欲と無欲>をそれぞれ装備させてある。遠ざかるアインズを見る二人の視線は不安げだ。はくたくは二人に問う。
「アインズがシャルティアに勝てるか不安か?」
「あたしはそうは思いません!」
「ぼ、僕もアインズ様が勝つと思っています」
「お前たちの不安は正しい」
シャルティアがPVPに慣れたプレイヤーならばアインズが勝てる可能性はゼロに近い。
「アインズは死霊系魔法に特化したアンデットの魔力系魔法詠唱者でシャルティアは肉弾戦闘に長けた信仰系魔法詠唱者。有利不利で言えばアインズがかなり不利だ」
「そ、それならばどうしてアインズ様は御一人で戦おうとしているんです?」
「お前たち守護者を集めて説明したようにこれが罠であった場合、単独でシャルティアと戦えば敵は罠を警戒して攻めにくくなる。それにアインズと自分はお前たちよりも戦闘経験に長けている分不利を埋める事が出来るからな」
宝物殿を出た後アインズの部屋に階層守護者とパンドラズ・アクターとセバスを集めてアインズがシャルティアと単独で戦うという事を彼らに説明した。反対するデミウルゴスに手が折れたがどうにか全員を説得する事が出来た。彼らはナザリックからシャルティアとの戦闘を観戦している。
「あそこでは言わなかったが理由はまだある」
「それは何ですか?」
「アインズはお前たちの事を大切に思っているからだ。お前たちを創造した仲間から預かったアインズはギルドマスターとして、お前たちが殺し合う姿を見たくなかったんだろう」
「アインズ様・・・」
はくたくからアインズの真意を聞いたアウラとマーレは涙ぐむ。
「アウラ、今は感傷に浸っている場合ではない。自分とマーレに隠密魔法を掛けろ。そろそろ戦闘が始まるぞ」
「了解しましたはくたく様」
高台から見える森の中の開けた場所に巨大な魔法陣が展開される。アインズがシャルティアに超位魔法を仕掛ける準備を始めたのだ。はくたくもインベントリから十数個のポーションを取り出し瓶ごと口の中に放り込む。これらは各種ステータス、耐性、感覚を向上させるものだ。はくたくの体に力が漲り感覚が研ぎ澄まされていく。
「アウラはアインズの召喚したモンスターと共同して周辺の監視、マーレは自分とここで待機だ」
はくたくが胡坐を組み戦場を眺めていると魔法陣が発動した。超位魔法<失墜する天空>の巨大な白熱した火柱が上がる。アインズとシャルティアの戦闘が始まった。
「御手並み拝見といかせてもらいますよ」
戦闘開始から十数分後、アインズのスキル<あらゆる生あるものの目指す所は死である>によって砂漠化した大地で繰り広げられる戦闘はアインズの筋書き通りに展開していた。シャルティアはスキルとMPを使い果たし、戦士化魔法を発動させ霊廟から呼び出したギルドメンバー達の武器と、ワールドチャンピオンの鎧に身を包んだアインズとの肉段戦闘を余儀なくされている。課金アイテムによる補助を受けているとはいえ、PKKギルドのギルドマスターの地位は伊達ではなかったという事だ。後は一撃で仕留められるまでシャルティアの体力を削った後に冷却時間を終えた超位魔法<失墜する天空>を発動すれば終わりだ。
「アインズの勝ちだな」
はくたくは立ち上がるとアウラに尋ねる。
「アウラ、戦闘開始から今までで何者かがここに接近したり潜んでいるという事はないか?」
「はい。アタシや
超位魔法の準備段階、シャルティアとの戦闘中、アインズの勝利がほぼ確実になった時点、どのタイミングでも何者かが現れるという事はなかった。
(本当にシャルティアは放置されていたという事か?)
今持っている情報から断定はできないが、その可能性が高いだろう。
「自分はアインズの近くに行く事にする。最後は目の前で見たいからな。お前たちは指示があるまでここで待機しろ」
「「畏まりました」」
はくたくは高台を飛び降りるとアインズとシャルティアの元へと向かった。
はくたくが現場についたのは決着がつく直前だった。はくたくはシャルティアから交戦対象に入らないだけの距離を取って二人の戦いを見届ける。アインズはシャルティアの攻撃を盾で防ぎながら、最後のひと押しである超位魔法のタイミングを伺う。そしてアインズはシャルティアの大ぶりな攻撃を弾き飛ばすと、戦士化魔法を解除し超位魔法を発動させた。さらに超位魔法の準備時間をゼロにする課金アイテムを発動させようとするが―――そこでアインズの動きが一瞬止まる。
(不味い―――)
ここでシャルティアの一撃を受ければアインズが今まで積み上げてきた作戦は全て水泡に帰してしまう。はくたくは介入するべく即座に
(今のは…アウラのスキルか)
アウラがスキルを発動してシャルティアの動きを一瞬止めたのだろう。はくたくは砂漠の中に歩を進め、シャルティアが残したアイテムを見下ろしている。
「なかなか見ごたえのある戦いでしたよ」
「勝っても全く嬉しくないですけどね」
(アウラの介入に気付いていないな。これについては黙っておこう)
アインズはシャルティアのアイテムを一つ一つ丁寧に拾う。
「今後の予定は?」
「シャルティアを蘇生した後に冒険者組合に今回の件について報告に行きます」
「それなら、冒険者組合に行く前に調べたい所があります。デミウルゴスとアウラも連れていきたいですね」
「何処を調べるんですか?」
「シャルティアがここに来る前にいた場所ですよ」
「この死体を見てどう思う?」
「シャルティアが血の狂乱を発動していたのは確実かと」
はくたくの問いにデミウルゴスが応える。シャルティアを蘇生した後、はくたくはデミウルゴス、アウラを連れシャルティアが襲撃した盗賊が塒にした洞窟を調べていた。吸血鬼の脅威が去れば冒険者組合が調査に来るため、その前にここを調べておく必要があったのだ。今いる広場には数十人分の死体が散乱し酸鼻をきわめているがそれにショックを受ける者はいない。死体の数の割に少ない血の量を考えると、シャルティアが殺した相手の血を貯蔵し様々な用途に仕えるスキル<
「私やアインズがお前たちに任務を与える場合、ある程度は各自の裁量に任せてはいるが・・・これは少々遊び過ぎだな」
「あの馬鹿!」
「シャルティアには私から言い含めておきます」
何をシャルティアに告げるべきか考えているであろうデミウルゴスの視線は鋭い。
(シャルティアが復活してすぐさま「乳が無い」とぬかしたのを聞いて青筋立てていたからな)
「今回の調査結果を纏めてシャルティアに説明しておけ。だが叱咤する必要はないぞ。操られてたとはいえアインズと戦った事自体がシャルティアにはショックだろうからな」
「畏まりましたはくたく様」
「それにアインズが言ったように、今回の件はワールドアイテムの存在を予測できなかった我々の責任だ」
三人は洞窟を出てシャルティアが冒険者チームを襲撃した地点に移動する。そこには五人の冒険者の死体が転がっていた。
「さてここでシャルティアは冒険者を一人取り逃がした訳だがアウラ、何か分かる事はあるか?」
アウラが盗賊の塒となっている窪地を駆けあがりある地点でしゃがみこむ。
「シャルティアがここで眷族の<
「その兼属はどうなった?」
「全て滅ぼされちゃってますね。場所はアインズ様が戦った所です」
わざわざ出向いて調べてはみたが分かった事は殆ど無い。明らかになったのはシャルティアがこの手の任務には不向きだという事くらいか。
「デミウルゴス、シャルティアの記憶が欠落している為わざわざここを調べた訳だが、シャルティアが洗脳される前に何が起こったと思うかこたえよ。推測で構わん、情報が少なすぎるからな」
デミウルゴスは一枚の羊皮紙を手にしている。冒険者組合からアインズが提供させたブリダの供述書だ。
「アインズ様が冒険者組合から引き出した情報とこの場の状況を考えるに、シャルティアは我々と敵対していない何者かと偶然の遭遇の結果ああなったというのはどうでしょうか?もちろん敵対者が精神支配を仕掛けた可能性も否定できませんが」
「それはシャルティアがこの森にいた時に、偶然ワールドアイテムを持った者も同じくいたという事か?」
「はい。精神支配後の対応を考えると、シャルティアが冒険者を始末すべく放った眷族がここを何か別目的で通過していた者を襲い、兼属を滅ぼされたシャルティアがその者たちを襲い防衛目的でワールドアイテムを行使された、という可能性もあります」
「ああ…」
有り得ない話ではない。敵対者が仕掛けたのならばシャルティアを洗脳した後の対応が不自然すぎた。第三者がワールドアイテムを防衛目的に使用しシャルティアを無力化した後に撤退、というのは精神支配したシャルティアを放置したという事を考えると敵対者という想定より説得力がある。そしてデミウルゴスの予想が正しかった場合こちらにとってかなり都合が悪い。血の狂乱で暴走状態のシャルティアを返り討ちにしたのならばむしろこちらの管理責任を問われても仕方がないのだ。心配の種を一つ増やしたはくたくは懐中時計を取り出す。まだまだ考えるべき事はあるが、吸血鬼を撃退した冒険者としてエ・ランテルに凱旋しなければならない時間が迫っていた。
「デミウルゴス、この場で分かった事は纏めて後からアインズにも報告しておけ」
「畏まりました」
はくたくはデミウルゴスとアウラと分かれアインズ達との合流地点に向かった。
夕方にアインズ一行が傷だらけでエ・ランテルに帰還し、冒険者組合で報告を終えるとアインズ達は治療と装備の修復を施された後に宿屋での待機を命じられた。翌日、冒険者組合では明朝に帰還した調査隊の報告内容と同行したミスリル級チーム「クラルグラ」の全滅という事を踏まえモモン、ナーベ、ハクの三人をアダマンタイト級冒険者とする事が決定した。正午にアインズ達は冒険者組合へと呼び出され、組合長アインザックと都市長パソナレから感謝の言葉とアダマンタイトの冒険者プレート、墓地でのアンデット騒ぎの解決及び強力な吸血鬼討伐として金貨500枚を受け取った。アダマンタイトのプレートを付けて組合の階段を下りてくる三人をその場に居合わせた全員が注目する。その中には見知った顔もいた。
「モモンさん!」
ニニャがこちらに駆け寄ってくる。
「そのプレート、非常に強力な吸血鬼を討伐したというのは本当だったんですね」
「ええ。そちらはどうなりましたか?」
「アンデット騒ぎも落ち着いたのでペテル達の埋葬も終わりました」
「そうですか。ちょうど良かった、ニニャさんに渡す物があります」
アインズは懐からはくたくがクレマンティーヌの心臓を貫くのに使った漆黒の短剣を取り出す。
「アンデット騒ぎの首謀者のトドメをこれで刺しました。これを渡そうと思っていたんです」
「そうですか。ペテル達の敵を討ってくださりありがとうございました」
短剣を受け取ったニニャが深々と頭を下げる。顔を上げたニニャにはくたくは問う。
「ニニャは今後どうするつもりなんだ?」
「王都に行きます。僕は今回の事件で力の無さを実感しました。王都の師匠の元でもう一度魔法について学び直しながら新しく入るチームも探そうと思っています」
「そうか、応援しているぞ。王都に寄る事もあるだろうからその時にまた会おう」
「はい!」
アインズ達はそれぞれニニャと握手を交わした後分かれた。
「しばらく滞在する事になるだろうから先に渡しておく」
アインズはエ・ランテル最高級の宿屋「黄金の輝き亭」の受付に金貨を十数枚渡すと替わりに鍵を受け取る。いきなり宿屋に入って来た冒険者に店員や客から向けられた怪訝な顔はアダマンタイトのプレートを見た途端に納得の表情へと変化した。これまでの木賃宿で十分だがアダマンタイトのプレートを持つ者がそのような場所に泊まるべきでないというアインズの提案は正解だったようだ。店員に最高級の部屋へと案内される。部屋を退出する店員に夕食が不要の意を伝え、店員が部屋から遠ざかってからはくたくは口を開く。
「あー疲れた」
「そうですね。墓地の事件から休み無しでしたから」
アインズが兜を脱ぐ。鎧を解除しないのは、今着ている鎧は魔法で創造した物ではなく実際に鍛冶長に造らせ傷を着けさせたものだからだ。
「このプレートを獲得したんだから駆けずり回った甲斐はあります。一つトラブルはありましたが」
はくたくは首に掛けられたアダマンタイトのプレートを指で弾く。トラブルという言葉にアインズの目の炎が強まる。
「あの場所を調べてシャルティアに精神支配を掛けた不届きものについて何か分かりましたか?」
「シャルティアと接触をした者については何も分かりませんでした。デミウルゴスに纏めさせてるのでそっちから聞いてください」
「そうですか…」
アインズの目の炎が弱まる。
(時々怖いんだよねこの人)
骸骨の顔から表情は読み取れないが内心にはシャルティアを精神支配した者への怒りが燻っているだろう。はくたくは気分転換を提案する。
「こういう時は考え込んでも仕方ないです。ナザリックに帰って風呂に入って気分転換しましょう!」
アインズは少し考えてから頷く。
「それもそうですね。8階層の銭湯に一緒に行きませんか?自分はああいう所に行った事がないんですよね」
はくたくは膝を叩く。
「それならそうしましょう。ナーベラルは誰かが我々を訪ねてきてもいいようにここで待機しておけ」
「はっ」
「それでははくたくさん行きましょう」
アインズが<