オーバーロード 破壊の魔獣   作:源八

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支配

「お前たちを支配下に置く事にした。さりとて無価値な物は不要。一週間の猶予の後に軍を差し向けるからそれと戦い自らの価値を示せ」

 

おおむねその様な意味のメッセージを伝える先触れを蜥蜴人(リザードマン)の集落にを送ってから一週間がたった。その間アインズが冒険者組合から請け負った仕事の途中にトブの大森林に封印されていた魔樹を討伐するという事件があったものの、それ以外には特に何もなかった。魔樹ザイトルクワエはこの世界では文句なしの世界の危機ではあったが、階層守護者達の前では只のサンドバッグでしかなかった。湖ではリザードマンが一つの村に全集落から集まり防御を固めている。彼らは各個撃破されるよりも一致団結することを選んだようだ。こちらとしても手間が省けて嬉しい事だ。

 

はくたくは自身の居室で展開しつつあるアンデットの軍勢を遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)で眺めていた。コキュートスからはアウラが建設中の要塞での観戦を勧められたが断わった。指揮に口を出さなくとも自身の評価をする人物が近くにいては指揮官の邪魔になるだろう。はくたくはこれから始まる戦闘に内心かなり興奮していた。アインズ・ウール・ゴウンは少数精鋭ギルドであるからしてこのような大規模部隊対大規模部隊と言う戦闘は初めての体験なのだ。これからの展開を予想しているとアンデット軍の布陣が終わり、リザードマンも村から出撃を始めた。戦闘開始だ。

 

 

 

 

 

リザードマンとアンデット軍が戦闘を初めて2時間後、沼地にはアンデットの屍が散乱していた。敗北。完膚なきまでの敗北である。アンデッド軍は指揮官のエルダーリッチを滅ぼされ撤退、残存兵力は全部合わせても1000体にを切る一方、リザードマンの死傷者は100に満たない。

 

「・・・以上だ」

「敗北、それも完敗だなコキュートス」

「ハッ!」

 

玉座の間にアインズとはくたく、階層守護者、高位のシモベが集められていた。シャルティアの裁定とデミウルゴスへのねぎらいが終わり、コキュートスの番となった。はくたくの状況説明の後、アインズは今回の会戦は我々の敗北だとコキュートスに告げる。頭を深く下げるコキュートスの巨体は一回り縮んで見えた。

 

「此度ノ戦ノ敗北、誠ニ申シ訳アリマセン。責任ハ―」

 

謝罪の言葉を続けようとするコキュートスをはくたくは手で押さえる。

 

「謝罪する必要はない」

「シカシ―」

「二度も言わせるなよ。謝罪の必要はないと言ったんだ。顔も上げろ」

「ハッ!」

 

コキュートスは顔を上げた。はくたくはアインズと話し合っておいた今回の戦の意図を説明する。

 

「今回の戦、始まった時点そもそも勝ち目は薄いと思っていたからな。勝ち負けは端からどうでも良かった」

 

コキュートスや守護者達ははくたくの言葉を理解しかねているようだ。アルべドとデミウルゴスはそうではないようだが。はくたくは言葉を続ける。

 

「コキュートス、お前はナザリックを守るために創造された、そうだな?」

「ソノ通リデス」

「ナザリックを守る戦士として創られた。今回のように軍を指揮する者としてではなくな」

「ハイ」

「ということは今回の任務はお前にとって未知ことだった。慣れぬ事を何のアドバイスもなくやらせれば失敗するのは当然。それが謝罪が要らない理由だよ。…無論お前が問題なく任務を果たしてくれると期待もしていたが」

 

守護者達はまだ納得いかないと言った感じだ。はくたくにコキュートスは当然の問いをする。

 

「ナラバ何故私ニ軍ノ指揮ヲ任セタノデスカ?」

「質問に質問で返して悪いがコキュートス、今回の結果から何を学んだ?勝つには何が足りなかった?」

 

コキュートスはしばし考え、自らの足りなかった点を述べた。

 

「リザードマンノ実力ヲ侮ッテイマシタ。モット慎重ヲ期スベキダッタカト」

「敵を侮る、強者の悪い癖だな。他には?」

「情報不足ダッタカト。相手ノ戦力、地形。ソウイッタモノガ不確カナ状態デハ勝算ハドウシテモ低くナルト思イ知リマシタ」

「『彼を知り己を知れば百戦して殆うからず』だな。情報収集は大切だ。斥候を出すなり、魔法で調べるなりすべきだったな」

「指揮官ノ不足モ問題デシタ。低位ノアンデットデスカラ、臨機応変ニ対応デキル存在ヲ付ケル存在ヲ付ケルベキデシタ」

「下士官というのだったかな?それが居なかったと。他にはあるか?」

「リザードマンノ武器ヲ考エ、動死体(ゾンビ)ヲ主ニブツケ疲労ヲ誘ウ、モシクハ個別ニ動カサズ全テヲ一度ニブツケルベキデシタ」

「なるほどなるほど。それ以外にはあるか?」

「申シ訳アリマセン。今スグ思イ付ク事ハ以上デス」

「色々学んだようだな。それではもう一度似た事を任せた時に同じ失敗は繰り返さないな?」

「絶対ニ!」

 

はくたくはコキュートスの決意に頷く。

 

「我々が何故お前指揮を任せたのか?だったな。…我々は強い、だが経験を積み更に強くなる事が出来る。それをお前たちに知ってもらいたかった・・・これが応えになるかな」

 

守護者達に理解の色が広がっていく。それを確認にしたはくたくはアインズにバトンを渡す。

 

「では今後の予定について頼むアインズ」

「ああ。守護者達と私、はくたく全員で出撃だ。兵としてナザリック・オールドガーダー、エルダーガーダー、マスターガーダーを動員させろ。カルガンチュアも出せ。明日、リザードマンの度肝を抜いてやろうではないか」

 

 

 

 

「「あー」」

 

アインズとはくたくはアインズの居室で二人きりになるや演技を止めた。はくたくは椅子にもたれかかりアインズも執務机に突っ伏している。アインズは冒険者として常にワールドアイテムを使ってきた者からの接触を警戒し、はくたくはナザリックに居る時はあったものおのナザリックでアインズから頼まれたナザリックの運営代行にリザードマンの統治準備などで休む暇はなかった。こちらに来てから一カ月と少し、二人に休養日は無かった。

 

「これが終われば一息つけますかね?」

 

突っ伏したままアインズが呻く。

 

「冒険者としての地場は確保できましたしきっと休めますよ。ちょっとやりたい事もありますしね」

「何をやりたいんですか?」

 

はくたくは一枚の報告書を取り出す。セバスが王国で見聞きした事が書かれたものだ。そこには帝国首都に闘技場があると書かれていた。

 

「人間に変装して帝国の偵察に行こうかと思っています。ついでに闘技場で外貨獲得ですね」

「ああ、いいですねそれ」

 

二つ返事でアインズが応える。まだ机に突っ伏したままだ。

 

「シャルティアへの罰どうしよう…」

「ギルド長が考えてください」

 

はくたくはアインズの悩みを受け流す。

 

「えー…あ、はくたくさんはデミウルゴスの言っていたアベリオンシープって何か分かります?自分は合成獣(キマイラ)の一種かと思うんですが」

「いや、全然分かりませんね。皮の現物を見れば何か分かるかもしれませんが」

「持ってますよ」

 

アインズは一枚の羊皮紙を机から取り出し投げた。それを受け取ったはくたく羊皮紙を観察する。

 

「うーん…」

 

(モンスターの革だからもっとゴワゴワしてるかと思ったが柔らかいな。むしろ普通の家畜、羊や牛の羊皮紙に近い)

 

見た目では分からない。ならば匂いだ。加工されて薄くはなっているが僅かに元の生物の匂いがあるだろう。羊皮紙を鼻に近付け匂いを嗅ぐ。

 

(・・・・)

 

羊皮紙の匂いから導き出される答え。だがその動物(・・)な訳がない。その筈がない。はくたく羊皮紙を爪で裂き口に放り込む。そして羊皮紙の味で確信した。

 

(おいおい嘘だろデミウルゴス。羊と言ったじゃないか。両脚羊…両脚羊…)

 

頭の中で両脚羊と言う語句を反芻する。そしてギルドメンバーが悪ノリで語っていた知識の一つにその語句が出てきた事を思い出す。聖王国産両脚羊とはつまり…

 

「嗅いだ事の無い匂いと味ですね」

「はくたくさんにも解らないとなるとこの世界特有のモンスターでしょうね」

 

嘘をつく。アインズに告げるかどうかはデミウルゴスを問いただしてからだ。頭の中の予定に一つ書き加えておく。

 

(何かが一つ片付いたと思ったら一つやることが増えるのにはうんざりだ…)

 

 

 

 

 

リザードマンの村近くの湿地に二つの巨石。片方にはアインズと守護者達が並び、もう一つの巨石には本来の大きさのはくたくが腰かける。背後にはアンデットの大軍だ。巨石の下には二匹のリザードマンが這いつくばっていた。アインズがリザードマンに話しかけた。

 

「我々の実験への協力、感謝する。お前たちは自らの価値を証明した。我々の支配下に入る事を許そう。さりとて君たちも敗北した相手の支配など受けたくないだろう?だから今から四時間後に再び攻めるとしよう。攻め手は一人。私の信頼出来る側近だ。もし君たちが彼と戦い再び勝利したならば、我々は君たちから完全に手を引くし、被害に応じた謝罪金も支払おうじゃないか」

 

(おーえぐいえぐい)

 

はくたくは内心毒づく。自分たちがやることは客観的に見れば酷い。必要ではあるが。

 

「降伏を…」

 

絶望がにじむ声でザリュースと名乗ったリザードマンが声を絞り出す。

 

「戦わずして降伏などつまらない事を言わないで欲しい。勝ち逃げじゃないか?」

 

はくたくはアインズの言葉に付け足す。

 

「一種の通過儀礼(イニシエーション)だよ。やらない訳にはいかない」

「話は以上だ。四時間後にたっぷり楽しんでくれ。湖の氷は暫くしたら解除しておこう。ではさらばだリザードマン。<転移門(ゲート)>」

 

アインズが別れを告げ転移門に消えると守護者達もそれに習いリザードマンに別れを告げてから転移門に消えていく。はくたくが体を縮め最後に転移門の前に移動する。はくたくは転移門を潜る前にリザードマンの方に振り返り小さく告げた。

 

「戦うのは五人でいいぞ」

 

被害は最小限に。リザードマン二人が言葉の意味を理解したのを確認してからはくたくは転移門を潜った。

 

 

 

 

 

アウラが建設中の要塞にアインズ達は引き上げた。要塞の一室でアインズはシャルティアを四つん這いにさせ、その上に座っていた。はくたくは微妙な表情でそれを見る。

 

「…それが考えていたシャルティアへの罰?」

「はい」

「…辛くないかシャルティア?」

「全然苦しくありません!それどころかご褒美です!」

「お、おう」

 

(罰どころか喜んでるじゃないか。原因は…ペロロンチーノだな)

 

形は一応罰にはなると納得し、はくたくは自らが座る玉座を撫でた。デミウルゴス特製全てが骨製の玉座の二つの内の一つだ。少々趣味が悪いが出来も座り心地もいい。一部に人間の骨がありそれがどこで取れたかを考えなければの話だが。

 

「日曜大工が趣味とは知らなかったぞ。いい出来だ」

「お褒め戴きありがとうございます」

 

デミウルゴスが恭しく頭を下げる。アインズに今後について聞く。

 

「この後はコキュートスがリザードマンと戦って終わりで?」

「そうです」

 

(只の公開処刑になるだろうな)

 

 

 

 

 

「見事な戦いぶりだった」

「アリガトウゴザイマス」

 

奇跡が起こる訳もなく、コキュートスと戦った五人のリザードマンは討死した。

 

「それでは今後の統治はコキュートスに一任する。コキュートスから支援要請があれば協力せよ。コキュトス、リザードマンにナザリックへの忠義を植え付け、英才教育を施すのだ。詳しい方法はお前に一任する。協力が必要な時は何時でも頼ってくれ」

「畏マリマシタ。ソレデアインズ様。アノリザードマンハドノヨウニ処分サレルノデスカ?」

「あのリザードマン?」

「ハッ。ザリューストシャースリュート言ウ者デス」

「ああ。死体は回収しスキルによらないアンデット作成手段の実験に使うつもりだ」

「――ソレハ惜シイカト」

「どういう訳だ?」

「彼ラニ強者ニモ怯マヌ、強者ノ輝キヲ見マシタ。アレハ材料ニスルニハ勿体ナイカト。替ワリニ死者ノ復活ニ関スル実験ニ使用シテハイカガデショウ?」

「ふむ…」

 

アインズは少し考え込み、その間にはくたくと<伝言>で話し合う。

 

『はくたくさん、コキュートスの提案どう思います?』

『悪くないと思いますよ。実験もできますしリザードマンも驚かせます』

『実験をもう少し利用できそうなんですよね…』

 

アインズがコキュートスに問う。

 

「リザードマンに代表となる者はいるか?」

「白イリザードマンガオリマス。ドウモ森司祭(ドルイド)ノ力ヲ持ツヨウデス」

「あれか!そうか、なるほど・・・」

 

白いリザードマンははくたくにも記憶にあった。少し前にリザードマンの村を覗いた時に、今蘇生を検討しているリザードマンとの交尾を見せつけてここの空気を凍らせたメスのリザードマンの事だろう。

 

『白いリザードマンと蘇生するリザードマンはつがいで間違いないですよね?』

『現場を見ましたからね。間違いないと思います。』

『彼女に夫を蘇生する引き換えに同族が裏切らないか監視をするように頼めますかね?』

『それは…』

 

取引した場合と、取引せず蘇生だけした場合。はくたくは両方のメリットを比較し、答える。

 

『悪手と思いますね。アレだけ脅しておけばリザードマンに反抗する気はないでしょう。外部から反乱を唆される可能性はありますが…幸いあの集落は他の勢力からは孤立していますから、我々が外部との接触を管理すれば問題ないです。よって起こる可能性の低い反乱を抑えるために取引するよりは、タダで蘇生して彼らに恩を売る方がいいと思います』

『そうですか…なら取引は無しで行きます』

 

「白いリザードマンを連れてくるまでにどれくらいかかる?」

「オ許シヲ。ソウ仰ラレルト思ッテ、近クノ部屋ニ呼ンデオリマス」

 

アインズとはくたくは顔を見合わせ、次にデミウルゴスに顔を向ける。デミウルゴスは顔を軽く横に振る。

 

『凄い成長ですよこれは』

 

はくたくはアインズの言葉に頷く。

 

『男子三日会わざれば刮目して見よ、って奴ですね』

 

「では、この部屋に連れてくるんだ」

 

 

 

 

その後はリザードマンを蘇らせたアインズは神のごとき扱いというのもあって問題なくリザードマンに支配は受け入れられた。次の日、ひとまず必要な人員や物資の手配を終えたはくたくはデミウルゴスと設置された転移ゲートの前にいた。この先はデミウルゴスが運営する「牧場」に繋がっている。

 

「特にお見せする様なものは得にございませんが」

「そう謙遜するな。使用に耐える羊皮紙の確保、見事な成果だぞ。お前が運営する「羊」の牧場に興味が湧いたのだ。羊皮紙の加工をする者達もねぎらってやらねばな」

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