オーバーロード 破壊の魔獣   作:源八

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人間牧場~?何の事かな~?


牧場見学

ナザリックから南西、法国と聖王国の間のアベリオン丘陵。この荒野では無数の亜人種部族が群雄割拠し争っている。そういった部族の一つ、オーク部族の曲がり牙<クルックド・タスク>の集落。

 

オーク達の住居である天幕の中に一つだけ巨大な天幕が張られている。放浪する種族であるオークに似合わないその天幕の重厚な造りはオーク達が設営した物ではない。デミウルゴスがナザリックから持ち込んだものだ。デミウルゴスはこのオーク部族を支配下に置き、この地での魔王作成や牧場経営の為に使役している。

 

 

 

 

その巨大天幕の内幕。中央に二つ設えた純白の、骨で出来た玉座の一つにはくたくは座している。その横にはデミウルゴス。周囲にはデミウルゴス配下の悪魔たちが跪いている。

 

「ふう・・・」

 

はくたくは座ったまま、牧場で見て来た事を脳内で反芻する。皮の加工、屠殺と給餌、そして交配。精神が変化したおかげで『羊』が責め苦を負わされる様を見せられようが、はくたくには何の良心の呵責もなかった。『羊』の皮を剥ぐのも林檎の皮を剥くのと差は無い。だが最後に見た交配には表には出さなかったものの、内心動揺してしまった。

 

(ペロロンチーノさんのお勧め作品にああいう作品もあったけど、実際やってるのを見るのはキツいな…しかしどうやってコレを軌道修正するべきか…)

 

聖王国産両脚羊の羊皮紙に込められる魔法は第三位階までの為、攻撃魔法を込める用途には向かない。しかし、低位階魔法には<伝言>を筆頭にナザリックの活動を円滑にする魔法が多い。そのため低位階用羊皮紙は需要が高く、その補給はナザリックの早急に解決すべき重要問題だ。両脚羊の羊皮紙が供給されれば、ナザリックの補給問題の一つが解決する。

とはいえ罪のない『羊』を問答無用で誘拐し、治癒魔法を使用した拷問に近い収穫を行うのはさすがに抵抗がある。はくたくの感性は問題無しと言っているが、人間だった時の理性は否と言っている。それにこの牧場をナザリックが運営しているという事実を、人間種プレイヤーが嗅ぎつける可能性もある。デミウルゴスが証拠を残すヘマをするとは思わないが、大規模な誘拐を隠し通すのにも限度はある。

 

(かといって羊皮紙の補給を止める訳にもいかない。露見の可能性と露見した時のリスクを少なくするしかないか。となると、羊の調達先を変えるのが手っ取り早いかな…)

 

「はくたく様、気分がすぐれませんか?やはり交配場を見るべきではなかったかと」

 

長考するはくたくにデミウルゴスが伺いを立てる。

 

「ん?ああ、問題ない」

 

(さて、どう誘導したものか…)

 

はくたくは暫く考え、デミウルゴスに話しかける。

 

「低位階の羊皮紙の補給はナザリックの重要課題、よく解決してくれた。しかし皮肉だな。羊皮紙を扱う者が羊皮紙に向いているとは」

「全くその通りではくたく様」

 

デミウルゴスが笑みを強くする。この牧場はデミウルゴスの趣味と実用を兼ねているのだから笑みも強まるというもの。

 

「あの『羊』は聖王国から仕入れてきているのだな?」

「はい。潰して肉にして不足した分は聖王国から連れてきています」

「証拠を残すような事はしていないだろうが、万が一牧場について我々と同等の実力を持つ人間が嗅ぎつけた場合は?」

「問題ありません。ここで行われることは全て、アインズ様が倒す事になる『魔王』が責任を被る手配になっております」

「そうか」

 

(自分が心配するような事はデミウルゴスなら対策を立てるよね)

 

「だが、魔王の登場とアインズの討伐のタイミングは我々で握っておきたい。この牧場がより露見しにくいようにしなければな。デミウルゴス、『羊』の仕入れ先を変える事は可能か?」

「と、いいますと?」

「このあたりの国家は支配領域の治安を確保出来ていない。至る所に盗賊や山賊、野盗、追いはぎの類がいる。そういった集団から『羊』を仕入れることは可能か?」

 

デミウルゴスは逡巡の後に答える。

 

「可能です」

「ならばその様に取り計らえ。人間は現実の全てが見えるわけではなく、その多くは自らが見たいと思う現実しか見ない。犯罪者が消えた結果には彼ら自身が勝手に都合のいい理由を思い付くだろうさ」

「ではそのように致します。仕入先を切り替えるとして、今飼育している家畜はどうなされますか?」

「そうだな…」

 

アレを解放する事は出来ない。であれば哀れな羊に残された道は一つしかない。

 

「無駄にせず大切に使い潰せ」

「畏まりました」

「異種交配はそうだな…アレを担当している悪魔は誰だ?」

 

デミウルゴスは一体の悪魔を指し示す。

 

「あちらのサキュバスです」

 

はくたくは指し示されたサキュバスを手招きする。

 

「私が異種交配の実験を担当しています」

 

一歩進み出たサキュバスの美しい美貌は緊張に凍りついている。

 

(あそこに妊娠している『羊』はいなかったからな。成果を出せなかった事を問い詰められると思っているのだろう)

 

「そう堅くならないでいい。で、今からいう質問には率直に応えてほしい。どう答えても罰したりはしない」

「は、はい」

「それなりの期間実験を行っている訳だが、その…しかるべきタイミングに実験を行っても成功しなかった訳だな?」

「その通りです。父親と母親の種族を入れ替えた場合でも交配に失敗しました」

「分かった。下がっていいぞ」

 

(冒険者組合でハーフエルフやハーフドワーフはいると聞いたんだけどな。種族の差があり過ぎると失敗するのだろうか?)

 

「デミウルゴス、これは推測だが人間種や亜人種の異種交配は、近しい種族間で無いと成功しないのではないか?人間ならば近縁種の人型種族、亜人ならば近縁種の亜人種族とのみ交配が可能なのではないだろうか」

「その可能性はあります」

 

(デミウルゴスはまだ実験を続ける気だな)

 

「ならば、成功率の低い事に手を掛ける事は無い。その分のリソースをよりよい革を探す事に裂いたらどうだ?」

「しかし…」

「続ける利点があるのは分かっている。それでも中止せよ」

 

利点を挙げようとするデミウルゴスを制する。デミウルゴスが成功の見込みが少なくても『羊』の実験を続ける理由がある事ははくたくにも分かる。

 

(もしオークと『羊』の異種交配種が生まれて繁殖に成功したら、その種の起源を隠蔽してしまえば『羊』から非難される心配が無くなるものな。『羊に似た何か』を心配する余裕は『羊』に無いだろうし。でも、そういう事にあまり手を付けたくは無いな)

 

「ナザリックの進む道の前に人間やそれ以外の種族が掲げるつまらん規範や道徳が立ちはだかろうと、自分やアインズはそれを障害とは思わない」

 

ならばナザリックの利益になる実験を何故中止させるのか。デミウルゴスや跪く悪魔達に疑問が浮かぶ。

 

「何故中止するかと思っているのだろう?何故なら、ギルド、アインズ・ウール・ゴウンは」

 

一旦言葉を切る。

 

悪ではあるが残酷ではない(・・・・・・・・・・・・)、からだ」

 

(これでどうだ?)

 

ユグドラシル時代、ギルドは設立の経緯からしてPKよりもPKKが多く、売る喧嘩よりも売られた喧嘩の方がはるかに多かった。むろん正当防衛ではなく過剰防衛の類が多かったが。悪のロールプレイ集団ではあるが悪質プレイヤー集団ではなかった。間違ったことは言っていない筈だ。

はくたくはここに来る前に考え、デミウルゴス達を説得する為にひねり出した言葉が期待通りの効果をもたらすように祈る。次第にデミウルゴスと悪魔たちに理解の表情が広がっていく。デミウルゴスが丁寧に頭を下げる。

 

「仰せの通り、交配計画は中止いたします」

「分かってくれたようだな」

 

(モモンガさん程じゃないが、支配者ロールプレイも出来そうだな)

 

はくたくは胸を撫で下ろす。

 

「つまらぬ理由ではくたく様のご判断に異を唱えた事をお許しください」

「デミウルゴス、謝る必要は無い。お前が異を唱えたのもナザリックの利益を思っての事だろう。それの何処に責を問われる故があるのか」

「そう言っていただき有難く存じます」

「うん。そういえば気付いたのだが」

 

はくたくは話題を切り替える。

 

「『羊』の皮を剥ぐ時、魔法で家畜の意識を奪わないのか?お前が手ずから作成した治癒魔法に関する報告書に、治療される側が拒否すれば治癒効果が減退すると書かれていた筈だが。家畜に不必要な苦痛を与える必要は無いだろう…」

 

 

 

 

はくたくはそれ以外にも牧場を見て気付いた点について幾つかデミウルゴスに問い、幾つかの指示を出した。どれも家畜の苦痛を軽減するものだった。

それを終えると、はくたくは玉座から立ち上がる。

 

「ここで確認すべき事は終わった。私はナザリックに帰還する」

 

はくたくは転移門に向かった。

 

 

 

はくたくは転移門を潜る前に振りかえり、見送りに来たデミウルゴスに何のことは無いといった風に告げる。

 

「ああ、アインズはこの牧場が飼っているのは混合獣(キマイラ)だと思っている。いいな?」

 

デミウルゴスは、はくたくの言葉が意味する所を察する。アインズは知っているが知らない。

 

「承知いたしました」

「よし。では今後も忠義に励めよ」

「はっ!」

 

はくたくはナザリックへの転移門を潜った。

デミウルゴスははくたくが転移門に消えた後も礼を崩さず、暫く経ってから任務に戻った。

 

 

 

 

これから暫く王国と帝国では街道での犯罪被害が激減する。市井の多くの者はその事に気付かず、また気付いてもそれを不審には思わなかった。日々を忙殺される多くの者にとって、被害が増えるのではなく減るという事に気を裂く余裕は無かった。治安関係者が不審に思うも、調査報告からは犯罪者の塒がもぬけの空になっている事が分かるのみで、それがなぜ起こったのか、何を意味しているか理解する者はいなかった。

 

ある一人を除いて。




家畜を虐待したら駄目だよね!
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