オーバーロード 破壊の魔獣   作:源八

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帝都2

トーナメント戦の前にある何の事もない前座。無敗を誇る戦士がそれまでのように勝ち星を一つ得、ルーキーが闘技場の手荒い洗礼を施される。その程度の試合になるはずだった。それが今、帝国首都アーウィンタールの闘技場をこれまでにないほど湧かせている。

連戦連勝の強者であるエルヤーの鎧は所々へこみ、体には泥が付いている。一方挑戦者に傷は一つもない。滅多大番狂わせが起ころうとしている。

 

 

「この減らず口をいつになったら塞いでくれるのかな?エルヤー殿」

「・・・黙りなさい」

 

試合開始から余有の表情を崩さないはくたくの言葉にエルヤーは顔をゆがめる。

 

(認めたくないが、こいつは強い)

 

エルヤーは心の中で毒づく。試合開始とともに<縮地改>で間合いを詰め、居合抜きで一刀のもとに切り捨て、侮辱の代償を払わせる。だが、試合開始とともにエルヤーが放った斬撃は事もなげにかわされ、斧の反撃を食らう事となった。その後もエルヤーが繰り出す斬撃は全てかわされ、反撃を返されていた。どれも軽い打ち身の為戦闘に全く支障は無いが、エルヤーの当初の目論見から比べれば無様を晒している。

 

「これはどうです!<空斬(くうざん)>!」

 

刀を上段から振り下ろす。武技によって作り出された斬撃が空を走り、はくたくに迫る。その斬撃をはくたくは半身ずらすだけでかわす。標的を外した斬撃が後ろの壁で弾ける。

 

「それも武技か。その移動法といいなかなか面白い」

「武技を知らないとは。それでも戦士ですか」

 

はくたくは似たような事をクレマンティーヌ言われた事を思い出し苦笑する。

 

「その戦士ですらない相手にてこずっているお前は何だ?」

「黙れ、黙れ、だまれええええ!!」

 

エルヤーは笑うことはあるが笑われることは殆ど無い。はくたくの挑発に体から火が出そうなほどの怒りがこみ上げるが、攻撃には出ない。自ら手を出せば反撃を食らう事を忘れるほど、我を失っていはいない。そしてはくたくは、既に目の前の男の戦力分析を終えていた。

 

(クレマンティーヌと比べればはるかに劣る。ガゼフよりも弱い。アダマンタイト、いやオリハルコンクラスの冒険者と同じくらいかな?)

 

はくたくはエルヤーをこの世界ではそこそこ強い方と結論付けた。武技の観察も終え、もう戦闘を続ける必要は無い。

 

「さて、そろそろ終わらせようか」

「ッッッ!!<能力向上>!」

 

いきなり眼前に迫ったはくたくが振り下ろすポール・アックスを、咄嗟に武技で肉体を強化したエルヤーは刀で受ける。

 

「ぐっ!」

 

想像以上に重い一撃に筋肉と腱が悲鳴をあげ、エンチャントで耐久度を強化されているにも関わらず、刀の刃が僅かに欠けた事にエルヤーは驚愕する。だが受けきれない訳ではない。

 

「おっ」

「舐めるな!」

 

エルヤーが先程までよりも鋭く反撃を繰り出す。はくたくは斬撃をバックステップでかわし、そのまま距離を取る。はくたくはエルヤーが受けきれない程度の強さで繰り出した攻撃を、エルヤーが防いだ事に少し驚いていた。

 

(能力が底上げされたあれはクレマンティーヌも使っていた技だな。やはり武技にはよく警戒しておかないといけないな)

 

「なかなかやるじゃないか。では今度こそ終わらせるか」

 

はくたくは一息にエルヤーとの距離を詰めポール・アックスを振り下ろす。エルヤーは先程のようにくたくの一撃を刀で受け、反撃に移ろうとするが―――それよりも速くはくたくの第二撃がエルヤーに迫り、それを防がざるを得ない。さらに第三撃、四撃、五撃と流れるように連撃が繰り出されエルヤー反撃に移るどころではない。だが、エルヤーは辛うじてはくたくの連撃を全て防いでいる。エルヤーは歯を食いしばり、きしむ手で刀を放さないように耐える。

 

(奴の体力にも限界がある。今は耐える時だ)

 

どんなに体力があろうとも限界が必ずある。連撃が途切れた瞬間、そこに自身の全力の一撃を叩きこむ。武技<能力向上>にさらに<能力超向上>を重ねがけし猛攻に耐える。

本来なら取得できないにレベルにもかかわらず武技<超能力向上>を体得したエルヤーは天才剣士であるといえるだろう。この判断も相手が自分よりもある程度優れた相手ならば、正しいものだった。

 

 

だが彼の相対する相手は―――

 

 

(ありえない)

 

彼ははくたくの攻撃が衰えるどころか段々と重く、速くなっていることに気付いた。必死で連撃を防ぎながらはくたくの顔を見る。その顔には汗一つ浮かんでいない。

 

(俺は天才なんだ!武王を破り帝国一の剣士になる男だ!こんな得体のしれない奴に敗れるなどありえない!)

 

エルヤーは突きつけられた現実を拒否するために精神力で肉体から限界まで力を引き出す。だがそれも彼を確定した運命から僅かな時間伸ばしたに過ぎずなかった。ついに叩きつけられる衝撃に耐えきれずエルヤーの体が吹き飛んだ。エルヤーは地面を転がるが素早く立ち上がる。

そこで気付いた。刀がない。目の前に転がる刀を見つけ、拾おうとするが右腕が伸びない。

 

(?????)

 

左腕を伸ばすが同じく刀を掴めない。エルヤーは自身の腕を見た。両腕がへし折れ、あらぬ方向を向いていた。

エルヤーがその事実を受け入れ、叫ぶよりも先にはくたくが繰り出すポール・アックスの石突が彼の鎧を砕き、鳩尾にめり込む。肺から空気を絞り出されたエルヤーは意識を失った。

 

 

―――彼より遥かに強かったのだ。

 

 

 

 

 

闘技場の試合から数時間後、帝都の高級宿屋の一室。はくたくがユリとささやかな祝杯をあげていた。

 

「闘技場での勝利、心からお祝い申し上げます」

「ありがとう。まあ只の茶番だったがな。あれならユリでも勝てただろう?」

 

はくたくの問いにユリは黙って頷く。椅子に座るはくたくの手には革袋が二つ。革袋の中にはファイトマネーと賭けで稼いだ交易共通白金貨がそれぞれ100枚づつ入っている。革袋の重量に満足したはくたくは呟く。

 

「これだけ稼げれば、暫くアインズは金に困らないかな?」

 

アダマンタイト冒険者の報酬は高額ではあるが、アダマンタイト冒険者としての偽装生活に、王都に出向いたセバスの調査任務、リザードマンの村の開発と稼いだ端から金が出て行くのには困っていた。この臨時収入ようやく一息つけるというものだ。はくたくは懐中時計で時刻を見る。

 

「さて、そろそろ時間だな」

 

はくたくがそう言うと、目の前に転移門が開かれる。転移門をくぐってシャルティアが現れる。シャルティアははくたくの手前で跪く。

 

「はくたく様、只今参りんした」

「この程度の用で呼び出して悪いな」

「そんなことは無いでありんすはくたく様。…今守護者で一番手が空いてるのは私でありんすから」

 

シャルティアの言葉に若干の自嘲が含まれている。

 

「今回の帝国にお前を連れて行っても良かったんだが、お前の顔を誰に見られたか分かっていないからな。すまん」

 

シャルティアを洗脳した者が何者か分かるまで、シャルティアは表に出る任務に回す事は避けたい。

 

「はくたく様が謝る必要はないでありんす。全て私の落ち度でありんすから」

「そうか。…今は雌伏の時。ナザリックが表に出るようになれば、シャルティアにも表で任務を任せる。その時は頼むぞ」

「はい!」

「さてシャルティア、受け取れ」

 

はくたくはシャルティア白金貨が入った革袋を一つ投げる。

 

「それをナザリックに持ち帰ってくれ。それとアインズがナザリックに帰ってきた時に、予定よりも滞在は短くなるかもと伝えておいてくれ」

「畏まりんした、はくたく様」

 

革袋を大事に抱えながら、シャルティアは転移門に入って行った。

 

「さて、明日は闘技場で午前の部で戦ってから帝都観光としゃれこもうじゃないか」

 

 

 

 

はくたくは昼食を屋台で済ませ、ユリと帝都北市場を散策している。午前の試合ははくたくが戦わずに終わった。何故なら、対戦相手の魔法詠唱者(マジック・キャスター)が自らが繰り出す魔法を、はくたくが尽く無効化した時点で降参してしまったのだ。第三位階の魔法が通じないというのは珍しかったらしくそれなりにウケたが、血が出なかった分前日よりは受けが悪かった。

北市場の出店の一つ、生活用マジックアイテムを販売する天幕で見つけた物にはくたくは驚く。

 

「これは…冷蔵庫と扇風機じゃないか」

 

はくたくは冷蔵庫のドアを開いたり、扇風機のスイッチを押して仕組みを確認する。元いた世界の物と比べればいささか原始的ではあるが、機能やデザインは明らかに冷蔵庫と扇風機のそれである。これは自分たちのようにこちらに転移してきたプレイヤーが考案した物ではないだろうか。偶然現地人が同じものを発明した可能性はあるが、<保存(ブリザベイション)>の魔法があるこの世界で冷蔵庫をわざわざ開発する必要性は低い。これがプレイヤーの発明の可能性が非常に高い。はくたくは商人に尋ねる。

 

「これは誰が発明したものなんだ?」

「ここにある品々の多くは200年ほど昔の、『口だけの賢者』という牛頭人(ミノタウロス)が発明した物です」

「口だけ?」

「『口だけの賢者』はこういったアイテムを色々発案したのですが、それを作る事が出来ず、何故そういう形状を取るのか、どういう理屈でそれがそういう結果になるのかといった説明も全く出来なかったため、そう呼ばれたそうです」

「それで『口だけの賢者』か」

「ですが、戦士としては超一流だったそうです。斧の一振りで竜巻を引き起こしたり、斧を大地につきたてて地割れを起したとか。あと数十年前の話ですが、その賢者が残した武器でビーストマンの巨大ゴーレムを撃退したという話もありますね」

「なるほど。色々教えてくれて済まないが、旅の身だからこういった家に置くアイテムは買えないのを忘れていたよ」

「それならばこの品はどうでしょうか?同じく『口だけの賢者』が考案した物で、簡単に火を付ける事が出来る一品です」

 

商人は小さな道具をはくたくに見せる。形状からなんとなく予想が付くが、念の為仕組みについて商人に尋ねる。商人の実演も見たうえではくたくはこれをオイルライターと確信した。燃料のナフサやベンジンは錬金術油で代用している。

 

「これならかさ張らないな。それで、これは幾らかな?」

「本体とメンテナンス用の道具、予備の錬金術油と火打石を合わせて銀貨15枚です」

「わかった」

 

はくたくは革袋から公共共通銀貨を15枚取り出して商人に渡し、ユリがライターが入った袋を商人から受け取る。その後は二人で市場の商品を一通り見て回ってから帰路に着いた。

 

 

 

 

二人が物見遊山を終えて宿に帰り着くころにはもう日が暮れ始めていた。宿に二人が入ると、それを受付が見るやいなや、こちらに血相を変えてやって来きた。はくたくは嫌な予感を押し殺して受付に尋ねる。

 

「何か問題でもありましたか?」

 

(トラブルになるような事は起した記憶は無いんだが)

 

「ジョン様宛に、皇帝陛下から手紙を預かっています。昼過ぎに使者が来られてこれを」

 

受付から一通の羊皮紙を受取る。羊皮紙は帝国の紋章で封蝋がされている。紙質もこの世界の基準で考えれば特上の部類だ。

 

「皇帝からの手紙をここであけるのも何だその、アレだから部屋で読む事にするよ」

 

部屋に戻ったはくたくは、早速文字を解読するマジックアイテムの眼鏡を付けて手紙に目を通す。

 

(闘技場で派手にやらかせば貴族でも食らいつくと思っていたが皇帝から手紙が来るとは思ってもなかった。さて何が書いてあるかな)

 

はくたくは手紙に目を通すと考え込む。もう一度読み返しまた思案する。暫くそれを繰り返してからユリに<伝言>スクロールを渡し指示を出した。

 

「アインズに<伝言>を至急折り返すようにいってくれ。相談したい事がある」

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