オーバーロード 破壊の魔獣   作:源八

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帝都3

皇城のメイドに案内された応接間ではくたくは一人手持無沙汰にしていた。ユリを宿屋に待機させ、早朝に再び訪れた皇帝の使者の馬車に乗り、皇城のメイドに案内されたのがここである。

はくたくは部屋の調度品を観察し自身が案内されたのは最高クラスの来賓向けの部屋と予想した。その後は壁に掛けられた連作の絵画――おそらく帝国建国の物語を表わしている物――を見ながら、昨夜宿屋でアインズと<伝言>で交わした会話を思い出していた。

 

 

 

 

「はくたくさん、何かそっちで問題でもありましたか?」

「帝国の皇帝から城に招待されました」

「え?」

「宿屋に帰ってきたら、皇帝が直々の聞きたい事があるから城に来るようにと書かれた手紙があったんですよ。明日使者が迎えに来るそうです」

「なにか目立つような事しましたか?」

 

はくたくは闘技場で二回戦った事、帝都の市場を見て回った事を説明した。

 

「モモンガさんはなにがあちらの興味を引いたと思いますか?」

「多分…魔法を無効化したのが不味かったと思います。どんな魔法を使ってきました?」

「えーっと、<魔法の矢(マジック・アロー)>、<火球(ファイヤーボール)>、<衝撃波(ショック・ウェーブ)>、<睡眠(スリープ)>、<混乱(コンフュージョン)>、<暗闇(ダークネス)>…他にもありましたが全て第三位階までの攻撃魔法と状態異常魔法ですね」

「攻撃魔法の無効化が目立ったと思います。上位モンスターの特殊技術(スキル)ですから」

 

この世界だと魔法の無効化スキル、しかも第三位階以上の無効化となるとかなり珍しいと言う事か。皇帝がそんな者を一目見てみたいと思うのは当然だろう。

 

「それで、明日皇帝と会ったほうがいいですか?それとも無視してナザリックに帰りましょうか?」

「こちらで冒険者として最高位のアダマンタイトになっても国王からは何のアプローチもありませんし、皇帝に直接接触出来る機会もそうそうないと思います。はくたくさんは皇帝に会ってください」

 

アインズのGOサインが出た。次は相手に見せる範囲について確認だ。

 

「皇帝には何処までこちらの情報を公開していいですか?あと皇帝から仕官の話が出てきたらどうしましょう」

「あー…そこらへんははくたくさんが自由に判断してください」

 

丸投げである。

 

「いいんですか?相手は鮮血帝ですよ」

「鮮血帝?」

「親衛隊の軍事力を背景に貴族の粛清と改革を推し進めている若き皇帝の二つ名ですよ。正直、彼は自分たちよりリーダーとして何枚も上手だと思います」

「そうですね。こっちのナザリック運営はアルベドやデミウルゴスに頼って何とかという感じですから」

「で、そんな相手に何の心構えも無しに出て行ったら不味くないですか。なんというか、口先で身ぐるみ剥がされそうな気がするんです」

「そう言う事なら、何処まで話すか決めましょう」

「ええ。では―――」

 

はくたくはそこで言葉を切る。装備している指輪に反応があったのだ。頭の中に行使され妨害した魔法と魔法の発動された位置についての情報が流れ込む。

 

「今、探知魔法を妨害しました。魔法の発動場所は帝国魔法省がある所ですね」

「さっそく探りを入れてきましたか」

「皇城に入れる人間になんの探りも無い方がおかしいですよ。別に妨害出来ていますから問題ないです」

「話を戻しますか、どこまで向こうに教えるかですが―――」

 

 

 

 

ナザリックの存在は教えない、仕官は断る、はくたくの正体はほのめかす程度までならOK。アインズとの打ち合わせで決めた内容を脳内で反芻していると、ドアがノックされ、老人が一人部屋に入ってくると丁寧に礼をした。

 

「お待たせしたようで申し訳ない」

「そんなことはありませんよ。それで…どなたでしょうか?有名な方とお見受けしますが、この辺りの事情に詳しくないのでね」

 

一目見てもマジックアイテムと分かるアイテムを複数身に付けていることから、はくたくはこの老人をそれなりの地位と予想する。

 

「私は主席宮廷魔導氏のフールーダ・パラディンです。あなたが皇帝陛下にお見えになる前に、簡単な取り調べに来ました」

 

いきなり皇帝の面前に素性不明の戦士を連れていく訳にはいかないのは当然である。しかも探知魔法を防いだ戦士をやいわんや。フールーダ本人がここに出張ってきたという事は、帝国ははくたくを評価しかつ警戒していると思っていいだろう。

 

(思ってたより大物が出て来たな。ここはプランBで行こう)

 

 

 

 

ジョン・ドゥと名乗る、闘技場で無敗記録を誇るワーカーを一蹴し、さらには第三位階の魔法を無効化した戦士が闘技場に現れた。帝国は闘技場の選手から特に優秀な者に任官の声を掛けている。リクルーターから上がってきた情報に皇帝とフールーダは大いに興味を引かれた。

すぐさま調査を指示するものの、帝国諜報部の調査は、二人組が数日前に帝都にやってきたという事しか着きとめられず、魔法省は探知魔法を妨害される始末。

探知魔法を妨害できるという事は、この男は戦士でありながら、魔法にも秀でている可能性がある。そんな人物を放置するわけにもいかないので、皇城に呼びつけフールーダが直接その人物を調べることとなった。

フールーダは目の前の男を生まれながらの異能(タレント)―――魔法系魔法詠唱者が使用できる位階に応じて発するオーラでみる力―――で見る。だが、男からはなんのオーラも見えない。

 

(昨日の一件からして、常に探知防御をしているのか?)

 

素性不明の男はフールーダが心の中で思った昨日の一件について早速指摘してくる。

 

「帝国の魔法詠唱者の頂点に会えて光栄です。取り調べ、ということは昨日私に探知魔法を仕掛けて来たのはもしやあなたで?」

「やはりお気づきになられてましたか。私の部下があなたに探知魔法を使用しました。無断であなたを調べようとした事は謝罪いたします」

「別に構いませんよ。あなた方がそうした理由は理解できますし。ただ、次からはお勧めしませんよ。自動攻撃をいつも解除しているとは限りませんから」

 

探知防御をしているのだ、もう少し文句を言われると思っていたのだが。それよりも自動攻撃という言葉が気にかかる。この男は探知に対する報復手段を持っていると言っているのだ。

 

「承知しました。それでは本題に入りましょう。私の部下が闘技場で目撃したのですが、第三位階の魔法を無効化したとか?」

 

この役を買って出たのもコレが効きたかったからだ。防護魔法によって無傷で防ぐ事ならば出来る。だが第三位階魔法の無効化となると自らの力量では荷が重い。この男が帝国には知られていない特殊技術(スキル)、武技、魔法、マジックアイテム、タレントのいずれかを所持している可能性は高い。

 

「その通りです」

「どのように無効化したのですか?探知魔法を防御したように、何か魔法を無効化しているマジックを所持なされているので?もしくは武技や魔法を行使したのですか?よろしければ後学のために教えていただきたいのですが」

 

正直、教えてもらえると思ってはいない。だが効かないままでは自らの知識欲を抑えられないし、反応からなにか掴めるかもしれない。少しして反応が返ってきた。

 

「あれはマジックアイテムの力ではありません。・・・一部の種族は魔法を無効化出来る事は御存知ですよね?えー、つまり、その…そう言う事です」

 

言葉が頭に染みわたるのに数秒かかった。人間種と亜人種にその様な能力を持つ種族はいない。そこから導き出される応えは一つ、この男は人間ではない。報告書の容貌の中に目についての記述を見つけた時からこの可能性は候補にあったが。第三位階の魔法を無力化出来るモンスターとなると限られるし、人間に変装出来る種族となるとフールーダの知識にも当てはまるものは無い。この男、一体どこからやって来たのか。

 

「その目の事を聞いてから、可能性は想定しておりました。あなたは人や亜人ではないという事ですか?」

「はい」

「ふむ、では第何位階まで無効化出来るのですか?」

 

応えないだろうが、聞かなければならない。

 

「第三位階程度なら問題ありませんが、上限については何とも言えませんな。そうだ、フールーダ殿は<生命の精髄(ライフ・エッセンス)>を修めていますか?」

「その魔法は修めておりますが?」

 

それと魔法の無効化能力に何の関係があるのか。

 

「こういった能力は本人の強さ、生命力に比例して強くなる、そうですね?」

 

頷き肯定する。強力なモンスターほど耐性や無効化能力は優れている傾向にある。

 

「今から探知妨害のマジックアイテムを外しますので私に<生命の精髄>を使ってみてください。経験豊かなフールーダ殿なら、そこから私がどの程度の位階まで無効化出来るか推定できるのでは?」

 

任務には素性を探る事に加え、力量を量る事も任務に含まれている。提案を受けよう。

 

「やってみましょう」

「ではこの指輪を外してから、<生命の精髄>を使用してください」

 

男がフールーダに右手を見せ、そこに嵌められた一つの指輪を外す。

 

「<生命の精髄>」

 

フール―ダが魔法を発動する。その瞬間、フールーダは生命の奔流に圧倒された。

 

 

 

 

アインズとはくたくは今回の謁見に際し二つのプランを立てていた。プランAは情報を出さず、目立たないように努める案。向こうがこちらを低く見ていた場合や重要視していない場合にこの対応を取る事にしていた。プランBはナザリックの存在やはくたくの正体を隠しつつ、こちらの実力をある程度向こう側に見せる案。こちらを重要視していた場合は、こちらのプランでBどれくらいの重要度かを調べる。

取り調べに来た人物がフールーダだった時点でプランBを実行する事にした。探知魔法を防御する指輪をはずし、とりあえず<生命の精髄>を使わせてみたのだが…

 

(さて、吉と出るか凶と出るか)

 

はくたくはフールーダを観察する。目には驚愕の色が浮かび、顔色は青く、汗をびっしりとかいている。なんというか調子が悪そうだ。

 

「大丈夫ですか?」

「え、ええ。よろしければ、指輪を付けていただけないでしょうか?」

 

はくたくが指輪を付け直すと、フールーダは汗をぬぐいグラスから水を飲んでいる。その手は震えていた。もう一度汗を拭ってからこちらに向き直る。

 

「あなたの実力の程を見させてもらいました。幾つか質問を用意していましたが、これ程であるのならばお手数をおかけする訳にも行きませんな。一つに絞りましょう」

 

指輪を外して探らせたのは悪くなかったか?

 

「この国に来た目的はなんですか?」

「ちょっとした観光と路銀稼ぎです」

 

これは本当の事で嘘でも無い。今の所は。

 

「それだけですか?」

「ええ。むしろこちらがあなたがたが私に何の用があるのか聞きたいのですが」

 

実際こっちは何の用か言われないまま呼び付けられたのだ。

 

「申し訳ないが、それについては陛下にお聞きください」

 

フールーダが立ちあがる。そしてこちらに最初よりより丁寧に頭を下げる。

 

「ではこれで取り調べは終わりです。しばらくすれば案内の者が来ますので、それまでお待ちください」

 

そう言うと静かに部屋を出て行った。

 

 

 

はくたくが適当に時間を潰していると、思っていたよりも速く案内のメイドが来た。案内されたのは謁見の間ではなく執務室。モンスターとおおっぴらに会えないだろうから当然か。メイドが執務室の扉を開く。

 

(さてここからが正念場だ)

 

はくたくは扉をくぐり、皇帝のいる執務室へと足を踏み入れた。


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