オーバーロード 破壊の魔獣   作:源八

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旧版八話と九話の前半の纏めです。


カルネ村の戦い①

はくたくはメイドのモーニングコールで目を覚ます。人間の頃とは違い寝ぼけることなく目が覚めた瞬間思考が冴え渡る。寝室を出たはくたくは若干の期待をしながらメイドに聞いた。

 

「おはよう。朝食の準備は出来ているかな?」

「既に用意は出来ております。こちらの部屋にどうぞ」

 

自室に併設された食堂にビュッフェスタイルでかなりの種類の料理が用意されていた。

 

肉料理 ハム、カリカリとそうでないベーコン、ポークとチキンのソーセージ

卵料理 オムレツ、フライドエッグ、スクランブルエッグ、ボイルドエッグ

主食 プレーントースト、フレンチトースト、クロワッサン、ノアフィグ、各種ジャムとバター

野菜 生野菜のサラダ、ポテトサラダ、フライドポテトと複数種類のドレッシング

スープ ブイヨンスープ、オニオンスープ、コーンスープの三種

デザート 季節のフルーツとコーヒーゼリー

 

料理が載せられたトレーには魔法が掛けられ、それぞれの料理の食べ頃である温度を保っている。10人前はあるだろう量と種類に一瞬圧倒されたが平静を装い席に着く。

 

「まずは何をお持ちいたしましょうか?」

「いや、ビッフェスタイルだ自分で取ろうと思う」

「わざわざ席をお立ちになららなくても私たちに命じてくだされば」

「いや、構わない」

 

悠長に持ってくるのを待たず早く食べたかった。席を立ち皿に目についた適当な料理を皿に載せていく。皿が一杯になったら再び席に着く。ナイフとフォーク、箸が用意されている。料理の内容的にここはナイフとフォークを使うべきだが使い慣れている箸を取った。はくたくは箸を手に取り動作を確認する開く、閉じる、掴むすべて問題ない。人間であった頃のように滑らかな動作で箸が使える事にホッとする。一流ホテル顔負けの出来の料理をあっという間に平らげ、別の料理を盛る。再び料理を口に運ぼうとしたところで手を止め、待機しているメイド達を見た。昨日からはくたくにの部屋には一人のメイドが常時待機しているが、今は朝食の準備と片づけの為か三人のメイドが待機している。彼女たちの事で気になった事があった。

 

「お前たちはもう朝食を取っているのか?」

「はくたく様の食事の片づけをした後食堂で取る予定です」

 

(朝食はまだ取っていないという事か)

 

食を取る間ずっとそばで畏まられるのは落ち着かない。

 

(一つ提案をしてみるようかな)

 

「そうか…ならお前たちも私と一緒に朝食を取ったらどうだ?」

「そ、そのような事、私たちには恐れ多くて出来ません!」

 

(マーレと同じパターンか。もうちょっと気軽に接してくれる方が有難いんだけどなあ)

 

「私は飲食不要のマジックアイテムを所持しているから、わざわざこのような食事を取る必要はないし、食事なんてその気になればその辺の石でも齧ればそれで足りる」

「至高の御方がそのような物をお食べになさらなくても」

 

「それでも」メイドの言葉を遮る。

 

「それでも食事を取るのは私の趣味みたいな物だ。趣味だからこれだけの種類と量を全て食べきる必要も、食べる気も無い。また、残った物を捨てるのはナザリックの資源を無駄にする。今ナザリックが置かれている事態を考えればそれは褒められる事ではない。それに、一人で食事を取るのはすこし侘しいんだ。それでも私の要望を聞いてはくれないのか?」

「はくたく様が望まれるのであれば、そう致します」

 

一般メイドの自分たちが至高の御方と食事など畏れ多いことは出来ないが、それを望まれるのであれば話は別。三人のメイドは食器を用意すると各自皿を持って料理を取り始めた。だが彼女たちは気を遣ってかはくたくが手を付け終わった料理からしか取らない。

 

(別にこっちに気を効かせずに好きなの取ればいいのに。そんなに食い意地はってるように見えるのか俺)

 

はくたくは皿にまだ取っていない料理とデザートを取った。

 

「残りはお前たちの好きなようにせよ」

「はくたく様ありがとうございます」

 

食事しながらメイドたちを観察して気付いた事がある。彼女達の食事スピードはかなり速い。主人の前だからか若干仕草が堅い感じはするが、皿へ山盛にした料理があっという間に消えていく。メイドたちは皿を空にすると料理を再び皿に盛り付け、もぐもぐと食べ始める。いい食いっぷりだ。

 

(美少女の大食いはなかなか見ごたえがあるな。日本の食糧事情が良かったころはこういう娯楽があったらしいけど)

 

10人前はあった量の料理は全てあっという間に空になった。はくたくは自分に感謝を伝えた後片づけを始めたメイドたちを眺めつつ、出されたコーヒーを飲みながら今日のスケジュールを考える。

 

(とりあえずは自身の能力と体の仕様についてきちんと調べる事から始めるかな。まずはその前にモモンガさんの所に行くか。多分昨日からずっと遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)を弄っているだろうし、何か見つけたかもしれない。)

 

はくたくはコーヒーを飲み干しメイドたちにモモンガの所に行くと伝えた後、食後の運動も兼ねて歩いてモモンガの部屋へ向かった。

 

 

 

 

 

モモンガの部屋に入ると予想した通りモモンガは遠視の鏡を弄っていた。横にはセバス。モモンガは睡眠も食事も必要ないとは言っていたが、人間だった精神が擦り切れないとは限らない。肝心な時にモモンガに判断を間違われるわけにはいかない。はくたくは適当な椅子を取り、モモンガの少し後ろの遠隔視の鏡を覗ける位置に椅子を置き座る。

 

「おはようモモンガ。まさか一晩中それを弄ってたのか?」

「ああ。今ちょうど俯瞰の高さの調節方法を見つけたろころだ」

「・・・一晩中休みなく?」

「別に肉体的にも精神的にも疲れないから問題ないだろう?」

「そうかな?その体でもリフレッシュは必要だと思うぞ。オンオフの気持ちの切り替えをしたほうが仕事の効率が良くなる」

 

セバスの方を向き命じておく。

 

「私が言っても効かないだろうから、モモンガが根を詰めてるようなら休ませてくれ。場合によっては」

 

(少し意地悪をしてやろうか)

 

「アルベドを呼んでモモンガをベッドに連行させても構わない」

「ちょ!」

 

こちらを睨んだモモンガから<伝言>が飛んでくる。

 

『何言ってるんですか、はくたくさん!』

 

『いやー今日は「ゆうべはおたのしみでしたね」って言うつもりで来たんですよ。そう思ってたらモモンガさん休まず遠隔視の鏡弄ってるしリフレッシュが必要かと。冗談ですよ』

『冗談でもそういう事は止めてほしいです。アルベドはあの感じだと本当に押し倒してきそうですし』

『リフレッシュすべきってのは冗談じゃないですよ』

『ええ…そうですね、セバスに怒られない程度に休みを取るようにします』

 

元NPC達は言葉を額面どうりに受け取りそうなのではくたくは訂正しておく。

 

「セバス、後半のアルベドを呼べというのは冗談だ。本当に実行しなくてもよいぞ」

「はっ」

 

モモンガの方に向き直りここに来た目的の話をする。

 

「それではその鏡で人がいるような所が無いか探してみようじゃないか」

「ええ」

 

モモンガははくたくに鏡の操作方法を教えながら景色を切り替えていく。一晩中弄っていたおかげかその操作は慣れた物だ。遠隔視の鏡はというとゲーム時代より視点の自由度が上がっている。ゲーム時代はエロ目的の規制の為に制約があった視点移動が、今は自由に出来るようになっていた。ギルドメンバーのペロロンチーノはかつてこのアイテムを使って都市の通行人のパンチラを見る事に失敗していた。パンチラが見たくなったわけではないが、興味が湧いたためモモンガと操作を替わる。はくたくは大きく視点高度を上げ、ナザリックの周囲を見回す。すると優れた視力が南西の方向に人工物らしき物を発見した。

 

「何か見つけたぞ!」

 

若干の期待をしながら南西へと視点を移動し、俯瞰高度を下げる。どうやら村のようだ。更にズームすると何やら人が慌ただしく出入りをしている。

 

「これは…祭りか?」

 

後ろから映像を見ていたモモンガが呟く。

 

「いえ、これは違います」

 

それに同じく横で見ていたセバスが答える。セバスの口調は堅く視線は鋭い。はくたくは嫌な予感を感じながら、更にズームし地上視点に切り替える。そこでは虐殺が行われていた。粗末な服を着た村人を全身鎧(フルプレート)で武装した騎士らしき集団が村人に剣振るい殺していた。辛うじて徒歩の騎士の手を逃れた村人も馬に乗った騎士に追いつかれ、馬上から切られるか馬に踏み砕かれている。抵抗など一切見られない、一方的な殺戮だ。

 

「ふむ…」

 

正直なところ何も感じない。人が蟻の殺し合いを見て何も感じないのと同じだ。自分はもはや人間ではないのだから当然の感想だ。だが、はくたくはそう思ってしまった自分自身ににうろたえる。後ろのモモンガ似たような動揺を感じたのだろうか?はくたくはモモンガに問いかける。

 

「…正直に言うと、この光景を見ても何も感じませんでした。そっちはどうです?」

「私も何も感じません。本来なら…卒倒しててもおかしくはないでしょうね」

 

二人とも素が出ているがそれどころではない。二人とも今まで感じていた肉体の変化以上に、自らが人間ではない何かに替わってしまった事を自覚してしまったからだ。

 

はくたくは鏡に向き直り、惨状の場面を切り替えながら分析する、この騎士たちが何故村を襲っているのか。村を見た所文明の発展具合は大体中世辺りだろうか?ならばこの村は宗教異端の疑いで制裁を受けたのかも。他にも軍事目的の略奪、敵対する勢力の挑発行為、またはその国の騎士に偽装した他国の工作。この世界が元いた世界の中世と同じくらいの社会と考えると、今騎士が行っている虐殺にも正当化出来る理由が沢山存在するだろう。襲撃したのが山賊の類ならばもっと話は単純だが、村を襲っている騎士たちが武装した正規兵となれば話は幾らでも複雑になる。

 

結論。外部の状況が不明な今迂闊に介入すべきではない。見捨てるべきだ。

 

 

だが…本当にそうだろうか。

 

 

鏡の映像は家族を逃がそうとしている村人が、騎士と揉み合っている映像を映していた。村人は抵抗むなしく二人の騎士によって抑え込んでいる騎士から引き剥がされ、押し倒された騎士は激高したのか、引き剥がした二人に立たされた村人に剣を何度も突き刺している。

 

 

・・・・この状況に何も思わないのが本当に正しいのか?

 

 

気のせいだろうが、死につつある村人がこちらに向き「娘たちをお願いします」と言った気がした。

ありえない。

 

 

・・・・・・・

 

 

「どういたしますか?」

 

セバスが訪ねてくる。この村に介入すべきではない。見捨てる。はくたくはセバスに返そうとするが、声は出なかった。なぜならセバスの面影に見たのだ。かつて自分を救った純白の聖騎士を。

 

 

 

 

 

はくたくが隠し種族を見つけたいう情報が掲示板に流れた途端、はくたくは種族解放条件の情報を要求するプレイヤー達からPKを含む嫌がらせを受け続けていた。彼らの余りの粘着っぷりに暫くユグドラシルから離れようかと思っていた。討伐隊に追い詰められ覚悟を決めたはくたくの前に颯爽と現れPKプレイヤーを一瞬で屠り、自分をギルドに勧誘してくれた純白の聖騎士、たっち・みー。はくたくを助けた理由を問うと彼はこう答えた。

 

 

 

――誰かが困っていたら助けるのは当たり前――

 

 

 

セバスの制作者はたっち・みーだ。だからかなのか、彼の事を思い出してしまった。改めて鏡の中の惨状を見たはくたくは決意する。

 

この村を助ける。

 

例え体は人すら喰らう化け物になったとしても、人の心まで完全に失ったわけではないはずだ。モモンガに向かい、自らの決意を告げる。

 

「モモンガさん私はあの村を助けに行きます。リスクを考え、あなたは待機していてください」

 

敵の実力が分からない以上、自分が返り討ちにあう可能性を考えると当然だ。

 

「はくたくさん、私も村に同行します。その…『誰かが困っていたら助けるのは当たり前』ですからね」

 

はくたくは気付く。モモンガもセバスの面影に自分と同じものを見た事を。ならばその提案は断れない。

 

「ならば一緒に行きましょう!」

 

モモンガがセバスに指示を与える間にはくたくは武装を整える。黒色の手甲、足甲、面頬を着け、指輪とネックレスを戦闘用の物に変更し、防具と同じ黒色の巨大な斧(グレートアックス)を手に取る。

 

鏡の場面ではこけた妹らしき小さい少女を庇った、姉らしき少女が背中を切られている。もう時間が無い。指示を出し終えたモモンガがスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで少女たちの場所へ<転移門(ゲート)>を開と、はくたくは迷わず転移門へと身を投じた。

 

 

 

 

 

妹の手を掴み少女は走る、村の外の大森林へ逃れるため。突如村を襲った騎士たちは容赦なく村人を殺した。捕まれば命はない。森まであと少しだ。そう思った矢先に後ろから鎧が擦れる金属音が聞こ始めた。気づかれた。妹手を握る手に力を籠め懸命に走るが、石に躓き妹が倒れてしまった。妹を助け起こし再び走ろうとするが、すぐそばで金属音が止まる。追いつかれた。咄嗟に妹を庇った背中に剣が振り下ろされ激痛が走る。せめて妹だけは。自分が盾になり騎士の剣を掴めば妹が逃げる時間を稼げるかもしれない。覚悟を決めた少女は振り返り、再び振り下ろされる剣を待ち構える。

 

 

だが、その剣は振り下ろされることはなかった。

 

 

転移門(ゲート)>を抜けたはくたくに先ほど鏡で見た光景が広がる。少女達に止めを刺そうとしていた騎士たちに冷酷な視線を向ける。突然武装した魔獣が現れたことに驚いたのか、騎士は剣を少女に振り下ろそうとした手を止める。状況を把握したはくたくは、まずは騎士と少女を引き離すべく攻撃を繰り出す。

 

一気に騎士との距離を詰め、特殊能力(スキル)<ふっ飛ばし攻撃強化>を使用しつつグレートアックスで左切り上げに騎士を薙ぐ。仮に騎士に攻撃を防御されても、騎士を吹っ飛ばすことで騎士と少女の間に距離を作り、自分を盾にできると考えたからだ。予想外の事態に反応出来るように全力では攻撃しない。はくたくの斧の攻撃を騎士は防御せずを体で受けた。しかも斧で攻撃したにもかかわらず、斧から物を切った感触が伝わって来ない。はくたくは予想外の事態に騎士から距離を取り構える。

 

(まさか幻術かダミー?もしくは攻撃無効化系のスキルか?いやそれは自分のスキル<物理接触無効無視>で無効化されているはず…)

 

はくたくは騎士から目を離さずにこの結果を分析するが、騎士が正解を教えてくれた。騎士の腰の左から右肩にかけて綺麗に切断され、騎士が崩れ落ちる。物言わぬ二つの塊になった騎士の切断面から血と臓物の匂いが周囲に漂う。

 

(騎士が防御しなかったのはこちらに反応できていなかったから、斧に手ごたえがなかったのは騎士の防御力があまりにも低かったからか。この世界の敵に全く攻撃か効かないという訳ではないようだな。)

 

はくたくは構えを解き、助けた二人の少女を眺める。「ヒッ」と悲鳴が聞こえるが当然だろう。いきなり化け物が現れてさっきまで自分を殺そうとしていた騎士とはいえ、人間を真っ二つにしたのだから。叫び声をあげないだけ褒められたものだ。どうやって二人を安心させたらいいか考えていると転移門からモモンガが出てきた。モモンガは嫉妬マスクを被り、手にはガントレットを嵌め、いつもはだけさせているローブをきっちり着ていた。骨が見える個所は全て覆われているから、一応人間に見える。

 

(やりたい事は分かるけど、なんで嫉妬マスクをチョイスしたんだ)

 

それはクリスマスイブの十九時から二十二時の間に二時間以上ユグドラシルにいると、問答無用で運営から渡されるマスク、嫉妬する者たちのマスク。略称嫉妬マスクだ。クリスマス当に日これを付けていない者はPKされる確率が跳ね上がる。そういう逸品だ。当然はくたくも複数枚所持している。

 

「一緒にいくって言ったのに先行しないでください」

「まあ騎士は倒せたし結果オーライということで」

 

はくたくの聴覚と嗅覚が新たな敵の気配を捉える。

 

「おっと新手のようですね」

 

近くの家の脇から新たな騎士が出てきた。こちらに気が付いた騎士の動きが止まる。今度は自分の番だとモモンガは騎士に広げた手を向ける。

 

「<心臓掌握(グラスプ・ハート)>」

 

モモンガは一から一〇ある魔法の位階の中で第九位の高位魔法を発動させる。心臓を握りつぶし即死させ、即死に抵抗しても追加で朦朧効果を相手に与える、死霊系魔法に長けたモモンガの十八番だ。

 

「ぐはぁ・・・」

 

即死効果の抵抗に失敗した騎士は心臓を握り潰されその場に崩れ落ちる。

 

「・・・あれ?」

「自分が倒した騎士も牽制攻撃で真っ二つですよ。こいつらが強いかもってのは杞憂でしたね」

「いや、防御はともかく攻撃力は高いかもしれないし油断は禁物ですよ。<中位アンデット作成死の騎士(デス・ナイト)>」

 

モモンガが特殊能力でアンデットを作り出す。召喚したデスナイトはレベル35のモンスター。レベル100帯では全く役に立たない強さだが、便利な特殊能力を所持している。敵のヘイトを引きつけるスキルと、どんな攻撃も一度だけHP1で耐えるというスキルだ。騎士たちのの攻撃力を確かめるのに最適な盾役だ。

中空から黒い霧がにじみ出し、心臓を潰された兵士に覆いかぶさる。霧が騎士に溶け込むと、騎士が不自然な挙動で立ち上がった。立ち上がった騎士の口からゴボゴボと黒い液体が噴出し騎士の体を覆っていく。

 

「げっ」「うわっ」

 

二人は声を上げる。ゲームでこのスキルを使うと中空からモンスターが登場していたが、今は死体を媒介に生成している事に驚いたからだ。黒い液体に覆われた騎士の体が変化していく。数秒後には液体は消え、二メートル超の巨躯の黒騎士がそこにいた。禍々しい深紅の文様と棘を生やした鎧に身を包み、タワーシールドとフランベルジェを手に持つ。露わになっている死者の顔には腐り落ちた眼球の代わりに、生者への憎しみと殺戮への期待が籠った赤い光が灯っていた。

 

「死者を素材に生成されるようになっているのか?」

「まあ検証はおいおいやる事にして、とりあえず指示出してみましょうよ」

「えー、デスナイトよこの村を襲っている騎士―――」

 

モモンガははくたくが両断した騎士を指差す。

 

「―――を殺し村人を守れ」

「グォォォォォオオオオオオオ!!」

 

叫び声を上げたデスナイトは村の方向へと駆けだした。ゲームだと召喚者の周辺に待機し敵を迎撃するだけだったデスナイトだが、今は命令をされればそれ以外の行動も出来るようだ。

 

「行っちゃったよ…盾役だけで先行してどうするよ…いや命令したの俺だけどさぁ…」

 

頭を書きながらぼやくモモンガにはくたくは吹き出す。モモンガが睨んでる気がするのでフォローする。

 

「まあ色々と命令が出来る事が分かったしいいじゃないですか」

「やはり一度スキルと魔法は全て検証するべきですね」

 

二人が先程倒した騎士達から騎士たちの強さを推測していると、転移門の展開時間ギリギリでアルベドが到着した。

 

「モモンガ様、はくたく様、準備に時間がかかり、申し訳ありません」

 

アルベドは黒い甲冑に身を包んだ完全武装だ。肌の露出はない。

 

「いや?そうでもないぞ。丁度いいタイミングだ」

「ありがとうございますモモンガ様」

「それでセバスから作戦内容は聞いているな?」

「この村を襲撃している騎士の排除と村人の救出と聞いておりますはくたく様」

「よし。では騎士を片付ける前に―――」

 

少し考え、はくたくはインベントリから治癒のポーションをモモンガに渡す。

 

「その、自分の見た目だと二人が怖がるのでモモンガがそこの二人を治療をしてくれ。その二人から情報を集めた後、二人は先行させたデスナイトと合流して村人を救出して欲しい」

 

自分はどうするのか?と二人は言いたげだ。

 

「自分は村の周囲で警戒している騎士を排除する。その後は周辺の森で後詰の隠密部隊と周辺警戒にあたろうと思う。自分が居ないほうが助けた村人たちとの交渉や情報収集が円滑に行われるだろうからな」

 

二人の怯えようを見れば自分の見た目が村人に与える影響は一目瞭然だ。自分が居ないほうがモモンガが村で行動しやすいだろう。

 

「はくたくがそれでいいのならそうしよう。騎士は雑魚だがそちらは単独行動だ。何かあったらすぐに退却しろ」

「分かっている」そう言いながら<伝言の>合図を出す。

 

『どうしましたはくたくさん?』

『そこの二人の治療のついでに自分についての記憶を消しといてください』

『最初から自分たちは二人で村を助けに来た。そういう事ですね』

『そういう事です。それでは行動を開始しましょう』

 

はくたくは少女たちへの治療を始めたモモンガ達と分かれ、道を逸れ森から村の周辺へと向かった。

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