オーバーロード 破壊の魔獣   作:源八

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旧版の九話後半と十話の纏めです


カルネ村の戦い②

<鋭敏嗅覚><視覚強化><追跡>などのスキルで村周辺に展開している騎士の配置は容易く掌握できた。徒歩の騎士が三人、騎乗した騎士が三人の合計六人だ。

 

(さっきは村人の目があって出来なかった事も出来るな)

 

一番近くにいる騎乗した騎士と徒歩の騎士の二人組に目を付ける。

 

(まずはコイツらからだ)

 

はくたくは森から出て全力で突進し右手の斧で騎兵を馬ごと両断する。そしてもう一人が反応して騒ぐ前にヘルムを毟り、口を塞ぐように左手で頭を掴む。混乱して暴れる騎士が、こちらの目を見るまで待ってから告げる。

 

「騒いだら今隣にいた奴と同じ運命をたどるぞ。いいな?」

 

騎士が理解した表情をするまで待つ。それから喋れるように掴む位置を変える。

 

「今から言う質問に答えろ」

「わ、わかった話すから命だけは」

「お前の所属とこの村を襲撃した目的を言え」

「我々はバハルス帝国の騎士で、この村の襲撃を指示されている」

 

バハルス帝国、全く聞いた事が無い国名だ。やはりここは異世界なのか。また、兵士の命の危機にしては整然とした答え方に違和感を持つ。出鱈目、もしくはあらかじめ与えられた偽装身分(アンダーカバー)を答えたかもしれない。

 

(ここはすこし揺さぶってみるか)

 

首を掴む力を気絶しない程度に強める。

 

「こちらが化け物だからと言って舐めないで欲しいね。このような小さい村を、わざわざこれだけの部隊で襲撃するのは不自然だ。何か隠してはいないか?」

 

騎士の顔に斧を押し付け、刃を額に少しだけ食い込ませる。もう少し力を込めれば騎士の頭のスライスの出来上がり。額から出た血が騎士の顔を伝ってから首を掴む力を緩める。せき込んだ騎士は顔面蒼白になりながら捲し立てる。

 

「う、嘘をついていました。我々は本当は帝国の騎士ではなく、スレイン法国の部隊です!帝国の騎士に偽装してこの一帯の村を襲撃するように…これ以上は何も知りません!本当です!」

 

騎士の答えを聞いてはくたくは顔をしかめる。騎士が嘘をついていた事は想定内だ。だが、顔をしかめた理由ははこの襲撃がバハルス帝国ではなく、それに偽装したスレイン法国という国の作戦という事だ。

 

(これはどう転んでも面倒な事態になるな…)

 

はくたくは掴んだままの騎士を見る。相変わらず顔は恐怖で青い。だが、正直に喋った事で僅かだが見逃されるかもという期待が目にある。

 

(彼には悪いが、姿を見られた時点で生きて返す気はない。ここはひとつ検証につきあってもらおう)

 

「なるほど、情報提供感謝する。『そこに転がっている騎士のよう』にはしない」

「あ、ありがとうございま」

 

騎士の言葉が途中で止まる。自分を掴む化け物がミシミシと音を立てて巨大化しているからだ。

 

「だが、姿を見られてしまった以上、お前を生きて返すわけにはいかない」

「たす―」

 

はくたくは騎士が叫ぶ前に頭を口の中に突っ込む。そのまま蛇が丸呑みするように騎士を呑んでいく。体の半分まで吞み込んだが騎士は元気に脚をばたつかせている。両手で騎士の脚を掴み、一気に口の中に押し込んだ。喉を通るときに騎士がうごめく感触があったが、胃に収まると一瞬でそれはなくなった。恐らく胃袋で消化の抵抗判定に失敗し分解されたのだろう。残された馬と騎士の死体も食べる。味は血と臓物と生肉の味だが不味いとは感じない。馬肉は結構イケる。騎士のほうも着ている鎧がアクセントになった。

 

(とうとう人間を食べてしまったが、やはり何の感情も湧いてこないな。不味く感じないのは頭の中で普通の料理を食べる時と、別の精神回路が働いている気がするからそのおかげかな?)

 

はくたくは数十秒で馬と騎士を喰い終えた。そこに生物がいた形跡は残された血のシミだけになった。

 

「さて…」

 

周囲を見回すと先程食べた騎士が落とした剣を見つけた。剣を拾い手に当て勢いよく引いてみるが掌に傷はつかない。スキル<物理ダメージ無効化Ⅳ>により半端な武器では傷すらつかない。騎士たち全員の武装がこの程度なら、村の中心に向かった二人もおそらく無傷だろう。剣をデザートとしてバリバリ食べながら村の周辺を右回りと左回りどちらで掃討するか考えていると、隠密スキルで隠蔽された足音を聞きつける。振り向くと忍者装束に身を包んだ蜘蛛が森から出てきているところだった。この蟲モンスターは八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)。透明化能力と首狩り(ヴォーパル)の連続攻撃能力をもつ厄介なモンスターだ。モモンガがセバスに指示していた、村に送り込む隠密能力持ちの後詰だろう。透明化の能力を使っているが、<透明看破>の特殊能力を持つはくたくには意味が無い。八肢刀の暗殺蟲ははくたくの前に来ると透明化を解除し跪く。

 

「はくたく様、我ら先発隊はモモンガ様の指示ではくたく様の周辺掃討に加われと指示を受けました」

 

八肢刀の暗殺蟲から先発の隠密部隊の内訳を聞く。八肢刀の暗殺蟲十五体と影に潜むことができる悪魔のシャドウデーモンが十六体。周辺にいる残りの騎士は四人。騎士の強さを考慮するとオーバーキルだ。

 

「お前たちに命ずる。村周辺の騎士を排除しろ。出来れば生きて捕獲し捕虜にしておけ」

 

了解を示す礼をすると八肢刀の暗殺蟲は再び透明化し離れていく。はくたくは周辺を眺め、村と周辺を見渡せるポイントを見つけそこで待機する。聴覚を研ぎ澄ませると、村の中心での騒音とは別に村の周辺四か所からくぐもった悲鳴と殴打音がした。暫くして再び八肢刀の暗殺蟲が現れ騎士の拘束に成功したと報告しに来た。

 

「御苦労。捕虜は一か所に置き見張りを付けろ。残りは村の周辺に潜伏し警戒にあたれ」

 

再び八肢刀の暗殺蟲が消える。暫くして村中心の騒ぎも収まった。予想通りモモンガと<伝言>が繋がる。

 

『はくたくさん、村の騎士を排除し、数人だけ脅した後に解放しました』

『こちらも周辺に展開している騎士は増援のおかげで問題なく拘束しました。こいつらはナザリックに回収しましょう。あと一つ問題が』

『問題?』

 

モモンガにこの騎士たちはバハルス帝国という国家の兵士に偽装したスレイン法国の部隊だという事を説明する。

 

『どこかの国家の兵士だとは予想してましたが偽装とは』

『騎士の強さはともかく、厄介事に首を突っ込んでしまった事は確実です』

『情報ありがとうございます。その情報に気を付けながら村で情報を集めます』

『こちらで周辺警戒するので村の方は頼みます』

『あとこれからはモモンガではなくアインズと名乗ります』

 

二人が以前話し合った時に決めた取り決めだ。ナザリックの代表となるモモンガが外部と接触をする時から、モモンガはより知名度の高いギルド名のアインズ・ウール・ゴウンに改名する。

 

『了解しました。それではこっちに適宜<伝言>で村で集めた情報を教えてくださいね』

『はい』

 

<伝言>の繋がりが切れたはくたくは周辺の警戒に戻った。

 

 

 

 

 

はくたくは森の中で寝っ転がってアインズから<伝言>で伝えられる情報を分析していた。警戒を解いているのは、自身の警戒範囲と周辺に分散した隠密部隊の警戒網が被っているからだ。自分も警戒してもいいが、肉眼で確認する隠密部隊のほうが自分より正確な情報をよこしてくれるだろう。

 

アインズの情報から分析するとまずこの村はかなり文化水準は低い。白湯を用意するのも火を熾すことから始めるから一苦労といった感じだ。だが都市部を見るまでこの世界全ての文化水準が低いと断定はすべきではない。この世界にも魔法は存在する。魔法詠唱者(マジック・キャスター)の存在も同様だ。魔法の存在は食べた騎士の鎧や剣から僅かだがバフ効果を得たため確認済みだ。だがどの程度のレベルの魔法までが一般的かは村人の知識不足で分からないらしい。

 

(魔法の考察はモモンガさんに任せよう。全く魔法が使えない自分が考えても仕方がない。餅は餅屋と言うしね)

 

通貨に紙幣は使われず、金貨銀貨銅貨といった金属貨幣が使用されている。貨幣は周辺国家で同一のものが使われているようだ。紙幣が発明され流通していないのにもっと先の発明である共通通貨は採用されているとなると、元いた世界と経済史が全く違っている。

一番頭が痛くなったのは周辺地理だ。この周辺にある国家はリ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国の三カ国。締め上げた騎士が吐いた情報にも出ていたが、こんな国名世界史で全く聞いたこともない。ここが元いた世界とは全く違う世界ということがほぼ確定した。

 

周辺地理はナザリックやこの村がある地域を中心とすると、北西に王国、王国と山脈を挟んで北東に帝国、南方に法国がある。ここは三カ国の交通の要衝で一応王国領だが、三カ国が絶賛係争中の地域だ。ナザリックをどこかの国家組織の庇護に入れる戦略を考えていたが、こんな政情不安定な地域で迂闊にやれば、ナザリックはたちまち紛争に巻き込まれるだろう。村の生活基準や襲撃していた騎士達の戦力をナザリックと比較すると、ナザリックは莫大な経済力と軍事力をこの世界では持っている可能性が高い。正直、周辺国家とナザリックが接触した場合、どうなるのか予想ができない。

 

しかも騎士の情報が本当だと仮定すると、自分たちは王国と帝国を争わせる為の法国の不正規戦部隊に介入してしまった。既に紛争の当事者だ。

 

(この介入が不味いことにならないといいなあ・・・)

 

一旦手を出した以上覚悟を決めなければ。それに騎士の強さのように、こちらの最悪の予想は外れることもあるとはくたくは楽観的に思う。一応右も左もわからない時に場当たり的に人助けをしただけだという言い訳も効く。

 

最後に言葉だ。アインズが普通に会話できているのが不思議だったが、アインズ曰く発音と聞こえてくる音が全く違う。某古典漫画に出てくる翻訳コンニャクを食べたみたいだとのことだが、もはや異世界だからそういうものなんだと納得するしかない。

もっと情報収集が必要だ。はくたくとアインズはそう結論づけた。

 

 

 

 

 

村で死んだ村人の葬式をするらしい。はくたくはアインズから死者を蘇生すべきか相談される。

 

『一応蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)で村人を蘇生できますけど・・・どうします?』

『蘇生した場合のリスク計算ができません。止めた方がいいかと』

 

魔法が存在するとはいえ葬式が行われるということは、この世界で蘇生魔法はまず使用されていないという可能性が高い。

 

人を蘇らせる。文句なしの奇跡だ。それにも関わらず、歴史には意外と人を蘇らせることができた者が記されている。はくたくは彼らが辿った運命を思い出す。磔、石打、火刑、首切り、暗殺、追放。奇跡を行うものは尊敬され、称えられ、崇められ、そして疎まれ嫉妬される。殉教者の仲間入りなんて勘弁だ。

 

『・・・そうですよね。これは使わないことにします』

 

アインズの返答は重い。今から埋葬される人たちは自分たちが見捨てたも当然だ。そうはくたくも考えていると、八足刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)が現れる。

 

「はくたく様、後詰の本体が到着しました。私以下、総勢四〇〇のシモベが待機しています」

 

総勢四〇〇。命令を出した時点では敵戦力が不明だったから仕方がないとはいえ、敵の排除が終わり戦力分析が終わった今では過剰戦力で不要だ。アインズに確認したうえで、八足刀の暗殺蟲とシモベの指揮に来ているアウラとマーレ以外は撤収させる。村での情報収集や葬式に思ったより時間を取られ、それらが終わる頃には夕方になっていた。

 

 

 

 

 

ここから撤収する直前になって伝令の八足刀の暗殺蟲から、アウラがこの村に新たにやって来る戦士集団を発見したとの報告が来た。さらにその集団を追っているらしき魔法詠唱者の集団もいるらしい。はくたくは二つの集団の特徴を伝令に訪ねる。戦士風の集団は統一されていない武装をしており、魔法詠唱者達の服装からは所属を示すような意匠が排除されているとの事だ。

 

「傭兵集団にそれを追う非正規戦部隊か?なんにせよ面倒だな」

 

当然アインズにも同様の連絡が行っている。<伝言>がアインズから飛んで来た。

 

『取りあえず村に向かっている戦士集団に村長と会います』

『わかりました。何が起こるかわかりません。気を付けてください。何かあれば駆けつけます』

 

 

 

 

 

はくたくは遠く離れた丘の上から村を何かあれば突入する為に監視する。村の広場に馬に乗った戦士たちが整列し、アインズと村長が隊長らしき男と会話をしている。戦士のリーダーらしき男が馬を降り、アインズに礼をする。

 

(モモンガさん感謝されてる?)

 

アインズから<伝言>が飛んでくる。

 

『彼らは王国の王直属部隊で、いま私と話しているのがリーダーの王国戦士長のようです』

『一応王国の村を助けたわけですし、友好的な関係を結べそうですか?』

『ええ。ですが…』

 

言い淀む原因はあの魔術師集団のことだ。ちょうど後ろで伝令の八足刀の暗殺蟲が奴らが村を包囲するように動き始めたと伝えに来る。

 

『それはあの魔術師集団、おそらくここを襲った騎士たちの本隊を排除してからですね』

 

 

 

 

 

アインズが王国戦士長との短い話し合いで分かった事を<伝言>ではくたくに伝える。まず王国戦士長ガゼフ・ストロノーフが言うにはあの魔術師集団はおそらくスレイン法国の特殊部隊、六色聖典の内の一つ。そして目的はおそらくガゼフの暗殺。戦士長を誘うために帝国騎士に偽装した部隊に、辺境の村を襲わせていたということだろう。そして戦士長達は不利を知りながら、村の人を逃がす隙を作るために打って出る。アインズは戦士長に力は貸さないが、村人は自分の名に掛けて守るという事になった。

 

『アインズさん…<伝言>や二人きりの時は前と同じモモンガでいいですか?なんか奇妙な感じが』

『別にかまいませんよ』

『モモンガさんどうします?この状況』

 

はくたくが考える今取るべき最適な行動は即時撤退。村人を全員口封じし、我々がいた痕跡を残さず消した後に撤退する。だがガセフにアインズが名乗った手前もうそれは出来ない。となると次善は王国戦士たちとガゼフを助けて恩を売ることだ。

 

『戦士長に入れ替え人形を渡しておきました。彼らと法国の部隊を戦わせ、頃合いを見て入れ替わります』

 

入れ替え人形。消費することでチームとチームを入れ替えることができるマジックアイテム。ユグドラシルのアイテムガチャにおける外れアイテム枠だ。

 

『彼らのピンチに助け船を出してさらに恩を売るという事ですね』

『そういう事です』

『村を包囲する彼らが召喚している炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)でした。実力を隠しているのでなければ我々の手で撃退出来ます』

 

毒を食らわば皿まで。一回王国側に付いたのだから下手にふらふらせず、この場では徹底的に王国側に付き恩を売るべきだ。ただし、法国側にその情報がなるべく漏れないようにする必要もある。つまり、あの魔術師集団は全員拘束しなければならない

 

『全員が戦士長を狙わずに何人かは村の包囲に残ると思いますが、それはこちらの隠密部隊で排除ということで?』

『お願いします』

 

一つ気になったのは、会話の中でアインズがガゼフに好印象を持っていることだ。

 

『それにしてもそのガゼフという王国戦士長、中々熱い人ですね。モモンガさん、もしかして気に入りましたその人?』

『ええ。あの強さには正直憧れます』

 

アインズが憧れたのは彼の肉体的な強さではなく、死ぬ可能性があろうとも迷わず死地に飛び込むことができる、彼の意志の強さだろう。ああいう人間はなかなかいない。

 

『恩を売っても勿体ないということはないですね』

『ええ』

『それでは入れ替え人形を使ったら合流しましょう』

 

はくたくはガゼフを観戦できる位置に移動を始める。

法国特殊部隊の実力を見せてもらおう。

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