「はくたく様ここが観戦にいいと思います」
王国の戦士達と法国特殊部隊の戦いを観戦すべく森の中を疾走するはくたくは途中でアウラと合流する。アウラは観戦できる場所を探してくれたようだ。両者がぶつかる場所を見渡すのに適した森の中の少し小高い丘に着いた。かなり距離があるがはくたくの視力なら何の問題もない。そこにはマーレもいた。
「お、お待ちしておりましたはくたく様」
「うん、長時間警戒御苦労。観戦場所も確保してくれたようだな」
陽光聖典の四五名は既に村周辺に展開し、王国の戦士を待ち構えている。はくたくはアウラとマーレの頭を撫でて労ってから胡坐をかく。王国戦士が到着するまでに二人の法国特殊部隊の評価を聞いてみる事にした。
「二人はあの魔術師集団をどう評価する?」
「アイツらまともに警戒も出来てませんし、アタシに任せていただければ一瞬でやっつけますよ」
「め、命令されれば、やっつけます!」
(・・・倒せるかどうか聞いている訳じゃ無いんだけどなあ)
アインズの予想だと包囲している奴らは三位階魔法、出来て四位階程度の魔法しか行使出来ないらしい。それならば守護者たちが雑魚と判断するのも仕方ない。土煙と蹄の音が聞こえ始める。開戦の合図だ。
「さてお手並み拝見と行こうじゃないか」
王国側の作戦は騎兵の突撃で法国側を引きつけ、一撃を与えた後に離脱。村人を逃がしかつガゼフも逃げる。この二つを同時に達成するにはこれしか手段が無い。王国側の作戦は途中まで上手くいっていたが、ガゼフが馬に精神系魔法を駆けられ落馬し離脱に失敗。離脱した戦士達もガゼフを守るために戻ってきてしまった。法国側は次々と王国戦士達の突撃地点に転移して包囲網を完成しつつあった。
「詰みだな」
はくたくは王国側が敗北すると予想した。法国側の召喚する天使たちは物理耐性を持つが、王国戦士達の武装に魔法は込められていない。天使で足止めをしつつ魔法でトドメを刺して終わりだ。ガゼフが健闘はするだろうが、天使の物理耐性を突破出来ないだろう。
だがはくたくの予想は裏切られる。ガセフの剣に微光が宿ると天使の体を両断したのだ。
「あの技は何だ?武器にエンチャントした?」
はくたくのスキル構成は職業<スレイヤー>の技巧系戦闘能力と、種族<タラスク>の破壊力を組み合わせた変則系であり純粋な前衛職ではないが、最低限の知識として前衛職のスキルは大体把握している。記憶にあるユグドラシルのGVGやPVPでもあのような技は一回も見た事は無い。アインズにも後で確認を取るが、ほぼ確実にこの世界特有の技術だろうと判断する。
「お前たちは今の技を知っているか?」
「いえ、知りませんはくたく様。申し訳ございません」
「し、知りません。ごめんなさい!」
「謝る必要はないぞ。私だって知らないんだからな。二人ともよく見ておけ。これからはああいう技を使う奴らを相手にするかもしれん」
「「はい!」」
会話する間にもガゼフは次々と知らない技を天使たちに繰り出していく。六体への同時攻撃、姿勢の強制回復、攻撃速度の加速。どれも知らない技だ。
「ユグドラシルにない技術か・・・」
ガゼフ程度の戦士がああいう技を使ったとしてもナザリック的には大した脅威にならないが、もし完全武装したレベル100相当の戦士がこの未知の戦闘技術を駆使して来たら?初見殺しの怖さはユグドラシルで嫌という程叩き込まれた。未知=危険だ。足元を掬われない為に、あの技術について何処かで学ぶ必要がある。
はくたくは観察を続け、ガゼフはあの技術を使えるようだが、部下は使えない事に気付く。王国戦士たちは一人、また一人と天使の攻撃と放たれる魔法で沈んでいく。ガゼフは戦況をを打破するために敵のリーダー、停止中は視界内の天使の防御力を上げる
王国側の戦士達はよく訓練され士気も高いが、法国側の隊員達はさらに錬度が高い。統制された動きでガゼフを足止めし、確実に王国戦士を倒していく。使う魔法は拙いが、集団としての錬度は目を見張るものがある。
(特殊部隊の名は伊達ではなかったという事か)
部下は全て倒れ、ガゼフの顔にも疲労が見え始めた。魔法と天使の集中攻撃を受けガゼフがとうとう膝をついた。だが気合で再び立ち上がる。戦士長と法国側のリーダーが何か会話をしているが、距離が遠すぎて内容は分からない。だが内容は予想できる。トドメを刺す前の会話だろう。
「そろそろ交代の時間じゃないかな?」
はくたくが呟いた途端ガゼフと戦士達が忽然と消え、アインズとアルべドが現れる。アインズから<伝言>が来る。
『合図したらこちらに来てもらうので、近くで待機してください』
了解の返事を返しはくたくは立ち上がる。
「さて出番だな。…二人も一緒に来るか?」
「もちろんです!はくたく様やモモンガ様の活躍を近くで見たいです!」
「ぼ、ぼくも見たいです」
「なら一緒に行くか」
はくたくはアウラとマーレと共に移動を始めた。
陽光聖典隊長、ニグン・グリッド・ルーインは不慣れな任務が無事に達成されつつある事を神に感謝する。陽光聖典は本来亜人狩りを主任務としている。ガゼフという一国の英雄の暗殺は、本来ならば英雄クラスの隊員だけで構成された法国最強の漆黒聖典がやるべき仕事だ。だが今は漆黒聖典は
魔法の集中攻撃を受けとうとうガゼフが膝をつくが、再び立ち上がり叫ぶ。
「俺は王国戦士長!この国を愛し、守護する者!この国を汚す貴様らに負けるわけにいくかあああ!」
「その国に愛する価値はあるのかね?」
「なんだと?」
ニグンはガゼフの言葉に冷ややかに返す。
「貴様のそのザマが答えだよ。王国戦士長殿。王国貴族は意味もない政争を繰り返し国を腐敗させ、貴様のような貴重な人材を浪費する。しかるべき装備も人材もお前に与えられない。そのような国に忠誠を捧げる価値はあるのかね?」
ガゼフは一瞬逡巡し、力強く答える。
「俺は俺を引き上げて下された王、そしてその民に忠誠を果たさなければならない!」
「なるほど、見上げた理想だ」
ニグンが部下に指示を出す。天使がガゼフを包囲し始める。
「だが理想で目が曇っている。お前はここに来るべきではなかった。判断を誤ったお前はここで死に王国の崩壊は早まる。そして我々法国が王国の民を導く。貴様はその礎石となるのだ」
「…お前にここに来た俺の考えは分かるまい。・・・・行くぞ?」
「強がるな。その傷、立っているのもやっとだろう?安心しろ、機密保持の為にあの村人も口封じする。一緒にあの世への供をさせてやろう」
「ふっ」
ガゼフはニグンの言葉を聞き笑みを浮かべる。
「・・・・・何がおかしい?」
「あの村には俺より強い人がいるぞ。お前たち全員でも勝てないだろうよ」
ハッタリだ。王国内にガゼフより強い人間など殆ど居ない。ましてこんな辺境になど。
「ハッタリで私を騙せるとでも?これ以上は時間の無駄だな。さらばだガゼフ・ストロノーフ」
「天使たちよ」
トドメを刺せ。ニグンはそう言おうとした。その瞬間ガゼフと戦士達は消え替わりに未知の二人が現れた。
「はじめまして、スレイン法国の皆さん。私の名前はアインズ・ウール・ゴウン。アインズと親しみを込めて呼んでいただければ幸いです」
ニグンは喋らない。状況判断が出来ないからだ。
「そして後ろにいるのがアルベド。私たちは皆さんと交渉しに参りました。少しばかりお時間をいただけないでしょうか?」
アインズ・ウール・ゴウン。ニグンは王国の要注意人物リストを思い返すが、その名前は無かった。偽名の可能性がある。とりあえず向こうの話に乗って情報を集めるべきか。また相手の交渉自体が我々を罠に嵌めるための時間稼ぎの可能性も考慮する。ニグンは部下に合図で周辺を魔法で探査させる。
「あいつら探査魔法を使ったみたいですけど、アタシのスキルで妨害しておきました」
近くの森にははくたく、アウラ、マーレが待機しているが、アウラのレンジャーのスキルで三人は隠蔽されていたため、ニグンの部下は気付けなかった。
―――反応なし。部下の合図を確認したニグンはアインズに顎をしゃくり会話を続けるよう促す。
「時間をいただける事を感謝したい。まず最初に言っておきますが、あなた方では私には絶対勝てません」
「無知とは罪だな。我々の実力を知っているのならば、そのようなことは口が裂けても言えまい」
「私はあなた達の戦いを全て観察し、実力を見極めたうえで必勝の確信を得たからここにいます。そうでなければ既に戦士長にしたようにここから転移していますよ。」
魔力系
「―――ストロノーフ達を転移させただと?」
法国の魔法詠唱者が修める転移魔法にそのような魔法はない。
「ええ。村の中に転移させました」
「嘘などついても…何?」
ニグンは村周辺に待機させている者に連絡を取ろうとするが、その部下達と連絡が取れない。
はくたくはハッとする。忘れていた。村の隊員を拘束していない。
「そういえば村周辺に待機してる法国の隊員はどうした?」
「モ、モモンガ様がこちら転移した時点で八肢の暗殺蟲に指示を出して捕えさせました」
「そうか。ご苦労」
はくたくは自分のうっかりをマーレがフォローしてくれた事に安堵する。
(あぶなかった。モモンガさんとの作戦忘れてた…ナイスだマーレ)
「ああ、村周辺にいたあなたの部下は拘束させてもらっています。殺してはいないので安心してください」
「何だと!」
「そして交渉に入る前に最後の質問です。あなた方が召喚しているその天使は、第三位階辺りの召喚魔法で召喚している
「…そうだが?それよりも私の部下を拘束したと言ったな?」
「回答ありがとうございます。なるほど…ならばユグドラシルの召喚モンスターと同じ…ああ失礼。拘束したのはこれからあなた方との交渉をするに当たって邪魔になるからですよ」
未知の転移魔法を使い、第三位階魔法まで使える部下を拘束できる。ニグンは目の前の得体のしれない男に最大限の警戒をしながら聞く。
「それで交渉したい内容は?」
「単刀直入に言いましょう。我々に降伏しませんか?」
「な…!?」
「我々としては現時点で王国法国ともに干渉したくはなかったのですが、成り行きで村を救ってしまってね。王国側に関わった手前戦士長を見捨てるわけにはでいかないのですよ。我々の面子に関わる。かといってあなた方をこのまま逃して我々の情報を拡散されると困る、そう言う事です。抵抗しなければ命は補償しますし、危害も加えません」
我々に向かって降伏しろだと?狂人の戯言を。そうニグンは言おうとするが、目の前の仮面を被った男の雰囲気が変わった事を感じる。アインズは両手を広げ言い放つ。
「それに、我々の名にかけて庇護化に置いた村人を殺すと言ったお前たちを、ただで返す気はない」
殺気と圧倒的強者の威圧感が目の前の男から滲み出る。部下がそれに怯え、ニグンも背中にびっしりと汗をかく。本能が教える。降伏すべきだと。だが我々は陽光聖典。裏の部隊とはいえ依頼で他国に出向いて亜人を狩る事も多い。それによって法国は他国に人類の守護者という立ち位置を示してきた。そんな我々が、たった一人の魔法詠唱者に膝をつくわけにはいかない。死の予感を噛み殺しニグンは命令する。
「天使達を突撃させよ!近寄らせるな!」
二体の炎の上位天使が突撃する。ニグンの予想を裏切りアインズは何もせず―――天使の剣がアインズを貫く。アインズは回避も攻撃も防御もせず、剣に貫かれた。部下からは安堵の息やハッタリかという声が聞こえるがニグンはアインズから目を放さない。部下に短く聞く。
「何故天使を下がらせない」
「その、そう命じているのですが」
「これは交渉決裂ということですね?」
死んでいるはずの男が天使の剣に貫かれながら平然と話す。致命傷を負っているはずだが平然としている。天使が下がらないのはアインズが天使の頭を掴み放さないからだ。ニグンは目の前の有り得ない光景に思わず叫ぶ。
「馬鹿な!」
「言ったでしょう?あなた方では私に勝てないと」
アインズが両手の天使をすさまじい速度で大地に叩きつける。物理耐性を持つ天使だが桁違いの衝撃の前にあっけなく光の粒となった。軽く手を払いながらアインズが告げる。
「さて、交渉は終わりという事なら私の仲間を呼ばせてもらいますよ」
はくたくにアインズから<伝言>が来る。
『はくたくさん、出番です』
「さてアウラ、マーレ我々も行くぞ」
はくたくはなんとなく、アウラとマーレを両手に抱える。
「はくたく様!?」
「え、えっ?」
二人が声を上げる。
「そのような事をなさらなくてもアタシたち歩きます!」
「お、お姉ちゃんの言う通りです」
気分でやってみたとはいえず、少し考えそれっぽい理由を話す。
「お前たちを運ぶために抱えたのではない。この状態で近づいて相手の反応を見るためだ。あいつらが私をお前たちの上司と見破ればそれなり目を持っていると、私をお前たちが使役する魔獣と見るのなら、奴らは大したことはないと分かるだろう?」
なるほどと二人は感心する。納得してくれたようだ。それと二人が誤解しないようにアインズの名前の件を説明しておく。
「それとモモンガは今はアインズと名乗っているから、敵の前でモモンガと口にしないように」
「了解しました」「分かりました」
「それでは行こうか」
はくたくは二人を抱えながら森を出ると、アインズの元に歩き始めた。
ニグンがちょっと綺麗になって賢くなったり
アインズ様が交渉しようと優しくなってたりします。
最初の降伏で縛につけば殺さないけど抵抗するなら仕方ないね!