オーバーロード 破壊の魔獣   作:源八

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情報系魔法と攻勢防壁のくだりを追加しました
誤字脱字微修正しました
少しだけ加筆しました


陽光聖典②

「さて、交渉は終わりという事なら私の仲間を呼ばせてもらいますよ」

 

ニグンはアインズの言葉を聞き返す。

 

「仲間だと?」

「あなた方との交渉を円滑に進めるために近くで待機して貰っていたのですが、交渉が決裂した今もう待たせる意味はないのでね」

 

感知魔法には反応は無かった。ニグンは探知した部下を睨むと、部下は有り得ないという顔をしている。アインズの今までの発言が真実なら、こちらに感知させなかった可能性は高い。周囲を見回すと、近くの森から体高が4メートルはある魔獣が出てきていた。地龍を思わせる頭部には二本の角、鋼青色の体に猛禽類のような手足としなやかな尾、鋼青色の棘の生えた頑強な甲殻を備えている。顔と手足に装甲を纏い両手にダークエルフの双子を抱えていた。その魔獣はアインズの目の前まで来ると、両手に持つ双子を下に降ろした。ニグンは魔獣が降ろしたダークエルフの双子を観察する。子供ではあるが装備するアイテムからは並大抵の物ではないオーラを感じる。仲間と言うのはこの二人の子供の事かとニグンは判断した。

 

「仲間はその二人で全員か?」

「私はアインズの仲間の数に入れてくれないのかな?」

 

ニグンは声を発したのが魔獣である事に驚く。人語を解する魔獣は殆どの場合強大だ。そんな魔獣と友人という目の前の男はいったい何者だ?

 

「私の名前ははくたく、アインズの仲間だ。それとニグン殿一つ訂正させてもらうがこの二人は我々の部下だよ。で、だ。アインズにも聞かれただろうが私も聞いておこう。降伏しないか?」

 

目の前の魔獣から再び降伏を提案され、ニグンは敵戦力を分析する。魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)、魔獣、ダークエルフの双子、甲冑を身にまとった女。数ではこちらが圧倒的だが個々の実力差は未知数、いや相手の方が強いと仮定する。先程アインズは天使の攻撃を無効化したが、隠し玉がアレだけでない可能性は多いにある。導き出される結論は即時撤退。ニグンは転移魔法の合図を出す。自身も転移魔法で作戦前に示し合わせておいた地点に転移する―――

 

転移が出来ない。もう一度魔法を発動させるが転移しない。

 

「ああ、言うのを忘れましたがこの周辺には転移を阻害する魔法を展開させています」

 

なんといった事はない事のようににアインズが告げた。信じられないが現に転移は出来なかった。撤退がかなわないとなれば戦うしか道はないが、ニグンは迷う。勝てるのか?周囲を見れば連続して起こる異常事態に部下が狼狽し始めている。早く決断しなければ部隊の統制は崩壊してしまうだろう。ガゼフを逃がすわけにもいかない。ニグンは覚悟を決める。アインズは何らかの能力かマジックアイテムで天使の攻撃を防いだが、いつまでも防げるものではないだろう。天使の飽和攻撃でリーダーであろうアインズを仕留める。

 

「・・・・それは受け入れられない。話は終わりだ。全天使を仮面の男に突撃させよ!」

 

天使が一度に攻撃するべく展開を始める。はくたくは気楽な雰囲気でアインズに聞く。

 

「降伏せず戦うみたいだが、どうするアインズ?」

「纏めて吹き飛ばす…守護者たちは下がれ」

 

アルべド、アウラ、マーレが後ろに飛び退く。展開した天使が四方八方からアインズに飛びかかり、アインズが無残な串刺しになるかに見えた。

 

「<負の爆裂(ネガティブバースト)>!」

 

黒い波動がアインズを中心に周辺に走り天使を全てかき消した。はくたくは効果範囲にいるがスキルで強化もされていない負の爆裂(ネガティブバースト)程度の魔法ならスキルで無効化出来るため無傷。

 

「アインズさんRPGの魔王みたいでいいですねそれ」

「はくたくさん口調戻ってますよ?」

「ああそれなんですけど…どうも守護者たちは私たちが喋ってる時の口調は気にしてないみたいですよ?思い返せば最初に第六階層に集めた時も問題なかったですよね」

「そうなんですか?なら止めますか。これ面倒ですし」

 

天使たちを吹き飛ばした後、二人が日常会話をしている間ニグンは今目の前で起こった事を考えていた。天使たちの消え方は明らかにダメージを受けて死亡した時の消え方だった。奴はあれだけの数の天使全員にダメージ与え殺すことができる。ニグンはその事実をどうにか飲み込むと、ガゼフが転移する前に告げた言葉を思い出した。

 

(あの村には俺より強い人がいるぞ。お前たち全員でも勝てないな)

 

我々では勝てない―――ニグンは思わず懐の神官長から託された切り札を掴む。これを使うべき時だ。時間稼ぎを部下に指示しようとするが、一足遅く恐慌状態に陥った部下が勝手に攻撃を始める。様々な魔法がアインズとはくたくに殺到しているが二人には意に介さない。

 

「・・・これもユグドラシルの魔法だ。弱いけど」

「彼らが自前で習得したのか、プレイヤーから教わったのか。聞きたい事が増えて行きますね」

「そうですね。しかし無効化の特殊能力(スキル)で痛くも痒くも無いとはいえ、こうも乱射されるとうっとおしいですね。あ」

 

はくたくは魔法をめくら打ちする隊員たちに忠告をする。

 

「アインズさんはともかくこっちには魔法を撃たないほうが」

 

忠告は間に合わず甲羅が反射した聖なる光線(ホーリーレイ)が隊員を吹き飛ばす。吹き飛ばされた隊員は死んではいないようだが、倒れたまま起き上がらない。先程まで乱射されていた魔法がピタリと止まる。

 

「・・・こういう風に反射するから止めた方がいいと言おうとしたのに」

「ひやぁぁぁあああああ!」

 

自分たちが血反吐を吐きながら修めてきた天使も魔法も全く効かない。その事実に耐えきれず狂乱状態になった隊員の一人がスリングで鉄の礫を放つ。礫がアインズの仮面めがけ飛ぶが、一瞬でアルベドが割り込み隊員に礫をはじき返した。礫を放った隊員の頭が消し飛ぶ。

 

「…は?」「…えっ」

 

アルベドの動きにも反応出来なかったニグン達では、スリングを放った者が何故死んでいるのか理解できない。アインズが彼らに説明する。

 

「すまない。私の部下がスキルで礫を撃ち返してしまったようだ。防御魔法を掛けていたようだが、それを超える攻撃を受けてれば破られるのは当然だろう?」

 

そしてニグン達を無視してアルベドの方を向く。

 

「しかしアルベド、あの程度の飛び道具の攻撃は私のスキルで無効化されるのは知っている筈だ」

「至高の御方にあのような下賤な飛び道具、失礼にも程があると判断しました。御許しを」

「アルベドの言うとおりです。あんなへなちょこ攻撃アインズ様に失礼です!」

 

後ろからアウラもアルベドの行動を肯定する。マーレも首を縦に振っていた。

 

「まあそれも一理あるか。それで、そちらはもう手札切れかな?」

 

アインズが一歩踏み出す。チャンスは今しかない。ニグンは懐から切り札であるクリスタルを取り出しながら叫ぶ。

 

監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)よ、かかれ!お前たちも死にたくなければ私の盾となり時間を稼げ!最高位天使を召喚する!!」

「つぎは私の出番と言う事でいいですね?」

「ええ」

「下がれ、アルベド。私がやる」

 

はくたくは巨大な斧(グレートアックス)を右手に持ち、アインズめがけ飛んでくる鎧に身を包んだ天使の前に立ちはだかる。監視の権天使は突撃する勢いを生かしたメイスの一撃をはくたくに繰り出す。横から見れば相当の速度だが、はくたくから見ればそれは欠伸が出るほどのスローモーションだ。斧の初撃でメイスを持った手を斬り飛ばし、二撃目で胴体を左薙ぎにする。監視の権天使は動きを止めた後、胴から二つに分かれ光の粒となって消えた。ニグンは一瞬で自らの生まれながらの異能(タレント)によって強化された上位天使が蹴散らされたにも関わらずうろたえない。手の中の切り札に込められた魔法が発動しつつあったからだ。

 

「認めよう、貴様らの強さは我々以上だ。だがそれも最上位天使の前では塵芥の一つにすぎないと知れ!」

「アインズさんあれ魔封じの水晶です。中身が最高位階の召喚天使だと」

「ええ、分かってます。それに我々の知らないモンスターを召喚するかもしれません」

 

ニグンが手に掲げているクリスタルは魔封じの水晶。使いきりだが魔法を込める事ができ、ニグンが持つグレードのものは最高位階の第十位階まで込める事が出来る。もしあの中に第十位階の天使召喚魔法が込められていれば、熾天使(セラフ)クラスの天使が召喚される。その場合熾天使の攻撃力や所持しているアンデットや悪魔、属性(アライメント)が悪に傾いている存在への特効スキルにより、これまでのように無傷では済まない。また、アインズの言うとおり未知のモンスターが召喚される可能性もある。

 

「アルベド、スキルを使用し私を守れ」

「はっ」

「アウラ、マーレは私の戦闘補助を頼む」

「了解しました!」「はい!」

 

アインズの前でアルベドが構え、はくたくの後ろでアウラとマーレが迎撃準備を整える。ニグンの手の中のクリスタルが破壊され、光と共に天使が召喚される。ニグンが歓喜の声で叫ぶ。

 

「見よ!これが最高位天使の尊き姿だ!出でよ威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)!!」

 

光り輝く翼の塊の異形が現れた。翼の塊から王笏を持つ手だけが飛び出している。下位天使とはかけ離れた姿だが、天使は上位になるほど異形である事が多い。周囲が明るく照らされ清浄な空気が満ちる。

それに当てられたのか、直前まで絶部の表情を浮かべていたニグンの部下たちが希望に満ちた顔で歓声を上げる。アインズやその仲間や部下は英雄、いや英雄上の実力を持っているが神の力の前では無力だ。ニグンがアインズ達を見ると言葉が出せないでいるようだった。

 

「声も出ないか?これが最高天使の姿だ。これは本来魔神のような存在に使われるべき物だが、お前たちの実力はこれを出すに足ると判断した。光栄に思うがいい。」

「なんということだ・・・」

「これが・・・最高位天使?」

 

アインズと先程監視の権天使を切り捨てた魔獣が呟く。アインズは仮面を片手で覆い、魔獣はうつむいている。それを絶望の呟きと勘違いしたニグンは優越感に浸りながら言葉を続ける。

 

「我々の任務はガゼフを始末すること。その為にはあらゆる障害を排除しなければならない。お前たちは偉大な英雄に比する力がある。この最高位天使を召喚させなければならない程のな。お前達と出会う場所が違えばこうして剣を交える事も無かっただろう。個人的にはお前たちを我々の同胞として迎え、共に法国の理念に奉仕したいとさえ思う。だが今回の任務でそれは出来ない、残念だ。だが我々は覚えておくぞ。お前たちのような最高位天使の召喚に値するものがいた事を」

 

自らの言葉に酔いつつニグンはアインズ達を見る。アインズは肩が震えている。死の恐怖を感じているのだろう。

 

「怖がる事はない。最高位天使の力で一撃で」

「「アーッハハハッハハハハハッハハハハ!」」

 

堰を切ったようにアインズとはくたくが笑い転げた。

 

「なっ何がおかしい!」

 

ニグンは彼らの頭がおかしくなったのかと思った。

 

「いっいやすまないニグン殿、ド、ド、ドミニオンが最高位天使とは知らブフゥ」

「フー…アンデットだから笑いも抑制されるのは困りものだ。すまないなニグン殿悪気は無いのだがちょっと予想と違ってフフッ」

「・・・魔神をも消滅させる力を前に狂ったか?」

「ま、ま、魔神ですってよア、アインズさん」

「神様なんて雑魚ボスな、なのに」

 

抑えきれなくなったのか二人は再び笑い出す。アインズは笑い転げるのとピタリと笑い止むのを繰り返している。気味が悪い。暫くして落ち着いたのか二人は平常運転に戻った。

 

「フー…アルベド下がっていいぞスキルを無駄撃ちさせてしまったな」

「アインズ様、想定外の物が召喚される場合を予想したのは正しい判断でした。謝る必要など」

「アウラ、マーレ、お前たちもリラックスしていいぞ」

「わかりましたはくたく様」「わ、わかりました」

 

「貴様ら最高位天使を前にいい態度だ」

 

顔には出さないがアインズ達の余りの態度にニグンに不安と恐怖が再び忍び寄ってくる。いや、ありえない。ニグンは首を振る。この最高位天使はかつて猛威を振るった魔神をも消滅させたのだ。もう考える必要はない。最高位天使の力を解放させれば片が着く。

 

「人類では到達できない力で消え去るがいい!<善なる極撃(ホーリー・スマイト)>を放て!」

 

「そういえばアインズさんはダメージを受ける実験やって無かったですし今やりましょうよ」

 

「そうですね。ニグン殿その攻撃はこちらに撃ってください」

 

気楽な態度でアインズがニグンに手招きする。言われるまでもない。その態度を攻撃を受けてからも出来るか楽しみだ。威光の主天使の王笏が砕け天使の周囲を囲む。主天使が召喚ごとに一度きり使える、魔法の威力を増加させるスキルだ。そして天使の魔法が発動する。

光の柱がアインズに落ちた。清浄なる力により悪しきものも善なるものも全てを消滅させる光。アインズは光に包まれ消し飛ぶ―――筈だった。ニグンはありえない物を目にした。アインズは消滅することなく立っている。しかも光の中で平然と隣の魔獣と話をしている。

 

「おっちょっと痛いですよはくたくさん。・・・ですが行動に問題は無いですね」

「痛みが精神に影響を与えないのは自分と同じようですね」

 

光の柱が消えていく。ニグンの目にはアインズが傷付いているようには見えない

 

「ニグン殿実験感謝する」

「あ・・・」

 

ニグンは自分たちの持てる力全てをぶつけても平然とする相手に言葉を失う。そしてニグン達はアインズの後ろで目を光らせ、どす黒い殺気を放つアルベドの視線を受け固まった。

 

「か、か、かとう、かとうせいぶつがああぁぁあああ!」

 

アインズの背後に控えていたアルべドが両手を掻き毟るように蠢かしながら叫ぶ。

 

「わたしのだいすきな、ちょーあいしているお方に痛みを与えるなど、ゴミである身の程を知れええぇぇ!ここから絶対生きては返さないいぃぃ!いや、持ち帰ってありとあらゆる拷問に掛けてやるわあああぁぁぁ!ああぁぁああ!憎い!憎くて憎くて心が弾けそうぉおおおおおおお!」

 

「ア、アルベド落ちつけ!」

 

はくたくが抑えようと声を掛けるもアルベドが止まる様子は無い。

 

「落ちつけアルベド!」

 

だが、アインズが声を掛けるとアルベドはピタリと止まる。

 

「し、しかしアインズ様、御身を傷付けた相手を前に落ち着けとは―――」

「先程のは実験だった。ダメージも私の計算通り。召喚された天使の脆弱さを除いて、ここで起こっている全ての事態は私の手の中だ。お前がそのように憤る理由など無い」

「・・・全てがアインズ様の御手の内とは知らず、取り乱してしまい申し訳ございませんでした」

 

頭を下げようとするアルベドをアインズは手で制する。

 

「お前の私の身を案じての怒り、嬉しく思うぞ。謝る必要などない」

「なんと有難き御言葉!」

「アルベド、お前のような美人にはそのような顔は似合わないぞ。笑顔の方が似合うし、その、魅力的だぞ」

「わ、私をアインズ様がび、美人と!くふー!それにみ、魅力的!くふー!」

 

アルベドが正気を取り戻したため、はくたくはアウラとマーレを確認する。アルベドのように暴走する気配はないが二人とも若干目が険しい。

 

「やはりお前たちも怒っているのか?」

「当然です!命令されればすぐにでもやっつけますよ」

「や、やりますか?」

「いや、あいつらへの制裁は私がやろう。それでいいですよね、アインズさん?」

 

先ほどとは違う意味で興奮するアルベドを抑えているアインズが返事をする。

 

「ええ。後の処理は好きにしてもいいですよ」

 

はくたくはニグン達の方に向き直る。もうじき夜だ。これ以上グダグダするのは時間の無駄だ。次の一撃で彼らの心を折ると決める。

 

「ちょっと身内のせいで待たせてしまったようで申し訳ない。それがあなた方の最高戦力と言う事ならば、こちらも全力を出してあげましょう」

 

はくたくは職業<サイズチェンジャー>のスキルを完全に切る。ミシミシと音を上げながら体が巨大化していく。元の大きさまで戻ったはくたくを見たニグン達に絶望の色が再び浮かんだ。

 

そこには体長21メートル、体高15メートルの小山程の大きさの魔獣がいた。その魔獣は大きくの伸びをした後再びニグンに話しかける。声で大気が震えた。ニグンの周囲からは歯が鳴る音が大量に聞こえる。直感したのだ。我々の最高位天使ではこの化け物に勝てない。

 

「やはり元の大きさが一番しっくりくる。何時もは何処からでも目立つからこの体を縮めているんでね。じゃあその天使を戴くとしますか」

「主天使よ、その化け物に<善なる極撃(ホーリー・スマイト)>を放て!」

 

命令を喉から絞り出しながらニグンは祈る。効いてくれ。再び光の柱が落ちてくるが、魔獣に当たる直前にかき消えていく。アインズには効いた魔法が無効化されている。

 

「残念だが、この甲羅は第七位階までの魔法を無効化する」

 

魔獣から絶望の事実が告げられる。光の柱を無効化しながら。ニグン達の顔をはくたくは観察する。

 

(あとひと押しだな)

 

はくたくは素早く威光の主天使を掴む。主天使は暴れるが、桁はずれの腕力の前では意味を成さない。はくたくは翼の一つを喰いちぎり、喰らう。

 

(同じ魔力で構成されたモンスターだが炎の精霊とは違った味わいだな)

 

炎の精霊は熱々のスープなら天使はアイスクリームだ。

 

 

ガツ、ボキリ、ゴクン、ガツ、ブチィ、ゴクン、ガツ、ボキリ、ゴクン。

 

 

静寂が広がる中はくたくが天使を食らう音だけが響く。羽を四分の三程喰われた時点で、力尽きた主天使は光の粒となって消えていった。

 

「さて…」

 

彼らの切り札を惨殺したはくたくはそう呟くと再びニグン達を観察する。震える者、涙を流す者、感情が抜け落ちた者、壊れた笑みを浮かべる者、ひたすら神へと祈る者。三者三様だが抵抗の意思を持つ者は一人もいなかった。

 

(戦意を完全に喪失したようだ)

 

「ニグン殿」

 

「は、はい!は、はくたく様」

 

はくたくはニッコリと笑顔を浮かべて提案する。それはニグンたちからは、化け物が牙を剥いたようにしか見えなかった。

 

「最後にもう一度だけ聞こう。降伏しないか?」

 

 

 

 

 

この場にいた陽光聖典の隊員は全て八肢刀の暗殺蟲によって締め落とされた上で手足を縛られ顔に黒い袋を被せられていた。縛られるまで一人も抵抗しなかった。

 

「さて、最後の仕上げだな。マーレよ村の周辺で八肢刀の暗殺蟲が捕えた奴らを持ってきてくれ」

「り、了解しましたはくたくさま」

 

マーレはぺこりと頭を下げた後転移した。

 

「纏めてナザリックに送るんですか?」

 

アインズがいつものサイズに縮んだはくたくに問う。

 

「いえ、彼らは我々の顔を見ていませんから、別の使い道があるんですよ」

 

マーレが転移して戻って来た。足元には縛られ頭を布で覆われて気絶した者達がいた。内訳は最初の襲撃にいた騎士が四人と、村周辺に残っていた陽光聖典隊員が六人。

 

「マーレ、離れていろ」

 

はくたくは縛られた捕虜を斧で殺す。単純に首を刎ねるのではなく、戦闘中に切り殺した風を装うように切る。アルベドにやらせてもよかったが、自分で捕虜にトドメを刺す。自衛ではなく絶対必要というわけでもない事で部下の手を汚すのは何となく嫌だった。十人全てを処理し終わったはくたくは斧の血振るいをする。草原にビシャッと血が跳ねた。彼らからは情報を引き出すのではなかったのかとアインズが問う。

 

「はくたくさん、何故彼らを殺したので?」

「私たちは陽光聖典を辛くも追い返した。戦士長にはそう言う事になっていますよね。それなのに死体の一つもなければおかしいでしょう?騎士の死体は…騎士が陽光聖典の加勢に来たという事にすれば、村の襲撃が法国の計略だという説得力も増すからです」

「ああ…そういうことでしたか」

 

ここにいた陽光聖典の隊員の死体では王国で万が一蘇生された場合に、我々の余計な情報が王国側にわたる。村で八肢刀の暗殺蟲が捕えた奴らならば、蘇生されてもいきなり意識を奪われた以外の情報は出てこない為、引き渡す死体に最適だ。

八肢刀の暗殺蟲が荷車に死体を載せていると、突然空間が大きく割れる。それは一瞬で元に戻ったが、アインズとはくたくはその意味を理解していた。

 

「今のは・・・見られましたかねアインズさん」

「即座に攻勢防壁で反撃しましたし、偽装魔法もかけていました。偽装が破られた感じは…ないです。相手にはただの草原しか見えていないでしょう」

「そうだといいですが。攻勢防壁の魔法は?」

「範囲強化した<爆裂《エクスプロージョン》>です」

「ここにいた奴ら位の実力なら、向こうの目撃者は全員死亡ですね」

 

法国に渡す情報を最低限にしつつ、王国関係者に恩を売ることができた。ここでやることは終わりだ。

 

「じゃあ我々は捕虜を連れてナザリックに帰還します。アインズさんとアルベドはこの死体を戦士長に引き渡した後帰還でいいですか?」

「はい。それじゃあナザリックでまた」

「マーレ、私とアウラ、シモベ、捕虜をナザリックに転移させろ」

「はい」

 

一瞬視界が暗くなりナザリックの入り口に転移する。アウラとマーレ、シモベ達に命ずる。

 

「捕虜はとりあえず氷結牢獄に収容しておけ。その後の対応はアインズから聞け」

「はくたく様は?」

 

アウラが代表して聞いてくる。

 

「私はこれから休息を取る。お前たちも捕虜を収容しアインズに引き継いだ後、特に追加の命令が無ければ休むといい。一日仕事だったからな」

 

全員が了解の礼をしたのを確認してから、はくたくは汚れを風呂で落とすために指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)で第九階層へと転移した。




仲間がいる分アインズ様は書籍版より割と有情ですが
ニグンさんは果たして生き残れるのか
次回を待て!
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