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少し早いですが次話投稿です!
『強き者求む。腕に自信のある方は帝都警備隊副隊長ナジェンダまで。』
そう書かれた張り紙が街の至る所に貼ってあり、エスデスはこれを兵士を集める書状だと想像し警備隊隊長ではなく副隊長まで…それは自分の実力を試せる機会でもあると笑みを浮かべた。
「ナジェンダ副隊長もよくやるよな…いくら隊長に気に入られたいからって。」
「隊長があの将軍だろ?そりゃあ目をかけて貰えれば格段に実力はあがるだろうしな。」
そんな会話をする兵士を横目に、将軍に手解きして貰えるからなんだと言う気持ちが湧き出た。自分の師は兄だ…もちろん自己鍛錬は怠ることは無いが、誰かに鍛えてもらうのなら特級を狩っていた方がマシだろうなと思いボロボロな身なりの自分の姿を見て少しはまともな服に変えようと肌身離さず持っていた金貨や紙幣の入ったポーチを漁り近場の服屋で身なりを整えた。
戦闘用の服はあるかと聞いたがどうやらそのような物は受注でしか作っていないのか、仕方ないとばかりに動きやすい膝上までしかない白と青のチェック柄のプリッツスカートと黒の無地の服を買った。動きも特に違和感が無く、久々の新しい服に気分が良くなったのかついでにハイヒールと言う物を買ってしまったが、慣れないのが残念で買ってすぐに今まで履いていた物と変わらない靴を買い直した。
「………似合っているか、エムル兄さん?」
店を出て暫く歩きショーウィンドウに映る自分の姿を見れば、胸元からエムルから貰ったナイフを取り出し首を傾げて見せた。言葉は返ってこないが、兄ならきっと可愛いと褒めてくれるだろうと少し頬を赤くしまた胸元へとしまった。
「オーガ!隊長はどこに行ったのだ!」
「だから知らねえって!あいつの事だから強い奴を見つけたとかじゃないのかよ!」
暫く歩き目的地である宮殿近くにある広場へと来てみれば、多くはない士官者達に数人の兵士の姿。どうやら全員同じ隊のようで、肩には帝都警備隊と書かれた腕章が見えた。
「あ、副隊長… 俺隊長にこれ渡されたんすよ。」
「……っ!あの人を捜し出せ!手段は問わん!今すぐ捜すんだ!毎回毎回付き合う身にもなってみろ!」
「「は、はい!!」」
どうやら隊長である人が問題を起こしているようで、何やら紙を受け取った副隊長のナジェンダを見てエスデスはこれでは今日は無理かとため息をついた。
「将軍の思いつきに付き合わされるのは嫌だよなぁ。」
「あの人は強い奴と戦えるなら自分の隊を連れて郊外にも出るんだろ?帝都警備隊としてどうなんだろうな?」
面白そうな奴だ…エスデスは士官者たちが噂する将軍が気になり始めた。
強い奴と戦いたい…帝国に自分と同じ欲求を持つ者が少なからずいるだろうとは思ったが、将軍がそれとはまた面白いとナジェンダと言う銀髪の女へと近づいたエスデスは、その手に持っている紙を奪い中を見てみた。
「………え?」
「おい、おまえ!いきなりなんだ!」
紙の内容を見た瞬間、エスデスは目を丸くしその内容を見てみた。隣で何か叫んでいる女など無視だと言わんばかりに食い入るようにその内容を何度も読み直していた。
『日が沈むまでに帰らない事は無いが、強い奴を見つければ帰らないので後はよろしく。お前たちのエムルより。追伸…最近小煩くなってきたナッちゃんの為にエビルバード希少種の肉を持って帰る。ちなみに俺はあれは不味いから嫌いだがな。』
紙に書かれた内容はエスデスにとってある人を彷彿とさせた。
エムルと言う名…それにエビルバード希少種の肉が不味い…。
エビルバード希少種の肉は芳醇な香りに濃厚な舌触り…普通の豚や牛の肉よりは格段に美味い代物で、エスデスも村でその肉が出された時は大いに喜んだものだ。
だがエムルは違った。
まだ料理の基本などほとんど知らなかった時、父が狩ってきたエビルバード希少種の肉を少し調理させてもらい(勿論手伝いなどおらず)、兄に褒めてもらおうと食べさせた結果3日寝込ませる程の代物ができた。
それ以来料理を学び始めたエスデスだが、兄はエビルバード希少種の肉が他の者が調理したとしても出る度に逃げ出すほど嫌いになった。
「おい、聞いているのか?……ああ、エビルバード希少種の肉か……何故あの人は嫌いなんだか……。ところで貴様、一体どういうつもりだ?兵士から書類を盗むなど……牢に入れられても文句は言えないぞ?」
ナジェンダは紙を見つめたままのエスデスを訝しげに見て、あの人は事ある毎に自分に肉を獲ってくるので最近は飽きてきたところだなと溜息をつけば、そういえばこの少女はどこかしら将軍に似ているなと思いながらエスデスを見て、いつもは凛とした姿で見ていて惚れ惚れするのだが自分のやりたい事を見つけると置き手紙だけ残したまに居なくなる…実力は尊敬するエムル将軍を思い浮かべた。
「牢に入れるのは勘弁してやってくれ、ナっちゃん。そいつは世間知らずなんだ。」
後ろから聞こえる声…2年しか経っていないのにもう何十年もその声を聞いていない気がしていて、エスデスは紙を落とし後ろを振り返った。何故今まで気付かなかったのか……エスデスは初めて兄を愛おしい存在だと認識した。
「うっ……だ、だからナっちゃんは止めてくださいと何度も言ってるじゃないですか!というか…知り合いですか?」
自分を隊に入れてくれたのはいいが、事あるごとにナっちゃんと言ってくるエムルに、何度言われても自分には合わないからか頬を赤く染め抗議するが、何やら二人して見つめ合っている姿を見て知り合いか聞いてみて……いいやまあ髪も目も同じ色なら何かしら関係はあるだろうがと頭を掻いていれば。
「っ、あ、う…うあぁぁぁ!!」
2年でかなり成長したのか既に自分が知っている兄の気迫では無く、実力は遠く及ばないと理解して……そして嬉しくもあった。やはり兄は自分より上だ…そう改めて実感すれば人の目など気にする事無く兄に抱き着いた。今日だけは弱者でいい…そう自分に言い聞かせて間も無く、目から溢れ出る涙に身を任せ大声で泣いた。
「……ああ、ナっち……ナジェンダ。悪いが今日は解散……っていう事で。」
「………分かりました。明日にでも詳しく聞かせてもらいます。」
泣いている女をそのままに力試しをしようと言ったものならその首跳ねてましたとできない事を思いつつ、ナジェンダはエムルの胸の中で泣き続ける少女を微笑みながら見ていた。詳しい話は明日聞けばいいだろうと渋々ながらもそう判断し、どうやら手酷く追い返されたのか同僚達が帰ってくるのが見えれば今日は解散という言葉を集まった人たちに伝え同僚達を労いに行った。一人気絶しているオーガを見て溜息をついたのは誰にも気付かれなかった。
「落ち着いたか?」
エムルは泣き続けていたエスデスの頭を優しく撫でながら聞いたが、エスデスは首を横に振る様にエムルの胸に顔を押し付けていた。
勿論エスデスは既に泣き止んでいたが、久しぶりの生の兄の匂いに顔を蕩けさせておりそれを見せるわけにはいかなかったから顔を押し付けていた。
「とりあえず移動しよう…。な?話なら聞いてやるから。」
そんなエムルも勿論妹が泣き止んでいるのは分かっていたし、そろそろ同じ体勢で1時間もいるには辛いものはあった。自分の妹と言えば宮殿内にも入れるし、自分の部屋に来いと言った瞬間嬉しそうな顔でこちらを見上げるエスデスにエムルは心奪われそうになった。2年の間にここまで綺麗に…そんな事を思ったエムルは自分に叱咤する様にブドー出て来いと祈った。
今の自分では本気のブドーには勝てないだろうと騒いでやろうかと思っていたが、勿論ブドーとバッタリ会うなんて事は無くエムルの部屋へ二人して入れば、そこには年相応の娘がいた。
エスデスは兄と最後に会った日から今まで何があったか、全て話してあげると言わんばかりにエムルの手を取れば昔より大きい兄の手にまた顔を蕩けさせた。
「………で、帝都に入る少し前に鞄を危険種に盗まれたんだ。」
「鞄を盗む危険種か?また珍しいな……」
エスデスは村が焼け無くなった事、エムルはエスデスがそんな事で悲しむ様な性格ではないと分かっていたのでそうかと呟いて良くしてくれた村の人達と父を思い出し黙祷を捧げた…まあ俺がいたらなんとかなってたんだろうななどと考えてはいたが。旅に出ている間に危険種を何体倒したか、変な男達に襲われ服を破られたと言ったらとてつもない剣幕でエスデスの服を捲り上げたエムルに、女として扱われていないのかと思いつつも兄に見られて嫌悪感など微塵もないエスデスは大丈夫と言って顔を赤らめた。
「けど連携は凄かった……もしあそこで深追いしてたら、多分エムル兄さんには会えなかったから。」
土竜以外は見た事ない危険種達…エスデスは恐怖というものがああいうものだと久々に感じれていい刺激になったと言えば窓から見える景色に驚いた。
会った時はまだ昼にもなっていなかったのに既に月が出ていた。そんなに時間になるまで無我夢中で兄を縛っていたかと思うと申し訳ない気持ちになった。
「エスデス、腹減ってないか?」
「あ……うん。ちょっとだけ……」
だがエムルは気にしていない様で、窓の外を見るエスデスの頭を撫でてそう聞くとタイミングよくお腹が鳴る音が聞こえた。恥ずかしさに顔を赤くするもエムルが料理を作ってくれるというので横に立ち手伝う事にした。
「……エスデス、そのままだと手を切るぞ。」
「ええ、難しい!」
部屋着に着替えた兄の姿に見とれ、兄の料理をする姿に惚け…エスデスは大好きな人が隣にいるだけでこんな気持ちになるのだと嬉しく思いながらエムルの手伝いをしていた。
見た事ない食材を調理させるエムルにエスデスは改めて自分の師は兄だと納得し、言われた事はすぐ吸収するエスデスに変わらないなと笑みを浮かべるエムルがいた。
「一級危険種のプラトランクと言う危険種だ。こちら側の暖かい気候にしか適応してないからか向こうでは見なかったな。」
「エスデス、酒は少しでいい。あまり入れるとお前が食えなくなるぞ?」
「野菜も食えよ。大きくなれないぞ。」
最初は教えていたつもりがただの甘やかしになってきたと思えてきたエムルは、作った料理を食べながらエスデスはこれからどうするんだと率直に聞いてみた。もともと士官しにきたエスデスはまずは実力を試したいと言ったので、今日中止にした腕試し大会を武術大会と称し改めて開催するかとエムルは考えた。
「そういえば、エムル兄さんは今将軍だって聞いた。」
「ああ、まあな。好き勝手やらせて貰える訳じゃないが強い奴と戦える時もあるし、ここには一人いい相手がいるからな。まあ1年で将軍になれる程度だ…エスデスもなれるんじゃないか?」
自分と兄を同じ存在だと思っていない。1年で将軍になれるのは難しいのではないのか?強いだけで将軍になれるなら話は別だが…。
「さて、俺は食器を洗うからシャワーでも浴びてこい。着替えは…ないか。俺のを置いといてやる。」
「う〜、一緒に入ろう!いいでしょ!」
この娘っ子は幾つになったか…エスデスは一緒に入らないと今日はシャワーを浴びないと言うので、食器を一緒に洗った後共にシャワーを浴びることにした。
もともと一人用な為いくら自分より小さいエスデスとはいえ少し狭く感じたのだが、エスデスは村にいた頃の事を思い出し嬉しそうにしていたので出て行くなどとは言えなかった。
とりあえず今日を過ぎればエスデスも兵士になるだろう。自分が推薦するのもそうだが、実力はブドーの近衛兵に及ぶだろう。そうすれば兵舎に泊まり込みになったり遠征に行く事だってある為、今日だけはエスデスのわがままを素直に受け入れる事にした。
「エムル兄さん、逞しくなった。」
腰にタオルを巻きシャワーの温度を確かめているエムルの後ろで、エスデスはタオルを前面に持っているだけの姿で見惚れていた。引き締まった体は無駄な筋肉など無く、所々ある傷を見ては相当な修練をしてきているのが見て取れた。
対して自分の体は同じ年代の女に比べると確かに筋肉もあるし体は頑丈だろうが、洗練された肉体を既に持つ兄に比べたら天と地ほど差があった。
「…お前も20を過ぎればいい体になるさ。まだ成人してないなら伸び代はある。」
「…………」
エスデスは兄と肩を並べる時を想像してみた……。白い軍帽に胸元はパックリと開き今日買ったような短めのスカート丈のワンピースを軍服改造して、長く伸びた髪と今より大きくなった胸……今より屈強に成長した自分の姿と一騎当千の実力を持つ帝国1の実力を持つ兄。帝国で1.2を争う2人が共闘……果てには結ばれた2人に襲いかかる困難を
「エスデス、何ボーとしているんだ?」
「っ!?な、なんでもない!」
妄想を自分がするとは思わなかったが、遠くない未来そんな姿が再現されるとはエスデス自身思ってもいなかった。
「どうしたんだ、エスデス?さっきから変だぞ?」
「だって…兄さんが変な事をするから……」
妄想から解き放たれたエスデスに待っていたのは羞恥心に耐えれるかの訓練だったのではないかと思うぐらいで、エムルの体を洗ってやったのはいいがまさか自分もエムルに洗われると思っていなかったのか、主導権を兄に渡したが為にエスデスはエムルの手によって洗われた。
それは勿論隅々まで洗ってもらい、エスデスは久し振りに兄に全てを晒した。
「あれを変な事と言うなら、エスデスはまだまだ子供って事だな。」
勿論そんな知識を与える事は可能だが、できれば同じ女に教えてもらうのがエスデスの為だと思い自分のTシャツを一枚着ただけのエスデスの頭を撫でてやった。
これから帝都に住むなら交友関係は作らせるべきだなと思えば今日はもう寝るといいとエスデスに自分のベッドを薦め、エムルは机に置いてあった掌に収まる程度の箱を手にしてベランダへと出た。
「兄さん、それ何?」
ベッドに入れてもらったのはいいが、まだ兄と話していたいエスデスはベランダがすぐの位置にベッドがあったからか窓を開けて持っている物が何なのか聞いてみた。
「ん……?ああ、煙草っていうんだ。まあ好き嫌い別れるけどな。ちなみに、お前には吸わせん。」
「えぇ、なんで!?兄さんが吸ってるなら吸う!っっ!ご、ごめんなさい!」
エスデスは黒い箱に入れられた棒状の物を口に咥え火をつけた兄に、それも兄が強くなるのに必要なら自分も吸いたいと駄々をこねるが、エムルはそれを許さなかったのか紫煙を吐きエスデスを人睨みし殺気を放てば、エスデスは甘えて顔を赤く染めていた顔を蒼白にして兄のベッドへと潜りガタガタと震えた。
危険種がただの石ころなんかじゃないかと思うぐらいの視線を浴びさせられ、エスデスはごめんなさいと何度も謝りそのまま涙を流しながら眠ってしまった。
「しまった……」
エスデスを泣かせるつもりは無くただその年で吸うには早いという意味を込めてエスデスを見ただけなのだが、上空を飛ぶ飛行型の危険種が煙草を吸うエムルを見つけたからか襲いかかってこようとしたため殺気を放ったのが仇となった。
殺気を放ち追い払った危険種をお前のせいだという怒りを込めて跳躍を始め、とてつもない早さでムーンサルトを決め危険種を殺せばこちらを見ている宮殿の上部を守護する一人の帝具使いと目があった。
「……っ!………ば…!」
何やら叫んでいるが特に気にせず同じ場所へ降り立ち泣き疲れて眠っている愛しい妹の横へ行き布団を捲れば、悪かったと額にキスをして涙の跡を拭いてやればエスデスを抱きしめ自分も目を閉じ睡眠を取ることにした。
朝起きたら兄さんの顔が目の前にあり、自分の体が兄によって身動きが取れない状況になっていると気付いたエスデスは、昨日兄に殺気を当てられ涙を流した事を思い出した。慰めてくれたのか…たまに不器用な兄だがこういう事は抵抗なくする事があり、そんな兄がいつか自分以外の女に手を出すのではないかと少し不安になった。
「エムル将軍!エムル将軍!おられますでしょうか!?」
突如聞こえてきたノックと切羽詰まったような男の声、今すぐ開けなければ扉を壊しかけない声色にエスデスは目の前の兄をみた。
「起きている。なんだ朝から………」
既に起きていたのかエスデスを離し扉を開けたエムルは、扉が開いた事で部屋の中まで入ってきた男の兵士の頭を掴み睨みを利かせていた。
「も、申し上げます!!北西のウェルプルトマウンテンにて超級危険種討伐の任務についていたアラド将軍、ミルカゲ将軍、サブル将軍、ダイカク将軍の殉職を知らせに参りました!!!」
エムルに頭を掴まれながらも報告を全うした兵士は涙を流していた。今現在にも帝都を我が物にしようとする大臣オネストを主流とした大臣派が4名の将軍を推薦したのはこういう事かと笑みを浮かべた。もともとあの実力に似合わない帝具に、なぜあんなのが将軍なんだと笑っていた連中が死んだ。
つまり良心派、革命軍に帝具を奪われるなら先に超級に将軍を処分させ帝具は強い者を出して回収させるのが目的かと兵士の頭を離してやれば、楽しみが増えたと笑みを浮かべ正装に着替え始めた。
「エ、エムル将軍!仇を!仇を取ってください!」
「分かったからお前は大臣と陛下を謁見の間まで連れてこい。ブドーは出ないだろうし俺の部隊を出す。行け!」
これを機に自分の部隊を上まで押し上げるかと笑みを浮かべながらそう兵士に指示をすれば、兵士は大きく返事をして部屋を出て行った。
「エスデス、お前は昨日の服を着て俺に着いてこい。」
「う、うん!」
兄が一体何を考えているのか全く分からず、取り敢えず兄の言う事を聞いておこうとTシャツを脱ぎ裸になれば脇に畳んであった服を着る。その間エムルは何か考えているのか顎に手を添え虚空を見つめていた。
「た、隊長!あの、本当に……」
「ああ、嘘は付いていないだろうな。四人の将軍を失い手元にあった四つの帝具は超級危険種の足下……くくく!面白いじゃないか!さて…あの大臣は俺の要求を飲むかどうかだが……」
エスデスの着替えが終わり廊下を歩いていると帝都警備隊と書かれた腕章と正装を共にしたナジェンダが合流し、同じく正装に腕章をしたロクゴウが後から現れた。
「…オーガ達は?」
「置いてきましたよ。ほら、帝都も守らないと俺ら帝都警備隊の名折れじゃないっすか。なあナジェ。」
「そういう事です。……が、なぜ妹君が?」
エムル、ナジェンダ、ロクゴウ、そしてエスデスの四人はお互い顔を見合わせた。自分たちより年下で兵士でもないエムルの妹エスデス。この作戦は命を失う確率が高いと後のことはオーガに任せ隊長と命運を共にしようとしたナジェンダとロクゴウ。超級相手なら退屈しないと肩を鳴らすエムル……。四人はなんとなく、面倒くさいことになりそうだと思った。
「皇帝陛下の御前であるぞ小娘!頭が高いわ!」
「は?あのデブがか?」
まず初めにエスデスの知識不足からなる問題。
「なあナジェ、エムル将軍さっきから笑ってねえか?」
「あの顔は悪巧みをしているな……。まあ私達は隊長のする事に異議も何もないがな。」
「皇帝陛下の前だぞ!お前達少しは大人しくできんのか!」
ナジェンダとロクゴウは言い合いをして怒られ。
「エ、エムル将軍…そんな事が認められるわけが……いや、はい……な!?え?あ、はい。そうですな……いやいや、将軍程では。」
「でだ……なんだ。嫌か?……ああ分かってる。……問題ない。ふっ、流石だなオネスト大臣。」
などとオネスト大臣とエムルは密約でも交わしているかのように笑い合い話していた。
「大臣、どうすればいいのだ?」
「おお、すいません陛下。さて…エムル将軍、既に聞いておるかもしれませんが北西のウェルプルトマウンテンで四人の将軍が亡くなりました…誠に残念でしかたありません……。それでですね、実は帝具を四人に渡していたのですがそれの回収をお願いしたいのです。いくら超級とはいえ帝具を壊せるとは思いませんが、それを革命軍に拾われるのは避けたい。……陛下。」
まだ10歳にも満たないであろう少年にどうしたらいいのかと聞かれたオネストは、急に表情を変え悲しみに満ち溢れた顔へとなれば思ってもいない言葉を並べて死んだ将軍達を想い涙するようにハンカチを目元に持って行き泣く素振りを皇帝に見せ、場面が変わったように自分の要望を言い皇帝に促すように言った。もちろんオネストの性格を知っている者はこれから起きる無茶難題をどう対処するのかとエムルを見ていて。
「うむ。それゆえエムル将軍には至急ウェルプルトマウンテンに向かって帝具の回収をして欲しい…そしてできれば超級危険種を討伐してもらいたいのだ。で良かったのか大臣?」
「な……へ、陛下!私達は帝都警備隊です!幾ら何でも超級を相手には」
「承けたわまりしました。超級危険種の討伐と帝具四つの回収の任務…快くお受けいたします。」
「ああ…こんな事だろうと思ったぜ……」
「…え、あのチビが皇帝…それはないだろ?」
そんな皇帝の言葉に笑みを浮かべ了承したエムルを、絶望の表情で見るナジェンダとロクゴウ…エスデスはというと一人の兵士に色々説明されており話には参加しておらず、何を言っているのかよく分からないと言う表情で兵士を見ていた。
エムル将軍の妹を無下に扱えば自分は命の危険に晒される…その兵士は後々少女がエムルの妹と知りエスデス様と慕うまでの間、エムルとエスデスに振り回される事になるがそれはまた別の話。
「目指すはウェルプルトマウンテン…エスデス、馬には乗ったことあるか?」
「ない……けど問題ない。」
ウェルプルトマウンテンに行くのには馬が必要だった為馬小屋へ行った4人だが、少し前にあった討伐作戦で馬が疲労から回復してないと言うことで三頭しか借りられず、エムルは自分の足で行くと言いエスデスに馬の乗り方を教えようとした。
しかしエスデスは馬ぐらい乗りこなせると言い教えは断った。それは慣れたように馬に乗るナジェンダとロクゴウを見てからで、兄に教えてもらわずともやってみせると意気込んでいたからた。
「ナジェンダ、ロクゴウ。エスデスを頼む……まあ大丈夫だと思うがな。集合場所はウェルプルトマウンテンから5キロ離れた作戦本部だ。途中危険種を見たら極力関わらず来い。あっちには満足に武器が無いようで最悪素手で超級相手にする事になるからな。エスデスこれを持っていけ。道中落とすなよ?」
「隊長……いえエムル将軍。本当に超級を……いえ、何でもありません。」
「んじゃあエスデスちゃんは俺らの後に着いてきてね。エムル将軍御武運を……なんて。まあ無茶だけしないでください。」
「エムル兄さん……。」
エムルはまだ兵士になり1年目の2人にエスデスを任せれば注意内容を意外に真剣な顔で言った後エスデスを見た。上手く事が進めば今までに無い快挙だなと含み笑いをしてエスデスに借りてきた細剣を渡せば、それぞれ死地に赴く様な表情をしていた為か安心させる様に笑みを浮かべれば、それだけで伝わったのかナジェンダとロクゴウは馬を走らせ、兄の名前を呼んだエスデスはこれから起きる事に不安を少しばかり感じたが、遅れては兄に迷惑がかかると2人の後を追いかける様に馬を走り出させた。
「さてと……どんな奴かね……ククク。」
3人を送り出したエムルはこれから相見える超級危険種を思い浮かべ声を出し笑った。ブドー以来にワクワクする胸の高鳴りを押し込む様に口を閉ざし両脚に意識を向ける。
デュークとの特訓を思い出す……自分は風…何者にも囚われる事無い風だと集中力を高め両脚に力を入れた。次は体重移動の準備に入り体の芯を捉えた……次は手、こいつを動かさない様両手を前に交差させ息を吐く……次は頭、無駄に振らず最小限の目の動き意外を全て遮断する……準備完了と一歩足を踏み出す…時間にしてコンマ6秒程でその準備を終わらせれば次の瞬間そこにエムルの姿は無く、後には地面が大きく削れ一本の筋が何処までも続くかの様に彼方まで描いてあった。
「おお、エムル将軍!お早いお着きで!」
「当たり前だ。それで敵は?」
帝国から約50kmの位置にある超級危険種討伐隊の作戦本部にエスデス達より早く着けば、エムルは早速どの様な超級危険種なのか聞いてみた。自分の隊では無い為か面倒な話はいいという様に所々怪我をした兵士に詰め寄った。超級相手に五体満足は相当な実力者かただの臆病者という考えのエムルは兵士を臆病者…つまり弱者と認識した。周りにいる所々怪我のある兵士は、喜々とした表情で超級の事を話すエムルを見て戦闘狂という噂を改めて実感し、今まで分かっている事を報告し始めた。
「超級危険種アウロウカン…強固な鋼の様な皮を持ち普通の銃や槍では貫通せず、帝具【浪漫砲台パンプキン】【万物両断エクスタス】この2つ意外の攻撃は無意味でした。唯一剥き出しの8つの目の内5つはサブル将軍のパンプキンで潰せましたが警戒しているのかそれから開けていません。」
「目的は全くの不明で、寄ってくる者…近くにあった者を破壊しているようで、既に3つ街が壊滅。山のような巨体な為か一歩が大きく……避難も間に合いませんでした。」
「翼は四枚ありましたがアラド将軍のエクスタスによって二枚に。尾は一本…未だ健在で、一振りで討伐隊の半数が潰されました……その時ミルカゲ将軍が帝具【千変万化クローステール】で防御を試み失敗し死亡しました。」
「口の中を遠目で確認したところ無数の歯が敷き詰められており、強固の顎を持っているようで……更に舌が数十メートルは伸びたのを確認…その際サブル将軍が……」
「最後に……アウロウカンの口から唾液のような物が出されそれに少し触れたダイカク将軍が我を失ったかのようにアラド将軍を殺したと……。その際エクスタスは回収できたのですが、ダイカク将軍は持っていた【水龍憑依ブラックマリン】と共にアウロウカンの舌に捕らえられ体内へ……。」
今までの情報を整理するに超級危険種アウロウカンは龍型。とりあえず四人の将軍の手によってある程度のダメージは与えているが致命傷にはなっておらずゆっくりと地面を歩き前進中。手元にあるエクスタスが唯一アウロウカンへダメージを与えられるとふむと思案をすれば、まずは残りの帝具を集めて戦場を有利に傾けるようにどう動かすかと満身創痍で役に立たなさそうな兵士達を見た。
(まずは帝具の回収は優先か………それはナジェンダと達に任せて俺は超級を足止めするか。万物両断エクスタス……アウロウカンを倒すには必要……)
ナジェンダ達が来るまでの間幾つかアウロウカンへの打開策を考えようと模索していて、幾ら自分の腕を試したいと言ってもそこらにある武器が役に立たないのならある程度は許容しようと兵士にエクスタスを持って来させ、初めて扱う帝具が自分に合うか…否合うかではなく合わせてやる事が出来るかと笑みを浮かべ闘志を燃やし待機をしていた。帝具は第一印象で所有者を選ぶと言うが、エムルは特に気にしていなかった…使えるか使えないかで言えば使えるやつ。それがエムルの帝具への思う所だった。
「エムル将軍!アウロウカンが前進を!」
「地響きが無くなったからな……前進を止めた理由は分からんが、今の内か。」
今まで前進していたアウロウカンの停止…それは何を意味するのかは理解できないが、足を止めた今なら迎撃するチャンスだろうと兵士達に持って来させたエクスタスを持ち刃を開閉してみる。
どうやら拒絶反応は出なかったようで、体が切り刻まれるなんて事は無かった。
「…よし、もう少ししたら俺の部隊が来る。そしたら帝具の回収を満足に動ける兵士達全員で行え。指示はナジェンダという奴に取らせる…いいな!」
「「はっ!」」
それでは狩りの始まりだと邪悪な笑みを浮かべ殺気を放つエクスタスを握るエムルを見て、兵士達はビクリと敬礼の体勢のままエムルがテントから出て行くまで微動だにしなかった。
「……デカイな。エクスタスで切れる範囲は精々1メートル……先に尾を切ったほうがいいか。」
アウロウカンが歩みを止めている谷…アウロウカンにしたら一歩で飛び越えれるだろうがそれをしないという事は、何かしらのアクシデント…もしくは知能があるが故の無理に通る必要性を感じているのか、アウロウカンではないエムルはそこに少し疑問を持ちながらも殺る事は殺ると先ずは尾がある方へと向かった。
全長300メートルは優に超えるであろうアウロウカンの横を通る際、戦死したであろう原型を留めていない兵士達の亡骸を見ながらアウロウカンの攻撃方法を解析していた。
ただ踏み潰されるだけならここで死んでいる訳もないし、鋭利な物で切り裂かれた様子もない……見てわかるのは胴体に開いている空洞だろうと亡骸に近付けば、とてもついさっき死んだばかりではないような腐敗臭がした。
「腐ってる……いや、この時期にこんなに早く腐るはずはない……別の危険種か、もしくはアウロウカン……あいつに関係してるか。」
無闇に触らぬよう最短の注意を払いながらも亡骸を見て回っていると一人他とは違う亡骸があり、体に空洞は無いが至る所がすり潰されたかのように平らになっているようで、今までと違う亡骸を間近で見てみれば左手に指輪をしているのが見えるとエムルはニヤリと笑った。
「ダイカクか……なるほどな。こいつら全員アウロウカンの吐き出した物か。不味かったんだな、お前ら……帝具は貰っておくぜ、ダイカク将軍。片付いたら兵士達に弔わせるからそれまでそこで待ってな。」
エムルは掘り出し物を見つけたかのようにダイカクのまだ原型を留めている左手からブラックマリンを引き抜けば、あと二つの帝具の内パンプキンは同じように吐き出された兵士達に紛れているか確認をしたが、どうやらサブル将軍は吐き出されたようには見えなかったため捜索は止めた。
そうこうしている内にアウロウカンの尾へたどり着いたエムルは、躊躇なくエクスタスを構え尾に向かって刃を入れた……が、次の瞬間にはエムルの両腕の骨が砕かれた衝撃と数百メートル吹き飛ばされたという結果だけが残った。
エムルがアウロウカンと交戦を始めた少し前、討伐隊のテントにナジェンダ、ロクゴウ、遅れてエスデスが辿り着き現状を知らされ絶望した。
超級の力は天災に及ぶ物で、普通は逆らうことはせず過ぎるのを待つだけの存在だ。それを一人で立ち向かうエムルもそうだが、問題は攻撃手段も無く帝具を探すように命じられた事だった。
「あの人は!いつも自分一人でやろうとして!」
「ナジェ、そうは言っても武器が無けりゃあ……エクスタスは隊長が持ってったんだろ?後はパンプキンが頼りなんだ。探すしか無い。」
「……私はエムル兄さんがアウロウカンを倒すって信じてる。だからこそ帝具っていうやつを見つける。」
ナジェンダは悔しそうに歯を食い縛り、自分より一つしか年の違わない将軍が前線で今まさに超級と対峙しているのに自分は後方で探し物というこんな情けない事は無いと、自分に戦いの基礎を仕込んでくれた人を思いながら机を叩いた。
ロクゴウも同じで、自分にあった武器を探すのに一緒になって街を走り回り、一緒に酒を飲める兄のような人が一人で戦っている。だが将軍は帝具を探せと言っていた……それを意味するのはここ一番で必要になるからだろうと思いつつ、エスデスの言葉に納得する自分がいて苦笑いを浮かべた。あの人ならやれる…そうとしか思えなかった。
「……わかった。ロクゴウ、お前は動ける兵士を連れてクローステールとブラックマリンの捜索を頼む!私とこいつでパンプキンを探す!」
「了解、副隊長。よし、動けるやつは付いて来い!先ずはクローステールだ!」
「私に命令をしていいのはエムル兄さんだけ……仕方ない。」
ナジェンダはそんな二人を見て、あの将軍なら超級など容易く討ち取ってくれるだろうなと含み笑いをし表情を改めれば、エムルに与えられた仕事をこなそうとロクゴウには兵士を付かせ自分はエスデスと共にパンプキンの持ち主であったサブル将軍が最後に居たとされる高台へ向かった。エスデスはナジェンダに指示を出されれば嫌な顔をするが、兄が帝具を探せというなら探すまでだと髪を上げ縛れば主導権は渡さ無いと言わんばかりに先にテントを出て行き
「くっ……!?」
突如襲った突風に体が少し浮き上がった。
アウロウカンが気紛れに振った尾…それだけで木々が薙ぎ倒され地が抉れる。防ぎようがあるのかと思うほどの光景にエスデスは生唾を飲み込んだ。
あれと戦う等今の自分には無理だと判断したのだ。
幾らエスデスとはいえ天災に立ち向かう程の度胸は今の自分には無く、あれが直撃しても仕方ないと割り切るしかなかった……だが、視線の先にある物が見え目を見開いた。
巨大な鋏を盾にしたのか木々が薙ぎ倒されていく中に兄を見て、エスデスは帝具を探しているなんて事をしている状況では無いと判断しエムルの元へ向かった。
「おい!何処に行く!」
「お前は帝具とやらを探していろ!」
ナジェンダに構っている暇は無いと言うようにエムルが吹き飛ばされた方へ走る。後ろからはまだナジェンダが何かを言っていたが、エスデスは気にせずに薙ぎ倒された木が山の様に積み重なる場所を見つけた。
「エムル兄さ……ん?」
「あの野郎……俺は眼中に無いってか……ムカつくなぁ、そういう態度……そう思わないか、エスデス?」
エムルは倒れた木を背に立ち上がり折れた腕をエクスタスの取っ手に入れ、頭から血を流しながらも笑っていた。エスデスは今まで見た事のない兄の目に睨まれただけで体がすくみあがり体が震えた。
危険種を狩り続けてきたエスデスでさえその兄の姿は手負いの獅子の様に見え、今の自分なら兄に一撃を入れることはできるのでは無いかと錯覚するほどの姿だが、その目は今まで狩ってきた危険種のどれとも違い強固な意志と憎しみ、そして狂喜が滲み出ていた。
強さを体現せし獣…そんな本を兄が読んでくれたことを思い出した。
「エスデス、お前はパンプキンを探せ。普通の銃とは違う形だ。」
エムルはそれだけを言うとアウロウカンへと向かって歩き出した。
すでに頭の中には何処をどうするべきかという考えで一杯だったエムルは、両腕の骨折など無かったかの様にエクスタスを開閉し感触を確かめた。
痛覚遮断
獣は痛覚を一時的に放棄し獲物を狩るその時まで弱みを見せる事は無く、自分の寝床へ着いてから応急処理を施す。
そんな内容を思い出したエスデスは、兄を心配するなど無駄な事だったと兄の言う通りパンプキンを探す為ナジェンダと合流をした。
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