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今回でエムルに帝具を持たせました……エスデスの兄…御察しの通りかと。
翌朝、エスデスは顏を真っ赤にして兄と一緒に寝ている布団から毛布だけ奪い体に巻きつけテントの隅に居た。
「あ、う…」
寝ている間に何をしていたのか、というか何をしたのか起きたら自分は裸だった。
昨日着替えた記憶は確かに無いが、兄が着せてくれただろうし一緒にも寝てくれたのだろう事は見て分かるのだが、なぜお互い裸なんだと起きた瞬間に頭が空っぽになった。
「え…え?」
一緒に寝るまでの記憶は確かに無いが、兄がいきなり自分の服を寝ている間に脱がしたとも考えられるのでは……けど幾ら何でもそんな事はしないだろうし、一体何が何やら意味が分からなかった。
普段から兄の前では全てをさらけ出す気でいるが、起きてこの状況は頭の回転が逆回転するほどエスデスにとって予想外だった。
「じ…自分で脱いだ……?」
しかし寝てる兄の横を見てみれば綺麗に畳まれた兄の服、その逆自分が寝ていた場所の隣には乱雑に脱ぎ散らかしてある自分の衣類。ああ、自分で脱いでるとエスデスは思った。
だが村に住んでいた時なら兄が自分の服も畳む…宮殿で寝たときもそうだったからだ。あんな乱雑に脱ぎ散らかしている状況…つまり兄が寝てから自分が脱いで寝た……そういう事なのだろうかとだんだん冷静に物事を考えれるようになったエスデスは、とりあえずエムルに毛布を返し珍しく起きない兄を不思議に思いながらも着替えテントの外に出た。
「あ、ああエスデス……起きたか。」
「やっぱ隊長起きないか…痛え、ナジェ…どんだけ飲んだ?」
「とりあえずみんなはしゃぎまくってたけど……ごめん、ちょっと吐きそう……」
外ではナジェンダ、ロクゴウ、ルフルが少し白い顏をして座り込んでいた。
周りには倒れて寝ている兵士や空になった瓶が山のように積み上げられ散らばっており、中には気持ち悪そうに蹲っている兵士もいた。
「何かあったのか?」
「……ああ、覚えてないのか。」
「だから飲ませるなって言ってたんだな、隊長。てか隊長も弱いから一本開けたら直ぐにくたばってたけど。」
エスデスは首を傾げた。
「あなた達が先に寝るって言って直ぐに、帝都から使いの人が来たの。エムル将軍を呼び戻すためにね。それで二人して気持ちよさそうに寝ているところ悪かったんだけどエムルに起きてもらって直ぐにパンプキンの回収に向かったの。あなたは眠ってたわよ?それで直ぐに見つけたから明日朝出発するって言って宴が始まって、あなたも起きてきて一緒にお酒を飲んで、先にエムルが寝ちゃったのよ。……ごめん、もう無理。」
ギリギリのラインを超えたのか話をしてくれていたルフルは口を押さえ何処かへ駆けて行った。
纏めると既にパンプキンは回収していて、明日帝都に帰る前に宴をしようと誰かが言ったのか始まった宴で羽目を外し、兄が先にダウンしそれから自分も記憶を飛ばすほど飲んだのかと理解をすれば、だったら兄さんを起こさなければとまたテントへ戻っていき。
「…兄さん、起きて。」
「……んん。」
どうやら早めに寝たエムルでさえ酒が抜けないほど度数の高いものだったのか辛そうな表情で呻き声を上げていた為、起こさなければとエスデスはエムルにかけた毛布を胸まで下げ体を揺らした。
どうやら眠りが深いわけではなく酒が残っているから寝苦しいのか、エムルは何度か揺らされれば目をゆっくり開け上体を起こした。
「っ、エスデス……水を持ってきてくれ……」
「うん、分かった。」
寝起きで更に機嫌が悪そうな兄の姿に素直にそう答え、直ぐに近くの川の水を汲み取ってきた。食料も殆ど尽きているため何か軽い食事でも作ろうかと言ったがいらないと一蹴され少し落ち込んだエスデスだが、向こうに帰ったら料理を食べさせてくれと言われ直ぐに機嫌が直った。
「後のことは大丈夫だな?」
「はい!撤収作業と近隣の復興作業へと移ります!道中お気をつけください、エムル将軍!」
酔いも抜けようやく帝国へ帰ろうとしたときには既に太陽が真上におり、帰ったら遅いと言われるなとオネストを思い浮かべた。別に顏を思い出したいわけではないが、ネチネチ言ってくるのは分かっているので対策本部の事は一番年上の兵士に任せた…どうせ後で代わりの上官が来るだろうしなと付け加えれば馬に乗ったナジェンダとロクゴウ、そしてエムルの後ろにエスデスが座るように帰りは全員馬でとなった。
馬に揺られながらナジェンダはパンプキン、ロクゴウはクローステール、エスデスにはエクスタスとブラックマリンを持たせ帝都に帰り、帝都に着いた頃には明るかった昼下がりから夕陽が眩しい時間になっていた。
「このまま馬を預け宮殿に入る。これ以上待たせるわけにはいけないからな。」
「了解です!」
「隊長!帝具はどうしたら」
「各自持ってろ!命令だ!」
陛下は恐らく待っている。今日帰ると伝えているからには朝から待っているはずだ。いきなり呼び戻した理由は分からないが大臣の急用で間違いないだろうし、今回の件の報酬については既にオネストに通してある。取り敢えず機嫌を損ねれば計画が狂う為四人はそのまま帝都に入り馬を兵士に引き渡せば、少し急ぎ足で宮殿の謁見の間へ急いだ。
「遅くなりました陛下!エムル、他3名ただいま戻りました!」
「……うむ。」
「エムル将軍、あなたの活躍は素晴らしいものだと私達は思っていますが……陛下を数時間待たせるというその態度はいけませんなあ?」
案の定陛下は少し眉を潜め遅れてきた四人が跪くまで口を開け無かったが、オネストが仕方ないというように溜息を吐き肉を食らっている姿にエムルはニヤリとした。
「いいご馳走がいたんだな…オネスト。」
「……ええ、貴方にやってもらわなければならない仕事ですよ。ですから貴方を呼び戻したのです。」
オネストは陛下を待たせた事などどうでもよかった…それよりも大事な事だからだ。肉を食らっているオネストはエムルにだけ分かるサインを送った。暗殺者が帝都に現れた。
肉の食べ方と視線、指の動きでそれを知らせたオネストはその後溜息をまた吐いた。
「しかし残念ながら少し遅かった……今日の昼、ニン政務官が何者かに襲われ自宅で死亡されておりました。殴殺だったようで、顏の形は見事にこの肉のように潰れておりました。」
「大臣……よく食えるな?」
暗殺者と言う単語を使わないという事はそのニンとやらは自分の息のかかった奴だったかとオネストの言葉を聞いていたエムルは、人の顏を潰す力はある相手かと敵の姿を思い浮かべた。
「……了解です、直ぐに探ります。」
「お願いします……と、肝心な事を忘れていました。超級危険種アウロウカンの討伐、帝具4つの回収の役目をよく勤めて下さいました……陛下。」
「ああ、エムル将軍よくやってくれた。これで死んだもの達も報われよう。それで報酬だが……大臣によると帝都警備隊隊長の席をオーガという兵士に譲渡し、そこのナジェンダ・ロクゴウ・エスデスを新たな将軍に迎えてほしいという事だったが……」
「「「え……?」」」
それがアウロウカン討伐と帝具回収の褒美。もともとそう約束していたオネストとエムルだが、関係者の4人(1人は不在)に一切その事を話していなかった為ナジェンダは口を開けエムルとオネストを見ており、ロクゴウは将軍になれる?とうわ言のように呟き、エスデスは何を言っているのか理解できていなかった。
ナジェンダとロクゴウはエムルの下で働き市民からも人気がある…だがエスデスはまだ兵士でも無ければ特に素晴らしい功績を出したわけでは無かった。
「見ての通りでございます陛下。ナジェンダは浪漫砲台パンプキンを回収、ロクゴウはクローステールを回収。私の妹など兵士でも無いのに二つの帝具を回収いたしました。この四人で無ければ任務も完遂できたかどうか……」
「いやはや見事なものですな。陛下、私もあの3人を将軍に推薦いたしますぞ。」
「……大臣がそう言うのならそうなのだろう。よし、分かった。ナジェンダ、ロクゴウ、エスデスの3名を将軍へ迎えよう。それとエムル将軍の帝都警備隊隊長の席をオーガという者へ。」
まるで示し合わせたかのようにすんなりと将軍へと昇格したナジェンダとロクゴウは頭を下げ陛下とオネストに礼を言い、エスデスはなんでという表情をしながら同じように礼を述べた。
「将官式は明日執り行おうと思います。明日朝に新しい軍服も支給するのでそれを着て参加してください。それでは陛下、私はエムル将軍と少しお話がありますので暫く離れます。」
「うむ。では部屋で待っている。今回の事、誠に感謝するぞ四人とも。」
そう言って謁見の間から去る陛下を見送った後、ナジェンダとロクゴウは帝都警備隊の本部へ行き将軍へ昇格した事を報告し今まで一緒に働いていた仲間たちと盛大に宴をしようとなったらしい。
エスデスは大臣と話があるから自分の部屋で待っていろと言われ、取り敢えず一人の兵士に道を案内されエムルの部屋で夕食を作り待つことにした。
「オネスト、陛下が怪しんでたぞ?」
「まあ大丈夫でしょう…流石の私も最初あんな提案された時は度肝抜かれましたが。」
オネストはエムルの事を危険視している。自分のする事に何も文句は無いようだが、自分より強い者と戦うためなら掌を返すようにこちらを裏切る可能性がある為で、もし敵対したとなれば相対できるのはブドーだけ…ただでさえ最近ブドーの考えが読めてきたオネストはエムルを自分の手札から離すつもりは無いのだ。だからあんな無茶な報酬でさえ通らせた。ナジェンダとロクゴウはまだ兵士になって1年…エムル程の活躍をしてはいないが確かに人望はあるし実力もある為、将軍が減ってきている今は嬉しい限りではあるのがオネストの考えだが、兵士でも無いエスデスをいきなり将軍にするとなると話は別だ。
エムル将軍の妹だからと贔屓しても実力が無ければ将軍になどなれないし、なったとしても直ぐに死んでしまうのが落ちだろうとオネストは思っていた。使える駒だと気付けたのは昨日使いに出させた兵士が有益な情報を持ってきたからである。
エムル将軍は妹を大事にしている…それはオネストにとって最高級の肉と同格、もしかしたらそれ以上の情報だった。
エスデスがいればエムルは自分に危害を加えられず、エムルという手札を使いやすくできる…それならばとオネストはエスデスに将軍の位を簡単に渡したのだ。あんな小娘ぐらい直ぐに懐かせてみせると自分の手腕を信じているオネストは、想像以上のブラコンとシスコンを甘く見ていた。もう少し時間をかけ調査をし、エムルとエスデスの事を奥底まで理解しておかなければいけなかった。
「それで、話ってなんだ?」
「そろそろ貴方にも帝具を持っていただきたいのですよ。貴方の実力は知っていますが、下の者に格好がつかないでしょう?」
エムルの顏を憎悪で一杯になっていた。
あんなおもちゃに頼るなら死ぬ。この先面白くなくなる。他の奴に使わせろ。そんな表情を見て取ったオネストは溜息をついた。これほどの男に帝具を渡せば確かに自分も危うくなるが、どんな帝具でも難なく使いこなす技能と実力を持ちエムルを慕う者も多い。現に宮殿内の兵士は殆どエムルに尊敬の念を抱いているのだから……まあ恐怖で塗り固められた者もいますがとエムルに伝える。
「……満足する帝具が無ければ俺は使わないぞ?」
「確か自分の意思さえ刈り取ろうとする凶悪な帝具がいいんでしたっけ?貴方SじゃなくてMなんじゃないですか?エムル君はただでさえ強いんですから……仕方ないですね。今まで隠していた帝具を一つお見せしましょう。魔人顕現デモンズエキスと言ってですね、飲んだ者が発狂して死んでしまう為まだ残っているんですよ。」
そんな恐ろしい帝具を自ら使おうなどと正気じゃないと思いそんな事を言ったオネストだが、次の瞬間ドッと汗が溢れ体が痙攣を始めた。
体が動かず、今後ろを振り返れば死ぬ…そう錯覚させるほどの殺気だった。
「そんな面白いものを隠してたのか……」
「っ、そ、それは…すみません……。最近になって思い出したので……」
死にたくないが為、オネストは醜態を晒してもいいからこの殺気から逃れたかった。デモンズエキスさえ直ぐに適合させてしまうだろうと震える足を動かし帝具保管庫へ着けば直ぐにデモンズエキスをコップに入れエムルへと渡した。
「……壺の中身を全部飲んでもいいが、使い道はありそうだ。」
コップを受け取っても未だ消えぬ殺気にオネストは死んでくれと願った。手札?こんなものは自分の扱えるカードの内に入らない。引けばお互い終了の最悪のカード……死ぬ事も無ければ発狂もしないコップを空にしたエムルの額に黒い模様が現れれば、最悪の存在を誕生させたと絶望をした。
お読みいただきありがとうございます!
取り敢えず今までで一番文字数が少ないですが、これから投稿頻度を高めるためこんなグダグダ感になるかもです。気に入っていただければいいですが。
さて、次回から早めの二章へ行きたいと思います。次回からは視点切り替えとか組み込んでみます。
気になった事とかある人はメールやら感想とかでお答えします!
ではまた次回!