ゾンビと女子高生の平凡な学園生活   作:ドラ麦茶

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第4話・問題児 #09

 ☆

 

 

 

 四木高校に入学した青山梨花は、徒歩で3時間もかかる学校までの交通費を稼ぐために、アルバイトをすると決めた。アルバイト情報誌で見つけた人気アイスクリームショップで働くことにして、その敵情視察のため(?)、牧野里琴と一緒に、駅前の大型ショッピングモールへとやって来た。

 

 目的のアイスクリームショップはフードコート内にある。スーパーやショッピングモールは雨が降った翌日は混む、と、よく言われるが、店頭には5、6人の客が並んでいるだけだった。話題のお店ということでそれなりの行列を覚悟していたのだが、平日の午後とはいえ、かなり客数は少ないようだ。まあ、これが都会のショッピングモールならこの何十倍の客が並んでいるかもしれないが、ここは超が付くほどの田舎町。所詮はこんなものだろう。どうせ忙しくてもヒマでもバイトがもらえる給料なんて変わらないだろうから、これはかえって好都合である。

 

 列の最後尾に並ぶ梨花と里琴。スタッフの様子を観察する。白のワイシャツにお店のロゴが入ったオレンジのエプロンとスカーフ、そして、頭にベレー帽というスタイルだ。まずまずのセンスである。続いて、スタッフの仕事の様子を見た。挨拶をして、お客のオーダーを訊き、アイスを渡す。メニューは10種類もないので、迷うことはないだろう。アイスを渡したら、チョコやマンゴーなどのクリームに客自身の手で浸してもらう。これが、このアイスショップのウリである。後は、オーダーに合わせた料金を受け取り、お釣りとレシートを渡すだけ。ふむ。簡単そうだ。後は味だ。プライドの高い梨花は、美味しくないものを提供するお店で働く気など無かった。

 

 数分で梨花たちのオーダーとなった。梨花は、視察ということで、最もオーソドックスなチョコバニラを注文した。

 

「あなたは何にする? 遠慮しないで、好きなのを注文していいからね」里琴に向かって言った。

 

 里琴は、注文カウンターの横に立っているイーゼルのブラックボードを見ていた。そこには、オススメの商品として、新商品のカプチーノのアイスについて書かれてあった。『コロンビア産のコーヒー豆をじっくり焙煎したエスプレッソと北海道産の濃厚なミルクを練り込んだカプチーノ・フレーバーをホワイトチョコでコーティングし、本場のイタリアン・カフェの午後の一杯を再現しました』だそうである。

 

 しばらく真剣な表情でボードを見ていた里琴は、意を決したように、店員に告げた。「ま……マンゴーを」

 

 なんでやねん! と、思わずツッコミそうになった。梨花がお笑い芸人だったら、迷わずツッコんでいただろう。あれだけ熱心にボードを見ておいて、そこからあえてマンゴーに変更するという変わり身の早さ。店員も、当然カプチーノを注文すると思っていたのだろう。調子が狂ったような口調で「ま、マンゴーですね、かしこまりました」と応えた。まったく。注文しないのなら、なんでカプチーノのボードなんか見てたんだか。

 

 ……あ、そうか。

 

 梨花は、少し考えて気が付いた。

 

 そして、バニラとマンゴーのアイスを用意してくれた店員さんに言った。「すみません。カプチーノを、1本追加してください」

 

「え? あ、はい。かしこまりました」店員さんは、さらに調子が狂った口調で言った。

 

「あ……え……と」里琴がこちらを見ている。

 

「食べたかったんでしょ? カプチーノ」梨花はボードを指さす。「そういう時は、遠慮しないで、あたしを頼りなさい。代わりに言ってあげるから」

 

 そう。里琴は、カプチーノを食べたかったのだが、言えなかったのだ。彼女は、ア行とカ行とタ行で、よくつっかえる。だから、あまりつっかえない言葉から始まるメニューで妥協したのだ。

 

「じゃ、じゃあ……(じゃあ、マンゴーはやめておく)」

 

「いいわよ。せっかく注文したんだし。あたしも、いろいろと食べ比べてみたいからね」

 

「いいい……(いいの?)」

 

「もちろん。さっきも言ったでしょ? あたし、必要な投資は惜しまない主義なの」

 

「あああ……(ありがとう)」

 

 梨花はバニラとカプチーノ、里琴はマンゴーのベース・アイスを受け取り、それぞれ異なるクリームに浸す。取り出すと、クリームはアイスの温度ですぐに冷えて固まった。料金を支払い、フードコートの席に座って、まずはチョコバニラからひと口パクリ。

 

「――美味しい」

 

 思わず唸る。今は貧乏とはいえ、少し前まで梨花の家はお金持ちだったから、舌はかなり肥えている方だ。その肥えた舌の上でなめらかに溶け合うバニラアイスとチョコ。2つの溶ける温度が同じでないと、このなめらかさは出ないだろう。

 

「なかなかやるわね。ちょっと、そっちも食べさせて」

 

 梨花は里琴のマンゴー味もひと口食べてみる。こちらのベースになっているアイスは、バニラとマンゴーシャーベットがマーブル状に練り込まれているモノである。シャーベットにはマンゴーの果肉感がしっかりと残っており、コーティングはマンゴーチョコ。こちらも絶妙な味だ。

 

「それも美味しいわね。あなたもコレ、食べてみなさい」梨花は自分のアイスを里琴に差し出した。里琴もひと口食べ、おいしい、と言った。

 

 さらに、カプチーノも2人で食べてみる。エスプレッソのほろ苦さとミルクのまろやかさ、そして、ホワイトチョコの甘さが、絶妙なバランスで口の中で溶け合った。

 

「……話題になるだけのことはあるようね。褒めてあげるわ」

 

 梨花たちはペロリとアイスをたいらげた。

 

 ――そう言えば、このショッピングモールには中学の時も智沙や真奈美たちと何度も来たけど、こうやって、何かをお互いに分け合って食べたことなんて無かったわね。

 

 じっと里琴を見る梨花。特に考えもなく、無意識のうちに分け合ってしまった。なぜ、あんな事をしてしまったのか。

 

「な、なに?」里琴が首を傾ける。

 

「ううん、何でも無いわ」梨花は立ち上がった。「決めたわ。あたし、このお店で働く。さっそく雇ってもらいましょう」

 

 そのままお店に向かう梨花を、里琴が止めた。「だだだ……(ダメ。いきなり行っても、迷惑になる。まずは電話をして、面接の時間を決めて、それから、履歴書を書いて、持って行く)」

 

「履歴書? なにそれ?」

 

 里琴はさっきのアルバイト情報誌を開いた。真ん中のページに、名前、住所、電話番号などを書く白い用紙が綴じられてある。

 

「こここ……(これが履歴書。これに名前とか学歴とか特技とか書いて、面接に持って行く)」

 

「へぇ、そうなんだ。あなた、詳しいのね」

 

 里琴は最後のページを開いた。「こここ……(ここに、いろいろ書いてある。履歴書の書き方とか、電話や面接の時の注意とか。電話する前に、よく読んだ方がいい)」

 

「ふーん、結構面倒なのね」梨花は椅子に座り直し、開かれたページにざっと目を通した。「まあ、これは家に帰ってから読んでおくわ。あなた、まだ時間ある?」

 

 里琴は頷いた。「だだだ……(大丈夫)」

 

「そう。じゃあ、春物のジャケット買いたいから、あなた、選んでくれない? こんなコート着て毎日学校通ってたら、干からびてミイラになっちゃうわ」

 

 里琴は目を丸くした。「あああ……(あたしが選ぶの?)」

 

「そうよ? 予算が5千円くらいしかなくてね。自慢じゃないけどあたし、今までそんな値段の服、見たことすらないの。だから、お願いね。あ、でも、あまり好き嫌いは言わないつもりだけど、あなたが着てるようなヤツは、勘弁してね」

 

 里琴は笑いながら言う。「けけけ……(結構梨花ちゃんに似合うと思うけど?)」

 

「……あなたもそんな冗談を言うようになったのね。まあいいわ。さあ、行きましょう」

 

 2人はフードコートを離れ、同じモール内にあるリーズナブルな値段がウリのファッションショップに入った。

 

「へぇ? そんなに悪くないのね」

 

 婦人用のジャケット売り場を見て、梨花は感心する。どんな粗悪品を売ってるのかと思ったが、作りはしっかりしていた。派手さに欠ける単色の商品がほとんどで、決して梨花の好みではないが、四木高の制服のまま歩くよりははるかにマシだろう。なにより、思っていたよりはるかに安い。ほとんどの商品は3千円以下で、中には千円を切る物もあった。これは、予想以上に予算を抑えられるかもしれない。うまくすれば、数日はバスで学校に通えるだろう。

 

 里琴はひとつひとつ手に取って吟味している。その中から、薄いブルーのジャケットとグレーのブルゾンの2着を選び、梨花に渡した。「こここ……(これ、着てみて)」

 

 梨花はふたつを見比べた。梨花のセンスではどちらも大差ないので、値段の安いブルーのジャケットを選んだ。「じゃあ、これにするわ」

 

「だだだ……(ダメ、ちゃんと着てみて)」

 

「え? いいわよそんなの」断る梨花。試着するには、どうしてもダッフルコートを脱がなくてはいけない。四木高の制服を、周りの客に見られてしまう。

 

「ききき……(着ないと、梨花ちゃんにどっちが似合うか分からない。それに、サイズが合うかも調べないと)」子供のようにキラキラと目を輝かせる里琴。

 

「――もう。しょうがないわね」半分呆れた口調で言った。まあ、試着室を使えば、制服を見られることはないだろう。

 

 試着室に入り、まずはブルーのジャケットを着てみる梨花。試着室から出て、里琴に見てもらう。「どう? 似合ってる?」

 

 里琴は頷いた。「かかか……(カワイイ)」

 

「そう? じゃあ、やっぱりこれに決めたわ」

 

「だだだ……(ダメ! グレーのも着てみて!)」

 

「分かったわよ。ちょっと待って」梨花は1度中に戻り、グレーのブルゾンに着替えてまた外に出た。「どう? 似合ってるかしら?」

 

 里琴は頷いた。「それも、かかか(それもカワイイ)」

 

「……どっちもカワイイじゃ分からないでしょ。どっちなの?」

 

「だだだ……(だって、どっちも梨花ちゃんに似合ってるんだもん。梨花ちゃんは、どっちが好き?)」

 

「……あたしは最初からブルーだって言ってなかったかしら?」

 

「じゃあ……(じゃあ、ブルーが、一旦保留で)」

 

「はぁ? 保留?」

 

「まだ……(まだ、梨花ちゃんに似合いそうな服、たくさんある。次はコレ)」里琴は、グリーンとピンクの2着のパーカーを梨花に渡した。

 

「まさか、これも着ろって言うの?」

 

 里琴は頷いた。「もちろん……(もちろん! それも、絶対梨花ちゃんに似合うと思う!)」

 

「なんであなたがそんなにテンション上がってるのよ。買うのはあたしなのよ?」

 

 里琴は、恥ずかしそうに顔を伏せた。「だだだ……(だって、あたし、友達の服を選ぶなんて、初めて……)」

 

「――――」

 

 梨花は、思わず言葉を失う。

 友達と買い物に来て、服を選ぶ。そんな、10代の少女なら当たり前のことも、この娘は今まですることができなかったのだろうか。

 

 ――いや。

 

 それは、自分も同じだ。

 

 智沙や真奈美など、中学時代の友達に服を買ってあげたことは何度もあるが、自分が服を買うときは、いつも1人だった。そもそも、智沙や真奈美を友達だと思ったことはない。あたしだって、こういうのは初めてなのだ。

 

「……分かったわよ。着てみるから」梨花は、優しく微笑んだ。「その代わり、本当にあたしに似合う1着を選びなさいよ?」

 

「わかった……(分かった! じゃあ、もっと持ってくる!)」

 

 ものすごい笑顔でジャケット売り場に戻る里琴。虎のスカジャンを着た見るからに不良という少女が、無邪気にはしゃぎながら服を選ぶ姿は、他の客や店員の目には、さぞかし異様な光景に映っていることだろう。まあ、いいけどさ。梨花は、受け取ったパーカーを着ようと、ブルゾンを脱ぎながら試着室に戻ろうとした。

 

「――あれ? 梨花じゃない?」

 

 聞き覚えのある声で呼ばれ、梨花は、ビクッと大きく震えてしまう。それは、梨花が中学生の時に最も聞いた声、そして今は、最も聞きたくない声だった。無視していれば、人違いだと思って通り過ぎてくれないだろうか? そんな願いもむなしく、こちらにやって来る。

 

「やっぱり梨花だ! 良かったー、会えて」それは、中学の同級生の智沙だった。「もう、ケータイ繋がらないから、どうしたのかと思ったよ」

 

 智沙の後ろには真奈美もいた。2人とも、聖園高校の制服を着ている。四木高とは真逆、この街では、エリートの象徴とされる制服だ。

 

「ごごごごめんなさい。ああああたしのケータイ、おおおおとして、ここここわれちゃって」つっかえながら喋る梨花。

 

「何変なしゃべり方してんのよ」笑う智沙。「でも、ホント、会えて良かったよ。何してんの?」

 

 梨花は、コホンと咳ばらいをした。「見ての通りよ。服を選んでるの」

 

「それは分かるけど、こんな安い店で? 梨花が?」

 

 ギクリとしたが、なるべく平静を装って言う。「ま、まあ、たまには庶民の服を試してみるのもいいかなって思って。でも、全然ピンとこないから、やっぱりやめておくわ」

 

「えー? そんなことも無いと思うけど」真奈美が言った。そして、梨花が持っているパーカーを指さす。「それ、今から着るんでしょ? 似合うかどうか、見てあげる」

 

「い、いいわよ。こんな安い服、絶対似合わないから」

 

「それはそれで見てみたい気もするんだよね、ビンボーファッションの梨花ちゃん」智沙が言う。「いいからいいから、早く着替えてみて」

 

 そう言って、智沙はいきなり試着室に入ってきて、梨花が着ているグレーのブルゾンを脱がそうとした。

 

「――え?」

 

 中から出てきた制服を見て、智沙の手が止まる。

 

 真奈美も中を覗きこみ、目を丸くした。「――それ、四木高の制服だよね。なんで梨花が、そんなの着てるの……?」

 

「いや……これはその……コスプレというか……」

 

 梨花が何と言い訳しようか困っていると、間の悪いことに。

 

「りかちゃん! おおおおおおおおおおおおおまたせ!」

 

 興奮して普段より余計につっかえている里琴が戻って来た。

 

 見てはいけないものを見てしまった時の、気まずい顔の智沙。「えっ……と、梨花の……友達……?」

 

「いや……その娘は……その……何と言うか……」

 

 梨花はもう、パニックで、何と言っていいか分からなかった。智沙も真奈美も、言うべき言葉が見つからない様子だ。だから、この場で一番喋るのが苦手は人が、喋ることになってしまった。

 

「ちちちちちちちがう。ああああああああたしは、りっりっりっりっりかかかかっかっかっちゃちゃっちゃっちゃんの、つっつっつっつきそいで……」

 

 焦っているせいで、普段はつっかえない言葉もつっかえる里琴。

 

 智沙と真奈美は、戸惑いを通り越し、もはや里琴を恐れているような顔になった。

 

「そ、そうなんだ」真奈美は、智沙の方を見た。「じゃ、じゃあ、行こうか、智沙」

 

「う、うん、梨花、また今度ね」

 

 2人は逃げるように店を出て行った。去り際に「何アレ? チョー気持ち悪いんだけど」「ヤバイよね」「てか、親に捨てられたってウワサ、ホントだったのかな」「だねー。だから四木高なんだよ、きっと」と、言いながら。

 

 梨花は床に視線を落とした。里琴は、ただ戸惑った表情で梨花を見ていた。気まずい沈黙が流れた。

 

「――ゴメン、あたし、帰る」

 

 梨花はブルゾンとパーカーを里琴に渡し、ダッフルコートを持って店の外に出た。

 

「り……りかちゃん、まって!」里琴が追いかけてくる。「あああああああああの、あああああああたし、そっその、ごごごご……」

 

「――ついて来ないで!!」

 

 梨花は、その時初めて、里琴の言葉を途中で遮ってしまった。

 

 そして、里琴から逃げるように走って、ショッピングモールの外に出た。

 

 しばらく走っていたが。

 

 ――ああ。最低、あたし。

 

 すぐに後悔の念が押し寄せてきた。走るのをやめる。里琴は何も悪くない。彼女はただ、初めての同級生との買い物に、ちょっと浮かれていただけだ。悪いのはあたしだ。四木高に入学したことを、智沙と真奈美に知られたくなかったから。あの2人にバカにされたくなかったから。でも、知られてしまって、バカにされて、恥ずかしくて、だから、そばにいた里琴に八つ当たりをしてしまった。智沙と真奈美なんて、放っておけばよかったんだ。あの2人があたしと会いたかったというのは、どうせ何か欲しいブランド品でもあったからだろう。あの2人はあたしを、友達ではなく、何でも買えるクレジットカードだと思っている。あたしだって、あの2人のことを友達だと思ったことなんてない。お互い、利用できるから利用していただけだ。学校が違うから、もう利用価値はない。あの2人だって、登下校の交通費にも困る身であるあたしになど、興味はないだろう。そんな2人のために、あたしは、里琴に八つ当たりをしてしまったのだ。

 

 ――あの娘、落ち込んでるかしら? それとも、怒ってるかしら? 謝った方がいいかしら……?

 

 不思議な気持ちだった。今までクラスメイトと喧嘩をしたり、イライラして八つ当たりをしたことは何度もあるが、相手がどういう気持ちか考えたことなど無い。相手が落ち込もうが怒ろうが、梨花には関係が無かったからだ。いつだって、謝るのは相手の方だった。自分から謝ったことなど、1度もない。なのに何故、あの娘に対してはこんな気持ちになるのだろう?

 

 ――ふ……ふん。決まってるでしょ。あの娘には、利用価値があるからよ。あの娘がそばにいれば留衣たちはちょっかいを出してこないだろうし、バイト代でバスの定期券を買うまでは登下校の足にもなる。そうよ。あの娘も、あたしにとっては智沙や真奈美と変わらない。利用できるから利用するだけ。残念ながら、あたしにはもう、おもちゃやブランド品を買うお金はない。クラスメイトを従わせるための武器は、この、生まれつき達者な口だけだ。謝るのは、戦略のひとつ。だから、別に悪いと思っているわけじゃないんだからね!

 

 誰も聞いていないのに心の中で言い訳をして、梨花はショッピングモールに戻ろうとした。

 

 しかし、その前に、また面倒が立ちふさがる。

 

「梨花ちゃーん。やっと、朝の話の続きができるね」

 

 留衣たち3人だった。どうやら今日は人生最悪の1日のようである。この先たとえ13日の金曜日の仏滅に黒猫が横切った後の梯子の下に落ちている鏡と櫛を拾った日に竹の花が咲いたとしても、今日以上に不運な日は無いだろう。

 

「あなたたち、あたしのストーカーか何かかしら? ヒマそうで、羨ましいわ」梨花はいつものように挑発的な口調で言う。

 

「なんとでも言いなさい。やっと、中学時代の恨みを晴らせる時が来たんだ。とりあえず、あっちで話そうか」人気(ひとけ)のない路地裏の方を指さす留衣。

 

「あなたたちと話すことなんて無いって、言ってるでしょ? あたし、急いでるの」

 

 梨花は3人の横を通り抜けようとした。しかし、新たに現れた別の4人に行く手を塞がれた。

 

「な……何よ、今度は」梨花の口調が少し乱れる。無理もない。現れた4人の内3人は、金属バットや竹刀などの凶器を持った男子だった。梨花たちの高校は女子高だから、別の高校の生徒を呼んだのだろう。顔は、見覚えがある。名前は思い出せないが、3人とも、小学生や中学生の頃の同級生だ。もう1人の女子は、四木高の制服を着ていた。こちらは少し考えて思い出した。小学3年の頃、梨花の取り巻きだった1人、彩美だ。中学は梨花と別だったが、四木高の制服を着ているということは、同じ高校らしい。

 

「梨花が親に捨てられて四木高に来てる、って言ったら、みんな、話がしたいって、集まってくれたんだよ?」

 

 それで思い出した。この男子3人も留衣たちと同じく、小学生の時に梨花を怒らせて、クラスからハブにされた子たちだ。

 

「さあ、来てもらうわよ」

 

 優真と恭子に両腕を掴まれた。

 

「ちょっと! なにするの! 放しなさい!」

 

 暴れても無駄だった。梨花は、7人に拉致される形で、人気(ひとけ)のない路地裏の空き地に連れて行かれた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

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