ゾンビと女子高生の平凡な学園生活   作:ドラ麦茶

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第5話・生徒会長 #04

 ☆

 

 

 

 不良たちともめていたところを、隣のクラスの田宮一華と白石彩美に助けられた架純たち。一華は、この学校を改革するために岡崎リオの力が必要だという。翌日の放課後、作戦会議を行うとのことで、さっそく一華に呼び出された。

 

 だが、茉優は。

 

「なんかあの娘、すごーくめんどくさそうだから、あたしはパス」

 

 そう言って、1人だけさっさと帰ってしまった。架純も気持ちは同じだ。関わらない方がいいと、本能が警告している。

 

 しかし、岡崎リオは律儀だった。

 

「でも、危ないところを助けてもらったから、一応、話だけは聞いてみる」

 

 そうなると、リオ1人だけを行かせるのもなんだか悪いので、仕方なく、架純もついて行くことにした。

 

 架純たちが呼び出されたのは四木高の生徒会室だった。ガラガラとスライド式のドアを開けると、部屋の中央に口の字型に長机が置かれ、一番奥の席に一華が座っていた。少し離れたところに彩美がいる。

 

「四木高生徒会へようこそ、岡崎リオさん、百瀬架純さん」なんとなく尊大な態度の一華。

 

「ようこそ、って、一華さん、生徒会の人なの?」リオが訊く。

 

「もちろん、違うわ」キッパリと言った。

 

「じゃあ、勝手に部屋を使っちゃ、マズイんじゃない?」

 

「いいのよ。この学校の生徒会なんて、有って無いようなものなんだから」

 

 一華の話によると。

 

 通常、生徒会役員というのは、生徒の中から志のある者が立候補し、やりたいことや公約などを全校生徒の前で述べ、最後に生徒全員で選挙をし、決めるのが普通だ。

 

 しかし、この学校には生徒会役員なんて面倒なことをやりたがる生徒は皆無で、毎年立候補者は0。仕方なく、先生が生徒の中から適当に選んで決めているのだそうだ。ゆえに、選ばれた人も生徒会役員としての自覚や責任感は乏しく、集まるのは体育祭や文化祭など大きなイベントの時くらいで、それすら先生に言われてイヤイヤやっているのだという。

 

「まったく、嘆かわしいわ」一華は右手で頭をおさえ、大袈裟な動作で首を横に振った。「生徒会は生徒たち代表。みんなの先頭に立ち、導いていくためのモノ。それが、教師から適当に選ばれて嫌々やっている? そんなんじゃ、いつまでたってもこの学校は底辺のままよ! あたしたちがこの学校を変えるためには、まず生徒会を掌握する必要があるの! この生徒会室に人はいない。あたしたちが頂いても、なんの問題もないわ」

 

「そんな無茶苦茶な……」苦笑いのリオ。

 

「ま、安心して」彩美が言った。「一応、生徒会室を使う許可は取ってあるから。先生に相談したら、むしろドンドン使ってくれって感じだったよ」

 

「そっか。なら、良かった」リオは笑った。

 

 一華は納得いかない表情だ。「それだけ、この学校に、あたしたちのような熱意をもった生徒がいないってことよ。まったく、嘆かわしいわ」

 

 架純はリオにそっと耳打ちする。「……なんか、さっきから『あたしたち』って、もうすでに一員にされてるけど、断るなら、早い方がいいと思うよ?」

 

「ううん、大丈夫。ホント言うとあたし、結構興味あるな、この話」リオは、悪意のない笑顔でそう言って、席に座った。

 

 まあ、リオがそう言うなら仕方がない。架純も仕方なく席に着いた。

 

 彩美も席に着く。「――で? 隣のクラスの娘まで巻き込んで、何するつもり?」

 

「もう何度も言ってるでしょ? あたしたちで、この学校を変えるのよ」一華は拳を握り、熱い口調で語り始めた。「みんなも知ってのとおり、この四木女子高校は、世間から、街の落ちこぼれが集まる学校と認識されている。街を歩けば後ろ指を指され、陰口をたたかれ、笑われ、バカにされ、石を投げられ、おまえのかーちゃんでーべーそと言われ、落とし穴を掘られ、生き埋めにされ、ゾンビとなってよみがえっても頭を潰され、ヒドく虐げられているわ」

 

「……いや、そこまで酷くは無いけど」呆れ声の彩美。

 

「一華さん、そんなヒドイことされてるんですか?」マジメに心配するリオ。

 

「ま……まあ、後半はちょっと脚色したけど、とにかく、この学校の生徒がバカにされているのは事実よ! あたしは、この風潮を変えたいの!」

 

「それは分かったから、具体的に何をするの?」彩美が訊く。

 

「フッフッフ。岡崎さんがあたしたちの仲間になってくれたのは、天の助けだわ。ズバリ、学力アップ大作戦よ!」

 

「学力アップ大作戦!?」リオたちは顔を見合わせる。

 

「そう! スーパーエリートの岡崎さんを中心に、みんなで猛勉強して、学校の偏差値を上げるの! 聖園校に負けないくらいの偏差値になれば、もう誰もあたしたちのことをバカにしないはずよ!」

 

「それって、岡崎さんが、1年の生徒全員に勉強を教えるってこと?」彩美が訊いた。

 

「ま、そういうことになるわね」

 

「……あんた、とんでもないムチャブリするね」

 

「ムチャなのは分かってる。でも、何事もやらなければ始まらないわ!」一華は力強く宣言し、リオを見た。「と、いうわけだから岡崎さん。みんなの勉強、見てやってね」

 

「あ、えっと……みんなに勉強を教えるのは、別に構わないんだけど……」リオは、困った表情で架純を見た。

 

 架純は、リオの代わりに言ってあげる。「一華ちゃん? この学校の偏差値って、いくつか知ってる?」

 

「え? さあ? 分かんないけど、まあ、いくら落ちこぼれの学校だからと言っても、1500くらいはあるんじゃない?」適当な感じで答える一華。

 

「……あんた、そもそも偏差値って概念を知らないでしょ?」やれやれという顔の彩美。

 

「なによ、そういう彩美は知ってるの?」

 

「当たり前でしょ。偏差値っていうのは、全国の学校の学力の平均値を50として、各学校の学力を数値化したものだよ。落ちこぼれの四木高が、50より高いわけないだろ? てか、1500って、どこの地球人の戦闘力だよ」

 

「も、もちろん知ってたわよ。今のは、あなたたちの知識を試したの」うろたえる一華。

 

「そう。でね、うちの学校の偏差値なんだけど――」架純はスマホを取り出し、『四木高・偏差値』で検索した。「はい、出ました。最新のデータによると、四木高の偏差値は38。下から数えた方が早い、と言うよりは、ヘタすりゃこれ、一番下なんじゃないかな?」

 

「まぢで? あたしたちって、そんなゴミみたいな戦闘力だったの?」

 

「そ。だから、岡崎さんがみんなに勉強を教えて、仮に偏差値が数ポイント上がったとしても、あんまり変わりは無いわけ。もちろん、これから何十年という長い目で見れば、数ポイントのアップもバカにはできないよ? でも、一華ちゃんは、そんな先を見据えてるわけじゃないんでしょ?」

 

「そうだね。大切なのはあたしが在籍している期間であって、あたしが卒業した後、この学校の成績がどうなろうと、別に知ったこっちゃないかな」あっけらかんと言う一華。

 

「……最低だな、お前」と、彩美。

 

 架純はスマホをしまった。「まあ、そういうわけだから、岡崎さんがみんなに勉強を教えても、短期間で学校を改革、というわけにはいかないと思うよ?」

 

「ふうむ、なるほどね」一華は腕を組んだ。「ちなみに好奇心から訊くんだけど、岡崎さんって、中学時代の偏差値はいくつだったの?」

 

「えっと、70前後かな」

 

 そのリオの数値に、全員言葉を失う。

 

「え? どうしたの? みんな」戸惑うリオ

 

「あ、いや」彩美が咳払いをした。「そんな偏差値が存在するんだね。知らなかったわ。なんで四木高なんかに来たの?」

 

「まあ、いろいろあってね。聖園高落ちちゃって、他に行くところが無かったから」

 

「偏差値70でも、聖園に受からないんだね」一華が言った。

 

「ちょっと、一華」

 

 彩美に睨まれ、一華は謝る。「……あ、ゴメン」

 

「ううん、別にいいよ。まあ、落ちるのも当然だよ。だって、聖園の偏差値って、78だもん」

 

 その数値に、またまた全員言葉を失う。

 

「え? どうしたの? みんな」戸惑うリオ

 

「あ、いや」彩美がまたまた咳払いをした。「……初めてフリーザを見た時のクリリンって、こんな気持ちだったのかな?」

 

「後2回変身するって言われた時の絶望感もすごかったと思うけど」架純が言った。

 

「いや、全ての敵の中で一番絶望したのはナッパでしょ」一華も言う。

 

「みんな、さっきから何を言ってるのか分からないんだけど」困ったように言うリオ。

 

「ううん。なんでもない」一華が言った。「まあ、勉強の方は岡崎さんに全国模試で1位を獲ってもらうとして」

 

「いや、そんなの絶対無理だから」両手を振るリオ。

 

「部活に力を入れるのはどう? ほら、勉強がダメでも、部活動に力を入れてる学校って、結構多いじゃない?」

 

 彩美が腕を組む。「まあ、学力アップよりは現実的ではあるかもね」

 

「そうなのよ!」一華が彩美を指さす。「勉強と違い、ひとつの部が全国制覇するなり上位入賞するなりすれば、学校全体に箔がつく。つまり、生徒全体ががんばらなくてもいいわけよ」

 

 つまり、サッカー部なら11人、ソフトボール部なら9人、バスケ部なら5人、テニスや卓球やその他個人競技なら1人が、ものすごーく頑張ればいいわけだ。まあ、そんな単純なものではないだろうが、彩美の言う通り、学校全体の学力をアップするよりは現実的ではある。

 

「でも、この学校、何か強い部あったっけ?」架純は言った。

 

「調べてみましょう」

 

 と、いうことで、4人は手分けして、四木高の部活動の成績を調べることにした。生徒会室には、ここ数年の部活動の練習試合結果や大会の順位などがまとめられた資料がある。それらを片っ端から見ていくが。

 

「運動部は、ダメそうだね」彩美が資料をめくりながら言った。「陸上部、ソフトボール部、テニス部、バスケ部、バレー部、卓球部、その他、すべて、大会では予選1回戦敗退。それどころか、練習試合ですら勝ってないよ」

 

「文化部も、同じだね」リオも資料をめくりながら言う。「美術部や華道部とかあるけど、コンクールでの入賞経験は無いみたい」

 

「これもダメそうだね」架純はパタンと資料を閉じた。「勉強と同じで、多少強くなって1回戦勝ち上がったとしても、あんまり変わらないかも」

 

「まったく、嘆かわしいわね」一華が頭を抱えた。「勉強もダメ、部活もダメ。この学校の取柄は何なの?」

 

「どんな落ちこぼれも受け入れる、懐の広さじゃない?」と、彩美。

 

「懐の深さ、だよ」律儀に訂正するリオ。

 

 と、一華がひらめいたように言う。「そうだ。今ある部を強くするのが難しいなら、新たに部を作るっていうのはどう?」

 

「うん? どういうこと?」架純が訊く。

 

「全国でも上位に入れそうな部を、新しく作るのよ」

 

 うーん、と、唸る彩美。「……まあ、マンガとかドラマとかでは、新しく部を作って全国大会に、っていう話、よく見るけど、現実に、そんな簡単に行くかな?」

 

「みんな、何か、1、2年で全国大会上位に行けるような特技、無い? かるたとか、書道パフォーマンスとか、男子シンクロとか?」

 

 一華に言われ、架純は考える。当然、自分にそんな特技など無い。というか、そんな特技があれば、部活の推薦でもっといい高校に行けただろう。みんなも同じではないだろうか? と、考えて、ふいに、昨日のことを思い出した。不良ども5人をあっさりと蹴散らした彩美。確か、古武術百段とか言っていた。まあ、百段というのは冗談だろうが、かなりの達人であることは間違いない。

 

 一華とリオもそれに気付いたようで、一斉に彩美を見る。

 

「え? ひょっとして、あたし?」戸惑う彩美。

 

「そう。あんたの古武術のウデなら、あっさり全国大会に行けるんじゃない?」一華が目をキラキラさせる。

 

「えー? 部活なんて勘弁してよ」

 

「いいじゃん。この学校のために、一肌脱いでよ」

 

「やだよ、めんどくさい。それに、古武術部なんて、どこの高校もやってないでしょ?」

 

「だからいいんじゃない。競争率が低ければ、それだけ、上位を狙えるんだから」

 

「でも、競争率が低いどころか、そもそも大会すらやってないと思うけど」

 

「なんだ、じゃあ、ダメじゃん」

 

 再び諦めの空気が漂い始めた時。

 

「――ボクシング」

 

 不意に、リオが言った

 

「――え? 岡崎さん、何?」架純が訊き返す。

 

「ボクシングとか、どう? ほら、茉優さんが、休み時間とかにやってるじゃない?」

 

 確かに、茉優は今、ダイエットのためだとか言って、休み時間にボクシングのマネ事をしている。テレビや雑誌などで最近話題の、ボクササイズというヤツだ。

 

「あ、いいかも」彩美が同意する。「確か、女子ボクシングって、競技人口がすごく少ないんだよね。何年か前、女性芸人がアマチュアのヘビー級大会に出て、参加者が1人だったから試合せずにチャンピオンになったんじゃんじゃなかったっけ?」

 

「それはイケるかもね。ちょっと待って、調べてみる」架純は再びスマホを取り出し、『高校・ボクシング・女子』で検索してみた。「――あった。えーっと……いろいろ細かく階級があるみたいだけど、去年のインターハイは、どの階級も、参加者は10人以下みたい」

 

「つまり、県予選さえ突破すれば、その段階で全国ベスト10入りなのね?」一華が再び目を輝かせる。

 

「そういうことになるね」架純は笑顔で応えた。

 

「お手柄だよ、岡崎さん! やっぱり、あなたが仲間になってくれてよかったわ!」一華はリオの手を握り、ブンブン振って喜んだ。

 

「いや、それほどでもないけど」照れくさそうに笑うリオ。

 

「よし! じゃあ、四木高女子ボクシング部設立を目指して、がんばりましょー!!」

 

 一華が拳を振り上げ、それに応えるように、みんなも「おー!!」と手を上げた。

 

 架純は、いつの間にか一華のペースに取り込まれていることに気付いた。

 

 しかし、それほどいやな気分ではなかった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

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