ゾンビと女子高生の平凡な学園生活   作:ドラ麦茶

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第5話・生徒会長 #07

「――お待たせしました。ここは、OKでぇす」

 

 屋根での作業を終え、脚立を下りてきた北原愛の声で、玲奈たちは話を中断した。四木高から少し離れたところの民家。故障した自家発電装置に代わり、太陽光発電へと切り替える準備をしているところだ。玲奈たちの役目は、愛が作業している間、ゾンビを近づけさせないことだったが、結局ゾンビの姿を見ることすらなかった。

 

 脚立をたたむ愛。「じゃあ、次のポイントに行きましょう」

 

 玲奈たちも支度を整え、愛の先導で次の作業場所に向かった。

 

「はい、到着でぇす」

 

 愛が立ち止まったのは、さっきの民家から10分ほど歩いた場所にある電柱だった。

 

「こんなところで、どうするの?」玲奈が訊く。

 

 愛は電線を指さした。「さっきの民家から電力会社に電気を送るケーブルと、電力会社から学校へ電気を送るケーブルが交わるのが、ここです。その2本のケーブルを、今から繋ぎ変えまぁす」

 

 そう言うと、愛は脚立を使ってスタコラと電柱を登って行った。

 

「気を付けてね。命綱とか、ちゃんと付けるのよ」

 

 玲奈の注意に、愛は手を振って応えた。

 

「しかし、電気ケーブルの繋ぎ変えまでできるなんて、本当に、何でもできるんだね、あの娘」万美が電柱を見上げ、感心したように言った。

 

「……前から疑問に思ってたんだけど」玲奈は万美に訊く。「なんで、愛ちゃんみたいな娘が、四木高にいるの? 愛ちゃんくらいの頭脳なら、聖園高校はもちろん、もっとレベルの高い海外の高校とか、うまくすれば、飛び級で大学にも入れるんじゃない?」

 

「ああ。あの娘も、香奈と同じで、岡崎さんと一華が勧誘したんだよ」

 

「へぇ? そうなんだ」

 

「うん。愛は、梨花の中学の後輩でね。ものすごく頭のいいって話を聞いて、少しでも学校の偏差値を上げるために、ダメも元で誘ってみたらしいの。そしたら、なんと即決OK。決め手は、家から一番近いのが四木高だったから、だってさ。聖園とか飛び級とかには、たぶん興味がないんじゃないかな? 学校なんてどこでも同じだって言ってたから」

 

 ナルホド。腹の底から納得する玲奈。愛は、どんな本でも数分で読んで丸暗記できる頭脳の持ち主だ。だったら、四木高も聖園高も、大した違いは無いのかもしれない。要は、本さえあればいいわけである。

 

 再び周囲を警戒し始める玲奈たち。辺りは、田んぼや畑が多く、民家はまばらだ。さっきの場所と同じで見晴らしが良く、ゾンビの姿も見かけない。

 

 玲奈は、また万美に話しかけた。「――それで、さっきの話の続きなんだけど、ボクシング部のツブヤイターを始めてから、どうなったの?」

 

 その様子を見て、未衣愛と里琴もやってくる。梨花は、相変わらずこちらの様子を気にしつつも、話の輪に入ろうとはしなかった。

 

 万美は上を向き、記憶を探るような仕草をした後、言った。「――岡崎さんたちは、あの後、ボクシング部のツブヤイターを始めたみたいだったよ。でも、全然フォロアー数が伸びないって嘆いてたから、たぶん、なんの効果も無かったんじゃないかな」

 

 やっぱりそうか、と、玲奈は納得した。ツブヤイターなんて、リオのガラではない。

 

 しかし、さっきの万美の話にあった通り、リオは昔から、携帯電話やパソコンのセキュリティに詳しかった。玲奈も中学生時代、スマホにフラッシュライトアプリを入れようとしたら。

 

「このアプリ、IDや電話番号などの個人情報を読み込む仕様になってる。フラッシュライトを使うのにそんな情報が必要だとは思えないから、なんか怪しいね」

 

 と、言われた。そこで、いろいろ調べ、安全そうなアプリを選んだのだ。

 

「――そう言えばさ、関係ない話だけど、その頃じゃなかったっけ? 岡崎さんの、あの事件」思い出したように言ったのは、未衣愛だった。

 

「あー、そうだったね。あの事件は、ちょっと衝撃だったよね。まさか岡崎さんが? って」万美は何度も頷きながら言った。

 

「事件? どんな?」玲奈は訊く。

 

 未衣愛が玲奈を見た。「二学期の終り頃だったと思うんだけど、駅前のショッピングモールで、岡崎さんが、ネックレスか何かを万引きしたって疑われて、お店の人に捕まったんだよね」

 

 ドクン、と、玲奈の心臓が、大きく鳴った。

 

 リオが、ネックレスを、万引きした――?

 

 その事件は、玲奈も知っている。その場にいたからだ。

 

 そして、リオが無実だということも知っている。本当にネックレスを万引きした人も知っている。

 

 玲奈の心の動揺に気づかない万美。「まあ、あたしもその場にいたわけじゃないから詳しくは知らないんだけどね」

 

 里琴が、ゆっくりとした口調で言う。「たたたた……(たぶん、梨花ちゃんが詳しい。あの時、一華ちゃんと彩美ちゃんと一緒に、現場にいたはず)」

 

 未衣愛が目を輝かせる。梨花を話の輪に加えるチャンスだと思ったのだろう。「そっか。ねぇ、梨花!」

 

「何よ?」梨花は不機嫌そうな目を向けた。

 

「梨花、駅前のショッピングモールでアルバイトしてたよね? 1年の時の、岡崎さんの事件、覚えてる?」

 

「ええ、その場にいたから、よく覚えてるわ」

 

「玲奈さんが、岡崎さんの話を聞きたいって。話してあげてよ」

 

「え……? あ……いや……あたしは……」

 

 戸惑う玲奈に気付かず、未衣愛は梨花を手招きする。

 

 梨花がやって来た。「……まったく。ムダ話してないで、ゾンビが来ないか、ちゃんと見張ってなさい」

 

 未衣愛は笑顔で迎えた。「ま、固いこと言わないの。ゾンビは近くにいないし。ね?」

 

 梨花はチラリと万美を見た。万美はそっぽ向いているが、会話の輪から外れようとはしない。

 

「……フン。しょうがないわね」梨花は髪をかき上げた。「あれは、二学期の期末テストの最終日だったわね――」

 

 聞きたくない――そう思う反面、聞かなければいけないという思いも、玲奈の心にはある。

 

 複雑な気持ちを抱いたまま、梨花の話は始まった。

 

 

 

 

 

 

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