ゾンビと女子高生の平凡な学園生活   作:ドラ麦茶

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第5話・生徒会長 #11

 里琴の話を食い入るように聞く玲奈。里琴も、彩美と香奈という人も、全員武術の達人だ。しかし、武装した暴走族10人を相手に、大丈夫だったのだろうか? もう1年以上も前の話だが、心配で仕方なかった。

 

「――それで、どうなったの?」続きを促す玲奈。

 

 だが里琴は、少し困ったような顔になり、チラリと梨花を見た。

 

 そこで、玲奈は気づいた。慣れない長話で、里琴は少し疲れてしまったようだ。「あ……ゴメンなさい」

 

「あ……いいいいい……(いや、大丈夫)」里琴は申し訳なさそうに言った。

 

 里琴の話を引き取るように、梨花が話し始めた。「10人程度の暴走族に、どうにかされる3人じゃないわ。あっという間にやっつけて、あたしたちはケガひとつ無かったんだけど、通行人が通報したみたいで。駆けつけた警察官に、みんなで補導されちゃったの」

 

「そんな!? 梨花さんたちは、香奈さんを助けただけなのに!」

 

「そうなのよ。でも、あたしたちが四木高の生徒だからか、全然話を聞いてくれなくて」

 

「そんな……ヒドイ……」

 

「まあ、こっちは無傷で向こうは10人病院送りだから、仕方ないと言えば仕方ないんだけどね」

 

 里琴が頷いた。「ぶ……ぶきを(武器を持ってる大勢の人を相手に、手加減はできなかった)」

 

「そうね。あいつらに手加減なんかしてあげる必要もないし」梨花は、里琴から玲奈に視線を戻す。「それで、学校にまで知られて、もう大騒ぎよ。まあ、結局はあたしたちの言い分が認められて、厳重注意くらいで済んだけど、忍先輩たちは、今まで何度も同じように問題を起こしていたから、退学になっちゃったの」

 

 玲奈は、ほっと胸をなでおろした。補導されたのはかわいそうだが、リオたちが停学や退学にならなかったのは幸いだった。忍先輩という人は、まあ、自業自得だろう。

 

 梨花はさらに話を続ける。「あたしたちはそれで良かったんだけど、一番被害をこうむったのが香奈よ。そのケンカが原因で、高校の推薦入学が取消になっちゃったの」

 

「ええ!? そんな!」

 

「香奈は、ボクシング部のある他の高校をイロイロ当たってみたんだけど、事件のことが知れ渡ってしまったみたいで、どこの高校も受け入れてくれなかったの。3月に入ってたから受験できる高校自体も少なくて、結局、四木高に来るしかなかったみたいよ」

 

「そうだったんですか……」

 

「ま、おかげで一華は大喜びだったわ。不良どもを学校から一掃した上に、ジュニアチャンピオンのボクシング部員が入学することになったんだから。結局、あの娘の思惑通りになっちゃったってわけ」

 

「全部あたしの作戦通りだ! って、言い張ってたよね」万美が笑いながら言った。

 

「そうそう。全部、岡崎さんのおかげなのにね」梨花も笑って答える。

 

 だが、ケンカしていたことを思い出したのか、2人は咳払いをし、顔を逸らした。

 

 梨花はさらに話を続ける。「まあ、香奈も最初は落ち込んでたようだけど、すぐに気を取り直して、四木高で頑張っていくって決めたみたい。それで、その夏のインターハイでいきなり全国2位になって、その次の秋の国体では優勝。学校は、大盛り上がりだったわ。岡崎さんの努力が、報われたのよ」

 

「そんな頑張りが認められて、岡崎さんは、四木高の生徒会長に選ばれたの」万美が言った。「ただ勉強ができるからとか、マジメだからとか、そういう理由だけじゃないんだよ? 岡崎さんは、誰よりも四木高のことを考えてたから、みんなが選んだんだ」

 

「そうだったんですね……」玲奈は、大きく息を吐いた。ボクシング部の発足に部員の勧誘。リオが、四木高を良くするためにそんなに頑張っていたと知って、そして、みんなからこんなにも慕われていたと知って、なんだかうれしかった。

 

「――お待たせしましたぁ。ここは、OKでぇす」愛が屋根から降りてきた。「じゃあ、次のポイントに向かいましょう」

 

 荷物をまとめ、移動する玲奈たち。次の作業場は、20分ほど歩いたところにある電柱だった。愛が、またまた電柱に登って作業を始める。玲奈は、もう少しリオの話を聞きたかったのだが、平和な時間はここまでだった。その電柱の近くには、かなりの数のゾンビがいたのだ。もっとも、里琴を中心に迎撃し、特に問題はなかったが。

 

 その後、愛はもう1軒の民家と電柱で作業をし、玲奈たちはそのそばでゾンビを倒した。3軒の太陽光パネルを改造したところで、陽が暮れてきた。今日の作業は終了となり、学校へ戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

「はぁい、全員無事帰還でえぇす。みなさん、今日はお疲れ様でしたぁ」

 

 校舎に入り、玲奈たちを振り返った愛は、ぺこりと頭を下げた。

 

「愛ちゃんこそ、お疲れ様」玲奈は笑顔で応えた。「作業、ほとんど1人に任せちゃって、ゴメンね」

 

「いえいえ。皆さんがゾンビと戦ってくれて、とぉっても助かりました」

 

 梨花が天井を見上げた。「でも、電気がまだ点いてないみたいだけど?」

 

 梨花の言う通り、校舎の電気は点いていなかった。太陽は、さっき山の陰に隠れてしまい、校舎内はかなり薄暗い。

 

「はぁい。まだ、最後の調整がありますから」愛が言った。「まあ、そんなに時間はかかりません。あと30分くらい、待っててくださぁい」

 

 奥から懐中電灯を持った百瀬架純たちがやって来た。「みんなお疲れ様。お風呂沸かしておいたから、みんなで入ってね」

 

「マジで? やったね!」

 

 万美たちが歓声を上げる。四木高で温かいお風呂に入れることは滅多にない。水道は止まっていないので冷たいシャワーならいつでも浴びることができるが、ガスの供給はストップしており、電気給湯器は消費する電力が多すぎるので滅多なことでは使えない。なので、お風呂に入るなら屋上に作ったドラム缶風呂を使わなければならないのだが、水を運んだり薪を用意して火を点けたりが大変なので、ほとんど利用されていなかった。

 

「ようし! あたし、一番乗り!!」万美が廊下を走っていく。

 

「ちょっと、待ちなさいよ!」梨花が追いかけて行く。「ズルいわよ! こういうのは、今日一番の功労者である、あたしに優先権があるでしょ!!」

 

 未衣愛も追いかけて行く。「功労者って言うなら、一番は里琴でしょ? 1人でゾンビを何匹倒したと思ってるの」

 

「み……みんなで……(みんなで一緒に入ろう)」里琴も、後を追った。

 

 西沢茉優が玲奈のそばに立った。「ふふ。梨花と万美を仲直りさせる作戦、うまく行ったみたいだね」

 

「まあね」と、玲奈は答えた。「と言っても、あたしは、特別何もしてないんだけどね。みんなからリオの話を聞いて、連携してゾンビと戦ってたら、いつの間にか、仲直りしてたの」

 

「玲奈先輩! ありがとうございます!」市川美青もやってきた。「これで、次のガッ活は、スムーズに進むと思います!」

 

 茉優がイジワルな表情になる。「いや、次の学活のテーマは、『美青は議長にふさわしいか?』に決まったから」

 

「えー? そんなー。ダメですよ。あたし以上に、このクラスを仕切ることができる人はいません。茉優先輩は、もちろんあたしを支持してくれるんですよね?」

 

「さあ? どうだろ?」

 

「えーん。茉優先輩ヒドイですー」

 

 茉優と美青のいつも通りのやり取りを見て、玲奈は笑った。

 

 ふと、架純を見てみると。

 

 みんなから少し離れた場所で、愛と話をしていた。何やら真剣な表情である。何かあったのだろうか?

 

 しばらくすると、愛は梨花たちとは反対の廊下へ歩いて行った。さっき言っていた、最後の調整とやらに行ったのだろう。

 

 架純と目が合った。いつものようにすました笑顔をした後、玲奈を手招きする。

 

 茉優と美青を残し、架純の所へ向かう。「架純ちゃん、どうかした?」

 

「玲奈ちゃん。後で、ちょっと話があるの。お風呂入った後でいいから、地下室に来てくれない? 1人で」

 

「え? いいけど、なんの話?」

 

「うん。まあ、そんな大した話じゃないんだけど」

 

「分かった」

 

「お願いね」

 

 架純は笑顔でそう言うと、愛の後を追うように廊下の奥へ消えた。

 

 なんだかいつもと雰囲気が違ったような気がしたのは気のせいだろうか? 話とはなんだろう? 思い当たる節は無い。

 

「玲奈? どうしたの?」

 

 茉優が、不思議そうな顔でこちらを見ていた。

 

「ううん。なんでもない」玲奈は笑顔を返す。

 

「じゃあ、玲奈も早くお風呂に入ってきなよ。あたしたちは、後でいいからさ」

 

「じゃあ、そうさせてもらうね」

 

 玲奈は、屋上へ向かった。

 

 

 

 

 

 

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