ゾンビと女子高生の平凡な学園生活   作:ドラ麦茶

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第5話・生徒会長 #13

「――でも、本当に良かったんですか? 玲奈さんで」

 

 玲奈が去った地下室で、愛は、どこか不満を表すような声で言った。

 

「うん? 何が?」

 

 架純は、とぼけたような声で答える。

 

「岡崎さんに代わる生徒会長が玲奈さんで、本当にいいんですか?」愛は、一言一言ハッキリと言った。

 

「何? 愛は、反対なの?」

 

「はい。反対です」キッパリと言う愛。

 

「どうして? 他に適任はいないでしょ?」やはり、とぼけたような口調の架純。

 

「確かにそうですが、だからと言って玲奈さんというのは、賛成できません。確かに、玲奈さんは生徒会長には向いているでしょう。でもそれは、アウトブレイク前なら、の話です。アウトブレイク前と後では、話が全然違います。玲奈さんは、アウトブレイクが発生してから2ヶ月間、ずっと家に閉じこもっていたそうです。まだアウトブレイク後の世界に順応してないんですよ? だから、転校してきたとき、ゾンビになった岡崎さんを処分した件で、あんなにもめたんじゃないですか。いまさらその程度のことで大騒ぎされちゃ、たまりませんよ? 防犯カメラの件もそうですが、食料に電気。ゾンビにサイコ。問題は山積みです。玲奈さんに、今の四木高の生徒会長が務まるとは思えません。架純さんか茉優さんがやった方が、まだマシだと思いますけど?」

 

「うーん、そうかなぁ? あたしは、そうは思わないけど?」

 

「何故です?」

 

 架純は、いつもの笑顔をやめ、真剣な目で、愛を見た。「あたしたちって、感覚がマヒしちゃってるけど、かなり異常な状態だと思うの」

 

「――――?」

 

「だってそうじゃない? クラスメイトがゾンビになったのに、何の感情も無く殺すなんて、普通の女子高生じゃできないと思うよ? 玲奈ちゃんの方が、まともなんだと思う」

 

「でも、それはアウトブレイク後の世界には必要なことです」

 

「確かにそうかもしれない。今の世界、玲奈ちゃんみたいな考え方は、甘いのかもしれない。でもね、あたしはやっぱり、玲奈ちゃんの方が正しいと思うの」

 

「あたしは、そうは思いません」愛は、きっぱりと言った。

 

「うーん。まあ、愛はそうかもね」いたずらっぽく笑う架純。「でも、愛も気付いてるでしょ? 玲奈ちゃんが転校して来てから、みんな、変わり始めたって。前は、クラスメイトが死んだりゾンビになっても、みんな、全然気にしてなかった。なのに今は、クラスメイトを助けるために、危険を冒して外に出て戦ってる。あれ、玲奈ちゃんの影響だと思うよ? みんなも、心のどこかで、前の自分に戻りたいと思ってるんじゃないかな?」

 

「だから、危険だって言ってるんです」愛は譲らない。あくまでも、自分の主張を貫き通す。「せっかくみんな、アウトブレイク後の世界に順応したのに、また元に戻してどうするんですか?」

 

「どうなるかは、あたしも分からないよ? 愛の言う通り、危険かもしれない。でも、だからこそ、見てみたいの。玲奈ちゃんが生徒会長になって、この学校がどう変わるのか」

 

「架純さんの好奇心を満たすために、みんなの命を危険にさらすのは、良くないと思いますが?」

 

「愛だって、自分の好奇心を満たすために、ずいぶんみんなの命を危険にさらしていると思うけど? ゾンビの研究とか、大野先生のこととか」

 

 そう言うと、愛は、鋭い目で睨んできた。

 架純は動じない。いつものすました笑顔を返す。

 しばらく、睨み合う2人。

 

 愛が目を伏せた。「――今、仲間割れはやめましょう。危険です」

 

「そうね。ゴメンなさい」架純も、素直に謝った。

 

 愛は、大きく息を吐き出した。「――分かりました。架純さんがそこまで言うのなら、信じましょう。ですが、ちゃんと玲奈さんをフォローするのだけは、忘れないでください」

 

「うん。もちろんだよ」架純は、大きくなずいた。

 

 そのまましばらく無言で向かい合っていたが、やがて愛が目を逸らし、発電機の調整戻った。

 

 架純は愛を残し、地下室を出た。階段をのぼりながら、考える。

 

 愛の言うことは分かる。間違っているのは、あたしかもしれない。

 

 確かに、玲奈は甘い。愛の言う通り、アウトブレイク後の世界に順応していないのだろう。あれでは、岡崎リオの代わりは務まらないかもしれない。

 

 岡崎リオは、立派な生徒会長だった。アウトブレイク前はもちろん、アウトブレイク後も。

 

 岡崎リオがいなければ、この学校の生徒はとっくに全滅していた。それは間違いない。

 

 だが、彼女には、目的を達成するためには手段を選ばない所があった。

 

 ゾンビになった者への処分が、そのいい例だ。岡崎リオは、ゾンビになった者の処分は、決してためらわなかった。例えそれが、どんなに仲の良かったクラスメイトでも。

 

 もちろん、それが悪いことだと言うわけではない。そのおかげで、救われた命は多いはずだ。

 

 だが、本当にそれで良かったのか? あたしたちは、もっと大事な何かを失ったのではないのか? 他に手段があったのではないのか?

 

 あたしたちは、アウトブレイク後の世界に慣れ過ぎてしまった。もう、何が正しくて、何が正しくないのか、分からなくなってしまっている。

 

 アウトブレイク後の世界に順応した――愛はそう言った。それは、本当に正しかったのか? 岡崎リオがこの学校を変えたことは、正しかったのか? 彼女のやり方に反対し、学校を去って行った者も、数多い。

 

 岡崎リオには感謝している。この学校を護ったのは、間違いなく彼女だ。

 

 だが、一方で。

 

 架純は、目的を達成するために手段を選ばない岡崎リオが、怖かった。

 

 岡崎リオは変わってしまった。アウトブレイクの後、目的のためには手段を選ばない人になってしまった。架純は、岡崎リオを恐れていた。あの、優しかった岡崎リオが、こんなに変わってしまうのか、と、恐怖を感じていた。

 

 分かっている。岡崎リオだって、変りたくて変ったのではないのだろう。変わらなければ生き残れないから変わったのだ。みんなの命を護るために変わったのだ。目的を果たすためには手段を選ばない人になったのだ。

 

 でも、架純は。

 

 アウトブレイク前の岡崎リオの方が、好きだった。

 アウトブレイク前のクラスメイトの方が、好きだった。

 アウトブレイク前の四木高の方が、好きだった。

 

 もう、アウトブレイク前に戻ることはできない。そんなことは分かっている。

 

 でも、宮沢玲奈ならば――。

 

 クラスメイトのみんなを、この学校を。

 

 アウトブレイク前の状態に戻せるかもしれない。

 

 そんな気がするのだ。

 

 だから、彼女に託したい。

 

 この四木高を。みんなの命を。

 

 岡崎リオさえできなかったことを、宮沢玲奈はやってくれる。

 

 架純は、そう信じていた。

 

 

 

 

 

 

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