ゾンビと女子高生の平凡な学園生活   作:ドラ麦茶

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第1話・転校生 #08

 子犬の鳴き声で、玲奈は我に返った。保健室のベッドの上。

 

 昼休みが終わり、教室では授業が始まったが、玲奈は念のため午後も保健室で休ませてもらった。時計を見ると、4時を少し過ぎたところだ。授業は終わり、放課後の時間帯だ。

 

 子犬は鳴き続けている。どうやら、校舎の外から聞こえてくるようだ。カーテンを開けるが、見える範囲にはいなかった。

 

 玲奈は保健室の外に出た。廊下を右に進めば教室だ。子犬の鳴き声は、反対側から聞こえてくる。校舎の玄関がある方だ。廊下には誰もいない。玲奈は玄関の方へ向かった。

 

 たくさんの下駄箱が並び、その向こうには、両開きのガラス扉が並んでいる。その、ガラスを隔てた向こう側で、ブラウンのポメラニアンが鳴いていた。玲奈が扉に近づくと、ふさふさの尻尾を嬉しそうに振った。その愛くるしい姿に、玲奈の顔は自然にほころぶ。

 

 しかし。

 このポメラニアンは、一体どこから来たのだろう? 学校で飼っている犬だろうか? それならば、校舎の外にいるのはおかしな話だ。近所の住人が飼っていたのだろうか? よく今までゾンビに襲われなかったものである。いや、もしかしたら、すでにゾンビ化しているのかもしれない。しかし、ここから見る限り、子犬にそんな様子はない。玲奈はこれまで実物のゾンビ犬には遭遇していないが、映画やゲームに登場するゾンビ犬は、集団で人を襲ったり、窓を突き破って建物内に侵入してくるなど、極めて凶暴な印象だ。対してこの子犬は、尻尾をフリフリしながら、「開けて開けて」と言うような、甘い視線を玲奈に送っている。ガラス扉には当然鍵がかかっているが、内部から開けるのにキーは必要なく、足元のツマミを捻れば簡単に開くようだ。しかし、自分1人の判断で開けるわけにはいかないだろう。誰かに相談した方がいい。そう思い、玲奈は教室に戻ろうとする。すると、取り残されると思ったのか、子犬が再び鳴き始めた。すぐ戻って来るから。そういう視線を送ったが、そんな余裕は無さそうだった。子犬の鳴き声を聞きつけたのか、ゾンビが3体、こちらに向かって来る。子犬は玲奈に向かって鳴いていて、ゾンビに気づかない。このままでは襲われてしまう。

 

 ――ええい、仕方ない。

 

 1度中に入れて、それからみんなを呼ぼう。子犬が万が一ゾンビ犬だったとしても、咬まれたりしなければ大丈夫だ。そう思い、玲奈はガラス扉下の鍵に手を掛けた。

 

 そこへ、ツインテールの生徒、美青が通りかかった。鍵を開けようとしている玲奈を見て。

 

「――先輩! 開けちゃダメです!!」

 叫んだが、遅かった。

 

 玲奈が、鍵を捻ったその瞬間。

 けたたましいサイレンが、学校中に鳴り響いた。

 続いて、オオーン! と、まるで狼の遠吠えのような声が周囲に響き渡る。

 何が起こったのか分からず、キョロキョロと周囲を見回す玲奈。音に驚いた子犬は、慌てて走って逃げて行く。

 

「美青! どうしたの!?」

 

 駆けつけてきたのはボクシング部員の茉優だった。その後ろから、モデル顔の架純や、ギャル系の梨花たちも集まって来る。

 

「茉優先輩大変です! 宮沢先輩が、警報を解除せずに鍵を開けちゃいました!」

 

 警報――防犯システムの1つだろう。落ちこぼれが集まるとは言え、四木高は女子高だ。当然、防犯システムくらいはついているだろう。それを、ゾンビの侵入対策用に使っていたようだ。

 

「……ごめんなさい……あたし……知らなくて……」どうしていいか分からず、立ち尽くす玲奈。

 

「早く鍵を閉めて! ゾンビが入って来る!」

 

 茉優に言われ、ようやくそのことに気付く。外を見ると、校庭中のゾンビがこちらに向かって来ていた。慌てて鍵をかけようとする玲奈。しかし、1体のゾンビが、ほとんど小走りに近い速さでガラス扉にぶつかる。玲奈が鍵をかけるよりも一瞬早かった。扉は勢いよく開き、倒れ込むようにしてゾンビが中に入ってきた。開いた扉に押され、尻餅をついて倒れる玲奈。そこに、2体目のゾンビが襲い掛かってくる。

 

「ああ、もう!」

 

 茉優が走ってきた。軽くジャンプしつつ、ゾンビの頭部に右のストレートパンチを喰らわせた。吹っ飛んで倒れるゾンビ。それを乗り越えて、別のゾンビが3体、中に入って来る。

 

「ごめんなさい……あたし……どうしよう……」謝ることしかできない玲奈。

 

「いいから! とにかく、ゾンビを倒して、外に追い出して!!」茉優は新たに入ってきたゾンビの側頭部に右フックを打ち込む。

 

 玲奈は震える足でなんとか立ち上がった。しかし、倒して、と言われても、どうしていいか分からなかった。玲奈に格闘技の経験はない。外でゾンビに襲われそうになったときも、逃げるか、せいぜい押し倒すくらいだった。

 

 茉優は、怪我をした左手をかばい、右手1本で次々とゾンビを倒して行くが、それ以上の数のゾンビが中に入って来る。1人では到底対処できない数だった。なんとかしないと、と思う玲奈だが、震えるだけで何もできない。ゾンビが2体、茉優の横をすり抜け、両手を振り上げて玲奈に襲い掛かる。逃げることもできない玲奈。

 

 と、誰かがこちらに向かって走り込んできた。ゾンビの手前でジャンプし、左の前蹴りでゾンビを1体吹っ飛ばした。そして、そのまま右足1本で着地すると、もう1体のゾンビのスネを狙って左のローキック、さらに軸足を左に替えて右のハイキックと、連続で蹴り技を決めた。

 それは、ギャル系グループの中にいた、虎のスカジャンを着た不良少女風の生徒だ。

 

「――あれ?」向かって来たゾンビをボディアッパーで沈めた茉優が振り返る。「里琴(りこ)ちゃん、手伝ってくれるの? 珍しいね」

 

 里琴と呼ばれた生徒は、チラッと茉優を見たが、何も言わなかった。ゾンビの顎を下から蹴り上げ、さらに別のゾンビに後ろ回し蹴りを叩き込む。

 

「……相変わらず、クールだねぇ」茉優もゾンビの攻撃をかわしながら、顎に右アッパーを叩き込んだ。

 

 里琴と呼ばれた少女は蹴り技主体で次々とゾンビを倒して行く。一見すると空手のようでもあるが、手技は少ない。玲奈は格闘技の経験こそなかったが、知識だけは人並み以上に持っていたので、すぐに分かった。あれは、多彩な蹴り技が特徴の韓国の国技・テコンドーだ。かなりの腕前のようである。

 

 ボクシングとテコンドー、2人の格闘少女の活躍で、ゾンビは次々と倒されていく。しかし、警報は鳴りやまず、ゾンビはどんどん集まって来る。校庭のゾンビだけでなく、学校の周辺にいるゾンビも集まっているようだ。茉優と里琴によって1度は倒されたゾンビも、再び立ち上がって襲って来る者もいた。

 

「……ダメだ、キリが無いや」ボディへのフックでゾンビを倒した茉優は、額の汗をぬぐう。「里琴、宮沢さん、ここは諦めよう。退くよ」

 

 右の踵落としをゾンビの脳天に落とした里琴は、忌々しそうな表情とともに舌打ちをし、廊下の方へ戻った。茉優と玲奈も続く。

 

「ちょっと! 冗談でしょ!?」声を上げたのは、ギャル系グループのリーダー格・梨花だった。「ここで食い止めなきゃ、校舎の中がゾンビだらけになっちゃうじゃないの!」

 

「大丈夫よ、防火シャッターがあるから」そう言って天井を指さしたのは、モデル顔の架純という生徒だった。確かに、防火シャッターを下ろせば、ゾンビに破られることはまず無いだろう。

 

「でも、それじゃあ玄関が使えなくなるじゃないの!」叫ぶように言う梨花。

 

「じゃあ、梨花ちゃんが、ゾンビどもを追い出してちょうだい」廊下に戻った茉優が、梨花の背中をポンッと押した。

 

 玄関に押し出された梨花。迫ってくるゾンビ。

 

「ひぃっ!」

 短い悲鳴を上げ、里琴の背後に隠れる梨花。「は、早く閉めて!」

 

 ツインテールの美青が、壁のスイッチを押した。ガコン、と音がして、ゆっくりとシャッターが下りてくる。ゾンビが数体中に入ろうとしたが、茉優と里琴によってあっさり撃退される。シャッターが完全に閉まった。ほぼ同時に、警報も鳴りやむ。ゾンビはしばらくシャッターをバンバンと叩いていたが、やがて、諦めたのか、あるいは玲奈たちに興味を失ってどこかに行ったのか、静かになった。

 

「――ふう。とりあえず、一件落着だね。みんな、お疲れさん」明るい口調で言う茉優。

 

「何が一件落着よ!!」怒りが治まらないのは梨花だ。鋭い視線を玲奈に向ける。「あんた! これ、どう責任取るつもり!?」

 

「あ……あの……本当に、ゴメンなさい……」頭を下げるしかできない玲奈。

 

「謝って済む問題じゃないでしょ!? 危うくあたしら全員、ゾンビに食い殺されるところだったのよ!?」

 

 玲奈と梨花の2人の間に大野先生が割って入った。「ゴメンなさい、梨花さん。先生が悪いの。先生が、宮沢さんに警報機のことをちゃんと教えていれば、こんなことには――」

 

「先生は黙っててください」強気な口調と共に、大野先生を睨む梨花。睨まれた大野先生は、何も言えなくなってしまった。どうやら、かなり気弱な性格らしい。

 

「知らなかったモノはしょうがないだろ」大野先生に代わって、茉優が玲奈をかばう。「結局、誰もケガしなかったんだし。外へ出るなら、裏口や、他の校舎の玄関を使えばいい。なんなら、窓から出入りしたっていいじゃないか」

 

「そういう問題じゃないでしょうが!」

 

 鬼のような形相になってくる梨花。茉優は、やれやれと言わんばかりに肩をすくめた。

 

「でも、宮沢先輩」と、ツインテールの美青が玲奈を見た。「なんで、玄関の鍵を開けようとしたんですか?」

 

「そうだ、それは聞いておかないと」と、茉優。「まさか、あたしたちに何も言わず、出て行こうとしたの?」

 

「あ、いえ、違います」玲奈は両手を振った。「その……外に、子犬がいたんです。ブラウンのポメラニアン。中に入れてほしそうに鳴いてて。みんなに相談しようと思ったんですけど、ゾンビが近づいて来てたから、つい……」

 

 玲奈がそう言うと、梨花の表情が変わった。そして、玲奈の両肩を掴み、揺さぶる。

 

「その子はどこに行ったの!?」

 叫ぶように訊く。

 

「あ……あの……?」

 

「元気そうだった? ご飯はちゃんと食べてそうだった? ゾンビにイジメられてなった? ねぇ、どうだったの!?」

 

 予想外の言葉に戸惑わずにはいられない玲奈。てっきり、『たかが犬コロ1匹のために、あたしたちを危険な目に遭わせたの!?』と言われると思っていた。

 

「答えて!!」

 

 なんだかよく分からないが、かなり切羽詰っているようだった。梨花の飼い犬だったのだろうか? 玲奈は、ゆっくりと言った。「えっと、警報にビックリして、どこかへ逃げて行きました。ゾンビ犬には、なっていなかったと思います」

 

「そう……良かった……」安堵のあまり、その場に座り込む梨花。しかし、すぐに立ち上がって。「こうしちゃいられないわ! 早く、あの子を助けないと!!」

 

 そう言って、防火シャッターを持ち上げようとする。もちろん、人の力で持ち上がるようなものではないが。

 

「あのー、梨花ちゃーん」茉優が、恐る恐るという感じで声をかける。「どうしたの、急に? キャラ変ってるけど、大丈夫?」

 

 茉優に言われ、我に返る梨花。恥ずかしそうに、シャッターから手を離した。

 

「ひょっとして、梨花の飼ってる犬なの?」茉優が訊いた。

 

「だったらなんだってのよ? 似合わないとでも言うの? あたしの勝手でしょ」

 

「いや、そんなことは言わないけど」茉優は、ポリポリと頭を掻いた。「外はゾンビで溢れかえってる。今は出ない方がいい」

 

「そんな訳にはいかないわ。こうしている間にも、マリリンちゃんがゾンビに襲われてるかもしれないのよ?」また興奮してきた梨花。マリリンちゃんというのが、あの子犬の名前らしい。

 

「あれ? 梨花先輩、知らないんですか?」ツインテールの美青が言う。「ゾンビさんは、ワンちゃんを襲ったりしませんよ?」

 

「え!? そうなの!?」

 

 玲奈と梨花が同時に声を上げた。

 

「やれやれ――」呆れた口調になる茉優。「今日学校に来たばかりの宮沢さんはともかく、梨花が知らなかったとはね。理由はまだ分からないけど、犬だけじゃなく、ゾンビは人間以外を襲ったりしないよ。人間以外のゾンビ、見たことないだろ?」

 

 確かにその通りだった。玲奈は2日間街を走り回ったが、人間以外のゾンビは見ていない。

 

 茉優が続ける。「まあ、だからと言って、それがいい事かというと、そうでもないんだよね。ゾンビが牛や豚を襲って食べるのなら、その方がいいんだ。だってそれは、ゾンビは無理に人間を食べなくてもいいってことなんだから」

 

 そういう考え方があったのか……玲奈は思わず感心する。確かに、ゾンビが牛や豚を食べるのならば、人間との共存も可能だったかもしれない。

 だが、ゾンビは人間しか襲わない。つまり、人間とゾンビは、どうしても共存できないのだ。

 

「……難しいことはよく分からないけど、とりあえず、マリリンちゃんは大丈夫なのね?」梨花が訊いた。

 

「うん、きっと大丈夫だよ。でも、今はゾンビが多いから、探しに行くのは危険だ。また今度にした方がいい」

 

 梨花はまだ諦めきれない様子だったが、仲間の女の娘にも説得され、なんとか外に出るのは思いとどまってくれた。

 

「……で、何の話だったっけ?」とぼけたように言う茉優。

 

 みんなの視線が梨花に集まる。子犬の話の前は玲奈が警報を鳴らしたことだったが、今さらその話を蒸し返すのもどうかと思ったのだろう。梨花は咳払いをして、ギロリと玲奈を睨みつけると、スタスタと教室に戻った。ギャル仲間が後を追う。テコンドー使いの里琴も教室向かう。

 

「あ……里琴さん……?」玲奈が里琴を呼び止めた。「その……ありがとうございました。里琴さんが戦ってくれたおかげで、本当に、助かりました」

 そして、深く頭を下げた。

 

 里琴は、フン、と、鼻を鳴らして、そのまま行ってしまった。

 やっぱり怒っているのだろうか? 肩を落とす玲奈。

 

「気にしないで。里琴は、もともと無口な娘だから」励ますように言う茉優。

 

「茉優さんも、本当に、ありがとう」玲奈は、茉優にも頭を下げた。そして、他のみんなにも。

 

「もういいってば。ね、みんな」

 

 茉優の言葉に、他のみんなも笑顔で頷く。みんな優しい人たちだ。玲奈は、涙が溢れそうだった。

 

「でも、今度から校舎の出入口を開ける時は、必ず、一声かけてね」と、茉優が続けた。「警報システムを止めないといけないから。玄関だけでなく、窓もね」

 

「え、玄関だけでなく、窓にも警報が付いてるんですか?」

 

「そ。この学校、結構警備が厳重なんだ。学校内は、防犯カメラもたくさん設置されてるよ。ほら」

 

 そう言って、茉優は廊下の天井の隅を指さした。天井から吊るされたカメラが、こちらを見ている。確かに、あまり気にはしてなかったが、校内には、さっきの玄関はもちろん、廊下や、各教室に至るまで、防犯カメラが設置されてあったように思う。

 

「いくら女子高とは言え、ちょっと大げさだとは思うんだけどね」茉優は笑いながら言った。「ま、おかげで、今は助かってるんだけど」

 

 玲奈の通っていた聖園高校ではここまでの警備システムは無かった。ちょっと過剰ではないかとも思うが、まあ、最近は何かと物騒だ。アウトブレイク以前も、学校内に不審者が侵入したという事件がたびたびニュースになっていた。生徒や教職員や襲われた事件も少なくない。このくらいの警備でも、今の時代は普通なのかもしれない。

 

「あーあ、久しぶりに運動したから、疲れちゃった」大きく伸びをする茉優。「さ、教室に戻って、お茶でも飲もう」

 

 みんなで教室に向かう。

 

「あ、そうだ。先輩、大変です」

 大して大変そうでもないような口調で言ったのは、ツインテールの美青だった。

 

「ん? 大変って、何が?」茉優と架純が美青の方を見る。

 

 美青は、大野先生の様子を伺いながら、小さく手招きをする。先生には聞かれたくない話なのだろうか? 茉優と架純と玲奈と美青は、4人で小さく輪になった。

「……内緒にしてほしいと言われてたので黙ってたんですけど、岡崎先輩が、今、外に出てるんです。1人で」

 

「えぇ!? 岡崎さんが!?」声を上げる茉優。

 

 しいぃっ! っと、鼻に人差し指を当てる美青。幸い、大野先生には気づかれなかった。

 

 岡崎先輩――生徒会長の、岡崎リオのことだ。玲奈の幼馴染でもある。そう言えば、この騒ぎの中、姿を見ていないな、と、玲奈は今になって気づいた。

 

「……珍しいね、岡崎さんが、校則違反なんて」架純が小さな声で言う。

 

「校則違反って、そんなの、校則で決められてるんですか?」玲奈が架純に訊いた。

 

「うん。『校舎および学校の外に出る時は、担任教師の許可を取り、必ず2人以上で』。ゾンビが現れてからできた校則だけどね」

 

 茉優が言う。「まあ、わざわざ校則で決めなくても、好き好んで外に出て行く人は、あんまりいないんだけどさ。よりによって、なんで岡崎さんが? どこに行ったの?」

 

「分かりません。理由も場所も言ってませんでした。夕方までには戻るとは言ってたんですけど」美青は腕時計を見た。もうすぐ5時。そろそろ戻ってくる頃だろう。

 

 美青は続ける。「さっきの警報で、学校の周辺のゾンビさん、全部この近くに集まっちゃったと思うんです。岡崎先輩の戦闘力じゃ、学校に戻って来るの、ちょっと難しくないですか?」

 

 その通りだと、玲奈は思った。幼稚園から中学生まで、リオは格闘技なんて習っていない。高校に入ってからは分からないが、リオが、さっきの茉優や里琴のようにゾンビを倒しまくっている姿は、全く想像できなかった。

 

 ピリピリピリ、と、電子音が鳴った。ケータイの着信音のようだ。美青がスマホを取り出し、画面を確認する。

「あ、岡崎先輩です。ちょっと待ってください」そう言って、電話に出る。

 

「……え? ケータイって、繋がるんですか?」

 

 そんなことを気にしている場合ではないとも思ったが、玲奈は訊かずにはいられなかった。玲奈が家に閉じこもっていたときは、3日ほどで繋がらなくなった。

 

 架純が答える。「うん。校内や周辺だけだけどね。アンテナを改造して、ケータイ会社を経由しなくても繋がるようにしたの。そういうの、すごく詳しい娘が1人いるんだ」

 

 スゴイ人がいるな、と玲奈は感心する。

 

「……はい……はい……そうです、ちょっと、手違いがありまして……はい……分かりました。ちょっと待ってください」美青はケータイを耳から離し、玲奈たちを見た。「岡崎先輩、やっぱりゾンビが多くて、校舎どころか学校にも近づけないそうです。誰か迎えにきてくれないかって、言ってます」

 

 すると、美青と架純と玲奈の3人の視線が、茉優に集まった。

 

「……へ? あたし?」目を丸くする茉優。

 

「茉優先輩以外に、誰がいるんですか?」当然のように言う美青。

 

「えぇー、あたしケガ人なんですけど?」包帯を巻いた左手を振り、イヤそうな口調の茉優。

 

 だが、美青は無視して再び電話を耳に当てる。「……では、茉優先輩に行ってもらいます……はい……はい……作戦を立てるので、少し待っててください。はい……じゃあ、また連絡します。十分気を付けてくださいね」携帯電話を切る美青。視線を茉優に戻す。「では、茉優先輩、お願いします」

 

「勝手に決めないでよ、疲れてるのに……」

 

 そう言いながらも、結局助けに行ってあげるんだろうな、と、玲奈は思った。茉優とは今日会ったばかりだが、なんとなく、頼まれたらイヤとは言えない性格のように思えた。

 

「じゃあ、大野先生には内緒にしておくとして、もう1人のメンバーなんですが――」

 

 校舎および学校の外に出る時は、担任教師の許可を取り、必ず2人以上で。いくら茉優の戦闘力が高いとはいえ、1人で向かうのは危険すぎるだろう。ここはやはり、さっきの里琴という生徒に頼むのがいいだろうか? と、玲奈が考えていたら。

 

「……へ? あたし?」

 

 みんなの視線が、自分に集まっていることに気付いた玲奈。

 

「宮沢先輩以外に、誰がいるんですか?」当然のように言う美青。

 

「いや、でも、あたし、格闘技とか習ってないし、役に立たないよ、絶対」

 

「でも――」と架純。「警報鳴してゾンビを呼び寄せたのは宮沢さんなんだし、その結果招いた事態なんだから、責任は取らないとね」

 

 カワイイ顔して玲奈の弱みを的確に突いてくる架純。それを言われると、玲奈は返す言葉が無くなる。

 

「じゃあ、決まりですね」美青が、ぱん、と、手を叩いた。「では、岡崎先輩救出作戦、開始です!」

 

 おおー! と反応したのは、架純だけだった。

 

 

 

 

 

 

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