108部隊をあとにし、時刻は間もなく午後15時。思いのほか長居してしまったのには今隣で運転しながら、不機嫌な顔をしている相方にある。
「なァにが子どもの面倒をみてやってくれだっつの。あんな顔して脅迫か!?公務員が脅迫ですかコノヤロー」
退室間際、ゲンヤとクイントから言われたことが原因で進太郎の不機嫌度はMaxに近い。元々子供は苦手な彼だ、今はさぞ嫌々だろう。運転にもそれが少々現れている。
「お前ンとこの妹といい、あの三つ子といい・・・どーしてこう、俺は大人のおねーさんには好かれないかね?」
「それは進太郎が露骨だからじゃない?ティアは結構気に入ってるのに、進太郎ってば直ぐ逃げるんだから」
「だってあの子、歳の割に大人びすぎてるし。俺より頭いいし」
「初等科一年生の問題が解けないきみに原因があるよそれは・・・」
ティーダの妹ティアナ。そしてゲンヤとクイントの子であるスバル、ギンガ。そして・・・もう一人。
「そもそもあの子は進太郎が保護した子だろ?えっと・・・」
「・・・コウのことか?」
以前、今回請け負った任務と同じように、二人はゼスト指揮の下とある研究所跡地に踏み込んだことがある。そこで見つけて保護したのがコウという少年だ。その後はナカジマ家に引き取られ、妹のスバル、姉のギンガと暮らしている。彼らの両親が不在の時は、こうして進太郎が訪れて面倒を見るというのがほぼデフォルトのようになっている。三人も人当たりのいい進太郎のことを好いてはいるのだが、とうの本人はというと、言っての通りである。しかも断ろうものならクイントから無言の威圧をうけるので断ろうにも断れないというのが現状だ。
「そう。コウ君は得に進太郎のこと好きみたいだし、彼にとってはお兄ちゃんなんじゃないかな?」
「よせよ。俺、そーいうガラじゃないし。どっちかってーとそりゃティーダのほうじゃねえの」
「僕はティア一筋だから」
「それ、機動部二課の全女子局員に言ってやれよ。きっと株が大暴落だぜ」
大げさではなく、実際自分と違いティーダは顔立ちもいいし、性格も申し分ない。普通にしていればモテまくることこの上ないのだが、彼に女っ気がない要因の一つとして妹であるティアナの存在がある。彼女を溺愛しまくっている為か、コンビを組んだ時から計算すると少なくとも自分の知る限りではこの男に異性の特定な人物が身内以外でいたためしがない。しかしどうしてか、この事実は自分とティーダと近しい人間しか知りえない筈。なのにいないということは、自然とそういうオーラがでているということだろうか。だとしたらもう末期である。
「ティーダ、ティアナからメールが入っている。今日は帰ってくるのか、だそうだ」
「ティアに会いたいから意地でも帰るって送ってくれ」
「俺が言えたことじゃねーけど、相当酷いな・・・」
清々しいまでの笑顔で返すティーダに文章を作成して送信するクリムもこれにはさすがに呆れ顔になる。やれやれと溜息をついたところで高速を降りて一般道に入る。今日は比較的道も空いており到着時間も予定より早くなりそうだ。
「ベルトさん、ちょっと寄り道すっから時間教えて」
「このままいけば30分前に到着するが・・・寄り道とは?」
「・・・晩飯前に何食っても、バレなきゃいいだろ」
◇
住宅街をほぼ過ぎたところにある、少し広々とした一軒家。そこにナカジマ家はある。広い庭に白い外観の家はどこか欧州にありそうな風貌で清潔感のある作りになっている。車―――プロトトライドロンを停車させ、車を降りる。もちろん、先ほど寄り道して購入した紙袋を持つことを忘れない。玄関に立てば、ドタドタと聞こえる足音。ふと、進太郎は呼び鈴に伸ばした手を止める。
「・・・ティーダ、俺は学習する生き物だ。故に同じ過ちは繰り返さないのだよ」
「前回来た時は呼び鈴鳴らした途端にロケット頭突きだもんね。で、どう学習したの?」
「こうするんだッ!」
ドアを開く。すると、先ほどの足音からしてスタンバイしていたであろう三人が一斉に飛び出し飛びついてきた。が、そこにいるのは進太郎ではなく。
「ごふッ!?」
「潰れてしまえ!このイケメンがァ!」
頭三つがティーダの腹部を直撃する。なんの防御態勢もとっていなかった為ものの見事にそれを喰らい、悶絶する。
「進さん!・・・って、ティーダさん!?」
最初に気付いたのは年長者のギンガ。母であるクイントと同じ毛色で髪型もどこか面影もある。その隣で首を傾げている青髪のショートヘアの少女がスバルで、「やっちまった」と顔をしている黒髪がコウだ。
「ザマぁ見ろ!日頃の鬱憤を受けたかイケメンめッ!」
「うっわ、僻み全開」
「み、見苦しい?」
「なんといいますか、私もこれは酷いと思います」
チビッ子三人の返しが酷い。そう言いたかったが額に投げつけられたシフトカーのせいでそれもできない。これ、当たると意外と痛いんだよなと悶える。
「のぉぉぉ・・・何すんだシスコン!」
「きみに言われたくないよ!?」
あーだこーだ言い争いを惜しげもなく、そしてなんの恥じらいもなく玄関先にて繰り広げる二人。ご近所の目などお構いなしに、管理局員の若きエース二人は今日も通常運転で毎度の如く言い争いに精を出す。
〘やれやれ・・・〙
ベルトさんことクリムも、これには呆れかえった。
◇
「で、どう思う?」
縁側に腰掛け、サッカーをして遊ぶ三人を見ながらティーダはキッチンで食べ終えた食器の後片付けをしている進太郎に話しかける。唐突なことに一瞬なにかと思ったが、それがすぐに何のことかを察する。
「・・・さあな。ただ、わかってんのは、犯人は共通してるってこととまた人造魔導師絡みだってことだけだ」
「やけに煮え切らないね?」
「情報が少なすぎんだよ。毎回行き当たりばったりで、これじゃいつになっても解決しねー」
踏み込んで、現場を抑えて証拠品や手がかりを入手する。先手を打ったかと思えば、まるで最初から予測済みだと言わんばかりに隠滅を図っての逃走。ひらりひらりと躱され続けてもう何度目かもわからない。そんな調査状況に疲れをみせる進太郎。皿を食器洗浄機に入れてからスイッチを押し、手に付着した水をタオルで拭いてからエプロンを取る。
「・・・進太郎」
「ンだよ、急に改まった声だして」
休憩と、ソファに沈む進太郎。ティーダの声にオフザケではないということを悟った進太郎は、お気に入りのチョコポットキャラメルという、キャンディーのようなお菓子を一つ取り出して口に含む。カカオの苦さと、大人な甘みが口一杯に広がり疲れを癒してくれる。
「実はさ、夢があるんだ」
「夢?」
「うん。・・・みんなが、笑顔でいられる世界にしたい。管理局も頑張ってるけど、海だけじゃダメだ。地上も今よりもっと頑張らないと・・・」
そう呟いて右手で拳を作るティーダ。普段の温厚な性格を知っているからこそ、その意志が固く表れているのがわかる。だからこそ思う。
――――らしくないな。
「・・・だとしたら、管理局なんてなくなった方がいいな」
「どうして?」
意外そうに言うティーダ。振り返る彼に対して、進太郎はソファにダレながら言葉を紡ぐ。いつものように、怠そうに。
「力がるから、争いが起こる。それはどの世界でも時代でも一緒だ。いつかはなくならないといけないモンだろ?だったら、管理局なんてもんはなくなった方がいい。それに、仮面ライダーも、な」
「・・・そっか」
夕暮れ特有の生暖かい風が吹き抜ける。オレンジ色に染められた世界で、二人はただ流れる空気に身を任せながら子ども達の声に耳をすました。
「・・・なあティーダ」
「何?」
「俺も、夢があるんだ」
「へ~、どんな?」
「・・・一生、笑ってぐーたら暮らすこと」
「それダメ人間の発想だよね」
「うるせぇ。兎に角、俺はそういう暮らしがしたいんだよ」
「だったら、頑張らないとだね」
いつものように、笑顔を浮かべながら振り返る相方に進太郎は見向きもせず「おう」と返す。
「進兄ィ、サッカーしようぜ!」
「おにーさんはぐーたらするのに忙しいの。そこにロリコンにやってもらいなさい」
「・・・進太郎、そんなこと言ってるとメガーヌさんにあることない事全部喋るよ?」
「さぁティーダ君。共に汗をながそうじゃないか!サッカーなんかがいいね、うん」
「あ、僕も一緒にやることは確定なのね」
どうあっても道ずれにしたいらしいこの親友は、口ではこう言っても本音は意地でも自分一人では倒れない気のようだ。まったくもって諦めが悪い。
(でもま、そこが悪いところであり、いいところでもあるんだけどね)
「オラ覚悟しろガキ共!この俺からボールを奪えると思うなよ!」
「うわっ、大人げない」
「そんなだからいつまで経っても彼女が作れないんですよ」
「うぅ・・・酷い・・・」
そんなやり取りを微笑まし気に見たあと、自分もその輪の中に入っていく。穏やかな時間が過ぎ、笑い声が夕暮れの空に木霊した。
そして、時は動き出す。
止まった時間の中で、〝彼〟の鼓動は強く、そして雄々しくその雄叫びをあげた。
運命に導かれたその先で出逢う二人の少女。そして、〝彼〟の終わりと始まり。
これより紡がれるのは、たった一人の英雄の物語である。