「……ここはどこなんだろう?」
見渡す限りの瓦礫の山、そして死体があちこちに転がっている。
“百日戦役”
それは七耀暦1192年にエレボニア帝国がリベール王国を侵略しようとした戦争。
一発の砲弾がリベール王国の北部に位置するハーケン門を揺るがした。当時のハーケン門は城壁を補強したものでしかなく、帝国ラインフォルト社製の導力戦車から放たれた導力弾は易々と城壁の一部を粉砕した。
ハーケン門を文字通り粉砕した帝国軍は、そのままリベール領土の侵略を開始した。開戦からわずか1ヶ月で、帝国軍はグランセル地方とヴァレリア湖上のレイストン要塞を除く全王国領土を占領するのだった――。
自分はグレンダンにいたはずだ。それに都市戦争が始まったなんて聞いてもいない。
しかし目の前には剣や銃を持った兵士がいる。そして何よりも、
「こんなにきれいな空は見たことがない…」
“自律型移動都市(レギオス)”
少年が住んでいた自律型移動都市は「楽土」と呼ばれる存在を形にした物であり、移動するのは危機を回避するためである。都市の外には『汚染物質』が充満しており、これの存在で世界は人の住めない大地と化している。だが、レギオスの脚の上端部からエアフィルター(空気の膜)が出力されており、汚染物質が都市内に流入するのを防いでいる。そのため、空がこんなにもきれいに見えることはないのだ。
思考に没頭する中、少女の声で現実に引き戻される。
「だれかぁー、おかあさんを助けて」
考えている暇はない。周りの状況から戦争をしていることはすぐに分かった。少年はその少女の声が聞こえた方に向かった。
そこには5,6歳くらいだろか、女の子とその子をかばうように崩壊した建物の瓦礫を受けて血を流している母親らしき女の人が倒れていた。
「おねがい、おかあさんをたすけて!」
「わかった、少し離れててね」
体に剄を張り巡らせ、瓦礫をどかす。しかし、そこには今にも事切れそうな女性がいた。そんな状態の母親を見た少女は、目から大粒の涙を流す。
「うっ、き、きみは?」
「おかあさんっ!」
「エステル……。わたしはいいから、お願い……この子を連れて早く逃げて。」
「いやだよっ! いっしょににげようよっ!」
母親はすでに手遅れだと気付いているのだろう。見ず知らずの少年に愛する娘を託そうとしている。
――少年は孤児院で育った。実の両親の顔も知らない。だが孤児院の院長であり、戦いの師匠である養父は自分に多くの愛情を注いでくれた。家族を失うことは想像を絶する痛みだろう。
「わかりました。この娘は必ず守りますっ!」
その言葉を聞いて安心したのか…、母親は静かに息を引き取った。
「おかあさんっ!しんじゃいやだよぅ…」
「くそっ!」
助けることができなかった悔しさに、こぶしから血が出るほど握りしめる。
だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。兵士に見つかるのは時間の問題である。母親の死に号泣している少女を抱え、少年はすぐにこの場から移動しようとする。
「ごめんね……、ここだと見つかっちゃうから安全なとk……ちっ」
声に気付いた兵士が3人近づいてきた。その手には銃が握られており、今にも発砲してきそうな雰囲気だ。身近に感じる殺気にエステルと呼ばれていた少女は思わず硬直してしまう。
「子供でも殺せという命令なのでな。…悪くお「レストレーション」なっ…」
少年が言うな否や棒状の何かが刀へと変形する。
こいつらがこの少女から母親を奪ったんだ…。愛する者を、いつもの日常を…。戦争だから?…そんなの関係ない。大切なものを奪おうとする者は誰だって許さない。今この少年を埋め尽くしているのは怒りだ。
「…ごちゃごちゃうるさいな。」
今怯えている少女から母親を助けられなかった無力な自分へと。
「この子は絶対守るっ!」
そして、自分がどこにいるのかもわからない理不尽な現状に対しての怒りだった。
「ちっ、威勢のいいこった…、じゃあな。」
再び銃撃の合図を放たんとするものの少年は全く動じる様子を見せない。それどころか少年の乾いた双眸が、逆に兵士の恐怖心を煽る。銃撃が少年たちを襲おうとする中、少年はごく自然に剣を持ち上げる。刀身に剄を込めることを忘れず、刀を腕の延長として、錬金鋼(ダイト)に流している剄の質を変換させ、振りぬいた勢いに沿って解き放つ。
【外力系衝系の変化 針剄】
針のような鋭くなった剄は、引き金を引こうとしていた兵士の一人に命中し、吹き飛んだ。
仲間の一人が吹き飛ばされたことによって、他の二人に隙ができる。
その隙を見逃す少年ではない。足に剄を走らせ、二人の間を一瞬で駆け抜ける。
「「…はっ?」」
少年が刀を収めたと同時に、兵士たちの体から血が噴き出す。すれ違いざまに多くの斬撃を浴びせたのだ。何が起こったのかわからないまま兵士たちは倒れた…。
少年の力量ならば簡単に殺せただろう…。しかし、それをあえてしなかった。それはエステルが見ているからだ。母親の死を間近で見て、さらに兵士を殺す場面を目にしたならば、この少女にとって心の傷として残ってしまうのではないかと考えたからだ。これ以上辛い思いをさせられない。会って間もないが、少女と同じくらいの年齢の子と多く接してきた少年は自然にそう思えた。
自分はこの少女を守ると決めたのだ。敵ではあるが、相手を無力化できれば十分だろう。
「な、なにがおこったの?」
無理もない……、気が付いたら兵士全員が倒れていたのだ。少女が困惑するのも仕方がない。呆然と立ち尽くす少女を抱え、少年は気配を殺しながら、ブライト家に向けて静かに移動を始めた。
これは突然異世界に飛ばされた少年――レオンの軌跡である…。
レナさんの生存ルートも考えましたが、なるべく原作沿いにしたいため、このようなストーリーにしました。