それではどうぞ
学園の依頼は役作りが必要なため、今ある依頼を軒並みクリアしていくことにしたレオン一行。怪盗Bなどという面倒な輩が起こした事件もあったがなんとか達成し、ついにクローゼが在籍するジェニス王立学園に足を踏み入れたのだった。
「まずは学園長室まで案内しますね」
ジェニス王立学園の学園長であるコリンズに放火事件を含めた事情を説明し、芝居に参加する許可を得た。だが芝居の全権は生徒会長にあるようで、詳しい話はそちらから聞いてほしいとの事。また、劇までの時間がないため、寝泊まりは寮ですることになった。
授業終了のチャイムが鳴り、生徒会室へ挨拶に向かう。
「初めまして。私生徒会長を務めているジル・リードナーと言います」
「俺は副会長のハンスだ」
今回の劇では最後に剣を使った決闘があるため、武術に精通した人物が必要となったわけである。ストーリーとしては貴族出身の騎士と平民出身の騎士が王家の姫君をめぐる鞘当という事らしい。一番の醍醐味は男女逆転の役回り。
「ちょ、ちょっと待った! その話の流れで言ったら僕たちが演じなくちゃいけない役っていうのは…」
「いやー、助かったぜ」
「クローゼ、ありがとね。いい人を紹介してくれて♡」
冗談ではないと思う。この時レオンとヨシュアの意見は見事に一致。二人の脳はこの問題を解決するべくフル回転していた。
「それにしてもどっちがやるんだ?二人とも素材は良さそうだし…」
「あ、クジ作ったからそれで決めよ?」
くじ引き。確かにこのままでは言い争いに発展しかねないし、運絡みではあるが一番いい解決方法かもしれない。だが確率は二分の一、かつてない緊張感が走りレオンの手は震えていた。
「く、くそっ! ヨシュア同時に行くよ!」
「う、うん!」
心の中で叫びながら、二人は同時にクジを引いた――。
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「ささ、姫様こちらでございますぞ」
「ちょ、ちょっと待って…」
そこに現れたのは…レオン。彼?の登場により一同は言葉を失う。
「なんか言ってよ…」
半ばヤケクソで登場したレオンだが、本物の女性と見間違うほどの完成度。亜麻色の髪はウィッグによって長髪にされており、白魚のような肌と空を連想させる青い瞳が見事にマッチング。そこにいたのは誰もが振り返ってしまうような美女だった。
「こ、これはとんでもない逸材を発見してしまったわね…」
「レオンさん、きれいです…」
「なんも知らなかったら、ナンパしちゃいそうだもんな」
皆様方のありがたい言葉に半泣きのレオン。
その夜から、レオン達はそれぞれ女子寮と男子寮に泊まることになった。
~女子寮~
「なんかうらやましいな~、こんな風に友達と寝泊まりできるなんて」
「…クローゼどう思う?」
「どうって言われても…」
エステルはわけもわからず首を傾げる。
「あんな上玉男子二人と一緒にいるくせに、女所帯を羨ましがるなんて…」
「…」
ジルに言われて無言になるエステル。今まで家族として接してきたのに、ジルの言葉によってどうしても意識してしまう。ようやく我に返ったのはクローゼに話しかけられてからだった。
こうして思わぬ形で三人の学園生活はスタートした。
家族以外の同世代の仲間と共に起き、学び舎に行く朝…、忙しくも楽しい学園生活は瞬く間に過ぎていった――。
~男子寮~
いよいよ学園祭が明日に迫り、前夜祭として騒ぐハンスとヨシュア。
「いやー、お前らが来てくれてホント助かったぜ」
「兄さんには悪いけどね…」
苦笑いをしながら答えるヨシュア。
(思わぬ収入もあったしな…)
内心ほくそ笑むハンス。
実はハンス…一部のファンクラブから頼まれ、レオンとヨシュアを盗撮し、ブロマイド写真を売りつけていたのだ。
これから悲惨な目に合うという事を知らずに…
しばらくするとレオンが戻ってきた。
「いよいよ明日だね…」
「長かったようであっという間だったな」
うんうんと頷きながら今までの出来事を思い出すハンス。彼が平常心でいられたのはこの時までだった…
「そういえば、最近僕の周りが騒がしいと思って調べてみたんだけど…、これって何か知らないかな?」
レオンが懐から出したのはハンスが盗撮したブロマイド写真。今まで楽しく談笑していた時間が嘘のように消え、部屋の温度が5度ほど下がったような感覚に襲われた。その原因であるレオンをおそるおそる見上げると…
「…」
先程まで笑っていたというのに、今では無言で目が据わっている。
「ひいぃぃぃぃぃっ!」
「に、兄さん…そこまでにしてあげたら?」
「ヨシュアの分もあるよ」
言うや否やヨシュアの写真も取り出す。
「…」
同じように無言になったヨシュアにハンスは震えが止まらない。さらに…
カチン。
微かな音。見ればレオンが刀を少し出し、納刀する。この行動を繰り返していた。
カチン、カチン、カチン……そんな音が一定のリズムで部屋の中に響く。
ついに耐え切れなくなったハンスは驚くほどのスピードで土下座に移行。
「ほ、ほ、ほんとごめんなさいぃぃぃぃっ! 頼まれたんです! 女子から頼まれたんですっ!二度としませんからぁぁぁっ!許してくださいぃぃぃっ!」
ガチの号泣にさすがのレオンも引いた。溜息を吐きつつ、ハンスに近づく。
「わかったよ…、今回だけだからね」
ぱあっと涙でグシャグシャになった顔を上げてレオンを見つめる。
「ほんとごめ「…次は、ないから」…はい」
こうして前夜祭は終わり、学園祭当日を迎えた。
「ご来場の皆様、長らくお待たせしました。これより、ジェニス王立学園第五十二回、学園祭を開催します」
正面の鉄門が自動で開かれると同時に、来場客が波のように学内に押し寄せ、校内は瞬く間に人で埋めつくされた。
そんな中で孤児院のみんなを出迎え、案内するクローゼ。劇で使用する衣装を見学させながら時間は過ぎていった。そして男女逆転の劇が幕を開けた。
「時は七耀歴1100年代。百年前のリベールは、未だに貴族制が残っていました。一方、商人達を中心とした平民勢力の台頭も著しく、貴族勢力と平民勢力の対立は、日増しに激化していったのです。王家と教会による仲裁も功を奏しませんでした。そんな時代、時の王が病に崩御されて一年が過ぎたくらいの頃、早春の晩。グランセル城の屋上にある空中庭園からこの物語が始まります」
「ああ、オスカー、ユリウス。わたくしは、どちらを選べば良いのでしょう?」
(まあ、あのお姫様はレオン君ではありませんか。これは目に焼き付けないといけませんわね)
劇を見に来ていたメイベルは楽しそうに続きを見る。
「覚えているか、オスカー? 幼き日、棒切れを手にして、この路地裏を駆け回った日々のことを……」
「ユリウス、忘れることができようか。君とセシリア様と無邪気に過ごしたあの日々は、かけがいのない自分の宝だ」
「ふふ、あの時は驚いたものだ。お偲びで遊びに来ていたのが、私だけではなかったとはな……」
「舞い散る桜のごとき可憐さと、清水のごとき潔さを備えた少女。セシリア姫はまさに自分達にとっての青春だった」
演技経験はない二人だったが、練習の成果もあってなかなかの雰囲気だ。
「きゃあきゃあ。クローゼお姉ちゃんとエステルお姉ちゃん、とってもステキ」
「あれレオン兄ちゃん!?」
「ふふっ、二人とも静かに見ましょうね」
先程みた三人とは全く異なる外見に、最前列のマリィとクラムは身を乗り出すほど興奮し、テレサ院長が苦笑しながら窘める。
「ユリウスよ、判っておろうな。これ以上平民共の増長を許すわけにはいかんのだ。ましてや、我らが主と仰ぐ国王が平民出身となった日には伝統あるリベールの権威は地に落ちるであろう」
「オスカー君、君が拒否するのであれば流血の革命が起きるだけのこと。貴族はもちろん、王族の方々にも歴史の闇に消えて頂くだけのことだ」
公爵家嫡男のユリウスを旗印として、平民勢力の潰そうとするラドー公爵をはじめとした貴族勢力。帝国紛争で功績を挙げたオスカーを推し立てて、下克上の機会を伺うクロード議長を中心とした平民勢力。彼らが狙うのは王家のセシリア姫。
「私とオスカー。近衛騎士団長と若き猛将との決闘を許していただきたいのです。そして勝者には姫の夫たる栄誉をお与えください」
両者の利益のため、何よりも愛するセシリア姫を手に入れるために、二人の騎士は剣にて雌雄を決する決意を固める。
革命ということになれば、多くの命が失われる。決闘ならば失われる人命は一人だけ。自分が敗者となったとしても、安心して親友に姫と王国の未来を託せる。
「貴様、何者かに雇われた刺客か?」
陰謀の魔の手に蒼の騎士が手負いとなり、公平に技を競い合う機会が奪われるが、運命は二人に猶予の刻を与えず、王立競技場にて決着の時を迎える。
「革命という名の猛き嵐が全てを呑み込むその前に、剣をもって運命を決するべし」
「おお、我ら二人の魂、エイドスもご照覧あれ。いざ、尋常に勝負」
オスカーとユリウスは鞘から剣を引き抜き、互いに交える。模造刀なので殺傷力はないものの、あまりの迫力に観客は引き込まれる。
「どうした、オスカー。お前の剣はそんなものか? 帝国を退けた武勲はその程度のものだったのか?」
「さすがだ、ユリウス。なんと華麗な剣捌きな事か、くっ…………」
多くの練習を重ね、実力者である二人の剣捌きは素晴らしいの一言に尽きる。
「だが、この身に駆け抜ける狂おしいまでの情熱は何だ? 自分もまた本気になった君との戦いに心を奮わせている」
「運命とは自らの手で切り拓くもの。背負うべき立場も姫の微笑みも、今は遠い」
「次の一撃で全てを決しよう。自分は君を殺すつもりで行く」
「オスカー、お前。判った、私も次の一撃に全てを賭ける」
オスカーとユリウスは距離を取り、最速の突きを繰り出す。
「駄目ー!」
両者の剣が交差する寸前、二人の合間にセシリアが割って入る。放たれた突きは彼女に命中し、倒れてしまう。
「ひ、姫?」
「セシリア?」
レオンの迫真の演技によって観客から悲鳴が漏れる。
「不思議…………あの風景が浮かんできます…………。幼い頃…………お城を抜け出して遊びに行った路地裏の……………………。…………………………だ……から…………どうか…………。いつも…………笑って………………い……て………………」
力尽きて息絶えるセシリアの痛々しい姿に、平民貴族を問わず関係者一堂慟哭する。両陣営共に失った代償の大きさを思い知り、自らの愚行を悔やんだ。
「姫、嘘でしょう? 姫、頼むから嘘だと言ってくれえー!」
孤児院のマリィ達や一部の観客は目を潤ませている。そしてここから奇跡の復活が始まる。
「ふふっ、それぞれの心に思い当たる所があるようですね。なれば、リベールにはまだ未来か残されているでしょう。今日という日のことを、決して忘れることがないように……」
空の女神が降臨し、悔い改めた人々に希望の光を与える為にセシリアの死体に息を吹き込む。
「まあ、ユリウス、オスカー。まさか、あなた達まで、天国に来てしまったのですか?」
再び目覚める白の姫セシリア。手を取り合い喜び合う人々。かくして争いは回避されて
リベールに栄光と平和が訪れる。そして舞台はフィナーレへと突入する。
「ですが、姫。今日の所は勝者へのキスを。皆がそれを期待しております」
「……判りました」
騎士であるクローゼと姫君であるレオンの距離が縮まる。お互いの吐息が感じられるほど近づくと、何度も練習しているはずなのにクローゼの鼓動は早くなっていった。
レオンの澄んだ瞳がクローゼを捉える。
(どうしよう…、全然落ち着かないよぉ)
クローゼは瞳を潤ませながら、さらに顔を近づけさせる。
(クローゼ?)
レオンの言葉にふと我に返ったクローゼは、慌てて台本通りに元の位置に戻る。
「リベールに永遠の平和を」
「「「「「「リベールに永遠の栄光を!」」」」」」
オスカーに続いて役者一座が一斉に唱和しながら、オーブメント仕掛けの緞帳が閉じられる。
舞台は大好評のうちに幕を閉じて、堂内は拍手で埋めつくされる。
こうして『白き花のマドリガル』の舞台劇は閉幕する。
「やっぱり最後は大団円か…、だがそれでいい」
銀髪の青年はそう言い残して、静かに去って行った。
ようやく終わりました。
次回は後半戦に入ります。