それではどうぞ!
一番近い魔獣――ブロンコに狙いを定め、刀を振り抜く。しかし見た目に反した固さにかすり傷しかつけられない。
「ちっ!」
思わず舌打ちが出る。レオンの攻撃を見て物理に強い耐性を持っているとすぐに理解したヨシュアは、時属性のアーツ【ソウルブラー】を発動。時空を震わせる波動がブロンコに向けて放たれる。だが、仲間の危険を察知したもう一体の魔獣が庇い、アーツは霧散した。
「もう一体はアーツに耐性があるのか」
「…面倒ね」
魔獣それぞれが何らかの耐性を持ち、連携も取れるとなれば厄介である。ならば…
「僕はこっちを潰すから二人はもう一体を、クローゼは援護を頼むよ」
レオンはあえて物理耐性のあるブロンコを狙う。ブロンコはどうやら自分を傷つけた敵に怒りを感じているらしく、先程から目を光らせながらこちらの隙を伺っている。また、ヨシュアは物理・アーツ共に高位の使い手だが、エステルはどちらかと言うと物理寄りのアタッカー。彼女が戦いやすいようこちらを選んだという理由もある。
「さて、君に恨みはないけれど終わらせてもらうよ」
一方、もう一体を任されたエステルは棒術具に闘気を込め、力任せに解き放つ。
「とっとと終わらせるわよ! とりゃあっ!」
クラフト【棯糸棍】
棒術具から放たれた衝撃波は一直線に飛んでいく。ファンゴはギリギリで身を捻り、鬣に掠るだけに終わる。しかし、その隙にクローゼのアーツ【ダイアモンドダスト】が発動。
強烈な冷気はファンゴの耐性の前に少しのダメージしか与えられないが、足場が凍ったことで動きに支障が出る。
「今だ!」
すかさずヨシュアが前に出る。一瞬で魔獣の死角に入るとその勢いのまま技を繰り出した。
クラフト【朧】
腰に納められた双剣を逆手で抜き出す。左右から襲いかかる居合は、魔獣の体に十字の深手を負わせた。
怒りで咆哮を上げるファンゴだが、後ろから力を溜め続けたエステルが続く。
Sクラフト【列波無双撃】
持てる力を全てぶつけたエステルの奥義。数え切れないほどの打撃を浴びせられたファンゴは、断末魔を発しながらゆっくりと倒れた。
断末魔を受けたブロンコは雄叫びを上げ、筋肉が膨れ上がっていく。只でさえ鋼のように固い皮膚が更に強化される。
「やばっ、レオン兄気を付けてっ!」
狂化された魔獣は目をギラつかせて襲いかかってくる。しかし、レオンは居合抜きの構えから全く動じない。その間にも巨大な爪が迫ってくる。刃物のような爪でズタズタにされる姿を想像したクローゼが悲鳴を上げたところで、ようやくレオンが動き出す。
(…レイ兄、技を借りるよ)
【天剣技、霞楼】
一閃の斬撃として放った衝剄を目標の内部に浸透させ、多数の斬撃として四散させる。刀に込める剄量に限界があるため、全力の威力とは程遠いがそれでも魔獣を殺すのには十分な威力である。
いかに物理耐性が強いと言っても、内臓が引き裂かれれば生きることはできない。ブロンコはその爪を届かせることなく絶命した。
「…す、すげえ、やっぱりお前さんはすげえぜっ!」
レオンの闘いを見て7年前の大会を思い出したナイアルも雄叫びを上げた。
「ば、馬鹿な…私の可愛い番犬たちが…、きっ、貴様らよくもやってくれたなあ!」
戦闘が終わり、室内は先ほどまでの風景と打って変わっている。滅茶苦茶になった室内には魔獣の死骸、ダイアモンドダストで凍った床、粉々になった机。ダルモアは怒りに任せて叫んだ。
「それはこっちの台詞だっての!」
「遊撃士協会規約に基づき、あなたを現行犯で逮捕します。投降したほうが身のためですよ」
これでようやく終わらせることができる。
「ふふふ…、こうなっては仕方ない。奥の手を使わせてもらうぞ!」
ダルモアは下卑た笑みを浮かべると、懐から杖のような物を取り出す。嫌な気配を感じたレオンは飛び出そうとするが…
「時よ! 凍えよ!」
ダルモアが叫ぶと同時に宝玉が怪しい光を放つ。時が止まったかのように、ダルモアを除くこの場全ての人間の動きが停止する。
「体がっ…動かない」
「これは、導力魔法…!?」
「違います…、これは恐らく『古代遺物』の力!」
「なんだあ、そりゃあ!?」
勝ち誇ったように笑うと、ダルモアは語りだした。
「これぞ我がダルモア家に伝わる家宝、アーティファクト『封じの宝杖』。一定範囲内の者の力を完全に停止することができるのだよ!」
本来、アーティファクトは「早すぎた女神の贈り物」と定義して無断所持・不法使用を禁止しており、力を持ったままのアーティファクトを七耀協会が回収・管理している。古代遺物の多くはその力を失った状態で遺跡などから発掘されるが、力を失わずにいるものも存在し、その中には強大な力を持つ物もある。ダルモアが所持している杖のように…
「ククク、さっきまでの威勢はどうした? 命乞いをすれば助けてやらんでもないぞ?」
拳銃を取り出すと、4人に向ける。ゆっくりとエステルに近づいていくダルモアに、ヨシュアは静かに呟く。
「汚い手でエステルに触るな…、もしも毛ほどでも傷つけてみろ…、ありとあらゆる方法を使ってあんたを八つ裂きにしてやる」
ヨシュアの殺気に、ダルモアはたじろぐ。普段の彼からは想像もできない冷酷さからエステルとクローゼは驚きを隠せない。
「ゆ、指一本も動かせぬくせに意気がりおってからに…、いいだろう! 貴様らの始末を先にしてやる!」
ダルモアが引き金に指を掛けた瞬間、ゾワリと寒気が走った。
「…これ以上家族に手を出すなら、俺がお前を殺すぞ」
レオンの怒りは既に限界を超え、身体から溢れ出した剄は室内を揺らした。
「なっ!」
青い瞳はオーロラのように虹色に輝き、空気を摩擦させた剄がバチバチと周囲に電光をまき散らす。レオンの変化に切れていたヨシュアも目を見開き、残りの二人は言葉を失った。
アーティファクトの力で動けないはずなのに、レオンは徐々に動きを取り戻していく。
(こ、殺されるっ!)
恐怖に怯えるダルモアは奥歯をガチガチと鳴らし、逃げる算段を立て始めた頃にそれは起きた。エステルのポーチが黒く光り、少女を中心に室内一帯に拡散した。
「身体の自由が…戻った?」
「エステル、今の光は…?」
「今の…父さん宛てに届いた黒いオーブメント…」
オーブメントから発せられた光によって、完全に動けるようになった4人。それに気付いたダルモアは驚愕。
「そんな馬鹿なっ、家宝のアーティファクトが、こんなことで壊れるものかあああ!」
立場が逆転し、混乱するダルモアに落ち着いてきたレオンは冷静に告げる。
「もう終わりです。大人しくしてください」
しかし、ダルモアは見苦しくもさらに逃走を図る。追いかけようとしたレオンだが、先の反動のせいか膝をついてしまった。
「レ、レオンさん!」
「僕の事はいいから、あいつを捕まえて!」
追うことが無理だと悟り、三人に先に行くよう促す。フィリップに介抱されつつ、ダルモアを逮捕してくれることを祈るレオンであった。
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結果から言うと、無事逮捕することができた。話によればヨットで逃げたダルモアだったが、王国軍王室親衛隊が所有する高速巡洋艦――アルセイユに行く手を阻まれ、そのまま御用となったらしい。
事情聴取を行っても犯人であるダルモアは、記憶が曖昧になっており今は落ち着いているそうだが、ボースの件といい黒装束との関わりがあったことは明白。今後も取り調べを行うとの事。王室親衛隊隊長であるユリア・シュバルツとの話を終えた一行は報告のためギルドへ向かった。
~遊撃士協会、ルーアン支部~
ジャンへの報告を行い、市長逮捕の功績から正遊撃士の推薦状をもらった3人。
「最後の最後で足を引っ張ったのに、いいのかなぁ…」
逮捕の現場まで行くことができず、本当に推薦状をもらってもいいものか考えるレオン。
「レオン兄、終わり良ければすべて良しよっ!」
「ハハ…、兄さんの助けもあったから逮捕できたんだし」
「もらってくれないと、逆に僕が困るよ」
和やかな雰囲気につられて笑うレオン。ジャンに再度お礼を言いつつありがたく受け取る。
「それにしても、あのオーブメントは何だったのでしょう?」
クローゼの質問にハッとする一行。アーティファクトを停止させた謎の光。謎は深まるばかりだが、そこでジャンが今後の方針を提案してくれた。
「その由来を調べたければ、ツァイスに向かった方がいいかもしれない。あの地方には博士もたくさんいるし、何かわかるかもしれない」
謎のオーブメントとカシウスの行方。新たな冒険が今始まる――。
レオンの怒りと、未知の変化…。
ちなみにレイ兄とはレイフォンの事です。
本来は天剣でしか使えない技なので【天剣技】なんですが、レオンの場合は二つ名が《天剣》なので、そう名乗っています。
ようやく長かった二章も終わり、物語の核心に迫ります。