第1話
孤児院の放火から市長の逮捕まで、ここ最近で起きた事件はとても濃いものだった。
一行はツァイス地方へ向かう前に、世話になった生徒会のメンバーやコリンズ学園長に挨拶回りをするべく、ジェニス王立学園に向かった。
「…そうか、孤児院の再建は近々始まるとな。それは良かったのう」
孤児院の再建のため寄付金をそのまま贈ったコリンズ学園長は、柔和な笑顔で話す。
「はい、本当に良かったです」
それに答えたのはクローゼ。孤児院にたくさんの思い出があり、テレサ院長を含め子供たちが居なくなるのは寂しいと、どこか暗い影を落としていたクローゼも落ち着きを取り戻した。
「ほっほっほ、午後からは休みじゃ。生徒会のメンバーに会っていくと良いじゃろ」
学園長室を後にし、ジルやハンスのいる生徒会室に向かった。部屋に入ると未だ学園祭の事後処理に追われており、声を掛けたところでようやくこちらに気付いた。
「やっほー」
「お疲れ様」
労いの言葉を投げかけると、ジルとハンスは笑顔で対応する。
「エステルじゃない! すごく活躍したみたいね」
「レオンにヨシュアもアルセイユに乗ったんだろ!? 羨ましいぜ…」
丁度事務処理も一段落したようで、食堂に行って談笑することにした。お菓子や飲み物がテーブルに並び、話が盛り上がる。
「劇のレオンはほんときれいだったわねー」
「…やめてよ」
あの恥ずかしい記憶を消し去りたい。穴があったら入りたいと思うレオン。
「…」
「…ハンス?」
学園祭の話に入った途端、急に黙り込み俯くハンス。疑問に思ったヨシュアが声を掛けるとハンスは般若の如き形相でレオンに迫った。
「レオン…、お前はメイベルさんと知り合いなのか」
「う、うん。そうだよ」
気を呑まれた様子でレオンは頷く。戦いにおいて無類の強さを誇る遊撃士の有望株がハンスの目に呑まれている。
「ただの知り合いなのになんであんなに親しそうだったんだよぉぉっ! さあ、吐け! キリキリ吐けぇ!」
レオンの肩を掴み、揺さぶるハンス。本当のことを言ったらどうなるのか予想もつかないため、誤魔化すことにした。
「いや、ホントにしr「メイベル市長はレオン兄のファンクラブ会長なんだって」エステルぅ!?」
エステルの空気読めない発言に振り返り、思わず声を張り上げる。
(ああ、後ろを見れない…)
エステルの発言から背中に感じる圧力が一層増したように感じる。しかし冷静に考えればメイベル市長とハンスに面識はないはずだ…。
(そうだよ、恐れることはないんだ。後ろめたい事なんてないんだから…)
意を決して後ろを振り返る。
そこには人の皮を被った何かがいた。何か言いたそうにしているが言葉は発せず口をパクパクと動かしていた。
…正直怖い。
「あー、メイベル市長はハンスの憧れらしいからね。それにあの人はジェニス王立学園のOBだし」
「そうなの!?」
ジルの発言にエステルとヨシュアは驚きの声を上げる。メイベル市長は多くの在校生から憧れの対象になっているらしく、その中でもハンスは筋金入りのファンとの事。
「写真でしか見たことないけど、あの輝かんばかりの笑顔がお前に向けられてるなんてえええ! 許すまじレオン・ブライト!」
「僕に言われても…、ファンクラブだってその時に知ったんだし!」
「このモテがっ!」
ジルが宥めてようやく落ち着いたハンス。
その時にファンクラブですか…と意味深にクローゼが呟いたが、誰にも届かなかった。
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挨拶回りを終えた3人は、クローゼと共にアイナ街道を抜けてエア=レッテンの関所へ向かった。
受付で通行手続を行い、カルデア隧道の説明を受ける。カルデア隧道とはカルデア丘陵を貫いている長い地下トンネルで、それを抜けるとツァイスへ辿り着く。
「そろそろお別れね…」
「そうですね、でも王国を一周するなら王都でお会いできるかもしれません。女王生誕祭のときに親戚の集まりがありますので」
「一か月後の女王生誕祭なら、確かに王都にいるかもしれないね」
「エステルさん、ヨシュアさん、レオンさん本当にありがとうございました。3人がしてくださったこと、絶対に忘れませんから…」
エステルはクローゼに近づき抱きしめた。そろそろクローゼともお別れの時。
レオン達はカルデア隧道の入り口に立ち、もう一度クローゼに手を振る。
「また女王生誕祭で!」
別れを惜しみながらも、三人は再び遊撃士としての旅をスタートさせた。
「――クローゼ。お待たせしました」
「ユリアさん。レイストン要塞から戻ったのですね?」
「ええ、その件に関してご報告しようと参上した次第です」
「ありがとう。ご苦労様です」
「…街道の外れに《アルセイユ》を停めています。報告の方はそちらで…」
「わかりました。…学園生活もしばらくはお休みですね」
(エステルさん、ヨシュアさん、レオンさん。三人に負けないよう私、精いっぱい頑張りますね…)
~カルデア隧道~
時々現れる魔獣を蹴散らしながら薄暗い道を進んでいく。隧道も街道灯に照らされており、道を外れなければ魔獣と遭遇することはない。
隧道の3分の1を越えた辺りで、ふと思い出したようにレオンが話しかける。
「そういえば、ツァイス地方には有名な温泉があったよね」
「エルモ温泉だね」
「それは是非とも入りたいわね~」
温泉に期待を膨らませていると、先の方から悲鳴が聞こえてきた。一行はすぐに反応し、その場所まで急ぎ辿り着く。
そこには口から触手を生やしたグロテスクな魔獣、ダンプクロウラーに囲まれた少女が蹲っていた。少女は壊れた街道灯を修理していたようで、そこを魔獣に囲まれてしまったらしい。赤を基調としたマント付きの作業服を着た金髪碧眼の少女は、怯えて今にも泣きそうな表情になっている。
「今助けるっ」
足に剄を走らせ、少女に迫る魔獣の前に出ようとする。しかし…
「こ、こっちに来ないでー!」
恐怖でレオンに気付かなかったのか、小型の導力砲(P-03)を抱えると魔獣めがけてぶっ放した。以前戦ったドルンの持つ導力砲の威力には及ばないが、少女の持つ導力砲は独自の改良が加えられており、2連式の導力砲は威力・連射性が一般の物より向上していた。
「うおっ!」
放たれた導力弾と魔獣の間に出てしまったレオンは、足に力を込め急停止を掛ける。足に負担が係ったがさらに剄を込め、強靭な脚力でその場を脱出する。
爆発に巻き込まれた魔獣は無残な姿になっており、抉れた地面の近くには魔獣の破片が飛び散っていた。
「はう~」
恐怖から解放された少女は可愛らしい声を出しながら座り込む。
「あ、危なかった…」
「レオン兄、大丈夫!?」
こちらに気付いた少女はようやく状況を理解したようで、「ご、ごめんなさい~」と再び泣きそうな表情になってしまった。
「だ、大丈夫だったから泣かないで」
安心させるように少女と目線を合わせたレオンは、優しく頭を撫でた。
「は、はぅ~」
少し困った顔をしたレオンだったが、落ち着いてきた少女が笑顔になると、同じように笑みを浮かべた。
街道灯の修理も終わったところで、目的地が同じという事もあり少女と同行することにした3人。
「あのあの、私ティータって言います。ツァイスの中央工房で見習いをさせてもらってます」
軽い自己紹介と雑談を交えながら先へ進むこと20分。終着点に辿り着いたレオン達はそのままティータに街を案内してもらうことにした。
中央工房の地下1階からエレベータを利用し地上に着くと、受付から呼び出しをくらったティータ。
「う~、案内できなくてごめんなさいっ」
「いいって、当面は滞在するからまた会いましょっ!」
「うん、また会おうね」
ペコリとお辞儀をして去っていくティータにほっこりとした表情で見送る3人。
「一生懸命で可愛い子だったね」
「むっ、あんな妹が良かったとか言い出すわけ?」
しかめっ面になったエステルだが、レオンはそれを意に介さず答える。
「エステルにはエステルの、良い所がいっぱいあるからね」
レオンの言葉にえへへと照れ笑いするエステル。
「私はあんな可愛い妹が欲しかったな~、可愛くない弟と違ってさ~」
「はいはい、何度も言うようだけど毎回フォローするのは僕と兄さん。お姉さんぶりたいならもっとしっかりしてもらわないと…」
ヨシュアの言葉に反論できない。軽口を言いながら、気を取り直してギルドへ向かう一行。
ツァイス地方でのクエストが始まる――。
いかがでしたでしょうか?
次回もお楽しみに。