時間が欲しいと思う今日この頃…
ギルドに入ると東方風の美女が受付をしていた。切れ長の瞳に民族衣装に身を包んだ妙齢の女性はレオン達が来る時期を予見していたようで、すぐに対応してくれた。
「私の名前はキリカ。ツァイス支部の受付を任されているわ。以後お見知りおきを」
ツァイス支部への所属変更の手続きを済ませると、話題は黒のオーブメントへ移った。キリカは工房長への紹介状をレオンへ渡し、真相の解明を助言したのであった。
「じゃあ、さっそく向かおうか」
ギルドから出た3人は中央工房へ向かい、受付でアポイントを取る。キリカの紹介状のおかげですぐに案内され、二階の工房長室へ移動した一行。
工房長室へ入り軽く挨拶を交わすと、黒のオーブメントをめぐるこれまでの経緯を説明した。
「そのオーブメントを拝見しても構わないかね?」
「うん、もちろんよ」
エステルは黒いオーブメントを荷物から取り出して工房長へ渡した。工房長によると最近作られたものらしいのだが、フレームに刻まれている形式番号がなく、後ろ暗い目的で作られた可能性が高いとの事。さらに詳しく見ると…
「まいったな、調整用のふたが見当たらない。よく見たら継ぎ目もないし、どうやって組み立てたんだろう? …うーん、これじゃあ調べ様子がないなぁ」
「例の博士だったらわかるかもしれないんだけど」
「???」
そう言うと、カシウス宛の小包に同封されたメモを見せる。
「R博士に調査を依頼…か」
マードックに話を聞くと、十中八九ラッセル博士だという。
ラッセル博士とは導力器を発明したエプスタイン博士の直弟子の1人で、導力器の普及はリベールに中央工房(当初は技術工房)を設立したラッセルの功績による部分が大きく、「導力革命の父」と呼ばれる偉人である。
カシウスの人脈に驚いていると、ラッセル博士に振り回されているマードックは遠い目をしていた。
「…失礼。丁度ここでお孫さんが働いていてね、その子に案内させるよ」
室内にあるインターホンでその子を呼ぶ。
「えっと、失礼します」
「ティータ?」
「あれれ…、レオンさん、エステルさん、ヨシュアさん?」
ラッセル博士のお孫さんはティータだったようで、幼くして整備を任せられるだけはある。
マードックの頼みに素直に了承したティータ。…可愛い。
案内された家に入るとそこには最新の設備がズラリと並んでいた。
「おじいちゃん、ただいまぁ」
ラッセル博士と思われる人物は、何か作業をしているようでこちらに全く気付かない。
「…むむむ。ここをああしてこうすれば。 …で、できたあああっ!」
言うや否や一目散に実験に走っていく博士。
「おじいちゃん、このお兄ちゃんたちが相談したいことがあるって…」
「おおティータ! すぐにテストを始めるからデータ収集を手伝ってくれ」
「でも、あのね…」
「今度の発明は、生体感知器を無効にするオーブメントじゃ。特殊な導力場を発生して走査をごまかすわけじゃな」
「ほ、ほんと?」
「うむ、すぐに始めるぞい」
自分たちに目もくれず、ラッセル博士とティータは複雑そうな装置を動かし始めた。当分終わりそうになく、どうしようか悩むレオン。
「ほれ、そこの茶髪!」
博士の視線の先にはレオンしかいない。
「僕?」
「他に誰がおる。2階の本棚から『導力場における斥力値』と言うノートを持ってくるんじゃ!」
「わ、わかりました」
慌てて取りに行くレオン。
「ほれ、そこの触覚みたいな髪をしたの!」
「あ、あ、あんですって~!?」
「ぼけーっとしとらんでコーヒーでも淹れてこんか!」
こうしてレオン達は成り行きで実験を手伝うことになり…、実験が終わった頃にはすっかり夕方になっていた。
「わはは、すまんすまん」
「でもまあ、貴重な体験だったしね」
世間話をしながらティータが作ってくれた夕食をありがたく頂く。ようやく本題に入り、ついに黒のオーブメントを調べることとなった。
ラッセル博士に促され、黒のオーブメントを導力波測定装置の台に置く。
「では、始めるぞい」
すぐに変化が現れる。タコメーターの針がブルブル震え、目まぐるしく回り始めた。
「きゃあ!」
「な、なんじゃこれは!?」
ダルモアの市長邸で見た青黒い光が室内に充満していく。黒い光は波動となってラッセル邸だけでなく、街にまで影響を及ぼした。
街灯が消え、家の導力機は全て停止。突然の出来事に混乱した市民が声を張り上げているのが聞こえる。
「おじいちゃん、これ以上はダメだよぉ! 測定装置を止めなくっちゃ!」
「ええい、止めてくれるな! あと少しで…」
「博士っ!」
戦声に似た…剄の籠った叫びが、レオンから発せられる。
「ぬおっ」
驚いたラッセル博士はすぐに装置を止める。すると、部屋の導力が元に戻っていき、最終的には街中の導力も回復した。
「はうううう~…」
「計器の方は…、ダメじゃ何も記録しておらん」
街の導力は回復したが、騒ぎは収まらなかった。オーブメント内を走る導力が、働かなくなったことによる今回の騒動。黒のオーブメントが引き起こすこの現象を『導力停止現象』と名付けた。また、規模の大きさからとんでもない代物であることが窺える。
「ハーカーセー! 毎回毎回、新発明の度にとんでもない騒ぎを起こして! 街中の照明を消すようなことをして、一体何をしたんですか!」
息を切らしながら怒るマードックに対し、ラッセル博士は飄々と答える。
「失敬な、今回わしは無関係じゃぞ。そこのオーブメントが原因じゃ」
「な、なるほどこれが…、だからと言ってアンタが無関係ということがあるかあっ!」
「ちっ、ばれたか…」
恐らく何回も同じような事があったのだろう…、マードックに同情せざる負えないレオンであった。
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翌日、ラッセル博士に黒の導力器を任せ遊撃士として依頼をこなすことにしたレオン達。
トラット平原道を抜け、エルモ村を目指す。普段は温泉の湯気が立ち上っているのだが、ポンプが故障しているためか、硫黄の匂いも僅かに香るだけだった。
紅葉亭のマオ婆さんからポンプ小屋の鍵を受け取り、ティータが修理を行う。
「うーんと、まずは機関部の点検から…、スクリューと配管もチェックして…」
「何か手伝えることはあるかな?」
「あ、大丈夫ですよー。1人でなんとかなりますから」
素人であるレオン達が手伝えることはなく、お言葉に甘えて旅館で休むことにした。
だが旅館に戻ったところ、トラット平原で迷子になった観光客がいるとの話を受けたい一行。
「すぐに探しに行かないと」
「よーし、行くわよ!」
整備された道から外れ、しばらく探していると…
「…ふえーん、やだやだ、助けて~~~っ!」
聞き覚えのある声に溜息を吐きたいところであったが、すぐに助けに入る。助けを求める人物がはっきり見えた。…それは、どこまでも能天気なドロシーであった。
「もう大丈夫です」
「…どちら様?」
「遊撃士協会のレオンですよ!」
魔獣に襲われているというのに、マイペースを崩さないドロシーに脱力する。
「あはは、冗談だってば♪」
「激しくやる気が…」
エステルの呟きに心の中で同意をしつつも、魔獣がいるため気を引き締める。
相手は狼型魔獣アタックドーベン。動きが素早く、集団で狩りを行うため囲まれると厄介な魔獣である。
ドロシーを囲むように守り、レオン達は敵を屠っていく。動きは素早くとも数々の魔獣を倒し、連携も今まで以上に良くなっているレオン達の敵ではなかった。
エルモ村に戻ると既に夕方となっており、湧き出る温泉からは湯気が立ち上っていた。どうやらティータの修理が終わったらしく、労いもかねて紅葉亭に向かった――。
見せ場がないですね…
次回は温泉回です!