鋼殻の軌跡   作:かめぞう

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忙しすぎてすごい時間がかかってしまった…。
第4話です。


第4話

ツァイスへ戻るとすぐに異変を感じ取ったレオン。

その原因の元と思われる場所へ向かうと、中央工房から煙が上っており入り口には逃げ惑う人々で溢れていた――。

 

「はあはあ…、死ぬかと思った…」

 

「無事で何よりだ。よし、これで全部かね!?」

 

マードックは声を張り上げながら、逃げ遅れた者がいないか確認を行う。レオン達も現場に辿り着き、現状の把握に努める。

地下から5階までどの階からも煙が出ているが、消火装置は動いていないとの事。マードックは煙の発生源がわからず、困り果てていた。

 

「あれ、おじいちゃんは?」

 

「そのあたりに…、ヘイゼル君確認したんじゃないのかね?」

 

「それが…博士の退去は確認できていないんです」

 

「なんだって!? それならまだ中に残っているのか!」

 

ラッセル博士の退去が確認できず、レオン達は救助を申し出る。案内役のティータも引き連れて救助の準備を始めた。

準備も終わり入り口に向かったレオンは、突然、誰かの視線を感じて身を固くした。

 

(なんだ?)

 

慎重に気配を探る。すると視線はギルドの奥…リッター街道の方から感じていた。

 

(…誘っているのか?)

 

ツァイスに戻ってから時々、誰かに見られている気がするのだ。それが今になって強まっており、それはレオンのみに向けられていた。しかも視線を追った先に感じる気配は、以前ヴァレリア湖で会ったことがある人物だと思われる。

 

(黒装束のリーダー…?)

 

急に立ち止ったレオンを不審に思ったティータは声を掛ける。

 

「レオンお兄ちゃん?」

 

「…ごめん、救助は任せる!」

 

エステル達の返事も待たず、その場から立ち去る。剄を体に溜め、ものすごい勢いで屋根を飛び越えていくレオンの姿を見送りながら、エステルは叫んだ。

 

「ちょ、レオン兄!?」

 

理由を告げずに出てきてしまったことに罪悪感を覚えるが、あの時見た人物ならエステル達には荷が重い。それに今回の目的は恐らく自分。いつでも戦えるよう意識を切り替え、身体に流す剄を高めていった。

 

 

 

 

********************************

 

 

 

 

「…フフ、やはり来たか」

 

リッター街道で呟くのは黒装束の男。金色の剣…ケルンバイターを携え、強敵との戦いを楽しむかのように笑っている。

 

「お前が居ては計画の邪魔になるだろうからな…、できれば大人しくしてもらいたいのだが、いかがかな? 《天剣》殿」

 

黒装束の男は不意に視線を動かして尋ねた。

 

「ぬかせ。あんたを捕まえればそれで終わりだ」

 

すぐ後ろにレオンが立っていた。乾いた双眸は黒装束の男を捉えており、いつでも戦える雰囲気を醸し出している。

 

「できるかな?」

 

「やってやるさ」

 

躊躇はせず、悠然と立っている男に刀を抜き打つ。一瞬でレオンの周囲が衝剄の余波で爆発した。切っ先から放たれた閃断は鋭い弧を描き、消滅する。

だが、土煙の先に男の姿はない。

 

「いきなりとはな…」

 

上に跳んだ男は落下の力も利用して剣を降り下ろす。剣と刀が交錯し、斬撃と斬撃が衝突する。大気が破裂し、火花が舞う。

刀を振り抜く反動で後ろに跳び、全身に剄を走らせる。

 

【内力系活剄の変化、疾影】

 

強力な気配を発散後、即座に殺剄を行い移動することで相手の知覚に残像現象を起こさせる。レオン程の武芸者が使えば、本物を見分けることは難しい。だが…

 

「こんな小細工が通用すると思ったか!」

 

男は正確に本物を見切った上で、攻撃を仕掛ける。

 

「ちぃっ!」

 

レオンが次なる攻撃を繰り出す前に、男のオーブメントが光る。

 

【シルバーソーン】

 

狂気に満ちた銀の刃が降り注ぎ、巨大な光が包み込む。しかし、レオンは光が届く前に高速で移動し脱出。光で男の姿を見失うが、背後からの殺気に反応。頭を下げる。剣がレオンの髪を何本か削っていく。

身を捻り、半回転するのと同時に刀を振るう。

 

【サイハーデン刀争術、朧月】

 

刀身に刃のように研ぎ澄ました剄を纏わせ、切断力を上げる。対して男も剣に闘気を込め、放つ。

 

【破砕剣】

 

互いの武器がぶつかり合う。達人級の技の余波は、激しく周囲を破壊。力が拮抗し、再び距離を取る。

レオンの頬に赤い線が走り、血が流れた。

 

(この強さは父さん並み、またはそれ以上か…)

 

戦いの意識はそのままに、今は行方不明となっている義父と比較する。

 

「どうした? 私を捕えるのではなかったか?」

 

「今のは痛み分けだよ」

 

「!?」

 

レオンの言葉が終わると、男の仮面に罅が入る。亀裂は徐々に広がり、破片がパラパラと地面に落ちていく。仮面が割れ、ようやく男の素顔が顕わになった。

その正体は銀髪にアメジスト色の瞳をした美青年。

 

「ようやく素顔を見れた」

 

「ふっ、《天剣》の名は伊達ではないという事か…」

 

端正な顔に笑みが浮かぶ。銀髪の男は一撃一撃が重く、そして鋭い。また、黄金に輝く剣から言い知れぬ力を感じる。

 

(まずはあの剣を破壊するっ!)

 

次の行動を瞬時に決めたレオンは、刀身に剄を込め襲いかかった。

 

【外力系衝剄の変化、蝕壊】

 

相手の武器に剄を流し込み、硬度を失わせ破壊する。相手を無力化するときに好んで使う武器破壊の技だ。

防御に回った男の剣に剄を流し込み、武器の硬度は失われる―――はずだった。

 

「なっ!」

 

剄を流し込んだ瞬間、何らかの力で剄が掻き消された。今まで起きなかった事態にレオンは一瞬焦る。その隙を男が見逃すはずもなくレオンの腹に蹴りを入れ、十数アージュほど吹き飛ばす。

 

「何をしようとしたのか知らんが、この剣は特別製だ。そこらの剣とは違うぞ」

 

黄金の剣を構え、吹き飛ばした少年から目を離さない。

 

(そろそろ博士を運び終わった頃だろう…)

 

「お前は強い…だが、お前一人で動き出した歯車を止めることなどできん」

 

その言葉に反応を示したレオンは、ゆっくりと立ち上がり声を発する。

 

「一人で何でもできるなんて自惚れてはいないさ。でもあんたを捕まえれば計画とやらは狂ってくるだろ?」

 

身体の中で剄が激しく奔っている。今流れている剄を刀に流せば崩壊してしまうほどだ。エルモ温泉の恩恵もあるかもしれないが、強敵との戦いによって、レオンの中で無意識に抑えていたものが表に出てこようとしているのかもしれない。

刀に剄を込める。抜き打ちの構えから解き放つ、サイハーデンの基礎にして奥義。

 

【サイハーデン刀争術、焔切り】

 

「いいだろう…、来いっ!」

 

【鬼炎斬】

 

黄金の剣に業火を纏わせる一撃。レオンと男は高速で接近し、すれ違う瞬間に斬撃と炎がぶつかり合う。衝剄と闘気の余波が空気を震わせる。

その震動に乗るようにか細い金属の悲鳴が走った。

レオンの刀が折れたのだ。10年苦難を乗り越えてきた愛刀が限界を迎え、刀身の半分が空中をくるくる回転しながら地面に突き刺さった。

だが、レオンは止まらない。折れた刀を捨てると同時に四肢に剄を走らせ、強化した脚力で一気に懐に飛び込み、振り向いた男の腹に拳打を叩きこむ。ぎりぎりで腕で防がれるが、ガード越しに力を解放し、相手を吹き飛ばした。しかし、ダメージを負った気配はなく、空中でバランスを取りながら地面に足を着ける。

 

(刀が折れたと悟った瞬間攻撃に転じたあの判断力に、得意な武器を失ってなおこの戦闘力。あいつが喜びそうだな)

 

地面を滑りながら勢いを殺した男は、痺れた腕を気にしながら思案する。

 

(…来るか?)

 

レオンは身構える。剄の通りは万全、武器がないことを除けば良好な状態である。いつでも迎撃できるよう相手の一挙一動に目を見張っていたところで、男は不意に口を開いた。

 

「目的を達した以上ここに留まる理由はない。…フフ、お前たちが本当の意味でこの世界を理解した時、どう足掻いていくのか見せてもらおう」

 

「何?」

 

男はそれだけ伝えて去っていく。

 

(追いかける…か?)

 

だが武器を失った状態ではこちらが不利だ。追いかけるのを諦め、離れていく気配を見守った。気配が察知できなくなると大きく息を吐き、戦いの熱を冷ましていく。

 

「…」

 

折れた刀を拾い上げ、見つめる。10年も苦難を乗り越えてきた愛刀。様々な思い出が過り、胸が締め付けられるようだ。

心を落ち着かせるのに数分要し、今まで世話になった愛刀を大事に抱え込みながら、レオンはツァイスへ戻っていった。

 

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