第6話です!
「レオン君ではありませんか」
「……メイベルさん?」
エルガー武器商会に入ってきたのはボース市長であるメイベル。驚いた顔をしていたがすぐに笑顔になり、こちらに歩んでくる。
「どうしてここに?」
理解が追い付かず未だ呆然としているレオンは、思うが儘呟いた。
「ボースマーケットで仕入れている商品の確認と、挨拶に回っておりましたの。そういうレオン君はどうしてこちらへ?」
「実は――」
エルガーに話したことをそのまま伝える。全てを話し終えると、メイベルは目を瞑りながら思索に耽っていた。シミ一つない綺麗な手を頬に添えて考える様は非常に絵になっている。
「……そうでしたか。それで新しい刀が必要と言うわけなのですね?」
メイベルの再確認に頷くレオン。
刀の入手にここまで手古摺ると思ってもみなかった為、長い溜息を吐きだす。
「レオンお兄ちゃん、大丈夫?」
袖を引っ張り心配そうな表情で見上げるティータに大丈夫と告げる。実の祖父が拉致され、焦りや不安もあるだろうに、自分の心配をさせてしまったことに自責の念に駆られる。その様子を見ていたメイベルは先ほどから気になっていた少女について尋ねた。
「そちらの子は?」
「ラッセル博士のお孫さんのティータです」
「ティータって言いますっ!」
「導力革命の父」とも呼ばれる偉人の孫と聞き、再び驚くメイベル。
自己紹介から始まり、持ち前の人懐っこさからすぐに打ち解けるティータと実は子供好きなメイベルの話は弾んでいく。
それを陰で見ていたエルガーは静かに呟いた――
「そろそろ本題に入りたいんだが……」
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「俺の知り合いにジルドっつー腕のいい鍛冶屋がいる。ロレントから北に向かい、マルガ山道の途中にある一軒家だ」
「あんな所に!? 今まで気付きませんでした……」
「ああ、入り組んだ場所にあるからな。気付かなくて当然だ」
ロレントで生活して10年経過したが、マルガ山道に鍛冶屋があったとは初耳だ。
翡翠の塔は実戦とトレーニングを兼ねて何度も足を運び、マルガ鉱山についても届け物の運搬等で赴いている。良質な鉄鉱石が採れるマルガ鉱山付近に鍛冶屋を営むのは当然と言えば当然で、今まで知らなかったことを不思議に思いつつ、情報を提供してくれたエルガーに感謝する。
ようやく前進したことに安堵しつつ、マルガ山道へ出発するための準備を始める。さすがに無手のまま魔獣が徘徊する場所へ向かうわけにもいかず、一振りの剣を購入。
サイハーデンの技を使うことができないが、他の剄技が扱うことができれば手配魔獣級に出くわしてもティータを守ることはできるだろう。
「よし、行こうか」
「「うん(そうですわね)」」
準備を終えたレオン達は、早速マルガ山道に出発する――。
……うん? ちょっと待てよ。
「メイベルさん?」
「あら? 他にも必要なものがおありで?」
あっけらかんと答えるメイベルに、一瞬自分がおかしいのか?と思ったレオン。
「あの、同行されるおつもりですか?」
「もちろんですわ! 幸い挨拶回りも終わりましたし、レオン君の勇姿を目に焼き付けるチャンスですもの」
「いや、危険ですって」
マルガ山道は魔獣が徘徊しているだけでなく、通る道によっては険しい場所もある。加えて、ボース地方の市長でありマーケットのオーナーまで務めている重要人物を連れて行くのには些か抵抗がある。ティータは独自改造したP-03、戦術オーブメントを所持し、戦闘場面も見ており、それなりの戦力にはなる。
しかし、メイベルは渋るレオンを意に介さず言葉を続ける。
「なんでしたら、遊撃士協会にご依頼しましょうか? もちろん指名付きで♪」
多くの経営者と商談を行ってきたメイベルの交渉術に勝てる道理はなく、
「レオンお兄ちゃん、メイベルさんも連れて行ってあげようよ」
ティータからの援護射撃もあり、結局はレオンが折れることになった。これも正遊撃士になるための修行だと自分に言い聞かせて―――。
~マルガ山道~
マルガ山道に入って数十分が経過し、襲いかかってくる魔獣はレオンが蹴散らしていた。ティータからの援護もあり、順調に歩を進めていく。魔獣をものともしないレオンの姿に熱い視線を送るメイベルも、普段から運動はしているようで余裕をもって歩いている。
(これなら大丈夫そうだな…)
地図を確認しながら先へ進む。魔獣に関しても熟知しているとはいえ油断はできない。魔獣を回避するためにも極力会話はせず、目的地へ向かう。
更に進むこと10分。ようやく一軒家に辿り着いた一行は扉をノックし中へ入る。
カンカンカンとリズム良く音が聞こえる方に目を向けると、筋骨隆々の男性が火花を散らしながら鍛錬していた。
「おめぇさん達、なんか用か?」
こちらには目もくれず、一心不乱に槌を降り下ろしている。
「遊撃士協会のレオン・ブライトと言います。単刀直入に言います、ジルドさん、あなたに刀を一振り打って頂きたいのです」
そう言うとこちらを振り向き、鋭い眼光がこちらを捉えた。本当に刀鍛冶なのか?と思わせるほどの眼力。だがレオンは決して目を逸らさない。
「初めまして、私ボース市長を務めておりますメイベルと申します」
「ティータです。よろしくお願いします」
そんな空気を壊す様にメイベルとティータが挨拶した。それによってレオンから視線をずらし、二人を見据える。先程のような圧はなくなっていき、代わりにレオンの方へ手を伸ばし言葉を発した。
「お前の刀を見せろ」
小さく頷き、腰に下げていた刀をジルドの手に納める。
無言で鞘から刀を抜きだし、折れた刀をじっくりと観察する。
「これは……正宗か。他の剣士からしたら喉から手が出るほどの名刀だ。“斬線”を見極めていることからすれば、それに見合う腕はあるようだな」
“斬線”――物には切りやすい角度と言うものがあり、その角度に必要な分の力と速度を加えて刀を振れば固いものでも簡単に切れるのだ。もちろん、同じ物質だからと言って同じ場所にあるというわけでもなく、優れた剣士でも見極めるのは難しい。
「……この刀を折った剣からは言い知れぬ力を感じました。所有者の実力もリベールの中でもトップクラスだと思います。僕には守りたいものがある…そのためにも今の刀を超える刀を打って頂きたい」
思い出されるのは刀が折られた光景。自分の獲物が折られるということは戦う術が失われるという事。それでは大切なものは守れない。
この世界に来てから10年経ち、大切なものは両手には収まりきらないほどできてしまった。自分の手が届く範囲なら必ず守ってみせると誓ったのだ。誰にでもない…自分自身に。
決意の宿る瞳を凝視し、レオンの覚悟を感じ取ったジルドは声をあげて笑った。
「くくっ、気に入ったぜレオン。いいだろう……作ってやるよ。最高の刀を!」
だがな、と。先程とは一転、真剣な表情を浮かべた。
「最高の刀を打つには最高の素材がいる。その名も“ゼムリアストーン”」
聞き慣れない単語に疑問符を浮かべていると、ティータが補足してくれた。
「“ゼムリアストーン”は最近加工法が発見された超硬質の鉱物なんです。確かにそれを使えば最高の武器が作れるかも…」
「どこで手に入るの?」
「そこが問題なんだよ……、ゼムリアストーンは未だ謎の多い物質でな、簡単には手に入らん」
製作の目途が立ったと思えば、今度は素材の確保に行き詰った。
「どうすれb「ゼムリアストーンなら家にありますわよ」……え?」
メイベルの発言に自分の耳を疑う。
「父の遺品の中にゼムリアストーンがありまして。今は飾ってあるだけなのですけれど、レオン君が必要としているのなら差し上げますわ」
「……え? あ? ほんとに?」
「はい♪」
理解が追い付かずもう一度再確認する。それに対しメイベルは笑顔で即答。
父の形見というのに自分のために差し出してくれる、感極まったレオンは思わず抱き着いてしまった。
「きゃっ」
「メイベルさんっ、ありがとうございます!」
困ったときに手を差し伸べてくれるメイベルに思わず目頭が熱くなる。女性特有の甘い香りと温かい体温を感じながらも腕の力を緩めることはない。
一方メイベルは憧れの男性に抱きしめられ、鍛え抜かれた体躯を嫌でも感じてしまう現状に頭が真っ白の状態。
(これはやばいですわ……)
心臓が早鐘を打ち、顔に熱がこもる。ハイになっているレオンがそれに気が付くはずもなく、メイベルの意識は遠のいていった――。
ついにゼムリアストーン製の武器が…
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