時間が経つのが早いです。
「うーん……」
幸せそうに気絶したメイベルを寝かせ、刀の打ち合わせに入る。
「ゼムリアストーンを使って完成するまでに最短で2週間はかかる。あとは振りに誤差が出ないよう、刃渡りの長さと重さを調節するからな」
ゼムリアストーンは最近になって加工の方法が発見された代物で、精製するのにはどうしても時間がかかってしまう。ましてや刀を完成させるに至るまで様々な工程が必要であり、二週間という期間はむしろ早い方である。
そうして手渡されたのは模擬刀。どうやらこれで合わせていくらしい。
模擬刀を正眼に構え、全身に剄を張り巡らしていく。剄の密度が高まったことを確認すると無心に刀を振るう。サイハーデンの型を再現し、動きをより実戦に近づけていく。
「もっと重くしてもいいですね。刃長ももう少し…」
「わかった。お嬢ちゃんも手伝ってくれるかい?」
「は、はいっ!」
ティータも手伝い、時間をかけて徐々に理想形へと近づけていく。
模擬刀を弄っては振り、弄っては振りを繰り返し漸く完成する。
「よし、確かめてみてくれ」
修正した模擬刀を渡されその場で構える。そのまま振るうことはせず、腕に伝わる感覚でレオンは頷いた。
「うん、バッチリです」
笑顔で答えるレオンに、ジルドも満足気に頷く。横で見守っていたティータも嬉しそうにしている。それを横目で確認しながら模擬刀を下ろし、剄を落ち着かせていく。だが――
ゴゴ……
「っ!」
剄で強化していた五感が外の異常を伝える。感じるのは魔獣の気配―――緩めた剄を再び強め、戦闘態勢に入る。
「どうしt……!?」
ジルドも外の異変を感じ取り全身に力が籠る。ゆっくり立ち上がり扉をわずかに開け外の様子を伺うと、100アージュ程離れたところに魚のような魔獣が徘徊していた。その中の一匹は特に大きく、電気を纏いながらバチバチと音を立てている。
「ちっ、サンダークエイクか……。ここ最近騒がしいと思ったら原因はあいつか」
突如現れたというわけではないらしく、ジルドは不機嫌さを隠さず吐き捨てるように呟く。
「僕が行きます」
魔獣を狩るのも遊撃士の仕事の一部だ。エルガー武器商会で購入した剣を携え、魔獣を見据える。
(全部で8匹か…、でかいのが面倒そうだな)
剄の密度も十分。あとは飛び出すだけとなった時、ジルドに呼び止められた。
「待て……。こいつを持っていけ。『正宗』より劣るかもしれんが、それでも剣よりは戦いやすいだろう」
「あ、ありがとうございます」
壁に掛けてあった刀を渡されお礼を言う。愛刀を失って一日しか経っていないというのに、それ以上の時間を過ごしたような気がする。
刀を強く握りしめ、外へ出る。すると……
「レオンお兄ちゃん、私も戦う!」
小さな導力砲を持ち、真剣な表情をしたティータが頼み込んできた。だが今回戦うのはそこらの魔獣とは違い、手配魔獣に匹敵するものだ。幼いティータを連れて行くのは無謀と言える。
断ろうとしたレオンだったが、ティータの覚悟を感じて言葉を変えた。
「……魔獣との戦いは一歩間違えれば命に係わる。それでも行くのかい?」
「ここで逃げたらいつまで経ってもおじいちゃんを助けられない……。足手まといかもしれないけど、それでも―――」
涙を目にいっぱい溜めて叫ぶ。
「私は、私の手でおじいちゃんを助けたいっ! だから戦いますっ!」
(止めても無駄かな……)
神妙な顔つきだったレオンも、ティータの決意を聞いて口角を釣り上げる。今更何を言ってもティータの考えは変わらないだろう。昔から妹分に弱いレオンは、自分がカバーすればいいかとポジティブに考える。
「……危険と感じたらすぐに下がるんだよ」
「っ! うん!」
********************************
岩場を利用して魔獣との距離を詰めていくと、サンダークエイクの異常とも言える巨大さに幼い少女は思わず息を呑む。
そんな様子を確認しながら、目配せで戦いの合図を送る。
先に飛び出したのはレオン。刀身に込めた剄を斬線に沿って解き放つ。
【外力系衝剄の変化、閃断】
薄く研ぎ澄まされた衝剄が進行上にある魔物を寸断していく。二体の魔獣の亡骸を大きく飛び越え、群れの更に奥に着地する。
仲間が殺された怒りからか、魔獣の視線はこちらに集中している。
「今だっ!」
「はいっ! やあああああっ!」
反対方向にいるティータが、ラッセル博士秘蔵の帝国製火薬式多銃身砲を構える。
多数の銃身が筒を形成するように並べられ、毎分4000発という弾丸が容赦なく魔獣に向けて放たれる。
Sクラフト【カノンインパルス】
弾丸の嵐が吹き荒れ、魔獣をズタズタにしていく。
ものすごい勢いで薬莢が落ちていき、硝煙が風に流れていく。全ての弾を撃ち尽くした頃には、大型のサンダークエイクを残して他は全滅していた。
「……ドキドキしちゃった」
(えげつなっ!)
これほどの凶悪な武器を持ち、数多くの薬莢の中で一仕事を終えたと言わんばかりのティータに笑顔を引きつらせるレオン。
そんな中でも瀕死状態のサンダークエイクは、反撃をせんと体の周りに微弱な電気を発生させていた。それに気が付いたレオンは気持ちを切り替え、刀身に剄を込めながら近づいていく。
「グォォォ……」
「君に恨みはない。でも……」
近づいてくるレオンに気が付いたのか、こちらを見据え弱い電撃を放つ。
それを難無く刀で払い、振り上げる。
「誰かを傷つける前に僕が君を倒す。……恨んでくれて構わない」
そして降り下ろした―――。
巨大な亡骸を背にレオンはティータを連れてジルドの元へ帰っていく。警戒していた割にはすんなりと倒すことができ、内心ほっとしている。だが、先の戦闘で見せたティータのSクラフトはさすがにやり過ぎではないかと思う。
(ラッセル博士は何を考えているんだ?)
旧式の機関銃とはいえ、幼い少女が扱うには危険であり、なにより護身用にしては殺傷能力が高すぎる。
(まあ、博士の事だし何か考えがあるんだろう……)
マッドサイエンティストであるラッセルにそのような考えがあるとは思い辛いが、無理やり納得させる。
物思いに耽っていたせいか、ティータの声で我に返るレオン。
「レオンお兄ちゃん、着いたよ」
「あ、ああ。ありがとうティータ」
「? 大丈夫?」
「うん、考え事してただけだから」
鍛冶屋の扉を潜り、結果を報告する。どうやら機関銃の音が響いていたらしく、それほど心配はしていなかったとのこと。驚きはしたらしいが……
「それはさておき、ゼムリアストーン製の刀は作っておいてやる。だからそれまではその刀を使え。」
愛刀『正宗』まではいかないかもしれないが、使った感じからかなりの業物であることはわかる。
ジルドにお礼を言いありがたく受け取ると、横からメイベルが顔を出してきた。
「ビックリしましたわ。いつの間にか寝ていますし、二人もいませんし……」
記憶が曖昧になっているらしく、レオンが抱き着いたことは覚えていないようだ。あまりの嬉しさに抱き着いてしまったが、今思い出すだけでも恥ずかしい。
「はは、とりあえず一件落着です。帰りましょうか」
「うん! おじいちゃんを助けなくちゃ!」
「すごい幸せを味わったような気がするのですが……、なぜなのかしら?」
誰にも聞こえない声でぼそっと呟いたメイベルは、今の気持ちを不思議に思いつつ余韻に浸るのだった。
帰りは魔獣と出会うことなく進み、一度も戦闘をすることなくロレントに辿り着いた。街中まで歩くとリラが迎えに来ており、メイベルと別れを告げる。
「ゼムリアストーンはすぐに御送りしますのでご安心を。それではレオン君、ティータちゃん、またお会いしましょう」
「本当にありがとうございました」
「メイベルさん、今度はツァイスへ遊びに来てくださいっ」
優雅に去っていくメイベルを見送り、レオン達も定期船のチケットを確保し、博士救出のため再びツァイスへ戻る。
最強の刀が出来上がるまであと二週間―――。
次回は原作に戻ります。
ついに最強の刀が出来上がる目途がたちました。
感想があればお願いします。