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~リッター街道~
闇夜の街道を悠然と歩いているのはロランス少尉。
レイストン要塞に向けて歩いているが急に立ち止まり、口を開いた。
「……なぜここに居る?」
突如現れたのは、サングラスに黒スーツの格好をした男。
いきなり現れたことに驚く素振りも見せず、後ろを振り返りながら仮面の青年は静かに問い掛けた。
「クク、お前に手傷を負わせた野郎に興味が湧いたんだよ」
黒スーツの男は不敵な笑みを浮かべながら、ロレンス少尉を見据える。
ポケットに両手を突っ込み、だらしない恰好をしているものの、鍛えられた体躯はスーツ越しでも分かる。
抑えられた闘気は今にも漏れ出してきそうで、男が強者であることを示していた。
「ヴァルター、お前との接触は計画にはないはずだが?」
「計画には従うが、それ以外は何をしても自由。俺等《執行者》はそういう存在だ、忘れたわけじゃねえだろ?」
「……」
ヴァルターと呼ばれた男は尚も続ける。
「俺はただ刺激が欲しいだけだ。俺をゾクゾクさせてくれる……な」
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~遊撃士協会 ツァイス支部~
「まさか、ラッセル博士がレイストン要塞にいるとは……。ほ、本当に確かなのかね?」
ドロシーの写真とゲート前で起きた導力停止現象。
この二つから実行犯と博士があの場にいた可能性は高い。
さらに、導力停止現象と不自然な軍の応対を実際に目にしたエステルとヨシュアは、十中八九そこに実行犯とラッセル博士が捕えられていると感じていた。
キリカも同意するが、長年軍と協力関係を結んできたマードックは戸惑いを隠せない。
「一口に王国軍と言っても、内部は一枚岩ではありませんから。工房襲撃の犯人たちが逃走時に親衛隊の格好をしたのもそのあたりが原因かもしれません」
ツァイスで起きた一連の事件で導かれる答えとは――
「親衛隊がはめられたってこと?」
エステルは神妙な面持ちで確認する。
ルーアンでもダルモア市長逮捕に貢献し、それを間近で見ていたエステルであれば親衛隊が今回の事件を引き起こすとは思えなかった。
「うん、そう考えるのが一番しっくりくる……。ひょっとしたら何らかの陰謀が軍内部で進行しているのかもしれない」
「ううむ……なんたることだ。しかし、どうして博士がそんな陰謀に巻き込まれたのか……」
「……どうやら犯人どもの手掛かりを掴んだみてぇだな」
扉を開けて入ってきたのはアガット。
紅蓮の塔での傷も癒え、ようやく戦線に復帰できるまで回復した。
博士救出まであと一歩のところまで迫ったが、仮面の黒装束に不意を突かれ、毒性の銃弾を浴びたらしい。
その際ヨシュアは隙を突いて博士救出を行おうとしたが、仮面の黒装束に何かを感じ、追う事ができなかったそうだ。
「そんじゃ、事の顛末を聞かせてもらおうじゃねえか?」
「……ちょっと待ってください!」
「……私も聞きますっ!」
再び扉を開けて入ってきたのはレオン、さらにティータが続く。
「レオン兄!ティータ!」
「兄さん、刀が見つかったんだね。それにティータも元気そうで良かった」
エステルとヨシュアが笑顔で出迎える。
「いろいろあったけどね」
「大変だったんですよぅ。でもこれで先に進めますね!」
「なんにせよ準備は整ったな。さっさと作戦を練るぞ」
キリカやマードックも加わりつつ話し合いが始まる。
レイストン要塞は難攻不落の要塞。警戒体制も万全で侵入するルートも限られている。
さらに導力センサーが周囲に張り巡らされており、湖からの侵入は難しいときている。
「正攻法では難しそうですね」
「……そういえば工房長さん。あのオレンジ色の飛行船ってレイストン要塞に行くのよね?」
「ああ、工房船《ライプニッツ号》だね。資材の搬入や設備の点検で定期的に要塞に行っているが……」
「だったら、そこに隠れて要塞に潜入するってのはダメ?」
レイストン要塞に侵入するには一番いい方法かと思われるが……
基地に降りたクルーは全員チェックを受けるため、勝手な行動をとることができない。
「なら積み荷に紛れて忍び込むのは無理か?」
「ああ、生体感知器によって一個一個のコンテナが調べられるんだ。忍び込んでも見つかってしまうだろうね」
この生体感知器もラッセル博士の発明品で、ネズミ一匹も見逃さないほどの優れ物である。
「うーん、厄介だね」
「やっぱりダメかぁ」
レイストン要塞に隙がなく、思わず溜め息が出る。そんな中ティータがある事を思い出した。
「……あ、あれだよ! お姉ちゃんを案内した時、おじいちゃんが作ってた発明品!」
「「「……あっ!」」」
ブライト家全員が一斉に思い出す。
「あの装置、生体感知器の走査を妨害する導力場を発生するの! 起動テストもしてあるから大丈夫……ちゃんと動かせるよ!」
「なに……本当か!?」
「いつの間にそんなものを……。それはどこにあるのかね?」
「えっと、たぶん研究室のどこかに置きっぱなしになってると思います」
「ならあなた達はその装置を取ってきて頂戴。その間にレイストン要塞の詳細なデータを用意しておくわ」
キリカの指示に従い、出口に向かう。しかし――
「レオンとアガットは残って頂戴」
エステルとヨシュア、ティータに取りに行かせ、二人には残るように伝える。
「え?」
「なんだよ?」
エステルが振り返るが、なんとなく事情を察したヨシュアがエステルの背を押しながら出て行った。
エステル達を見送りながら、何とも言い難いキリカの雰囲気に押されるレオン。
「今から話すことは他言無用よ……」
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キリカが話す内容は帝国の遊撃士協会が襲撃されたという事実であった。
「今は膠着状態が続いているそうだけど、軍の情報規制がギルドにまで及んでいるから情報がまったく掴めないの」
「……初耳だぜ」
「それで僕たちを残した理由はなんですか? それだけではないんでしょう?」
「……ええ」
キリカによると、王都支部に応援要請があった後連絡がつかなくなり、情報が不足しているそうだ。
帝国軍の情報規制により、導力通信が遮断されており直接出向くしかなく、民間人の護衛を名目に帝国の遊撃士に接触・情報収集を行いたいとのこと。
「どの支部も人手が足りない状態なの。だから、どちらか片方にこの任務を受けてもらいたいわ」
「なるほどな。だがレイストン要塞への潜入もあの二人だけじゃ心もとねぇし、俺が見張ってねぇと不安なんだが……。それにあいつらには借りもあるしな」
アガットの言葉にも一理ある。
潜入は戦闘とは違うスキルが必要であり、ヨシュアはともかくエステルが不安ではある。また咄嗟の状況にもアガットの方が経験豊富ゆえに対応しやすい。最後のほうは思いっきり私情であるが……。
だがレオンには引っかかる点が一つあった。
「そもそもこの任務は準遊撃士の僕が引き受けてもいいものなんですか?」
「本来ならば準遊撃士であるあなたには、回ってこない任務ではあるのだけれど、あなたの実力を見込んでお願いしているの。」
「……そうですか」
「(それにこの件にはカシウスさんが関わっているかもしれないわ)」
「!」
キリカの呟きに目を見張るレオン。
少し悩んだが、やがて決意を固める。
「……わかりました。その任務引き受けます」
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「ただいま!」
「戻りました」
エステル達が目的の物を手に入れ、ギルドに戻ってきた。
そこにアガットは居るもののレオンの姿はない。
「あれ? レオン兄は?」
「急遽重要な任務ができたから、そちらを対応してもらうことになったわ」
「……」
プルプルと震える様子を確認したヨシュアは静かに耳を塞いだ。
「あ、あんですってーーーっ!!!」
ツァイスにエステルの大声が轟いた。
一旦本編に戻りましたが、次回は帝国ギルド襲撃事件に入ります。
更新は遅くなりますが、よろしくお願いします。